アビドスと太陽を守りたい月   作:キヴォトス一般人

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34話:裏側で

「――いやぁ一、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません……」

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃありませんからっ!」

 

 あのあと対策会議はアヤネの怒りの叫びで終了となり、一旦解散と思われたが、ホシノ達はセリカがアルバイトをしている柴関ラーメンに足を運んでいた。

 

「なんでもいいけどさ……なんでまたうちに来たの?」

 

 セリカの言葉はご尤もなものであったが、当の本人達はアヤネの世話のようなことをして機嫌取りをしていた。

 

「アヤネ、もっとチャーシュー食べる?」

「ふぁい……」

 

 あれこれと機嫌取りをしている一同はセリカの言葉を聞いていないのか、反応せずにいた。そんな様子を見たセリカは軽くため息を付いた。

 

「はぁ……ところで、セレネ先輩は?」

 

 ふと、セリカが席を見回すともう1人の先輩であるセレネが見当たらないことに気づき、問いかけた。対策会議のときは居たのでてっきり一緒に居るだろうとセリカは思っていたのだが――

 ホシノにノノミ、シロコ、アヤネ、そして先生……アルバイトのセリカの6人しかこの場には居なかった。

 

”そう言えば居ないね”

「ん。セレネ先輩は会議が終わった後、そそくさと何処かに行ってた」

”あ、そうなの? 気付かなかったなあ……”

「まあ、セレネちゃんは何かするときって気配とか消すからね」

”え、何それ怖い……ニンジャ?”

「一理あるかもしれませんね☆」

「あーセレネちゃんがニンジャ……確かに」

 

 彼女の戦闘スタイルを思い返しながらホシノは納得した。

 セレネは先頭に出て戦うこともあるが、基本的には視認範囲外からの狙撃などの奇襲攻撃スタイルだ。遠くから標的を狙い、刈り取る……暗殺者のようなスタイルとも言えるそれはニンジャと言っても間違いではないだろう。

 実際のニンジャは忍刀とか、そう言うものに毒やらしびれ薬やらを塗って攻撃するだろうが……とはいえ、ホシノもニンジャが何かなどそこまで詳しくないので何とも言えないのだが。

 

 

 ――アイエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?

 

「先生、何か変なこと考えてる」

「よく分からないわね」

”え”

 

 このネタを知らないだと……先生はそんな反応をする。

 

「何か昔にアニメで聞いたことありますね☆」

”……そっか、古いか”

 

 なるほど、と先生は納得する。

 先生も反射的にそんな言葉を口にしてしまっただけなのだが……いや、反射的でに言うのもどうかと思うのだが。

 

”……忘れて”

「先生がっかりしなくていいですよ☆」

”ノノミ……”

 

 辛うじて知っていたノノミに慰められる大人もとい、先生であった。

 

「そこ、変にイチャイチャしないの」

 

 そしてセリカの突込みが入ったのであった――なお、これを見たシロコが同じように先生に近づいて慰めようとしたことは別の話。

 

 

 

**********

 

 

 

 時は少し遡り――

 

「この依頼どうするの?」

「ど、どうしよう……結構大物のクライアントなんだけど……アビドスを襲うって何なのかしら」

「そのまんまの意味っしょ」

「そ、そうよね……」

 

 お金さえ積めば何でも引き受ける……便利屋68の面々は入ってきた依頼の話にどうしようかと話し合っていた。普段であれば、引き受けるであろうアルは迷っていた。

 

「依頼自体は保留しているんだっけ?」

「アルちゃんにしては珍しいね」

 

 あのアルが迷っている……それがムツキ達からすれば珍しかった。失礼だとは思うが――

 

「だってアビドスよ? あのアビドス」

「何かあったっけ……あ」

 

 そこで、ムツキ達の頭に1つ思い浮かんだものがあった。

 

「き、聞いたことはありますね……」

「ええそうよ。アビドスには2人のやばい生徒が居るって聞いてるわよ!」

 

 アビドスの地にやってきた便利屋68が最初に聞いたのは、この自治区にはやばいやつが2人居るということだった。どちらもアビドス高等学校所属の3年生とまでは聞いているが、名前までは知らない。

 

「事前調査では全校生徒6人らしいよ」

「少ないわね……でもそれって逆に考えると」

「くふ。6人でこの自治区の治安を維持してるってことだね!」

「……」

 

 それはゲヘナの風紀委員よりやばいのではないだろうか? アルはそう考えた。

 

「やっぱり断ろうかしら」

「社長に従うだけだよ」

「そうだね」

「アル様が決めるのであれば!」

 

 しかし、依頼を受けないとお金がないという問題もあった。多少はあるものの、それも雀の涙程度でしかなく、これでは今後の活動に支障をきたす恐れがある。

 

「っ!」

 

 どうしようかとひたすら悩むアルを見る中、背後に気配を感じたカヨコが武器を構えて振り返った。それに気づいたアルを除く2人も振り返る。

 

「ここが便利屋68の事務所ですか」

「……だれ?」

「あの制服は――」

 

 見覚えのない、銀色の髪の少女がそこに立っていた。

 カヨコが先に目を向けたのは制服だった。白いブラウスのポケット部分につけられた、ストラップのIDカードのロゴを見てどこの生徒かをすぐに察した。

 

「アビドス……?」

「あら、知っているのですか? あ、そういえばIDカードにはもろにアビドスの校章が載ってましたね」

 

 落ち着いた様子で丁寧に話す少女を便利屋68の面々は警戒しつつ、彼女の動きを観察していた。アビドスの生徒がここに何の用なのだろうか? それがまず思ったことだった。

 

「ムツキ……分かる?」

「流石に分かるよ――あの子やばい」

 

 見た目はそんな強そうには見えない小柄な少女――なのに、冷や汗が止まらなかった。背中に背負っている大きな武器のせいだろうか? それも違うだろう。

 

「ええそうよ……便利屋68で合っているわよ。どういったご用件で?」

 

 普段どこか鈍いアルでも目の前の少女が只者ではないことくらいは察していた。4人で襲い掛かっても勝てるかどうか……。落ち着いたように見せかけつつ用件を聞きだそうとする。

 

(な、なんなのよ……)

 

 表面上は落ち着いて見せているものの、内心は困惑していたアルであった。

 

「いえ、ちょっと噂程度で聞いたことがありまして」

「そ、そうなのね」

 

 噂を聞いたことがあるという言葉にアルはちょっとだけ嬉しくなったものの、雰囲気は変わらない。

 

「――単刀直入に聞きます」

「!?」

 

 先ほどまでの柔らかい雰囲気は何処へやら、目の前の少女から溢れんばかりの殺気を感じ取った4人は息が詰まった。

 

「アビドスを襲うとはどういうことですか?」

「……!」

 

(や、やばいやばい……聞かれてた? いえ、聞かれてもそもそも依頼はまだ受けてないわよ!?)

 

「場合によっては――容赦しない」

「ま、待って!」

 

 誰もが話せないようなその圧の中、何とか声を絞り出したアルだった。

 

「……」

「まずは話を聞いて欲しいわ」

「……聞きましょうか」

 

 膨れ上がっていた圧が消えたことにひとまずは安堵するアルだった。

 

「ええとまず、あなたは勘違いしているわ!」

「?」

「確かに依頼だったのは確かよ。でもまだ受けていないわ!」

「……なるほど」

 

 少女――セレネはそう言うアルを見る。

 

(嘘はついていなさそうですね)

 

「嘘はついていなさそうですね。……詳しく聞いてもいいですか?」

「え、ええ。でも依頼先を教えることは出来ないわ……信用問題になるから」

「そうですか」

 

 もしかしたら犯人が分かるかもしれないと思ったセレネだが、それはそうかと納得する。本当は問い詰めておきたいところではあるものの、彼女達は依頼を受ける仕事をしているのだから仕方がない。

 依頼主と依頼を受ける側の信頼関係は大事であることくらい、普段依頼を受けたりしているセレネはよく理解している。

 

 それならば、と思ったセレネは彼女たちに1つ提案をする。

 

「それでは1つ……」

「?」

「わたしの依頼、受けてみませんか?」

「へ」

 

 そんなセレネの言葉にアルは戸惑った。

 

 

 




おや……
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