アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
いつも感謝……!
『接近する集団を確認しました!』
たい焼きを食べて一息ついた後、わたし達が引き続きパトロールという名の散策を行っていたところ、アヤネちゃんが通信で伝えてくれます。皆が素早く近くにあった遮蔽物に身を潜ませます。
「さっきの仲間? それならまた逃げないと……」
『いえ、別の集団ですね……あれは』
物陰からちらりと覗き込めば、そこには見覚えのある現金輸送車を捉えました。
「ねえ、あれって私達のところにきた現金輸送車よね? ……やっぱりあのデータは本物だったってこと?」
「ん……間違いない。毎月、現金を回収して来る社員だ」
”セレネ……”
「はい、どうやら本当だったようですね」
黒服が渡してきたあのデータは本当だったという訳です。少しは疑っていましたけど、これで確信出来ましたね。まああの黒服が偽のデータを渡してくるとは思えませんけどね……癪ですが。
『間違いないですね。全部カイザーローンのものです』
アヤネちゃんの言葉に皆が息をのみます。そこそこ距離がありますし、こっちは身を隠しているので気付かれていません。
「え、カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん知っているの?」
カイザーローンの名前を口に出すとヒフミちゃんが反応し、ホシノちゃんが聞き返します。
「ええとまあ。その、もしかしてカイザーローンに借金をしているのですか?」
「んまあ、色々あってね……」
ホシノちゃんが言葉を濁すように返すとヒフミちゃんは特に気にした素振りは見せずに、話し始めました。
「カイザーローンは名前の通り、かのカイザーグループが運営している高利金融業者です」
「まあ利子は高いね……」
返済分の大半が利子に回っていますからね。
わたしもホシノちゃんもぶっちゃけ、カイザーローンについてはそこまで詳しくはありませんがいいところとは言い難いことは分かっていました。仕方がないとは言え――他の選択肢がなかったのだろうかと考えてしまうのですよね。
でも選択肢は実質なかったような状態だったことも分かっていますから何とも言えないのですよね。それがどうしようもなく、悔しい。
「やばいところだったりする?」
「いえ、カイザーグループ自体は犯罪は犯していません……が」
そこでヒフミちゃんが言葉を区切ります。
「……カイザーグループは犯罪こそ犯していないもの、合法と違法のグレーゾーンでうまく立ち回っている多角化企業で――生徒への影響を考慮し、『ティーパーティー』も目を光らせている企業です」
「……トリニティの生徒会、最上位組織ですね」
「はい」
名前は聞いたことがあります。
他校に情勢にそこまで詳しい訳ではありませんが、流石に学園の上位組織くらいは分かります。ゲヘナにもありますし、ミレニアムにもそういった組織が存在していますからね。
何ならわたし達対策委員会……いえ、アビドス廃校対策委員会もこれに該当します。
忘れられているかもしれませんが、ちゃんと認可申請通ってますからね? アビドスの生徒会と同じです。今思えば、あの段階で申請を送っておいてよかったと思っています。
あの時はまだ連邦生徒会長も居ましたからね。だからなのかは分かりませんが、申請がすんなりと通ったのかもしれません。
「中に入ってった……」
「もう少し近付きましょうか」
『あそこまでであれば、バレるリスクは低いと思われます』
アヤネちゃんの言った場所まで、静かに向かって更に近づきます。そうすると、さっきよりもはっきりと声が聞こえました。
「……やっぱり、闇銀行に流れていたことは間違いないですね」
会話の内容を聞き、更に確証を得た。
「? 前から知っているような口ぶりなんですね?」
結構重要なことなのではと思ったのか、ヒフミちゃんがわたし達の反応に少し疑問を抱いてきました。まあ確かに、普通ならもっと色々と言っていたかもしれませんが……既に知っていたことですしね。黒服のおかげとは言いません。
「実は既に証拠はあるんだよねえ」
「え、そうなんですか? それならなんでブラックマーケットに……」
「廃番のパーツを探していたのは本当だよ? とはいえ、探す必要はなくなっちゃったけど」
”でもまあ、こうして確認できたからいいんじゃないかな”
「そうですね」
ヒフミちゃんの疑問は尤もなんですよね。ここに来る必要は実はありませんでした。でも皆が乗り気だったのもあって気付いたらここに来ていました。ヒフミちゃんと会えたのは来てよかったことの1つかもしれませんね。
「これ以上近付くのはまずいだろうし、帰ろっか」
ホシノちゃんの言葉にわたし達はこの場を離れるのでした。
◇◇◇
「……これはこれはお久しぶりですね、暁の……いえ、小鳥遊ホシノさん」
「セレネちゃんにあの書類やデータを渡したのはあなただよね」
来て早々、ホシノは単刀直入に黒服に詰め寄った。
確証があった訳ではなかったが、ホシノは黒服が関係していることは何となく察していた。セレネがあの書類をどこで手に入れたのか。もちろん彼女が自力で手に入れた可能性もゼロではないが……。
「さて、どうでしょうね」
わざとらしくとぼける黒服を見てやや確信した。
「まさかセレネちゃんに手を――」
「……」
ホシノの放った圧に黒服はたじろぐが、2回目であることもあってすぐに立て直した。
「まあまあ落ち着いてください。確かに取引を投げ掛けましたけど……ククッ、断られましたよ」
「……どういうつもりなの?」
「どうもこうもありませんよ。ただ面白いものを見せていただいたお礼です」
「……」
黒服の言う面白いものというのはろくでもないことだろうとホシノは思う。それと同時にセレネが断ったという言葉を聞いて少しだけ安堵する。目の前の黒服が嘘をついている可能性もあるが……。
「何故私達……いやアビドスに執着する?」
ホシノもホシノで既に黒服の取引は断ったはずだ。だというのに、黒服は未だにアビドスに居る。しかも、セレネにも取引を持ち掛けたのである。
「私達にも私達の目的があるのですよ。アビドスに居るのは……そうですね、過去に見ないレベルで興味深いことが起きているからですね」
「相変わらずよく分からないね」
興味深いこととは何だろうかと疑問に思うが、すぐにろくでもないことだとホシノは判断する。
「アビドスの襲撃にも関与している?」
「同じことを聞いてきますね。今回の襲撃には関与していませんよ。まあ、信じるかどうかは小鳥遊ホシノさん次第ですが」
「……」
誰と同じなのかと聞こうと思ったがすぐに察したホシノは言葉を飲み込んだ。
(セレネちゃんだろうね)
「前にも言ったと思うけど……アビドスにこれ以上手を出すなら――」
そこで言葉を止めて、再度黒服を見て言葉繋ぐ。
「容赦はしない――」
そう言ってホシノはショットガンを……放った。
◇◇◇
――その頃
「はぁ、1人1つずつ食べれるって幸せ」
「気持ちは分からなくない」
「くふふ、いつもは腹ペコだもんね」
「ここ、本当においしいですね」
少し前に柴関ラーメンのことを教えてもらった便利屋68は、気付けば結構な頻度で柴関ラーメンにやって来ていた。まだそこまでではないものの、すっかり常連のようになっていた。
「気に入ったようですね」
「! セレネ……さんか」
そんな彼女達の前にセレネが姿を現わす。最初声をかけられたときは警戒したが、声の主を見てその警戒を解いた。
「奇遇ですね」
「ええそうね、この間はありがとう」
「いえいえ、こちらも依頼を受けてくださってありがとうございます」
ブラックマーケットに行ったときに便利屋68を護衛として雇ったセレネだが、実はそのあとも何度か便利屋68に依頼をすることがあった。と言っても、その内容は特に大きなものでもなく普通のものなのだが……。
「皆さんの調子も良さそうですね」
「おかげさまでね……何かセレネさんの依頼しか受けてない気がするけど」
「気のせいじゃないですか」
ここ最近の依頼主のほとんどがセレネであることをカヨコは知っていた。尤も以前の大物のクライアントの依頼を逃したのが大きかったが、これはこれでいいのかもしれないと思った。
「柴大将、わたしは醤油ラーメンで」
「おう、セレネちゃん、いつもありがとな! ちょっと待っててな」
柴大将にオーダーをしつつ、セレネは便利屋68の面々の座って椅子テーブル席に入り込む。
「くふふ」
「どうかしましたか、ムツキさん」
座ったセレネに身体を近づけるムツキにセレネは少し疑問に思った。
「セレネっちは気前がいいからサービスしようかと思って」
「そ、そうですか……」
「やめなよ、ムツキ。一応依頼主」
「えーでもでも同じ生徒だし?」
「それはそうだけどね」
初めて会ったときの雰囲気は何処へやら、セレネの緩い感じに便利屋68の面々は最初こそは戸惑っていたものの今では慣れた。慣れてしまったと言うべきだろうか。
だが、緩い感じではあるものの常に警戒を怠ってないその様子は流石だと思っていた。
「……皆さん、ちょっとここに居てください」
「へ?」
突然、セレネが席を立ちあがり武器を構えて外へ出て行った。咄嗟のことで反応できずにいたアル達だが、我に返った後、ムツキが興味津々の様子で後を追う。
それに続けて他に3人も一緒にセレネの後を追うのだった。
乖離の弊害だぁ