ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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ペルソナのニャルをコズミックホラーと間違えた男

 異界の中で周囲を魑魅魍魎・悪鬼の群れに囲まれながら、何が悪かったのだろうかと男は思う。

 この世界に転生した際、『這い寄る混沌』と名乗る胡散臭いがやたら迫力のある男に会い、「ニャルじゃねえか!」と過剰反応してしまい、その天敵たるクトゥグアに一心に祈ったことだろうか?

 それとも、転生した自分がその祈りを届けられる程の霊的素養を備えていたことだろうか?

 はたまた、クトゥグアが戯れと気まぐれ&天敵の名前に反応して、祈りに応えてしまったことだろうか?

 

 「いや、違うな。ニャルはニャルでも、ペルソナの方だとは思わなかったんだよ!」

 

 ペルソナも女神転生も男は大好きだし、なんだったらどちらも無印からコンプリートして、全部3周以上クリアするくらいには造詣が深い。

 だから、本来ならば『這い寄る混沌』と聞けば、まず連想するのはフィレモンの対の存在たるニャルラトホテプであるはずだった。

 

 しかし、しかしだ、どうにもタイミングが悪すぎたのだ。

 死んだという自覚も転生した自覚もなかった男が転生する前の直近の記憶はクトゥルフ神話TRPGをオタク仲間とやっていた最中だったのだ。しかも、ニャルが黒幕でクトゥグアの助力を得て、その陰謀を打破するシナリオだったのだ。

 コズミックホラーのニャルを連想してしまったのは、仕方のないことであった。ガチモンの邪神としか思えない迫力に怯えるのも仕方のないことだっただろう。むしろ、天敵に祈ることができた機転を褒めるべきであろう。それが全くの見当違いでなければ……。

 

 「しかも、これが原因でニャルに目をつけられるし、クトゥグアの力貰ったせいでメシア教からは目の敵にされるし、日本の神仏は勿論、クズノハやヤタガラスといった退魔組織にも頼れん!本当に踏んだり蹴ったりだ!」

 

 半ばやけになって叫びながら、魔剣アフーム=ザーを解放し、一振りで周囲を焼き払う。

 

 「くそっ、絶対にこんなとこで死んでたまるか!」

 

 一度目の人生が死んだことすら覚えていないからこそ、この望外の二度目の生を絶対無駄にするわけにはいかないのだ。

 まだまだ沢山いる悪魔の群れに、炎を纏いながら男は特攻するのだった。

 

 

 

 

 「あれが『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』、噂以上の力ですね。やはり、大天使様の啓示通りあれは脅威になりえますね」

 

 <ウリエル様とは比ぶべくもない忌むべき呪われた焔ではありますが、忌々しいことに力だけは本物です>

 

 メシア教のテンプルナイトとその傍らにある翼ある者は、異界の外から漆黒の全身甲冑の騎士が悪魔を一方的に薙ぎ払う様を監視していたのだ。そう、この異界攻略依頼自体、あの忌まわしき黒騎士の力を計る為に用意したものであった。

 

 そも発端は、メシア教に仇なす輩の死体等のゴミ捨て場としていた本来厳重に秘匿管理されていた曰く付きの異界なのだ。とはいえ、意図して起こしたものでもない。つい最近、たまりにたまった怨念をはじめとした負のマグネタイトが、異界の許容限界を超えて周囲に漏れ出したのだ。メシア教への憎悪に染まったマグネタイトは、巨大なレギオンの呼び水となり、さらには悪霊をはじめとした無数の悪魔の群れを招いた。当然、そこを管理してたメシア教過激派の教会は、構成員一人残らず死滅したのは言うまでもない。

 しかも、件の異界は教会を呑み込んで膨れ上がり今なお拡大中な上に、絶賛メシア教への呪詛をばら撒いているため、メシア教徒には近づくことすら不可能である。相当に高位の大天使を連れてこなければ、手出しすることも叶わない。

 

 メシア教はこの事態に頭を抱えたが、秘匿されていたこと及び自身の教会が呑まれたことをいいことに、今回の事態が予期せぬ事故であると表向きには発表した。敵対するガイア教はもちろん、護国組織のヤタガラスを筆頭に誰も素直に信じることはなかったが、呪詛と共に拡大する異界は現実問題として共通の脅威であった為、早期の事態収拾が望まれた。

 

 だが、どの勢力も積極的に人員を派遣しようとしなかった。当然だ、メシア教がことの詳細を隠蔽しているため、何が原因かも定かではない上に、それなりの戦力をもっていたメシア教過激派の教会が全滅しているのだから。解決には、相応の戦力を投入する必要があると判断せざるをえなかった。

 もっとも、これはその成り立ちからメシア教特攻が刺さっただけで、実際にはそこまでの戦力の投入は必要ない。メシア教ならば大天使か聖人や幹部クラス(LV40超)が必要だが、そうでない者ならば、エース級や幹部クラスが出張るまでもない。中堅クラス(LV20~LV35)の戦闘員の人海戦術でどうにかなる範疇であるのだが……。

 

 誰もがババを引きたくない結果、白羽の矢が立ったのは、無所属で在野の実力者である『焔の黒騎士』だった。ここ二、三年の間に名をあげてきた焔の黒騎士は、いきすぎた行いをするガイア教やメシア教の構成員と敵対しながらも生き残り、いくつかの異界攻略と邪神討伐を成し遂げたことで、各組織から目をつけられていたのだ。

 無所属で在野の人物でありながら、その実績から幹部クラス(LV40超)の実力者と当たりをつけられており、その実力を正確に計っておきたいというのは、メシア教に限らない各組織の総意であった。それを利用し、メシア教は焔の黒騎士が依頼を受けざるをえない状況に持っていったのだった。

 

 「むっ、これ以上は無理ですか」

 

 <諸共に焼き払われたようですね>

 

 突如として、異界内部を映していた映像が途切れたのを見て、テンプルナイトは顔をしかめた。結局、分かったのは、間違いなく幹部クラスの実力者であるということと、切り札とも言える魔剣を所持していることくらいで、後は予め分かっていたことだけだったからだ。

 

 「あの魔剣は厄介でしょうが、メシア教の戦力からすればそれ程恐れるものでもないでしょう。この程度の情報のために霊地まるごととは、些か割が合いませんね」

 

 この明らかに仕組まれた厄介な依頼の報酬として、焔の黒騎士はメシア教過激派の教会が管理していた霊地を要求していたのだ。実際、金で引き受けるにしてはリスクが大きすぎる依頼であり、報酬については各組織も頭を悩ませていたので、ある意味渡りに船ではあった。

 しかし、一方で霊地を実力者とはいえ、在野の個人に委ねるのは異論も多々あったのも事実であったが、神出鬼没の焔の黒騎士の居場所を特定し弱みを作ることができるという利点、何より元の管理者であるメシア教が殊の外あっさりそれを認めたことから、結局認められた。

 

 まあ、メシア教からすれば、メシア教への呪詛で汚染された霊地など、何の価値もないので、ある意味当然であったが……。

 

 <油断はなりません。あの邪炎は大天使をも殺しうるものです>

 

 「……あれがそれ程のものだとおっしゃられるのですか?それならば、多少強引にでもここで異界ごと浄化するべきでしたでしょうか?」

 

 元は自組織の管理霊地、それも都合の悪いものを放り込んでおくための廃棄異界である。異界の存在が万が一バレた時に異界ごと吹き飛ばして証拠隠滅する方法くらい用意しているのだ。

 

 <我らも与り知らぬこととした以上、必ずやその用意の良さを突かれるでしょう。現時点でも、十二分に疑われているでしょうが、それでも確信はなく疑惑に過ぎません。ですが、それをすれば疑惑は確信に変わります。今、この国そのものと揉めるのはまずいでしょう?>

 

 「それはその通りですが……(忌々しい不信心者共が……。)」

 

 大天使の言葉に不承不承頷くが、テンプルナイトは納得などしていない。

 そもそも彼はこの国が嫌いだった。無神論者と思えるほどに、神に対する信仰をもたぬ国民性。それでいて、結婚式は一神教のものであったり、神道式のものをしたりする。聖人の命日や降誕祭を浮かれた恋人の日にしてしまい、それを祝う。百歩譲ってそれを現代文化として浸透したとして認めたとしても、それら一神教の祝祭をしておいて、平気で自国の多神教に基づいた祝いも行うという無節操さが何よりも嫌いであった。男が敬虔なメシア教徒であるが故に余計に。

 

 <この国の民は、神の教えに疎いだけです。神の愛を知れば、良き神の尖兵となりましょう>

 

 「天使様や穏健派の連中はそう言いますが、私には信じがたいですな。神の愛を理解できぬ愚者など全て滅べばいい」

 

 テンプルナイトは吐き捨てるように言うが、自身に向けられている大天使の目の奥にある冷たさに彼は気づけていなかった。大天使にとって、テンプルナイトは神の教えを信じてはいても、所詮は人間である。容易く利用できるか否かというのが、ある程度力があると言うこと以外、この国の民とそう大差はない。

 

 <(全ては我が神の為に……。)>

 

 実のところ、大天使を名乗る悪魔は、テンプルナイトどころか、メシア教すらはなから眼中にはない。全能たる主の敬虔な僕たる彼にとって、何より優先されるのはそれなのだから。

 

 だから、神の声が突然聞こえなくなったとしても、彼が主から見捨てられたわけではないのだ。悪いのは世界であって、人間の有り様が気に入らぬから、神は声をかけてくれなくなったのだ。けして自分達に何か過ちがあって、それが神の怒りを買ったわけではないのだ。

 

 <(全能たる主がお造りになられた我らに過ちなどあろうはずもないのだから。間違っているのは人間です)>

 

 彼らの神話によれば、人間もまた主たる神の被造物であるという事実から全力で目をそらしながら、内心で決めつける。それ以外の結論があってはならぬというように。

 

 本当は、自身がすでに狂っているなど、誰よりも理解しているが故に……。




久々にPCのハードディスク整理してたら、懐かしいものを見つけてしまい、なんとなく書きたくなってしまった。当時は本気で嵌まったものだ。何がそんなに良かったのか、今となっては理解できないが、それでも思うところはあるものだ。

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