アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
平和路線……平和路線
「ひえ、何でこんなところに……」
「あはは! いいじゃん。こんな雰囲気も」
「ここって……」
「アル様が行くところならばどこにでも行きますよ」
セレネと邂逅した便利屋68の面々は、セレネと共に闇市――いわゆるブラックマーケットと呼ばれているところにやって来ていた。
「それに――資金も手に入れられたんだし」
「そ、それはそうだけど!」
「アルさん、今回は依頼を受けてくれてありがとうございます」
「今回は前金までもらってるからね……」
基本的には前金を受け取らないようにしているアル達であるが、今回はセレネの強い押切りに負けて受け取っていた。アルからしても、かつかつな状態であった為、この資金については助け船のようなものであった。
「ところで、セレネさんはどうしてこんなところに?」
「私達を護衛に雇ってまで……」
「――ちょっとした事前調査ですよ」
セレネは真剣な顔でカヨコ達の疑問に答える。
その表情を見た便利屋68の面々は、何か事情がありそうだとすぐに理解する。自分達も色々とある為、深く聞くことはしなかった。そもそも依頼主のプライベートに突っ込むのは信用問題になってしまうのだから。
「大丈夫ですよ。基本的に何もしなければ何も起きません、ここは」
「そうなの?」
「たぶん」
「たぶん!?」
とはいえ、セレネもブラックマーケットに詳しい訳ではない。
存在自体は認知していたし、何なら偶に足を運んたこともあった。情報収集がメインである為、特に大きな行動をした訳ではないのだが、こうした場所に溶け込むのはセレネの得意とするものの1つである。
「以前の情報収集の過程で聞いた話ですけど――小さないざこざや戦闘であれば、普通に無視されるらしいですよ。そういう場所ですし……でも、大きく暴れてしまうと――」
「しまうと……?」
アルは恐る恐る続きを聞く。
「何かブラックマーケット専用の警察みたいなのが飛んでくるらしいです」
「……」
「それって非公認だよね?」
「はい。その通りです……と言いたいのですが、あまり詳しい訳ではないのですよ」
違法な武器や戦車等など……ブラックマーケットはかなり規模が大きいものとなっている。こんなところがアビドスにあると知ったときは流石のセレネも驚いたものだった。
「ということは……特殊な爆弾も」
「探せば普通に見つかるかもしれませんね」
ちょっとだけ興味深そうにするムツキであった。
(……)
そんなやりとりをしつつ、セレネは4人と共にブラックマーケット内を歩く。
セレネがここに来た理由としては、先ほど言った事前調査をする為というのは本当であり、恐らくこの後ホシノ達もここに来るであろうと思ったからであった。
(アヤネちゃんやホシノちゃんには申し訳ないのですけどね……ある程度で出どころについては予想出来ていたのですよね)
それをアビドスの皆に言わなかったのは、やはりセレネとして……先輩として、後輩達や親友のホシノが危険な場所に来て欲しくなかった、というのが理由の1つだった。
とはいえ、結局はアヤネが解析をしている為、いずれ皆はここを突き止めるだろうと確信していた。だからこそ、事前に調べておきたかったのである。
「闇市だっけ? 言う割にはかなり賑やかだね」
「そうですね……闇市であること以外を除けば普通の商店街みたいなものですからね」
この場所はカヨコ達が予想していた以上に賑やかであった。セレネはさっきも言ったように足を運んだことがあった為、雰囲気自体は知っていた。
「何か気になったものがあったら見てもいいですが――さっきも言ったようにここは闇市なので、正規品がある可能性は非常に低いのでそこは注意してくださいね」
「だろうね……」
「ええそうね」
あくまで便利屋68に依頼した内容はブラックマーケットに居る間の護衛である。
護衛の人数が何人であるかは特に指定していない為、1人がセレネのそばに居ればそれでOKである。その為、残りの3人が軽く見回る程度は問題ないのだが、一部は少しは興味がある顔をしているものの、実際に見に行くことまではしていなかった。
「本当に広いね……まるでここ自体が1つの自治区みたい」
数十分ほど歩き回り、カヨコがそんな感想を呟いた。
「言い得て妙ですね……」
その言葉にセレネが納得する。
確かにカヨコの言う通り、闇市自体が1つの自治区みたいな存在だ。先ほど言ったように闇市専用の警察やら何やらが存在する場所である。自治区と言ってもおかしくはなかった。
そんな会話をしながら……セレネ達は引き続きブラックマーケットを見回るのであった。
**********
「では、これで。あ、報酬はこちらです」
「こ、こんなに?」
一通りの事前調査を済ませたセレネ達は、ブラックマーケットのエリアから出た後、護衛をしてくれた便利屋68の社長であるアルにそこそこ厚めの封筒を渡していた。
「? 事前にお伝えした通りの金額ですよー」
「そ、そうだったわね」
中身を簡単に確認しつつ、アルは言葉を返す。
今まで依頼を受けたことはあるが、ここまで一回に大きな金額を渡されたのは初めてだったのもあり、アルは若干戸惑っていた。
「あ、そうだ」
「どうかしたのかしら?」
その場を後にしようとしたセレネがふと何かを思い出したように、アルの方に向き直る。
「今日はありがとうございました。……これは依頼ではないのですが、もしアビドスに留まるのであれば可能な範囲で見回りしてくれると助かります。――知っての通り、今のアビドスは少々治安が悪いですからね」
「そうなの?」
「はい。……とはいえ、人それぞれで感じ方は違うと思いますが。アルさん達便利屋68の皆さんも気を付けて下さいね」
「ええ……気に留めておくわ」
外出ついでに見回る程度であれば問題ないだろう、とアルは考え簡単に返す。今回の収入でしばらくは生活していけそうというのもあるだろう。
「……あと、カイザーには気を付けてください」
「?」
「さっきと同じで気をとどめてくれるだけで大丈夫ですよ」
「分かったわ?」
カイザーと聞くと真っ先に思い浮かぶのはカイザーグループのことだが、そこに気をつけろとはどういうことだろうか? アルは疑問に思ったが、そういえばカイザーはいい噂をあまり聞かないことも同時に思い出した。
それのことだろうか? アルはひとまず、そう返しておいた。
「それだけです。……また機会があったらよろしくお願いしますね」
そう言いつつ、今度こそセレネはその場を後にするのであった。
「……変わった子だったね」
セレネの姿が見えなくなった後、カヨコはぽつりと呟いた。
「結構な額ですよねこれ」
「気前がいいね!」
「え、ええそうね……でも」
最初に会ったときを思い出すと、まだ恐怖を感じる。
「アビドス――もしかして、噂に聞くやばい2人の片方って」
「あの子で間違いないかもしれない」
アビドスに来たばかりではあるものの、噂程度には聞いていたことがあった。
アビドスにはやばい……もとい、相当強い生徒が2人居ること。途中途中で出くわす不良生徒や、一般人の話……不良生徒からはやばいやつ、一般人からは心強い存在的な話をアル達はちらほらと聞いていた。
「そもそも……あの時も言ったけど、6人でこの自治区を維持しているというのがね」
「ええそうね……」
最初会ったときの殺気を当てられたときはどうなるかと思ったものの、実際に話したりすれば、一緒に居た時間は長くないものの温厚で優しいことくらいは理解できた。アビドスが好きということも。
『確かに転校すればあれかもしれませんけど……わたしはこのアビドスが好きなので』
ブラックマーケットを回っている中、ちょっとした話をしていた時に失礼と分かっていても転校は考えてないのか、というような質問をしていた。全校生徒が6人という情報もあった為でもある。
「あの目はかなり固い決意をしている。逆に敵には容赦しないとも」
「そうね……依頼受けなくて正解だったかもしれないわ」
「くふふ」
仮に――アビドスを襲うという依頼を受けていたらどうなっていたことか。
「か、考えたくないわね……」
それに――あの子だけではなく、もう1人言われている生徒が居るのだから。
あったかもしれない世界線
次回はヤツが登場するらしい……