ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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感想返しがきつくなってきました。できうる限りはしますが、返信されてなくても読んでないわけじゃなくて時間がないだけですので誤解しないでください。


修羅場?棚ぼた?

 「徹、私は怒っています。なぜだかわかりますか?」

 

 異能者の修行用に解放されている道場の一角で、徹とアンジェリカは正座させられていた。その前には、私は怒っていますと言わんばかりに、顔をむくれさせ腕を組むみこの姿があった。

 

 「はい、恐らく彼女のことを秘密にしていたことかと」

 

 徹はみこにアンジェリカのことをどう説明しようか苦悩していたのだが、結局悩んでいる内にバレてしまった。みこの霊感が徹の想像以上だというのもあるが、彼女はそれがなくとも女の勘で気づいていたのではと思えるほどすぐに看破されてしまった。

 流石にアンジェリカの事情をそのまま説明するわけにもいかず、もっともらしいこと言って契約に到ったと説明したのだが……。

 

 「彼女?アンジェリカさんのことですよね!いつも通り呼び捨てでいいんですよ」

 

 みこの顔は笑顔そのものだが、目は欠片も笑っていなかった。

 それも当然。仲魔をずっと必要としていなかった徹が、いきなり自分とは対照的なグラマラスな女悪魔を知らないうちに使役していたのだから。サマナーが異性の悪魔と懇ろになるのはよくあることなだけに、邪推するなというのが無理な話だ。徹がどうにも話しにくそうなのも、それを助長していた。

 

 (<ちょっとサマナー、この娘可愛い顔して迫力が半端じゃないんだけど。なんとかしなさいよ!>)

 

 (馬鹿、今迂闊に契約ラインを用いた伝心なんか使うな!みこにバレる!)

 

 「今度は内緒話ですか?私、悲しいです」

 

 が、既に時遅し。即座に看破され、みこの目が細まる。

 

 「落ち着け、みこ。別に何もやましいことはないし、アンジェリカとは何もしていない。誓ってもいい」

 

 徹は言い訳をするが、呼び捨てがみこの嫉妬心を煽る。アンジェリカに向けられる視線の圧がさらに強くなる。

 

 (<怖い怖い、これで私と同じ霊格なのよね?嘘でしょ、あ、圧が凄いわ>)

 

 たとえ、仲魔と召喚士の関係であろうと、異性の名を徹が呼び捨てにするのはみこの嫉妬を煽るだけの行為だった。だって、それはこの日まで彼女だけが甘受してきた特権だったのだから。

 

 「むううう、デート、デートを要求します!」

 

 勿論、これが甘えであることはみこも理解している。みこと徹は別に恋人同士でも何でもないからだ。周囲からどう見られようと、それはれっきとした事実であった。なので、徹がどこの女と親しくしようが彼の自由だし、焼き餅焼いて八つ当たりなどもってのほかだとみこは誰よりもよく理解している。

 

 しかし、みこにとっては、徹は最初で最後の恋と定めた背の君だ。そして、徹が記憶を取り戻して以来、DBとして共に修行し、共に戦って過ごしてきた。その濃密な時間は、誰にも負けていない自負が彼女にはある。この程度の甘えは()()()に許されるだろう。

 

 「分かった、分かりましたよ。今度の日曜に俺とデートしてくれませんか、お姫様?」

 

 徹は降参だと両手を挙げて降伏し、許しを請うほかなかった。元よりアンジェリカの件を許して貰えて、かつ、みこの機嫌が良くなるなら、貴重な休日を潰すこともなんら苦ではないのだから、彼に他の選択肢は存在しなかった。

 

 「よろしい!喜んでお付き合いしましょう。私の騎士様……でも、それはそれとして、秘密にしていたことには怒っているので、徹はそのまま正座続行です」

 

 徹の誘いに、みこは満足げに頷くと満面の笑みで応じたが、一方で罰も忘れてなかった。

 

 <あの、流石に私はもういいわよね?>

 

 アンジェリカが痺れる足に耐えかねて、恐る恐る言えば、みこは微笑みながらこう言った。

 

 「アンジェリカさんはもういいですよ。でも、()()として節度あるお付き合いをお願いしますね?」

 

 この時のみこは、「笑顔だったけど、目は欠片も笑っていなかった」とは、後のアンジェリカの評だった。

 

 

 

 

 

 

 

 みことの大一番の前に、面倒ごとは片付けておくべきだと思った。

 だから、クズノハからさっさと報酬貰ってお暇しようと思ったのだが……。

 呼び出されたのは都内にある古ぼけた神社だったのは別にいい。問題なのは、今回のクズノハの使者だった。見るから重厚な雰囲気を纏った巨漢の坊主というか僧侶?と、どこかで覚えのある気配を醸し出す濡羽色の長い髪を後ろで結った和服姿の大和撫子の二人。しかも、護衛の気配はない。

 

 (うわー、確実に面倒ごとだー、これ!)

 

 大和撫子の方が信乃さんであることは間違いないだろうし、僧侶の方も明らかにただ者じゃない。というか、霊格は俺より上だ。

 内心で俺が叫ぶのも、無理もないことだろう。

 

 「お前さんが『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』か。なるほど、在野でよくそこまで鍛え上げたもんよ。わしは東京を守護する四神が一人、玄武。今回の全権を任されてる生臭坊主よ」

 

 「こうして、顔を合わせるのは初めてですね。改めて言葉信乃(ことのはしの)です」

 

 信乃さんはこの間と違って、敬語である。そして、心なしか心苦しそうだ。

 

 「え~と、信乃さん?言葉さん?「信乃で結構です」……俺なんかに敬語使う必要ありませんよ。この間みたいな感じで構いません」

 

 「そういうわけには……」

 

 「ふむ、まあまずはけじめをつけんとな。此度のクズノハのやりよう、本当に申し訳なかった!」「誠に申し訳ありません!」

 

 恐らくクズノハの重鎮であろう二人に、真っ向から頭を下げられて俺は慌てた。

 

 (こうも素直に謝られると、怒る気も失せるな。ということは、あの対応はクズノハの総意ではないということか。そうだよな、もしそうなら全力で付き合い方を考えないといけなかったからなあ)

 

 どうやら、クズノハ内部で何か行き違いが合ったようだ。

 

 「頭を上げて下さい。お二人が悪いわけじゃなさそうですし、俺も己が怪しさ満点なのは十分理解してますから。でも、どうしてああなったのかは説明して頂けますね?」

 

 「ああ、身内の恥を晒すようであれなんだが……」

 

 そこから玄武さんの口から説明されたことによれば、今回の依頼は完全に新藤という老人の暴走だったらしい。彼は年若く家柄も劣る信乃さんが幹部の席にいるのが我慢ならないらしく、度々嫌がらせに職権を濫用するような困った老人だったようだ。今回は魔人で謎の神の使徒というツッコミどころ満載の俺を使い、信乃さんの審問自体にケチをつけて悦に入る予定だったようだ。なまじ、今までの多大な貢献があって見逃されてきたのだが、信乃さんの審問に疑義をつけるというあってはならないこと&自分の勝手な意思をクズノハの総意であるかのようにふるまったことによって、ついに組織の長に見限られたそうだ。

 

 「じゃあ、あの指名依頼は新藤って人の独断専行だったってことですか?」

 

 正直、信用も何もない状態で、初っ端に暗殺依頼である。俺がドン引きしたのは言うまでもない。なにせ、どう考えても、諸共にぶっ殺すのが狙いか、最初から断らせることを狙っているようにしか見えないのだから。

 

 「ああ、流石に初依頼で暗殺はないだろ?しかも、お前さんが予め相容れないと宣言していたメシアンとの共同だぞ。ありえないにも程がある。新藤の爺は、最初からお前さんに断らせて信乃の嬢ちゃんにマウントとるつもりだったんだろうよ」

 

 「やっぱり、そういうことですか」

 

 喧嘩売ってるとしか思えない内容だったが、俺としては請けない理由もなかったのだ。

 

 (正直、メシア教やガイア教に睨まれたところで、痛くも痒くもないからなあ。それよりも、クズノハに対して優位にあれる方が重要だし)

 

 散々今までメシアンやガイアーズをぶち殺しているので、本当に今更である。あの危険極まりない悪辣な依頼出しておいて、なにもなしとは流石のクズノハでも出来ないはずだと俺は読んだのだ。組織の信義に関わるのだから。

 

 「ああ、お前さん気づいていたのか。そうだよな、じゃなきゃ引き受けないよな

 で、お前さんが引き受けた結果、新藤の爺さんの目論見は崩壊。まさか請けられるとは夢にも思っていなかったんで、見届役も用意していないときた。後はお前さんの知るとおりというわけだ」

 

 見届役という名の監視役だろうことは、簡単に想像がつく。後での横槍が全くなかったことや、こちらの報告を聞くだけだったクズノハの連絡員のことを思えば、メシアンの隔離結界のせいか、後出しも出来なかったのだろう。

 

 「それでクズノハなりの誠意が、重鎮であるあなた方の謝罪というわけですか?」

 

 偉い人に頭を下げさせて、報酬を値切るのは常套手段だ。実際、3倍は請求してやろうと思ったのだが、勢いを削がれてしまった。精々、とれて倍額といったところだろうか?

 

 「勿論それもあるが、まず報酬は詫び込みで5倍支払おう。また、お前さんがあの拠点で何を手に入れていようが、クズノハは一切の要求をしない。その権利はないと考えている」

 

 「!?」

 

 3倍どころか、5倍と来た。1億の依頼が5億に化けるとは、恐るべし護国組織。流石に金を持っている。

 だが、俺が驚かせたのは後半の部分だ。戦利品について一切の要求をしないという部分だった。

 

 (オザワがオリジナルの悪魔召喚プログラムを持っていたのは、最早俺しか知らない事実だ。当然、クズノハも知るわけがない。そして、一切の要求をしないという言質は取れた。これはもしかして、最善の方向に持って行けるかもしれん)

 

 「以上に加え、何か望むものがあれば取り計らいます。これがクズノハにできる貴方への無法の詫びです」

 

 信乃さんが付け加えるように言うが、生憎と俺はそれどころではない。即座に頭の片隅に追いやって、考えを巡らす。オリジナルの悪魔召喚プログラムの存在を教えるか否か。

 

 (言質はとったが、ものがものだけに覆される可能性もゼロじゃないよな。でも、相当に悪いとは思っているみたいだし、重鎮自らここまでぶっちゃけてくれたのは、信乃さんの存在も含めて考えればそういうことだろ?

 ……賭けてみるか?)

 

 「クズノハの誠意確かに受け取りました。望みについては思いつかないので、保留でお願いします」

 

 「おお、そうか。受け取ってくれるかありがたい。肩の荷が下りたわ」

 

 「本当に良かったです」

 

 決裂の可能性も視野に入れていたのだろう。玄武さんは嬉しそうに笑い、信乃さんも、胸を撫で下ろしている。

 

 (安心しているところ悪いんだけど、爆弾投下させて貰うわ。まあ、先にやらかしたのはそっちだから)

 

 「もう一度確認させて下さい。先の言葉、クズノハは戦利品に一切の要求をしないというのは確かですか?」

 

 「ああ、間違いない。なんだ、余程のお宝でも見つけたのか?気にするな、貰っておけ。構わん構わん」

 

 玄武が訝しげな顔をするが、一瞬で破顔し何でもないことのように言う。よし、ここまで言った以上、もう覆せないだろう。

 

 「オザワがオリジナルの悪魔召喚プログラムユーザーであってもですか?」

 

 俺がそう口にした瞬間、和やかな空気は一瞬で凍り付いたのだった。

 

 

 

 

 

 「オザワがオリジナルの悪魔召喚プログラムユーザーであってもですか?」

 

 交渉が上手くいきそうだと確かな感触を感じていた『玄武』こと亀山大樹は、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』の爆弾発言に凍り付いた。

 

 「あのオザワが!?確かなのか?」

 

 悪魔に使われている身の程を知らぬサマナー。それが亀山の知るオザワの評価だ。

 

 実際、相対したこともある彼からしても、オザワは普通のカジュアルよりはマシというだけでそれ以上ではなかった。流石に建御名方というビッグネームを使役していたのは驚いたが、好きに戦うのに利用されている始末。あれでは制御出来ているなどとは、とても言えないだろう。

 

 「建御名方の使役は契約が特殊だったみたいなんで除外するとして、オザワの奴は単独で4体の悪魔を召喚し、制御維持するだけの技量は持っていました。カジュアル共が使うデッドコピーでは不可能な芸当ですし、メシアンを殲滅したのは、間違いなくアイツでしたから」

 

 「あの半グレ上がりがか……。とんだ食わせ者だったわけだ」

 

 自身の力を偽り、大したことがない存在であると誤認させていたのだ。勿論、オリジナルの悪魔召喚プログラムを秘匿するためでもあったのだろうが、亀山が、ひいてはクズノハがまんまと騙されていたのは、変わることがない事実なのだから。

 

 「……それを私達に教えてくれるのはなぜですか?こちらは戦利品には口を出さないと言ったのです。黙っておくこともできたはずです」

 

 信乃が不思議そうに問う。悪魔召喚プログラムにオリジナルがあるというのは都市伝説的に知られている噂だ。なので、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』が知っていてもおかしくはない。

 

 だが、本当にオリジナルがあると信じている者はほとんどいないのが実情だ。それだけ、クズノハが頑張った証でもある。だというのに、目の前の黒騎士はそれが存在することを前提に話をしている。亀山が予想外すぎる事実に対する動揺と驚愕から、半ば認めてしまっているが、本来は眉唾物だと流されるのがオチなのだ。

 

 「誠意ですよ。あなた方は自分達の非を認め正面から頭を下げて詫びた。詫びとは言えないレベルで報酬も増額して貰ったし、+αまでくれるというのだから。悪意には悪意で、誠意には誠意で返すのが俺の流儀だ」

 

 「ほう、見上げたもんだ。だが、流石にオリジナルの悪魔召喚プログラムとなると、色々話が変わってくるのは分かるだろ?」

 

 亀山は徹の言葉に素直に感心するが、だからといって、オリジナルの悪魔召喚プログラムは見過ごせない。いくら今回の戦利品には手を出すなという長の言葉があっても、はい、そうですかと頷けるものではない。

 

 「だけど、取り上げることも出来ない。違いますか?」

 

 「……察しのいい奴だ。ああ、自ら明かさなくていいオリジナルの悪魔召喚プログラムの存在を明かし、クズノハも気づいていなかった情報をもたらしたのは大き過ぎる借りだ。そもそも、今回の依頼は完全にこっちに非があるんだからな。詫びの証として、戦利品に手を出さないと明言した以上、それを覆せば、新藤の爺さんと同じになるんでな」

 

 苦々しい表情で、徹の言葉を亀山は肯定せざるを得ない。ここで存在を秘匿していたなら話は別だが、自ら明かし、情報まで貰っているとなると、流石に無理矢理取り上げるのは、無体が過ぎる。

 

 「こちらにお渡ししていただくことは出来ませんか?勿論、対価はお支払いしますし、情報料も支払いましょう」

 

 信乃が提案という形で言う。徹が自ら渡すなら何も問題ないし、それなら取引という形で穏便に済ませられるからだ。

 

 「悪いですけど、渡す気はありません。これから生き残るために必要な力だと考えていますので」

 

 「「……」」

 

 徹の明確な拒絶に、クズノハの二人は押し黙るほかない。徹の言葉は理解できるものだし、元より自分達には権利がないのだから尚更だ。

 

 「これでも手を出しませんか……。分かりました、俺も譲歩します。悪魔召喚プログラムは渡せませんが」

 

 そう言って、黒騎士がした行為に、クズノハの二人は驚愕した。

 

 「なっ!?」「えっ!?」

 

 「改めまして『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』こと卯月徹です。以後お見知りおき下さい」

 

 二人が驚くのも無理はない。徹は全身甲冑を解いたのだ。そして、今まで頑なに秘匿してきた名前と顔を明らかにしたのだ。

 

 「年下だとは夢にも思わなかった……」

 

 驚きのあまりに、信乃は言葉遣いが素にもどってしまっていた。

 

 「年齢が思った以上に若いのもそうだが、卯月だと?最近地方で噂になってたていう神山神社の俊英、その片割れがお前さんか!」

 

 亀山は、卯月の名字に覚えがあったらしく、すぐに黒騎士の正体に思い当たったらしい。

 

 「なるほど、あの鎧は異能で形成したものだったわけか。恐らくその異能、謎の神から賜ったものなのだろう?だから、あれを纏っている時は魔人と出るのだな。今の貴方は人間以外の何者でもない」

 

 それでも転んでもただでは起きないのがクズノハらしく、信乃は徹の謎を一瞬で解明してきた。その口ぶりには明らかな確信があった。

 

 「図らずも我らの予想は当たっていたということだな。

 しかし、なるほど。これがお前さんの譲歩であり誠意か。ここまでの覚悟を示されては何も言えんではないか」

 

 亀山は目の前の少年が、襲撃されるリスクや身内を狙われるリスクなどを呑み込んで、自分達に対して素顔を晒し、名を名乗ったことを理解していた。それはクズノハへの信頼であり、最大限の誠意と覚悟の示し方と言えよう。

 

 「護衛を置いてきて正解だった。少し迂闊だぞ」

 

 信乃にもそれは分かったようだが、同時に注意もする。徹が不用意に思えたからだ。

 

 「流石に俺も考えてますよ。今日この場に護衛もつけずにお二方だけが来たからこそです。

 これはお二方への信頼とクズノハの誠意に対する返礼でもあります。当然ですが、話すのは必要最低限にしてください」

 

 「それは当然だな。安心しろ、どうしても話す必要がある相手に限定する。

 そして、クズノハはお前のオリジナルの悪魔召喚プログラムの保有及び使用を黙認するということでいいな?」

 

 「はい、そうして貰えるとありがたいです。できればヴィクトルへの紹介状なんかも頂けるとありがたいです」

 

 「ちゃっかりしてんな、いいだろう、書いてやるよ!ヴィクトルのことまで知ってるとは、お前さん密かに調べてたわけだ。……オザワのことは偶然か?」

 

 ヴィクトルはサマナー連中の中では有名だが、そうでない者はまず知らない。亀山は、徹が相当に下調べしていたのだろうと判断した。勿論下調べのおかげでもあるが、ここまで突っ込めたのは原作知識からなのだ。そんなこと、神ならぬ身には分かるはずもない。

 

 「流石に偶然ですね。本当に棚ぼただったんです。クズノハすら騙しきった奴を俺個人で情報抜けるわけないでしょう?」

 

 「ごもっとも、今の交渉だって行き当たりばったりで、計算していたわけじゃないだろうしな。

 最初はここまでするつもりはなかったんだろう?」

 

 「それはそうですよ。新藤でしたっけ?あの依頼で俺の中のクズノハの評価は酷いことになってましたからね。

 アレで謝罪に詫び、事情説明、どれか一つでもかけていたらここまですることはありませんでしたよ」

 

 「我々が胸襟を開いて話したことで、君も正体を明かす気になったというわけか」

 

 図らずも長の言うとことが大当たりした形だった。流石は長だと、二人は内心で忠誠を新たにした。

 

 (ここまで嘘はないんだな?)

 

 (何一つありませんでした)

 

 亀山は、念のための最終確認を信乃に行うと思った通りの答であった。

 

 (まあ、ここまでぶっちゃけた以上、嘘を言う理由はないか。思った以上にいい結果になったな。

 しかし、知らん内に地方でこんなのが生まれてるとは……。もう少し地方にも目を向けなきゃならんな)

 

 計算外の嬉しい誤算ではあるが、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』の不審点の殆どが解消できたと言っていい。亀山は思った以上の成果を内心で喜んでいたが、同時にあまりに地方を軽視していたのではないかという危機感も覚えた。徹という例がすでにあるだけに尚更だ。

 

 「私、地方にももっと目を向けるべきだと進言することにします」

 

 信乃も同感だったのか、しみじみと言う。 

 

 「ああ、連名でしよう」

 

 四神である亀山と幹部である信乃の連名なら、まず軽視はされないだろう。

 

 「俺の前で言われると、なんというか微妙な気分になりますね」

 

 「勿論わざとだ、悪魔召喚プログラム、けして使い方を誤るなよ」

 

 これは徹への警告でもある。見ているぞと、今後は見逃さないと。

 

 「分かりました、肝に銘じます」

 

 徹も言わんとするところは理解できたので、神妙に頷く。

 

 「分かればいい。わしの本名は、亀山大樹だ。ほれ、連絡先だ。何かあれば連絡してこい」

 

 「本名どころか連絡先まで……いいんですか?」

 

 「流石に、幹部である信乃の嬢ちゃんの連絡先は渡せんしな。わしならばなんともでなるしな」

 

 言外に、自分なら焔の黒騎士(ナイトブレイザー)にも対処できるという自負がうかがえる。

 

 「分かりました。以後よろしくお願いします」

 

 その後は、細かいことを詰めて、新たに正規の協力者用の識別符兼伝心符を徹に渡して、交渉は終了した。

 

 

 

 徹が再び黒騎士となって去り、二人だけになった境内で、改めて亀山は釘を刺す。

 

 「改めて言っておくが、信乃の嬢ちゃんはあまり深入りしてはならんぞ」

 

 「分かっているつもりですが?」

 

 「分かっておったら、自分の連絡先を渡そうとは考えんよな?」

 

 「ッ!?」

 

 年下で将来有望どころか、現時点でも強い異能者。しかも、懸案だった事項の殆どが解消されたとなれば、唾をつけたくなるのは人情だろう。まして、男不足な異能者界隈、かつクズノハ幹部という立場なら尚更である。信乃の気持ちは痛いほど分かるが、流石にそれはマズイ。

 亀山が連絡先を渡したのは、徹が気に入ったというのもあるが、信乃にそれをさせないためでもあったのだ。

 

 「それに神山神社の俊英と言えば、もう一人は神社の一人娘だったはずだ。もう懇ろかもしれんのだ。いらん波風はたたすな」

 

 「折角の有望株が――」

 

 信乃の心の底からの叫びは、誰にも届かず霧散するのだった。

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