アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
「全く……何なのよ」
バイトを終えたセリカは1人、帰路についていた。
既に日は沈んでおり、アビドスの少ない光だけが辺りを照らしていた。
「はぁ」
今日あった出来事思い返してはため息をつく。
しかしながら、口では文句やら不安やらを言っているものの、内心ではちょっとだけ嬉しいと感じていたセリカである。先生と言われる大人については、まだ完全には信用出来ないが、それでもまあ少しくらいなら認めてもいいかなとセリカは思った。
「元凶が先輩って……」
アルバイト先を特定されてしまったことは予想外だが、辞めるつもりはなかった。これからも不定期に皆が来るであろう将来を思い浮かべながら、ちょっとしたため息をついた。
「ホシノ先輩とセレネ先輩かぁ」
セリカがそこで思い浮かべるのは2人の先輩のこと。
1年生であるセリカにとってはまだそこまで付き合いが長くはないものの、一緒に過ごしていると何だかんだで楽しい日常であった。借金についてはやはり、気が重いものではあるが、このアルバイトが少しでも足しになればいいなとセリカは思う。
アルバイトをしている理由は自分のお金のこともあるが、借金の返済に充てる為でもあった。頑張ってくれている対策委員会の皆と肩を並べる為でもある。
そして、セリカは何だかんだで一番頑張っているのは先輩組であることを知っている。
ホシノについてはお昼寝をすることがあるものの、いざというときはちゃんと先輩らしく動いてくれるし、セレネについてはアヤネに次ぐ良心的な存在である。
尤も――セレネは大人しそうに見えて割と悪戯好きであるのだが。つい先日の耳を触られたことをセリカは思い出し、反射的に自分の耳を触る。
セリカもそうだが、アヤネやノノミ、シロコ、ホシノに対しても偶に悪戯を仕掛けてくるのである。ノノミとホシノに関してはむしろ、喜んでいるようにセリカからは見えた。シロコも表情に出にくいものの、似たような感じであった。
アヤネとセリカについては、まだそこまで長くないのもあって戸惑うことが多いものの、慣れ始めていた。
そんなセレネではあるが、アビドスの為に一番頑張ってくれているのが彼女であることも知っている。
最初はセリカも耳を疑ったが、実際にそのセレネの稼ぎや働きぶりをを見れば嫌でも分かってしまった。
毎月の返済額の半分以上がセレネが賄っているのである。とはいえ、セレネが半分出さずともアビドス全体で見れば、6人全員が均等に出しても返済額には届くのだが、セレネは一向に半分を負担することをやめていない。
ホシノや他の対策委員会の皆が色々と話したようだが、結局は現状に落ち着いている。
もちろん、その影響は全員にもある。それは各自が自分で使用できる資金に余裕が出来ているということ。セレネが半分を出しているので、残りの半分だけを5人で出せばいいだけなので、裕福とは言わないものの全員の懐はそこまで寒くない。
そんなセレネについては、セリカも含めて皆が心配をしている。本人は大丈夫としか言わないのだが、これでも昔よりはましというのはホシノ談。
セリカも昔のセレネの話を、ホシノから聞いていたのだが、一言で言えばとんでもない、それだけであった。ホシノはその話をアヤネとセリカに教え、セレネの監視もして欲しいと頼まれていた。これはノノミやシロコも同じである。
要するに全員でセレネを見張っている訳である。
「うん。ホシノ先輩が心配する訳よね」
そんな話を聞かされれば、納得せざるを得ない。
――そんなこともあり、セリカも余裕がある時はセレネのことを気にしていた。
今のところ、セレネが無理していることはないようで他の皆も安堵はしている。とは言うものの、そうだとしてもセレネの仕事量は普通に考えればまだまだ多いことに変わりはないのである。
そういうこともあって、セレネは学校を空けることが結構多い。
いつもの定例がある時は必ず来るのだが、それ以外では基本的に不在の方が多い。ただホシノが居ない時はセレネは外に行くことはなく、学校に居るのだが。
定例がある日でも、終わったあとは外に行くことが多い。仕事の時もあれば、見回りの時もあるし、見張りをする為の場合もある。
セレネは狙撃をメインとするのもあり、後方や遠い場所から敵の動きを見たりするので行動自体はおかしくはないのだが、それにしたって動き過ぎである。セリカは純粋にそう思う。
「それにしてもセレネ先輩は何で稼いでるのかしら……夜の仕事って聞いてるけど」
明らかにそれだけではない気がする、セリカはそう思う。
夜間の仕事は昼間と比べると、報酬が高い。だがそれにしたって稼ぐ金額がおかしいと思う。詳しい内容については、ホシノにすら教えていないらしいので、セリカ達が知るはずもなく。
見習うところはある反面、やはりセリカもホシノ達もセレネが心配なのである。
ホシノと同じように抜けているところも度々セリカは見ているものの、ちゃんとするときはするし、戦闘になったときもホシノ同様頼りになる存在でもあった。そんなセレネに対して少しばかり憧れの気持ちを持っているのがセリカである。
考えれば考えるほど謎の多い先輩ではあるが、優しいのもまた事実。セリカやアヤネのことも気を使ってくれる、そんな先輩というのがセリカから見たセレネであった。
「私も頑張らなきゃ!」
そんなことを考えつつも、自分に渇を入れ、セリカは帰路に付こうとしたのだが――
「黒見セリカ……だな?」
「カタカタヘルメット団? ……あんた達まだこの辺りうろついてんの?」
見慣れた存在にセリカは気付き、不機嫌を隠さずに睨みつける。
せっかく人が気持ちよく帰ろうとしていたところに現れたのだから当然と言えるだろう。セリカはそんなヘルメット団の睨みつけながら武器を取り出す。
「丁度いいわ、ここで……」
「撃て!」
「!?」
戦闘を開始しようとした瞬間に何かが飛んでくる、そんな気配を感じたセリカだが間に合わないと思い、来るであろう衝撃に目を瞑る。
「何が起きた!?」
しかし、セリカの予想は外れ来るはずの衝撃は来ず、ヘルメット団の叫び声だけが耳に届く。
「わ、分かりません! 砲弾が……空中で爆発しました!」
「何ぃ!?」
「何が……」
セリカは恐る恐る目を開き、上を見れば確かに何かが爆発したような跡が残っていた。同時にセリカは恐怖を感じた。もしあれが、爆発せずにここに飛んできていたら――
「っ」
「大丈夫ですよ、セリカちゃん。――セリカちゃんには指一本触れさせませんから」
「え……セレネ先輩?」
恐ろしく感じ、その場にへたり込んでしまったセリカの耳に聞き慣れた、だけども心強い声が聞こえる。
セリカが見上げれば、セリカを守るようにして前に立つ、先ほど思い浮かべていた先輩であるセレネの姿が見えた。
「セレネ先輩……」
「セリカちゃんはそこに居てくださいね。次弾が来ます」
「へ」
セリカが反応する前に、セレネが自分の銃を、スナイパーライフルを上に向けて弾丸を放っていた。セレネから放たれた銃弾は、上空にあった砲弾をまたもや破壊する。
「な、なんだ!?」
そんな驚くヘルメット団達をよそに――
「ホシノちゃん、どうですか?」
『予想通り、戦車を確認したよ~』
「流石はホシノちゃんですね」
『ん。もう破壊したから3弾目は来ないはず』
「……早いですね」
セレネの付けているインカムからホシノとシロコの声が聞こえる。その声はセリカにも届いていた。
「え、シロコ先輩とホシノ先輩も?」
「2人だけじゃないですよ☆」
『セリカちゃん、大丈夫ですか!?』
「ノノミ先輩にアヤネちゃんも……」
ノノミが後ろから姿を現し、通信越しではあるものの、アヤネの声も聞こえる。
”セリカ、大丈夫だった?”
「え、先生も!?」
”無事みたいだね”
最後に先生まで姿を現し、セリカはいよいよ戸惑い始める。
「おい、応答しろ!」
「リ、リーダー大変です! 戦車が……破壊されました!」
「なにぃ!?」
一方、ヘルメット団の方はその驚きの報告にまたもや叫び声をあげていた。
(作戦の遂行に問題はなかっはずだ……!)
1人ずつ倒していく作戦だったはずがどうしてこうなったのか? リーダーは狼狽える。
先ほどまではセリカ1人だけであったはずだ。……しかし、現状を見ればどうだ? 突然砲弾が破壊され、気付けば1人だけではなくなっているではないか。
だがそんなことを考えていると、今まで以上の殺気を感じ取ったリーダーは戦慄する。
「……」
「ひぃ!?」
すぐ横、リーダーの立っている場所の隣に何かが着弾し砂煙を上げる。恐る恐るその方向を見れば、そこそこ大きな穴が開いていた。
そのままカチコチになりながらも飛んできた方向を見れば――
「セリカちゃんに……大事な後輩に手を出そうとしましたね?」
「っ」
とてつもない殺気を放ち、今度は当てるぞと言わんばかりにリーダーの方に銃口を向けているセレネの姿があった。
おいおい、あいつら死んだわ……