アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
「さて……」
わたしは今、ビルの屋上に居ます。
何故かって? ちょっとした仕事です。すぐ近くにはわたしの愛銃であるスナイパーライフル……Ártemisと名付けていますが、それがあります。
「指名手配犯ですね」
ここから捉えました。
標的を定めたあとは、すぐにその場に伏せの体勢にしてスナイパーライフルを構えます。50口径の大口径ライフルですよ。これを食らったら痛いでしょう。
標的はこちらに気付く様子はありません。
結構距離がありますし、まさかこの距離で狙ってくるとは思っても見ないでしょうね。でも、スナイパーのチャンスは基本的に1回です。
一度発砲してしまえば、何処から撃ってきたかが分かってしまいますからね。その場合、相手はこちらからの射線を遮るように障害物などを使用して回避するでしょう。もしくは、動体視力とかで弾を避けるとかですかね?
「そんな超人……いえ、居ないとは言えないのですけどね」
少なくとも不意打ちででのスナイプの弾丸はわたしでも避けれるか怪しいところです。場所さえ分かれば対処は可能かもしれませんけど。
「風もあまりないですし……狙いやすいですね」
スコープから標的の現状を把握します。
標的は特に何かに気付いた素振りもなく、普通に過ごしているようです。では早速……この1発で終わらせましょうか。
「ショット」
それだけ呟いて引き金を引きます。
Ártemisの銃口より、50口径の弾丸が放たれ、わたしが狙った通りの場所へとまっすぐに飛翔していきます。
「――グッドナイトです」
見事に弾丸は標的を撃ち抜き、一瞬にしてその意識を刈り取りました。
「状況終了ですね」
あとは彼女たちに任せましょう。
そんなこんなでわたしは、Ártemisに付けてあるスリングを掛けて背中に移動させたあと、忘れ物がないことを確認してからその場を去るのでした。
***
「ふう」
ビルから降り、地上に移動したあとは先程のÁrtemisとは別の銃を手に取ります。基本的にわたしは2つのメインアームとサイドアームのハンドガンの3丁を持ち歩いています。
メインアームが2つというのは何かおかしいかもしれませんが、スナイパーって近付かれると結構弱いのですよね。サイドアームのハンドガンでは火力不足っていうのもありますけど。
なので臨機応変に対応できるように一応分類上はメインアームと呼ばれる銃を2つ持っています。1つが先程使った大口径のスナイパーライフルですが、もう1つは近中距離に対応しやすいアサルトライフルを用意しています。
今持ち替えたのはこのアサルトライフルの方ですね。口径とかは普通の銃ですけど、扱いやすいのですよ。
アビドスは何かと今は物騒と言うか、治安が悪くなっていますからね。わたしとホシノちゃんである程度は治安維持を頑張っていますが、やはり人数的な点がきついです。2人しか居ないですから。
まあホシノちゃんはめっちゃ強いので1人で百人力くらいにはなりますが、それでも1人なのは変わりがないのですから。
わたしですか? わたしはそこそこかなと思いますね。百人力とまでは行かないと思いますけど。ホシノちゃんにはよく変な目で見られますけど……。
アビドスの治安問題はどうにかしないとですね……今に始まったことではないのですけどね。ユメ先輩の頃からも既に治安は悪くなっていますから。
「こればかりはどうしようもないですね……仕方がないというのもあるのですけど」
生徒がわたし達以外にも複数人いたのならば、多少はマシになっていたかもしれません。しかしながら、アビドスは色々と問題がありましたし、借金もありますし……もう無理! と言った感じに去ってしまった人達もいます。
まあ、わたしは1年なのであれなのですが、この話はユメ先輩から聞いたものになります。
「先は長いですが……アビドスは好きですから、守っていきたいと思っていますよ」
守りたい対象にはホシノちゃんも含まれます。
でもまあ、ホシノちゃんはさっき言ったように強いので、わたしが守れるかと言われれば微妙なところですかね。
「……逆に守られそうですね」
それはそれでいいのかもしれませんが、ホシノちゃんの負担を増やすことはしたくないですから、わたしももっと強くならないとですね。
「おや……」
見られている、そんな気配を感じ取り、素早くÁrtemisに持ち替えて、スコープも覗かずにその方向に銃口を向けます。
「……? 気のせいでしたか」
少しだけ銃口を向けたままに警戒していましたが、気付けば先ほどあった気配は消えていたので、もしかしたら気のせいだったのかもしれません。
「少し神経質ですかね」
治安の悪化もあるのでしょうけど。
でもまあ、警戒するに越したことはありませんからね。いつどこから攻撃されるか分かりませんし、不良に絡まれる可能性も普通にありますからね。
「まあいいです。帰りましょうか」
アビドスの校舎に。
*****
「……とんでもないですね」
あるビルの中にある部屋で全身が黒く、不気味な雰囲気を出している存在が呟く。
黒服と名乗っているその男は、窓越しからとてつもない殺気を感じ取り、冷や汗をかいていた。黒服にしては珍しく、恐怖というものを感じたのだ。
「あの距離で……こちらを捉えますか」
あの目は確実にこちらを向いていた。
黒服自身はふと、外を見ようと窓から覗いていた、それだけであったが、偶然かどうかは分からないものの、とある少女が目に入ったのだ。
はっきりと見えた訳ではないものの、制服は見えた為誰であるかは容易に想像はできた。
「アビドス高等学校のもう1人の生徒会副会長……
黒服も彼女のことを全て知っている訳ではないが、ある程度は調べていた。黒服が欲しいのは彼女ではなく、もう1人の小鳥遊ホシノという最高の神秘を持つ生徒である。
しかし、セレネに関してもスルー出来る対象でもなかった。ホシノのような神秘を持っている訳ではないものの、そのホシノと2人でアビドスを維持している。
確かに神秘はないが、セレネはホシノ並みかそれに近いほどの戦闘能力を持っていることを黒服の調べで把握していた。
間違いなく、ホシノに手を出したら彼女は動く。戦闘能力だけではなく、その他の方向でもそれなりの能力を保有しており、黒服からすれば少々厄介な相手でもあった。
先ほどのこちらを捉えた気配や視線に対する敏感さ。殺気と言ったものをそこそこの距離でも向けてくる。
「小鳥遊ホシノとの関係は非常に良好」
仲が悪いとかであれば、つけ入る隙はあったが残念ながら隙がない。
もしセレネが一般生徒であり、そこまでの力もなかったのであれば、彼女を使うことで小鳥遊ホシノを操るというような行為もできただろうが。
「計画の支障にはなり得ますね……」
黒服にはその確信もあった。そんなことをぶつぶつと呟きながらも、黒服は思考を続けるのであった。
月に因んだ武器名(テキトー)