異界の中で周囲を無数の悪魔の大群に囲まれながら、今更ながらに何が悪かったのかなと徹は思う。二度目の人生、彼なりに必死に生きてきたつもりだ。だが、やはり、スタートでやらかしたのが痛かった。
「いや、違うな。ニャルはニャルでも、ペルソナの方だとは思わなかったんだよ!」
この一言に全ては集約されるだろう。ペルソナにおける黒幕にして、フィレモンの対、ネガティブマインドの具現たるニャルラトホテプを、コズミックホラーの邪神の方だと勘違いしたことから全ては始まったのだ。
そして、徹自身がニャルラトホテプを前にして自我を保っていられたこと、神性に請願できる程の霊的素養を備えていたことも手伝って、彼はクトゥグアの力を借りて、全力でニャルラトホテプに反逆した。してしまった。
結果、徹はこの世界における唯一無二のクトゥグアの使徒という立場になってしまったわけである。
「しかも、これが原因でニャルに目をつけられるし、クトゥグアの力貰ったせいでメシア教からは目の敵にされるし、日本の神仏は勿論、クズノハやヤタガラスといった退魔組織にも頼れん!本当に踏んだり蹴ったりだ!」
これをきっかけに、徹はニャルラトホテプに目をつけられて、ペルソナ能力を強制的に与えられた上で観察対象になってしまった。当然謎の神の使徒など、一神教のメシア教が認めるはずもなく、クズノハにもアナライズで魔人になることから、完全に頼ることも出来ない始末だ。それでもクズノハの協力者と言う立場を手に入れたのだから、頑張っていると言っていいだろう。
「くそっ、絶対にこんなとこで死んでたまるか!」
ファーガスの剣では殲滅効率が悪すぎるので、余計な目が鬱陶しいのもあり、ここまで見せていなかった魔剣アフーム=ザーを解放する。本来は極寒の冷気の魔剣だが、同じクトゥグアに仕える者であるが故に、魔剣アフーム=ザーはその真価を発揮する。即ち、単純な
その効果は覿面だった。唯の一振りで、監視の目ごと周囲の悪魔を根こそぎ焼き払ったのだから。
(分かっていたことだけど強過ぎる。クトゥグアの炎との相性が良すぎるんだな。炎刃を維持した状態でもまるで負担もないし、火力全開なのに劣化も感じられない。紅月やファーガスの剣だと、気をつけないと燃やしかねないからな)
久方ぶりに使う魔剣アフーム=ザーだが、不思議と手に馴染む。とはいえ、やはり、普段使いするような武器じゃないなと、徹は改めて思う。単純に強過ぎるのだ。他が必要ないレベルで強い。これに頼っていたら、まず己の成長はないだろうと徹は確信していた。
(まあ、今回は監視の目を一応満足させるために喚んだわけだけどね。これで俺の強さの理由が、魔剣のお陰であると誤解してくれると助かるんだが……。)
そんなことを考えている間に、再び周囲を埋め尽くす悪魔の群れ。正直、無尽蔵ではないかという湧きっぷりであった。
「騙して悪いがは、ACミッションだけで十分だよな。現実であると、クソでしかない。まあ、今回は分かっててうけたんだが……」
迫り来る雑多な悪魔の群れを薙ぎ払いながら、徹は独りごちる。
「幽鬼レギオンからはじまり、凶鳥イツマデ、凶鳥モー・ショボー、凶鳥オンモラキ、幽鬼や屍鬼の類は数えきれない程ときた。メシアンがここで何やっていたか、ここが何のための異界か、嫌でも分かるな」
ここは拡大し続ける異界の中だ。卯月町の近隣ということもあり、徹やみこは勿論、保護下にある美雪や愛までかり出される緊急事態だったが、徹は一人クズノハからメシア教から
(まさかの美雪と愛の覚醒で、本格的に自分達の拠点が欲しくなったからな)
思いもがけず二人の面倒をみることになったのは、徹も完全に想定外だった。まさか二人して悪魔業界に来るとは、夢にも思っていなかったからだ。こうなると今後のことを考えて、どうしても拠点が欲しくなる。みこの実家の神社を今は使わせて貰っているが、あそこは一般の参拝客も少なくないし、秘密が多い徹にとってはあまり好ましくなかったのだ。
みこは勿論、美雪と愛を守るためには、一定の力と確かな足場を持つ必要がある。そういう意味では、今回の依頼は渡りに船だった。
「異界だけでなく霊地もまるごとと来れば、そらこの難易度にもなるか……」
そう言う徹の眼前には、視界を埋めつくさんばかりの悪魔の群れ。地上も空も、全てが悪魔で埋め尽くされている。その全てがメシアンへの憎悪に蝕まれ、満月の魔力によって狂乱している。そこはまさに地上に顕現した地獄であった。
斬っても斬ってもキリがなく、灼いても灼いても無尽蔵に湧き出す悪魔達に流石の徹も閉口する。正直、魔剣の力で全力出せば、異界ごと焼き尽くせるだろうが、異界も欲しい徹にとっては、それは悪手である。
(マジでキリがない。かといって、焼き尽くすわけにもいかない。さりとて、このまま足止めされているのはまずいか……。)
異界の中心部付近に足を踏み入れてから、全く進めていない現状を打開するすべく徹は、一手を繰り出す。
「男の子の憧れの魔法をくらうがいい、カイザーフェニックス*1!」
炎の不死鳥が進路上にあるものを全て焼き尽くし、薙ぎ払っていく。徹は知る由もないが、炎の不死鳥にされた炎精達はクトゥグアの神威を異世界に示す最高の機会だと、我先にと召喚に応じ、喜び勇んで散っていくので、コスパも大変良かったりする。
(今更だけど、使い勝手や威力に反して、これコスパ良すぎだよなあ。まあ、今のところ魔剣アフーム=ザーがないと使えない魔法だからなあ。っと、今は目の前のことか)
相変わらずの凄まじいカイザーフェニックスの威力にそんなことを思うが、今は思考している余裕はないと思考を断ち切る。
そして、その思考を肯定するかのように見えてきた異界の中心には、ドス黒い怨念と穢れに満ちた呪いを全身から噴き出すLV49悪霊レギオンが鎮座していた。
(こいつだけ幽鬼じゃなく悪霊。しかも、周囲にいた連中とは霊格が別格ときた。レギオンといえば、メシア教系列の奴だから、今回の騒ぎはメシアンが根幹にいるわけか。分かっていたことだけど、本当に迷惑な奴らだな!)
やはり、メシアンとは相容れないと徹が心を新たにした時、レギオンから猛烈な悪意と敵意が向けられる。
「そんなに怒るなよ。お前らがそうなったのは、自業自得だろう?」
その言葉が挑発になったのか、あるいは逆鱗に触れたのか、凄まじいまでの呪殺攻撃をぶつけてくる。
(今の俺は、生憎と全魔法反射なんだよね)
この依頼が真っ黒で、メシアンへの憎悪で呪殺とかやってきそうだよなと、予めペルソナは呪殺無効どころか、魔法全反射のペルソナ『LV41 魔術師アベノセイメイ』にしてある。つまり、今の徹への魔法攻撃は悪手でしかない。たちまち、呪殺が跳ね返るが、呪殺無効であるレギオンには意味がない。
「お前みたいのにはこれが効くよなあ、ライトスマッシャー*2!」
アベノセイメイのハマオンに、自身の斬撃スキルを重ねて放つ。破魔属性の斬撃と化した攻撃は、容赦なくレギオンを切り刻む。
これが徹の奥の手の一つ、一人合体魔法である。これは正直、いかな徹でもかなりの修練が必要だった。ペルソナを召喚しつつ、自分は自分で動くという離れ業である。ただ、これが出来ないとフィレモン式ペルソナ使いである彼は変異を起こすことができず、ペルソナを成長させることができないので必死だった。仲魔を使うという方法もあったが、ペルソナはなるべく秘匿していたかったが為に編み出した苦心の技だ。ただ、欠点は大きく、二倍のHPMPを消費する上、3手以上を必要とする合体魔法は流石に不可能だった。
<グオオオオー、シュハナゼワレラヲスクワヌ!アレダケツクシテキタノニ!>
魔剣の攻撃力に弱点の破魔属性が付与された斬撃をもろに受けたレギオンが苦悶とともに、聞くに堪えない戯れ言をほざくが、徹は容赦しない。
「ふん、神が一信者に目向けるとでも?それも有象無象でしかないお前らに?そもそも神の御意思だと勝手に代弁者を気取り、好き勝手やらかしてきたお前達に恩寵などあるものか!」
<チガウー!!スベテハシュノ「本当に、本当に神がそう言ったのか?お前達は直接聞いたのか?主の意思を曲解する天使達からの又聞きではないのか?」……ガアアアア!>
図星を指されたかのように激昂し、狂乱するレギオンから放たれる暴虐の嵐は、<暴れまくり>のスキル名に相応しい凄まじいものであった。
「狙いが甘いんだよ!」
アベノセイメイを降魔した状態での物理攻撃は、普通に弱点をついた攻撃で痛いのだが、生憎と今の徹は魔剣アフーム=ザーにより全ステ+5の恩恵を受けている上に、激昂したせいで狙いが大雑把で、躱すのは容易かった。それどころか、レギオンの巨体をすれ違いざまに斬りつけて反撃すらしていた。
<ナ、ナゼゼ、ナナノダダ!>
最早、言語の体を成してはいないが、怨嗟の念だけは伝わってくる。人とは浅ましいものだ。努力したならば、当然にその成果を求める。たとえ、その努力が根本的に間違えていたとしても。
「いい加減に消えろ!その薄汚い魂魄ごと焼き付くしてやる!」
魔剣に極大の炎を纏わせた徹は、跳躍の勢いそのままにレギオンの巨体を真っ二つに切り裂いた。魔剣によりありとあらゆるものを燃やす炎は、言葉通り魂魄さえも焼き尽くした。彼らの魂が、彼らの神の御許にいけることはないだろう。もっとも、悪魔化した時点で、輪廻の輪からはじき出され、人としては終わってしまっているので、どちらにせよ、その魂が救われることはない。
「憎悪と怨嗟に染まりきったマグネタイトで、原因である過激派メシアンを陵辱しつくし、呪いを吐く存在へと貶めたか。これも一つの因果応報だな。で、止まる気はないのか?」
レギオンを斬って尚、異界は収束しない。つまり、レギオンは単なる
(異界の拡大化によって、メシア教会過激派の教会が呑み込まれたわけだから、当然黒幕は他にいるわけだ)
徹は、これを予想していた。でなければ、強固な結界が張られている今の日本で、現世に影響するほどの異界の拡大化など起こせようはずもない。LV49のレギオンとは言え霊格が足らないし、それをなしえる権能も持っていないはずなのだから。
<笑止、あの蛮夷共を滅ぼすまで、我は止まらぬ!我は
怨霊の集合体、ドス黒い人型としか言い表せないそれは、予想外の言葉を吐いた。
(問答無用じゃない?俺が日本人で、仇討ちを果たしたと言っても、随分甘い対応じゃないか?それに本当に八十枉津日神か?邪神と言うほどには、力を感じない)
コズミックホラーの邪神の力を身をもって知っている徹にとって、八十枉津日神はあまりに中途半端だった。なんというか、色々なものが足りていない。
(いや、待てよ。もしかして、俺が殺しすぎたせいで、こいつ神から怨霊に成り下がろうとしているのか?)
凶鳥イツマデこと以津真天は、打ち捨てられた死人の霊が凝り固まった妖怪で、その鳴き声には「いつまで屍を放置するつもりなのだ」という非難が篭められている。同様に凶鳥オンモラキは陰摩羅鬼、『
結果、この神は急速に力を失っているのだ。それが今の不安定さに繋がっているのだろう。
(そもそもレギオンにしてまで、メシアンを残しておいたのはなぜだ?復讐にしても、もっとやりようがあったはず。恐らく憎悪と怨嗟を煽るために、あの根源を残しておく必要があったんだろう)
メシアンに殺された誰も彼もが、復讐を望むわけではない。ましてや、現世の今生きている無関係の人間にまで迷惑をかけてまでとなれば、さらに少数派になるだろう。
だが、目の前に加害者がいればどうだろう。しかも、下らぬ戯言、狂信の末に殺されたなど、被害者側が受け容れられるはずもない。そうやって、この神、いや怨霊は、怨嗟と憎悪を煽り神を騙れるほどに強大になったのだった。
「なるほど、土台が足下から崩れて、俺とやり合ったら、負けて消えるかもしれないというわけだ」
あれだけの悪魔大虐殺をしておいて、徹はなお無傷であり、余裕も十分以上にあった。魔剣の恩恵は、彼の想像以上に大きかったのだ。
<黙れ、我が見逃してやると言っているのだ。疾く立ち去るがよい!>
「神ならいざ知らず、お前如き怨霊の言葉を聞いてやる義理はないね。それとも、もう一度名乗れるか?」
<わ、ワレハ……>
徹がそういった瞬間に、八十枉津日神を騙る怨霊の集合体は急速に力を失っていく。言葉には力が宿る、言霊というものがある。まして、霊格が高いものが霊格が低いものに与えた言霊は、厳然たる力を持つ。コズミックホラーの邪神とは言え、れっきとした神の使徒である徹に怨霊と断定されてしまった怨霊の集合体は、完全に神としての力と存在を失ったのだ。
「しぶといな。まさか霊脈と直結して、土地神化して存在を保っているのか?」
すでに黒い霧というレベルまで薄まってしまった怨霊だったが、徹の予想に反して中々にしぶとかった。霊脈を汚染しているのは予想がついていたが、直結しているともなると厄介である。一種の土地神と化しているので、滅ぼせば土地ごと死にかねないのだから。
「クトゥグア様は、浄化の炎とか無理ですよね?」
浄化とかクトゥグアのイメージとは正反対なので、無理だろうなと思い、ついつい口に出してしまう徹。が、次の瞬間――――!
「すいません、すいません、それくらい楽勝ですよね。クトゥグア様舐めるなんてことは絶対にないんで!ただイメージと違ったっていうか」
クトゥグアから大いに不満の意が、徹に伝わってくる。なんだったら、「はっ、それくらい楽勝だし、舐めてんのか!」という怒りの意思すらあった。ひたすらに平身低頭するほかない徹だった。
「えっ、霊脈に魔剣ぶっ刺して、後は全力全開で浄化のイメージで炎出せば、余計なもん全部焼き尽くすくらい余裕?あの異界は潰されると困るんですが」
またもクトゥグアから、「ああん、そんなしょうもないミスするわけないだろ。というか、制御するのもやるのもお前な」とすぐに伝わってくる。
「えっ、ぶっつけ本番で成功させろと……」
「俺の子分なんだから、出来て当然だよなあ」的な意思が伝わってきて、徹は本気で焦る。
なにせ、今の霊格で魔剣ありの全力全開なんて1度もやったことがないのだ。しかも、制御に加え、浄化までしなければならないとか、難易度が上がりすぎではなかろうか。とはいえ、ここで出来ませんなんて尻まくった日には、クトゥグアがどう反応するか分かったものではない。
(やるしかない。逃げ場なんて、どこにもないんだよなあ……。)
あの忌まわしい這い寄る混沌の嘲笑が聞こえてくるようで、徹のテンションはだだ下がりした。怨霊の霧が害をなそうと、必死に纏わり付いてくるが、徹は最早全く関心がなかった。今の彼に重要なのは、ぶっつけ本番で全力全開の炎を制御し浄化することだけだった。
そして、うだうだしてる間にも、クトゥグアからの催促が来る。「焦らすのはなしな」みたいな感じだった。
「やってやるさ!」
渾身の力をもって、霊脈に魔剣を突き刺し、全力全開で炎を剣身に注ぎ込む。あらゆる穢れや汚濁の如くたまった怨念を焼き尽くし灰から再生させるイメージをもって。
瞬間、純白の炎が異界を席巻する。同時に避ける暇もなく、怨霊の集合体は消滅させられ、僅かに残っていた悪魔達も根こそぎ消滅する。
そして、不思議なことに大量のマグネタイトが灰のように粉状になって、異界に降り注いだ。何もないはずの焦土と化した異界内部が再生していく。
クトゥグアから「まあまあだな、もっと精進しろよ」という念が伝わってくるのに、徹は黙って頷いた。
(穢れや怨念を焼き尽くすのは成功したが、浄化からの再生は無理だったから、裏技使ったからなあ。多分、バレてるよな……。炎についての先入観もあったし、ハアッ、まだまだ修行が足りないな)
徹は浄化の炎とすること事態は成功させたが、そこからの異界の正常化は流石に無理だったのだ。なので、魔剣と化しているアフーム=ザーを一時的に、この異界の主とすることで、間接的に異界内のマグネタイトを支配下においてことを成したのだ。
それでもクトゥグアは見逃してくれたようだが、やはりまだまだ修行が足りないことを痛感する。
「まずは急いで、主となる悪魔を召喚しないとな。それまで済まないが代理を頼む」
徹の申し訳なさそうな言葉に、「しょうがねえな、早くしろよ」と言わんばかりに、魔剣は冷気の炎を吹き上げるのだった。
魔剣アフーム=ザー
クトゥグア様がネガティブマインドのニャルをぶっ殺す為に作り上げた魔剣。作り方は己の子であるアフーム=ザーから分霊をカツアゲして、自分の炎で炙りながら鍛えて魔剣とするだけである。簡単でしょ?ちなみに分霊の意思は、剣として鍛えられる過程でほぼ消えてしまっている。
徹専用魔剣、アフーム=ザーの意思の残滓が宿っているため、徹以外が触るともれなく凍り付いて死ぬ。本物の神剣と言うか、分霊とは言え神そのものを剣にしているので、現世での影響を考えて、普段は厳重に隔離封印されている。しかし、徹が喚べば封印を容易くぶち切って、どこへでも駆けつける。徹との関係は、使う側と使われる側というよりは、同僚か相棒といった感じ。
そのままでも、全ステ+5の極寒冷気の魔剣として使えるが、その真価は主に二つある。
一つは、増幅器としての機能。単純に徹の炎を増幅強化する。火炎貫通(無効までぶち抜く)が真・火炎貫通(吸収反射もぶち抜く)になる。
もう一つは、属性変換の機能。徹の炎を極寒冷気の炎に変換する。
妖刀とはいえ、所詮人が作り長い歳月で付喪神化したに過ぎない紅月が張り合うのは、烏滸がましいにも程があるレベルで格が違う。
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