アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
「セレネちゃん。そろそろ弾薬関係が厳しそうかも」
「ですよねえ」
月日は流れ、わたし達は一応三学期と言うべきでしょうか? その時期になりました。アビドスは変わらずで、治安も変わっていません。とはいえ、悪くなっている訳でもありません。
ホシノちゃんの雰囲気は変わっていますが、そこそこ過ごしていると慣れてくるものです。まあ、元々気にしていなかったのですけどね。どんなホシノちゃんでもホシノちゃんなのですから。
「また追加購入してきますか」
「セレネちゃんは大丈夫なの?」
「一応、使える分の予算は残していますからね」
「そうなんだ……まあでも確かに全部を借金返済に充てるのは難しいよね」
「はい。わたし達も補給したりする必要がありますからね」
生活用品やさっき言っていたような弾薬、食料とか……まあ、必要なものは多いですから。そのことも考えて毎月の金額を稼ぐ必要があります。
とはいえ、コツコツ貯めていた貯金も一応ありますから当分の間は大丈夫かなと思いたいですね。
「連邦生徒会には支援要請みたいのって送ったんだっけ」
「以前、ユメ先輩が送っていたみたいですけど……」
「ユメ先輩が……」
「この通りですね。対策委員会の認可申請は早かったのに、何というかよく分かりませんね。一応、わたしの方でも改めて支援要請を送っていますけど返答はないです」
「そっかー……」
連邦生徒会も色々あるのかもしれませんが……支援物資くらいは欲しいところです。まあ、無いものをねだっても仕方がありませんので、今はわたし達で何とかする必要があります。
「まあ、こればかりはどうしようもないですし、今は自分達で何とかしましょう」
「うん、そうだね」
厳しい状況なのは変わっていませんが、それでも一応現状は安定していると言えます。ここまで返済も続けられていますしね。
「ただやっぱり予算が……資産が、お金がないですね」
「それは変わらずだよねえ。一応最低限はあるけれど」
自由に使える資金は少ないです。
でもない訳ではないので、こうして今も暮らせている訳です。仕事の量がかなりありますけどね……やっぱり、人手不足ですね。よく2人で回しているものです。改めて自分達のことではありますが、頑張っている方じゃないかと思います。
「それじゃあ、わたしはちょっと調達に行ってきますね」
ひとまずは、先程言ったように不足しているものを調達してきますか。
「気を付けてね」
「はい」
それだけ返して、わたしはその場を去るのでした。
**********
「……このくらいでしょうかね」
どうせまた必要になると思いますが、ひとまず弾薬の購入は出来ました。小型のトラック……まあ普通に言うなら軽トラック、略して軽トラですね。これにそこそこ積んでおきました。
え? 軽トラなんて持っていたのかですか? 一応持っていましたよ。ただアビドスは見ての通り、砂漠化が進んでしまっていますし、車が走れるところは限られているのですが。
弾薬関係は大量に用意した方がいいので、ひとまず使える範囲の資金で調達しました。ただアビドスでやっている店は数が少ないので、大量購入というのは難しいのですけどね。
とはいえ、エンジェル24がやっているのは本当にありがたいです。他にも自動販売機とかも設置されていますし、補給できる箇所は多いのですよ。
「……?」
アビドスに向けて軽トラを走らせている途中、少し遠い場所に見覚えのある少女が歩いていました。いつも見慣れている、一緒に活動している……そうホシノちゃんです。間違いなく。
「ホシノちゃん?」
声が届くことはないと思いますが、思わず名前を呼んでしまいます。流石に表情までは分かりませんでしたけど、何か雰囲気が違うのは感じました。
「……」
……あいつですかね。
ふと思い出します。いびつで不気味さを持ち、顔が割れている……大人。黒服と名乗っていた気がします。
実は以前にホシノちゃんが誰かと会っていることは何となくわかっていました。過去に後をつけたこともありましたしね。え? ストーカー? いや友達が怪しいことしてたら心配になるじゃないですか。
それでそのときに黒服とホシノちゃんの会話を聞いちゃってました。あの黒服は何か嫌な感じがします。というか、悪意しか感じ取れなかったですからね。
ホシノちゃんを狙っているような口ぶりでしたし、何ならあいつがユメ先輩を……と思ったこともありますね。
とはいえ、証拠も何もないので何とも言えないのですが……でも怪しさは百点満点だと思います。
「うーん」
知らないふりをしていました。
ホシノちゃんから言ってくれるのを待っていたとも言いますが、それだけではダメですかね。こっちから聞くべきでしたでしょうか?
いえ……誰だって隠し事の1つや2つあります。わたしだってありますからね……。
でも――
「……ホシノちゃんに手を出すことは絶対に許さないですよ」
それだけは本音です。
既にホシノちゃんは視界から消えていますが、あいつ(黒服)のところに行くのであれば行先は分かっています。
「丁度いいですね。言いたいことが出来ました」
それだけ呟き、わたしは車を走らせるのでした。
**********
「……何でしょう」
そのとき、黒服は今まで感じたことがない悪寒のようなものを感じていた。
だが、黒服はこの感覚に似たものを以前にも感じていた。この程度で動じるような黒服ではないと本人も自負しているものの、それでも感じてしまったこれを説明することが出来なかった。
先ほどここに小鳥遊ホシノが来ていた。
しかし今の感覚については、小鳥遊ホシノのものではないことは分かっている。それならば誰か? 黒服は1人の少女を思い浮かべた。
「あり得ますね……」
以前のようにあの距離ですら、黒服に殺気を放っていたのだからあり得ない話ではない。とはいえ、今考えても仕方がないと結論付け、ここに来ていた小鳥遊ホシノの方に思考を戻す。
黒服は小鳥遊ホシノのことを前々から目をつけており、何なら取引も持ち掛けていた。アビドスの借金の半分を肩代わりする代わりに、アビドスをやめてこっちに来るようにと言った内容だが。
「……」
最初に持ち掛けた後から度々、黒服はホシノと会っていたものの返事は未だに保留というものだった。最終的にはイエスと答えるしかないだろう、と黒服は考えており、ずっと待っているつもりであった。
アビドスの生徒会長が消息不明となった今、アビドスは危うい状態なのは変わらないが、それでもアビドスは未だに維持している。
「アビドス廃校対策委員会……厄介ですね」
しかし、問題もあった。問題と言うよりは懸念事項とでも言うべきだろうか。
それはアビドス廃校対策委員会という、アビドス生徒会の後釜となる組織が連邦生徒会によって認可されてしまったこと。
それはつまり、アビドスの生徒会長が消息不明となって不安定になっていたアビドス生徒会が立て直したことも意味する。
小鳥遊ホシノへ付け入る隙が潰されてしまったという訳である。黒服にとっても想定外寄りの想定内な出来事だった。
「厄介……ですか? ――わたしからすればあなたの方が余程厄介ですよ」
「っ!」
そんなことを考えていると、自分のものでもなく知っている声でもない、第三者の声が部屋の中に響き、黒服は驚いた。
「……これはこれは。お客様を招いたつもりはなかったのですが」
声のした方に目を向ければそこには小鳥遊ホシノと同じくらいの生徒が1人。
黒服は平常心を保ちながら返すが、恐怖というものを再び黒服は感じていた。そしてそれ以上の目の前の少女からの、異様なまでの殺気を――。
セレネは温厚に見えますが怒ると怖いです(普段怒らない人ほど、怒ったとき怖いやつ)