この世界のダークヒーローになる予定だった。 作:可哀想は可愛い
……遠くから爆音と銃声が鳴り響いていた。
「大丈夫?大丈夫なんだよね?」
俺は救急医学部の車両に乗り込んでいた。
まぁ医学部と名のある通りに、負傷者を運んだり治したりするんだが…
「こわいよー銃声がでかいよー。」
誰も何も反応してれないんよね…悲しい。
ーーギィィィィィィ*1
「到着。」
「いや怖すぎか?」
「担架の用意を」
氷室セナ。
部長が一声かけると、自分以外の救急医学部の部員たちが一斉に動き出した。
おー…すごいねえ……手際が良い。
「すいません、そこ邪魔です。」
「え?あっ、、ゴメンなさい。」
怒られた……ここまで連れてきてもらったし…
「そろそろ止めに行くか…」
俺は音のする方へ歩を向けた。
◆
辺りがボコボコになって付近の建物が廃墟みたいになってる。
「……うわぁ…テーマパークに来たみたいだァ、テンション上がるぜ。」
一度は言ってみたいセリフ上位に上がる言葉を言えて満足。
銃声に近づいて行くと、人が倒れまくっていた…
あれか…?
その少し奥の方に、軽く砂埃を立てながら銃弾が目まぐるしく飛び回っている所が見えた。
戦っているように見える。
「うぉっ…はぇぇ。」
ものすごいスピードで戦っている両者。
ほんとにギリギリで目に入るぐらい、少しでも油断したらどこに行ったかすら分からなくなってしまう。
「えぇ…あれを止めに行くマジか……」
想像するだけで蜂の巣過ぎるんだが?
「……まぁ行くか…」
◆
一体何が起きているのだろうか。
彼女……目の前のメイド服の生徒は何者なのだろうか?
私は久しぶりに焦りを感じた。
このメイド?は只者ではない。
私を前にしてここまで善戦する生徒は本当に久しぶりだ。
私は驕っているのか?私が強いと錯覚しているのか?
否、そういう訳ではない。
普段は殆どコンディションの悪い状況で風紀を取り締まっていたのだが…
只、今日に限っては話が違った。
昨日はたまの休みで今日は絶好調のハズだった。
なのに……
【勝てない】
私は久しぶりに危機感を覚えさせられた。
この生徒は…『普通』じゃない。
ここまでの動きが出来る生徒を私が知らないはずがない…
私は情報部としても働いていた時期がある。
そんな私にここまで強い生徒の情報は基本は頭に入っている。
だが、私は彼女を知らない。
「グッ……!?」
一瞬、視界が揺らぐ。数多くの多彩な攻撃。彼女はまるで迷いのない獣のように、私の隙を正確に突いてくる。
こんな動き、ただの生徒ができるものなの……?
催涙ガスの中でも迷いなく行動し、デコイを駆使して攪乱してくる。まるで、私の動きを全て見透かしているかのような動き。
……普通じゃない。
経験則が告げる。これはただの悪ふざけでも、喧嘩慣れした相手でもない。明確な戦術と、実戦を重ねた者の動き。
……この子、一体何者?
そんな一言が、私の頭の中を反芻する。
……私はこのままだと勝てない。
どうにかして彼女を消耗させて…勝つしかない。
「持久戦ね……」
「持久戦ですか?風紀委員長たるものが、情けない物ですね?」
……挑発には乗ってはいけない。
それに乗ることは……負けを意味してしまうから。
「……はぁ、めんどくさい。」
◆
ひぃ…銃弾が凄く飛んでくる…
怖すぎるよ。
いくら慣れたと言っても痛いもんは痛いからなぁ。
あっ…そろそろ見えてきた?
「風紀委員長たるものが、情けない物ですね?」
うわっ…アイツめっちゃ煽ってる、カッコよ。
「はぁ、めんどくさい」
うぉぉぉぉぉぉ!リアルめんどくさい来たァァァァァ
テンション上がってくるねぇ?
てか話してる今がチャンス過ぎない?
なんかあるかな?爆音出せるヤツとか。
意識をこっちに向けられれば良いんだけど…
ダメだ拳銃しかねぇ。
これでいいや。
バン……
俺の放った弾丸は二人の少女の眼前を通り抜けていった。
「ふぅ…」
これで意識はこっちに向いただろうか?
「やぁやぁ、ご苦労さん。」
話し合いに来たしな…銃を向けられたら怖いし。
「ディベートタイムの始まり始まりってな?」
俺がそう言うと彼女、風紀委員長ヒナの銃を握る手が強くなった気がした。
「まぁまぁまぁ?落ち着きなされよ。俺は喧嘩しにきたわけじゃない。」*2
「…あなたは?」
「ふっ…えぇ、良いでしょう… なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!世界の破壊を防ぐため世界の平和を守るため愛と真実の悪を貫くラブリー・チャーミーな敵役。銀河をかける私はホワイト・ホール。 白い明日がまってるぜ!なっちゃって。」
……空気が冷めた気がした。
沈黙。風が吹き抜ける音だけがやけに鮮明に響く。
ヒナが私を睨んでいる。いや、違う。これは睨んでいるというより……呆れている?
「……」
彼女の指が引き金にかかる。さっきよりも明らかに強く。
やばくね!?これ下手したら撃たれるやつじゃん。
「……あなた、ふざけてるの?」
低い声。抑えた怒気。目が笑ってない。
「いやいやいや、これは自己紹介ってやつで——」
「……覚悟はできてるのね?」
——話、通じてない。
「おいおいおい、ちょっと待ってよ。ルカ!お前からもなんか言えって!」
「…ユイ様、自業自得という言葉をご存知で?」
「んなこたァわかってるわボケ!」
「……貴方たちは知り合いなのね…つまり__」
「まてまてまて。取引に来たんだよ。さっきも言ったろ?ディベートタイムの始まりってさ?」
「…意味がわからないのだけれど?」
「ん?俺も理解してないけど?」
「ユイ様…そういう事言うから話がややこしくなるのですよ?」
確かに?
「ってか、ルカ?お前後で覚えとけよ、あんなの食わせやがって。」
「ユイ様が悪いのでは?私をこんなに働かせて、自由になりたかったのですよ。」
「後で聞くから…そういう事で風紀委員長サン?ここらで手打ちと行きませんこと?」
ヒナはじっとこちらを見つめていた。銃を構えたまま、まだ警戒は解いていない。
ふぅ…仕方ない。
「…月の見える夜闇の空に、羽ばたく雛鳥を見つめていた。」
「ッ……!?」
「葵く見える月の光は、雛鳥を歓迎する様だった。」
……大体こんなにセリフだったよな?
この言葉を話終えると同時に、彼女は構えたいた銃を下ろして、背中に仕舞った。
「……要するに、あなたたちは私と戦うつもりはない、と?」
「そ。喧嘩しに来たわけじゃない。取引しに来たんだよ。」
「……ふぅん。」
ヒナは少し視線を落とし、ため息をついた。
「……私に銃を向けておいて、よく言うわね。」
「アレは仕方なかった。俺が撃たなきゃ、お前らは俺に気付くことも無く?戦いに没頭していた…だろ?」
「それはあなたの問題でしょ。」
ヒナの銃口はまだこちらを向いている。でも、さっきまでの殺気が少しだけ和らいだ気がした。
「……取引、ね。話だけは聞いてあげるわ。」
「おっ、さすが風紀委員長!話がわかるねぇ!」
「でも——」
その一言で空気が一変した。
「取引を持ちかけるなら、それ相応の“誠意”を見せてもらうわ。」
……はぁ…めんどちぃ。
「あぁ、何がいい?…金はもう大量にお持ちですよねぇ?…何がいいかなぁ?……」
「……三日」
「???なんて?」
「…三日間ゲヘナの風紀を正してくれるかしら?」
……ラッキーだな、俺にとって風紀を正すことは簡単な事だ……が。
取引と言うのは値切りがつきもんだよなぁ?
「三日…ねぇ?」
「えぇ、そうよ?」
「ちょっとばかし長くは無いですか?」
軽くジャブを入れてみた。
「へぇ?こちらとしては一週間でも一ヶ月でも良いのだけれど?」
「まてまてまて、そりゃ酷くないか?」
「…貴方たちが、交渉を持ちかけてきた側なのよね?違う?」
「…三日間、わかった、三日だな?」
「…五日間。これ以上はまけられないわよ?」
「なんでだよ!さっきと言ってることが違ぇじゃんか!」
「あなたが余計な口を挟むからね。あら?こうしてる間にもどんどんと伸びて行くわよ?」
くっそ、足元見てきやがる……仕方ないか。
「だぁぁ、分かったよ……その条件で良い。」
「……そう。交渉成立、ね?」
くそ…良いように使われた気しかしない…
「…ハッ……」
くっそあんのクソメイド鼻で笑いやがって。
「元はと言えばお前が悪いんだからな!?」
「責任を私に押し付けないで頂きたいですね。」
「こんのやろぉぉぉおぉ!!」
俺の悲鳴が、木霊した。
◆
最悪だよ?
やぁみんな、俺だ。
お前は今どこにいるんだって?
ハハッ何を言ってるのか見当もつかないね。
「ほら〜ユイ!こっちおいで〜!」
「いやもうホント勘弁して下さい。」
「なんでそんなに冷たいのよ!」
俺は今お願いをしに来ていた。
だから、何処にって?
不良グループの親玉的な所。
名前もちょこちょこ上がっているが…
元で言うヘルメット団…とは少し違うかな?アレは大本は同じでも個々で群雄割拠してたし……ヘルメット団連邦とでもゆうのかな?
それとは訳が違う。
何だろうか?中央集権型貢納体制*3とでも言えばいいのだろうか?
でも、そんな事をしてもそのうち誰も貢納しなくなってくる…そこで舞瑠破藍意は、付近に存在する不良グループを軒並み滅ぼした。
……頭おかしいよな?…だって貢納して大規模な不良グループにする為だけに他の不良グループを叩き潰して、見せしめにして…みかじめ料とやってる事がまるで変わらん。
しかも、ここ凄い広いもん……ビックリだよ。面会しに来たんか?我王に面会しに来たんですかって!
……どちらかと言えば玉座の間の様な感じで…
全然中世ヨーロッパなら頭をあげよって王が言ってる場所だって!
彼女の他にも前の方に不良グループの幹部的な立ち位置の人が幾らか立っている。
その他にもまぁ、俺の後ろとか横にスケバンなんやろなぁ…みたいなモブ生徒たちが多数。
何処かに全面抗争でも仕掛けられそうな程の人数が居る…まぁ、それは置いとかせてもらって。
「まじでまじで。お願いできんすかね?いやもうちょちょって感じで……五日間だけでいいんで。」
ほんとに、死活問題よ…私達だけでどうにか出来るなんて考えてない。
「いや別にダメなんて言うわけじゃないけどさぁ?」
「なんすか?」
「いやね?最近ユイちゃんの尻拭いを沢山してる気がするんだけど……」
…スゥゥゥ⤴︎︎︎
俺は勢いよく膝をついた。
バチンッ!!っとそれなりの音が響き、その瞬間には俺の頭は地面にめり込んでいた。
「ごめんなさァァァァァァい、これからもお願いします。」
「いや、そんなに言うつもりじゃ……」
誠意だ、誠意を見せなくては…こと土下座において、頭は下げれば下げるほど誠意が増すというもの━━
一度許しを得た程度ではなく、確実にコチラの要求を通さなくてはならない!!
「どうかァァァ!どうかよろしくお願いしますぅぅぅう!!!」
…先程言った通り、俺は惨めにも土下座をして頼み込んでいる。
それも、只暴れないでくれとお願いをしに。
それを?皆の目の前、多数の人が居る前でこの行動をしている……
それが何を意味するか?
——周囲の同情だ。
'流石にやりすぎじゃない?'
分かる、それね。'
そこまで責めたてることをしたわけじゃないしね…'
こうなれば勝ち。
相手が何を言おうと、何をしようと、俺はすでに”被害者”に成り上がった。
周囲は俺を擁護し始め、相手は言い訳をすればするほど”加害者”として扱われる。
これが奥義。
これが、“土下座”だ。
…フフ…まだだ、まだ笑うな。
「……もぉぉぉ!分かったよ!」
「……」
「ユイちゃんの言う通りにしてあげるよ!しょうがないな……」
……時は満ちた!
「……聞いたか諸君!我らに使命が下された!」
「え?え?何しようとしてるの?」
……煌月アリサ、私がお願いをしに来た張本人が、私の突飛な行動に疑問を投げかけてくるが……無視します。
「今のままでは、ただの不良だ、屑でゴミと言われても仕方の無い者たち。それが我々だ。」
私に周囲の視線が集まってくる。
興味半分、不安半分。
「我らは只の無能では無いことを示さなくてはならない!優秀な者たちであると!!」
私は拳を高らかに上げて宣言をする。
「今こそ我らの名誉を取り戻す時が来た!我らがゲヘナの問題を解決し!多大な恩をゲヘナに与えるのだ!アリサ様の命を承けた我々が!」
「えっ!ちょ、待って━」
フッ、止まるわけが無い。
「ココから我らの、アリサ様の伝説を……新たな伝説を我らで打ち立てるのだ!」
彼女…アリサも何かを話しているが。
もうアリサ声は誰の耳にも届かない。
「さぁ皆の者!ゲヘナで今も尚テロを起こし、問題を起こし、風紀を乱す者たちを取り締まりに行くのだ!少しでも多くの恩を、アリサ様の伝説を作る為に!皆の者!出発だァァァァァ!!」
“うおおおおお”
おぉ…早いねぇ……感心感心、もう見えなくなっちゃったよ。
こうして、俺に良い様に不良達は使われるのだった。
「ちゃんちゃん」
「何終わった雰囲気にしようとしてるのかな?!」
「だって…終わったし。」
「もぉぉぉ、ほんとにばか!ばかばか!」
フッ…計画通り
「ユイ様、それは流石に畜生としか言いようがありません。」
「はぁ!?そもそもお前が余計なことしなければこうはなりませんでしたァ!!」
「ハッ!よく言いますね。私も貴方に止められなくてもあの程度余裕のよっちゃんイカでしたが!?」
「全然余裕じゃなかったよねぇ!?下手こいたら負けるレベルの、感じだったよねぇ?」
「それは相手も同じでした。」
「はぁ……また近いうちに点検に持ってくからね。」
「あまり気が進みませんが…わかりました」
よし、一件落着!帰ろうかな?
「何帰ろうとしてるのかな?」
「あれ? バレた?」
「なんで逆にバレないと思ったのかなぁぁぁ?」
「テヘペロ☆」
「事の経緯…全部話してもらうからね?」
「ルカ!君に決めた!」
「ジムリーダーバッチが足りない*4ので私は言うことを聞きませんが?」
「クッソ無能!ふざけやがって!」
「ユ〜イ〜ちゃ〜ん?」
「ひっ……」
般若が見えた気がした。
「はぁ…“ちゃんと”説明しなさい。」
「はいぃ……」
……まぁ俺も悪いし…シャーないか。
うるせぇ!タイトル回収なんてどうでもいいんだよ!
ドン!!