アビドスと太陽を守りたい月 作:キヴォトス一般人
バチバチ
「お客様を招いたつもりはなかったのですが――」
ひりひりと黒服は目の前の少女、セレネからの殺気に近しいものを感じていた。
「まずはその殺気を収めてくださると嬉しいのですが……」
「これは失礼しました。でもわたしはあなたのことは敵と認識しています」
「でしょうね……」
ひとまずは黒服に向けられていた殺気は収まり、黒服は少しずつ落ち着きを取り戻す。ここまで黒服が殺気に気圧されることは今までになかったのだが。
「今、お茶を用意しましょうか」
「いえ、結構です。変なもの入れられても困りますし」
「これはこれは心外ですね……」
敵意や殺気と言ったものを向けられたことは何度かあったが、それらはホシノによるものがほとんどであった。
しかし、このセレネが発するものは予想以上に強いものであり、慣れている黒服でも狼狽えるほどであった。平常心を装っているものの、内心は違っていた。
「それで何か御用でしょうか。――アビドス高等学校のもう1人の生徒会副会長、星月セレネさん」
アビドス高等学校1年であり、アビドス生徒会副会長。ホシノと同じ肩書を持ち、同級生である。
黒服も簡単に調査はしていたものの、ホシノのような特別な神秘がある訳でもなく、普通の生徒……のはずだったが。
アビドス生徒会は今のアビドス廃校対策委員会の前身である。
アビドスの生徒会長が消息を絶ち、アビドスは一時期不安定な状態となっていた。治安も悪化しており、アビドスの土地もかつての姿は残っておらず、ほんのわずかのみ。
黒服が前々から目をつけていた小鳥遊ホシノ、彼女を手に入れるため、今が好機ともいえるチャンスでもあった。
しかし本人の答えは先ほど言ったようにイエスでもなければノーでもなく、保留というものであった。
いずれは頷くしかないだろう、と考えていたものの問題が起きた。
それがアビドス廃校対策委員会の発足である。黒服にとってこれはさっきも言ったように厄介なものだ。
不安定であったアビドスの生徒会。その生徒会の全権限を引き継いだアビドス廃校対策委員会。要するに生徒会と作り直した、とも言うだろうか。
連邦生徒会による認可までされてしまえば、もう誰も何も言えない。
これによって不安定だったアビドス生徒会はアビドス廃校対策委員会と名を変えて、生徒会に準ずる組織として確立。不安定だったアビドス生徒会は確立した組織となり地盤を固めた。
生徒会が存在している限り、学校が消えることはない。そして正式に認可されている対策委員会に手を出せば、連邦生徒会も動くだろう。
「今はアビドス廃校対策委員会ですよ。そしてわたしは副委員長です」
「そうでしたね」
確かに生徒会ではないが、アビドス廃校対策委員会は認可されている正当な生徒会と同等の組織であるため、アビドス生徒会と変わらない。
アビドス生徒会の持っていた全権限を継承しているため、実質は生徒会だ。そこに変わりはない。
「前々から――いえ、これはいいですね。ホシノちゃんがあなたと会っていたことはだいぶ前から知っていました」
「……そのようですね」
でなければ、ここに来れないだろう。
黒服はセレネを見る。こちらを完全に敵と認識している……敵なのは間違いないが、黒服は彼女と敵対する意思はなかった。こんなこと言ったところで目の前の少女は信じないだろうが。
「今回は一言言いに来ただけです」
「――聞きましょう」
そう返した瞬間、黒服は戦慄を覚える。あまり動じるような人種ではないものの、このときは恐ろしい何かを感じ取ったのだ。
「ホシノちゃんに手を出したら許しませんから」
「っ」
少女から、セレネ発せられるとてつもない殺気と敵意。
黒服は再び、狼狽える。平常心を装う……ことが出来ないくらいのそれに、気圧されていた。初めて黒服は死や恐怖というものを身近に感じた。
「絶対に」
「……」
その圧力に黒服は何も言えずにいた。
(ここまでとは……流石にまずいですね)
神秘もない目の前の少女を恐ろしく感じる。
(いえ……神秘はあるのでしょう)
それが何かまでは黒服には分からない。
しかし、セレネには何かがあるということだけは確信する。
(まだ覚醒していない神秘、の可能性がありますか)
さほど興味がなかったものの、ここで黒服はセレネに興味を持ち始めた。ここで何かを言うようなことはしない。それは許さない、と目の前の少女はこちらに言うているようにも感じれた。もちろん、彼女は何も発していない。
「それだけです。わたしはホシノちゃんみたいに甘くないですよ」
「ええ、そのようで……」
喋り方こそ丁寧であるし、大らかであまり怒りと言ったような感情は表に出さないセレネであるが、本質的なところはホシノと同等かそれ以上の警戒や決断、冷酷さを備えている。
敵には容赦しない、ましてや親友であるホシノに手を出されてはセレネが怒るのも無理はないのだ。
「それだけです。もしアビドスに手を出すなら……容赦はしない」
そう言ってセレネはいつの間にか構えていたスナイパーライフルの銃口を黒服に向けた。銃口を突き付けられた黒服はたらり、と冷や汗が流れる。
「では」
少しの間銃口を突き付けられたが、セレネは銃をしまい、黒服に対して簡単に会釈してからその場を去っていく。
そうしてセレネの足音が聞こえなくなるまで……部屋を完全に退出したところまで見送ったところで黒服は1つ深呼吸をする。
「いやはや……恐ろしいものですね」
いまだに黒服は冷や汗が収まらずにいたが、何とか落ち着きいつもの冷静さを取り戻す。
「もう少し調べる必要があるかもしれません」
それだけ呟くのだった。
**********
「ただいま帰りました」
「セレネちゃんお帰り」
黒服に釘を刺……せたかは分かりませんが、とりあえず全力で脅したあとそのまま弾薬等の物資を積んでいる軽トラを運転して校舎に戻ってきました。
「セレネちゃん、聞いてもいいかな……」
「はい何でしょうか」
「……セレネちゃんって軽トラなんて持ってたの?」
物資を運ぶために学校の門のところまでホシノちゃんと移動したところで、そんな質問がホシノちゃんから飛んできました。
「あれ言ってませんでしたっけ? 一応家の方にありました」
言ってませんでしたっけ?
今までも数が多いものを運ぶときは使っていたのですが、よく考えたら基本的に1人のときでしたね……そもそもそこまで出番がなかったというのもありますが……本当にたまに使っていたくらいですし。
「てっぺんについてるのは何?」
「ガトリングです」
「……そう」
もちろん防衛装備もあります。
物資を運んでいるときに襲撃とかされると困りますしね……その為にそこそこの口径の固定式ガトリングを搭載しています。とはいえ、今までに出番はほぼなかったのですけどね。
「ホシノちゃんさえよければ、アビドスに置いてもいいですか?」
家に置いとくのもいいですけど、今更ながらこれがあれば多少はマシになるのではと考えました。とはいえ、結局は2人なのでこれがあっても微妙かもしれませんね。
「いいけど……うへぇ」
「ありがとうございます」
でも、あることに越したことはないと思いますし、ホシノちゃんからも許可をもらいましたので、この武装軽トラはアビドスに止めておきましょう。表だとあれなので、まずは裏に移動ですね。
「とりあえず、セレネちゃんが持ってきてくれた物資を運ぼっか」
「はい」
そっちが本来の目的でしたね。そんな訳で、わたしとホシノちゃんで運んできた物資を往復して校舎内に持ち込むのでした。
次回は少し時間が進みます。
軽トラにガトリング積むとか何してんだ()
因みに搭載ガトリングのイメージモデルはM134機関銃。
重量は100kg程 搭載弾薬の量によっても前後するかも(わからん)
キヴォトスなら細かいこと気にしなくてへーきへーき(←)
なお、弾薬はセレネの自腹だが、使った機会はほぼないらしい