アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
いつもありがとうございます!
誤字報告等、感謝!
「あ、セレネちゃんもここに来てたんだ」
「ホシノちゃん」
日が沈み、夜が更けたこの時間にわたしとホシノちゃんはかつて使用していた生徒会室に居ました。以前話したように、この教室はわたしとホシノちゃんで定期的に手入れをしているので、そこまで汚くはありません。
「あのね、セレネちゃん……話したいことがあって」
「話したいこと、ですか?」
「うん。私が隠していたことなんだけどね」
「……」
そうですか、話してくれるのですね。
この様子からして、ホシノちゃんはちゃんと自分で選択したのかもしれません。どういう選択をしたのかまでは流石に分かりませんが。でも、ホシノちゃんの方から言ってくれるってことは、嬉しいことではあります。
「セレネちゃんはもしかしたら分かっていたのかもしれないけど、実は私、黒服って名乗っている大人に取引を持ち掛けられていたんだ」
「……黒服」
「うん」
知っていました。
そこはホシノちゃんが言った通りなのですけど、知っているとはいえ知った経緯はストーカーのようなものですけどね。このことについてはちょっとホシノちゃんには悪いことしたかもしれません。
「それで、その取引の内容が……「ホシノちゃんがアビドスを退学し、黒服が所有する企業に所属する代わりにアビドスの借金の半分を負担する」……やっぱりセレネちゃんは知ってたんだね」
ホシノちゃんが驚く様子は無く、むしろ予想通りと言ったような顔をします。あれ、これは少し想定外ですね……ホシノちゃんも何となく知っていたかでしょうか? それともわたしが昔付けていたことに気付いていたのでしょうか?
「セレネちゃんは何でもお見通しだね……あはは」
少しだけ乾いた笑いをするホシノちゃん。
「もちろん、ホシノちゃんのことはお見通しです……と言えればいいんですけどね」
「?」
「これも隠していたことなんですけど、実は昔ホシノちゃんがいつもと様子が違うときに後をつけてたんですよ」
「え」
「それで偶然ではないですね……必然的にわたしはホシノちゃんとその黒服の会話内容を聞いていました」
黒服も実は気付いていたのではないでしょうか? いえ、これは推測になりますけどね。でもホシノちゃんがわたしに気付かないなんてやはりよほどなことだったのだと思います。
「ホシノちゃんがわたしの尾行に気付いていなかったので、余計に心配しましたからね」
「そ……そうなんだ……」
「後をつけるようなことしてすみません。今更なんですけどね。……でも、ホシノちゃんが心配だった」
これは本当のことです。
いつもと様子が違っていましたし、親友であるホシノちゃんのことをわたしが心配しない訳がないです。本当はあの時に乗り込んでやろうとか思ってましたからね。
「セレネちゃん……」
「知っていて何も言わなかったのは、ホシノちゃんから話してくれるのを待っていました」
「……」
「ホシノちゃんのことを信じたかったから」
ホシノちゃんがどんな選択をしようが、関係ありません。間違ったことをするのであればわたしは全力でホシノちゃんをこっちに連れ戻して見せますからね。
「っ……ネちゃん、セレネちゃん! ごめん! ごめんね!」
そんなことを思っていると突然ホシノちゃんが泣き出してしまいました。あれ? わたし何か悪いことしましたかね? ……いえ、くだらないこと言っている場合でないですね。
ホシノちゃんが泣いているところを見たのはこれで3回目ですね。最初はユメ先輩の時、2回目はわたしがホシノちゃんに心配をかけてしまった時。泣いているホシノちゃんをそっと抱きしめます。
「最初は取引を受けようと思ってた……でも、セレネちゃんのこと思い出して保留っていう逃げの選択をしていたんだ」
「それは何というか……恥ずかしいですね」
わたしのことを思い出すとは……ちょっと照れますね?
「セレネちゃんが頑張ってくれているのに、そんなセレネちゃんを残して居なくなるのはどうなんだって思って」
「なるほど。踏み止まってくれていたんですね」
「……うん」
それは頑張っていた甲斐がありましたね。
「でも結局アビドスの借金は厳しい状態だったし、セレネちゃんに負担をかけてしまっていると思って……でもそれでも色々考えてずっと保留してたんだ」
「わたしは負担がかかっているなんて思ってませんよ」
「そうだよね、セレネちゃんはいつもそう」
「そうですかね?」
まあそうなのかもしれませんね。たぶん……いえ、きっとわたしはアビドスやホシノちゃん達対策委員会の皆を守る為なら何でもするかもしれません。それこそ無理をしようとするかもしれない。
……そんなことをしたらホシノちゃんに怒られちゃうかもしれませんけどね。
「それでセレネちゃんからあの話を聞いたこと、ノノミちゃんとシロコちゃんのこと……色々と考えてね」
「……ホシノちゃんがここに居るということは、そういうことなんですね」
「……うん。私は黒服の取引を断ったよ」
「! そうですか」
「黒服よりもセレネちゃん達を信じたいから。そして守りたいから……皆を、アビドスを」
「守りたいのはわたしも同じですよ、ホシノちゃん」
「セレネちゃん……」
ここでホシノちゃんとわたしの気持ちが同じになりましたね。
ホシノちゃんは……太陽ですから。このアビドスの……だから、わたしはそんな太陽を陰ながら支えていきたいと思います。月にのように。まあ、月は太陽に照らされて光るのですけどね。
「でも不安要素もあるんだ」
「不安要素?」
「うん」
泣き止んだホシノちゃんが顔を上げてわたしの方を見てそう言います。
「黒服が……あいつは結構しつこかったし、これだけで諦めるかは怪しいところなんだよね」
「なるほど」
ホシノちゃんの言いたいことは分かります。
と言っても黒服のことをわたしは詳しくは知りません。ホシノちゃんとの取引の話を聞いただけですしね。でも何回か会っているであろうホシノちゃんがそう言うのであればそう言う性格なのでしょう。
確かに……わたしもあいつからは嫌な気配というか、あれはよくない気配とでもいうべきでしょうか? そんなものを感じましたね。この間、わたしが黒服を脅した時もそうでしたしね。
でも言いたいことは言えましたから。
わたしは、ホシノちゃんに手を出すことは絶対に許しませんし、シロコちゃんやノノミちゃん達大切な後輩に手を出すことも絶対に許しません。あの時はまだノノミちゃん達は居ない時でしたけど……わたしは言いましたからね、アビドスに手を出すことは許さないって。
「大丈夫ですよ。ホシノちゃんにまた手を出そうものならわたしも許しませんから。守ります」
「うへ、セレネちゃん、本人を前によくそんなこと言えるよね」
「前にも言ったじゃないですか。ノノミちゃんやシロコちゃんもそうですけど、わたしが守りたい対象にはホシノちゃんも居るんですよ?」
「それを言ったら私も、セレネちゃんは守る対象だよ~シロコちゃんとノノミちゃんもね」
「「ぷ……あははは!」」
お互いに同じようなことを言ったことに、笑ってしまいます。
「私達似た者同士なのかもねぇ」
「そうみたいですね」
すっかり元気になったホシノちゃんを見て安心します。
アビドスの問題は山積みですけど、1つ1つ、出来る範囲で……消化していけたらいいなと思います。
「何してるの?」
「この間記念写真を撮ったじゃないですか?」
「撮ったねぇ。写真立てに入れて対策室に1つ置いたよね」
「はい、そうですね。でもここにも置いておきたくて」
「セレネちゃん……」
ユメ先輩とわたし、ホシノちゃんが写っている写真の隣に今の対策委員会の皆が写った写真を新たに、写真立てに入れてそっと置きます。
「またここに思い出が増えちゃったねえ」
「いいんじゃないですか? ここは思い出の部屋にしておきましょう」
「いいね。でも……」
「はい、分かっています。まだわたしは諦めていないですよ」
「私もだよ」
たとえ絶望的な可能性だったとしても。往生際が悪いところもホシノちゃんとに似たもの同士ですね。
「一緒に、アビドスを守ろうか」
「はい、そうですね」
わたし達は、2年生だけど一応最年長なのですから。
最年長らしく、後輩やアビドスを守っていこうと思います。わたしとホシノちゃんが卒業する、その時まで。卒業した後はどうなるか分かりませんが……今考えるというのも変でしょう。
そんなことを言って、軽く笑い合うのでした。
章名回収(?)