ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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『SIREN』の堕辰子って、コズミックホラー系じゃねという考えからクロスです。とはいえ、本編ネタバレを防ぐため、ラスト以外はスキップですが……。


まさかのSDK

 「マジかよ?」

 

 ニャルラトホテプの痕跡を探そうと、自室で日課のネット巡りをしている時だった。完全に予想外のものを見つけてしまったのは、そんな時だった。

 

 『オカルトランド掲示板』、それが完全な予想外であった。

 

 「今度は『SIREN』!?この世界、マジでどうなってるんだ!」

 

 『オカルトランド掲示板』は、前世でプレイした『SIREN』というホラーゲームで、主人公が動くことになる原因である情報がある。

 

 「嘘だろ?いや、待て。似てはいるが、微妙に違う?」

 

 焦るように内容を見れば、確かに須田恭也を示すSDKの書き込みがある。しかし、どうも原作とは差異があるようだ。原作での書き込みは愛車(折畳式マウンテンバイク)だったはずだが、愛車は大型バイクになっているし、地名も微妙に異なるようだ。それに書き込みの感じからして、高校生ではなく大学生だろう。

 

 「何より、野郎の気配が感じられる……!」

 

 クトゥグアと契約して以来、自身に絶対的に課せられた制約による強制がかかるのを感じる。クトゥグアからも、「あのクソ野郎だ!ぶっ殺せ!」という催促が凄まじい。間違いなくニャルラトホテプ案件だ。

 

 「『SIREN』が舞台となると、黄泉戸喫対策は絶対に必要だな」

 

 いつもより食料と水を多めに持っていくことにする。金はあるので、手早くコンビニで買ってしまおう。

 

 「本当に『SIREN』だとしたら、皆を連れて行くのはリスクが高い。だが、黙って行くのもまずい。というか、クズノハとの契約もあるから無理だな」

 

 みこを筆頭に、美雪や愛も置いていきたいのが本音だが、彼女達は絶対に黙っていないだろう。最悪後追いで突入すらありえる。というか、そもそもクズノハから報告を義務づけられている身だ。完全に黙って動くことは不可能だった。

 

 「仕方ない、彼女達にも地獄に付き合って貰うか……。案外、奴の脅威を教えるという意味では、ちょうどいいかもしれないしな」

 

 俺はそう割り切ることにして、諦めて三人に連絡することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「先輩、ここがそうなのかよ?」

 

 「廃村ですか?随分、昔に閉鎖されたみたいですけど……」

 

 「確か、戦時中に旅行者の青年による村民三十三人殺しがあったという村ですね。遺体はなかったそうですが、当時の村人達が根こそぎ失踪したらしくて、当時は大騒ぎだったそうです」

 

 「そうみたいだな。結果、こんなものが現れるわけか」

 

 崩れかけた廃墟が建ち並ぶ廃村の入り口には、猟銃と日本刀で武装した真っ黒な人形が立っていたのだ。

 

 「あれって悪魔だよな?」

 

 「ああっ、名付けるなら噂悪魔『三十三人殺し』といったところか?」

 

 「徹、不用意ですよ!」

 

 みこが咎めるが、時すでに遅し。抑えた霊格でもLV40にもなる徹の言霊を受けて、噂悪魔『三十三人殺し』ははっきりと実像を結んだ。

 

 「徹先輩、わざとですね?」

 

 「ああ、愛、美雪、あれは二人に任せる。あの程度やって見せろ」

 

 噂悪魔『三十三人殺し』は霊格にしてLV18といったところだ。対して、美雪と愛の霊格はLV15。ちょうどいい相手だと徹は判断したのだ。

 

 「あれ格上だよね?」

 

 「うん、美雪ちゃん油断は禁物だよ」

 

 徹の言葉を受けて、美雪と愛が前に出る。その瞬間、噂悪魔は猟銃を発砲した。

 

 「下手くそ!」

 

 美雪はそれを軽々と避けて、噂悪魔に接近する。すかさず刀を構えて迎撃態勢に入る噂悪魔だが、そこに愛が飛ばした小刀が影を縫い付ける。

 

 <!?>

 

 一時的に動きを封じられた噂悪魔は、美雪の【サマーソルト】をもろに請けることになり、中空へと飛ばされる。そこには、愛によって召喚されたガルムが首をめがけて噛みついていた。

 

 (見事なコンビネーションだ。人間なら100%即死だろうが、相手は悪魔だ。まして、噂悪魔)

 

 【三十三人殺し*1

 

 噂悪魔の特徴として、噂通りの能力を持つということが上げられる。この噂悪魔の場合、噂通りの三十三人殺しを完遂するまで、全体攻撃化&逃亡不可能&無限食いしばりとして作用するスキルのようだ。

 

 (さあ、どうする?愛、美雪、ガルム、全員がダメージを与えても、食いしばられて耐えられてしまう。当然、攻撃スキルもあるだろうしな)

 

 噂悪魔は見事にガルムの噛みつきさえ耐えきり、すかさず反撃に移る。

 

 【狙い撃ち*2

 

 噂悪魔から放たれる銃撃は正確無比だった。固有スキルの効果でたった一発の弾丸が分裂し、的確に美雪と愛を捉えていた。

 

 「セイッ!」

 

 美雪は手甲でそれを受け流し、愛はガルムが身を挺して庇った。

 

 「召喚ジャックフロスト!」

 

 愛は、ガルムに守られた時間を無駄にしない。すかさず封魔管から二体目の悪魔を召喚する。

 

 <ヒーホー、サマナー、オイラに任せるホー>

 

 召喚された妖精LV15ジャックフロストが、すかさず【ブフ】を放つ。すでにアナライズ済みなのだろう。この噂悪魔に弱点はないが、呪殺と破魔以外に耐性もない。

 

 <どんなもんだホー>

 

 見事に凍り付いた噂悪魔に、得意げに胸を張るジャックフロスト。

 

 「ナイスだ!こいつで終わりだ!」

 

 そして、凍り付いた隙を美雪は見逃さなかった。

 

 【ぶちかまし】

 

 高速の体当たりが、一時的に氷像と化した噂悪魔を粉々に砕いた。

 

 「凍ったら、食いしばりも無意味ですよね。お二人とも、お見事です」

 

 みこが手放しに賞賛する。

 

 「うん、二人とも大分こなれてきたな。いい連携だった。出し惜しみしなかったのもいい」

 

 スキルも仲魔も出し惜しみすることなく、格上を封殺したのだ。徹としても文句なしの結果である。

 

 「やったな、愛!」

 「うん、美雪ちゃん!」

 

 手を合わせて喜ぶ二人。それでいて仲魔は戻さず、警戒に回しているのは評価できる。

 

 「思った以上の才能ですね」

 

 「やっぱり、そう思うか?」

 

 「ええ、二人とも1ヶ月でこれですよ。本当に凄いですよ」

 

 少し呆れたように言うみこに、徹も全く同感だった。美雪と愛の才能が想定以上だったのは、間違いない。徹とみこが全力で支援したとはいえ、短期間でここまで伸びるとは二人とも夢にも思っていなかったのだ。

 

 「そういう意味では、今回はいい機会かもしれない。単純な強さだけではどうにもならないだろうからな」

 

 「ここはそれ程厄介なんですか?」

 

 「俺が思っている通りなら、間違いなくな」

 

 正直、できるなら美雪や愛は勿論、みこでさえも連れてきたくなかったのが、徹の偽らざる本音であったのだから。

 

 「そうですか、私も気を引き締めないといけませんね」

 

 みこはそれを知ってか知らずか、むんと力を入れる。

 

 「ああ、よろしく頼むよ」

 

 それを頼もしく思うことこそあれ、不安になってはいけないのだと徹は自分に言い聞かせる。

 

 (大体、みこを信用しないで、誰を信用できるというのか)

 

 「ふふふ、お互い様ですよ」

 

 そう穏やかに微笑むみこに、徹も精一杯の笑みを返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 徹が感じていたとおり、この世界での事件はゲーム『SIREN』とは色々違った。それもそのはずで、ニャルラトホテプが無数の観察世界の事件を、この世界で再現したものでしかないからだ。それ故に、色々な変化や齟齬があった。

 

 その証拠とも言うべきか、全ての元凶たる女は、早々に追い詰められていた。もっとも、これは徹達が異界に巻き込まれた生存者達を生かすべく、積極的に異界に溢れる屍鬼達を排除して回ったため、想定外の事態に焦らされたからでもあるが。

 結果として、一人しか生き残らなかった原作と異なり、巻き込まれた生存者達の殆どが生き残った。児童を庇って死亡した校長と自殺した村の猟師、生け贄として捧げられてしまった少女とその婚約者を除けば、11人も生き残っていたのだ。

 

 ――そして、元凶たる女は、黒幕たる邪神によって、引導を渡されることになったのだった。

 

 「な、なぜ私が!?」

 

 「ボクがいい加減飽きたんだよ。何度同じ失敗するのさ?観測した世界の焼き増しとは言え、このボクが舞台を整えて上げたというのに、動機もやることも寸分違わず全く進歩がないんだからねえ。だから、君はもういらないよ」

 

 須田恭也の目の前で全ての元凶とも言える女が祭壇に捧げられ、断末魔をあげて血の色をした水鏡に溶けていく。

 

 「わ、私は今まで尽くしてきたではありませんか!」

 

 「それは誰に対してだい?あれの神というのはこの世界にいないというのに。アレはボクがこの世界に来た時に紛れ込んだビーモスの一部に過ぎない。あの時は珍しく彼と敵対していたのでね。君がうけた呪いも、食われたことに対する反射的なものに過ぎない。今のあれには意識などないし、供物を受け取っていたのも反射的なものに過ぎないんだよ。つまり、君が1300年以上やってきたことは無意味だったわけだ」

 

 「!?」

 

 自身の生涯が無意味だったことに愕然とした表情で、全ての元凶たる女は赤い水に消えていった。

 

 「ククク、無様だとは思わないかい?妊娠していたから、子供のために得体の知れない生き物を食べて生き延びたっていうのに、実際には自身の不老不死の為に、かつて守ろうとした娘の子孫を生け贄に捧げているんだからねえ」

 

 邪悪そのものが人の形をとったような女は、恭也達の前で全ての元凶たる女を嘲笑っていた。

 

 「お前がやらせたんだろうが!」

 

 「いやいや、誓ってボクは何もしていないよ。ボクがしたことは、この地に墜ちたものを確認しにきただけだよ。それだって、まさか食べられてるとは夢にも思っていなかったからねえ」

 

 「……」

 

 「触らぬ神に祟りなしというだろう?彼女達が余計なことをしなければ、ボクは回収してお終いだったんだよ?彼女と彼女の子孫に対する呪いは、自業自得というものだよ」

 

 嘘ではないだろう。実際、恭也達もここまでの調査で、1300年以上前に空から墜ちてきた異形の者の肉を、飢えに耐えかねて黒幕である女が食ったことが全ての原因だったことをつきとめている。そして、それが村に、血族に呪いをもたらしたことを……。

 

 「儀式はあんたがやらせたんじゃないのかよ!」

 

 「ああ、なるほど。そこを勘違いしているのだね。誓ってもいいが、ボクは何も求めていないとも。彼女が勝手にやり始めたことだよ」

 

 「じゃあ、なんで儀式が失敗したら、こんなことになるの?」

 

 「うん?君はあの愚かな女の直系、今代の生け贄か。まあ、君の問いなら答えてあげよう。君はさあ、相手が勝手にやり始めたこととは言え、折角のご馳走を食べる機会だ。それを突然止められたら、どう思う?」

 

 「えっ、そ、そんな理由で……。ま、待って、もしかして最初から何もしていなかったら?」

 

 今代の生け贄である少女、神代美耶子はあんまりな理由に絶句し、まさかの可能性に思い至って確認する。

 

 「うん、勿論あの子も何もしようとしなかっただろうね。最早原型をとどめていないが、彼は当事者以外に八つ当たりするような子じゃないからねえ。というかだねえ、あの愚かな女が自分を最初から捧げていれば、君達子孫に呪いもなかったんじゃないかな?」

 

 「そ、そんな」

 

 「まあ、ボクにとってはどうでもいいことだ。君が生け贄になるがなるまいが、最早贄は捧げられ、彼の奪われた肉も戻ったのだから。とはいえ、このままだと結局意思はない。そうだ、彼女は本当の不老不死になりたいのだったね?なら、そうして上げよう!」

 

 いいことを思いついたと邪悪そのものである女は、パチンと指を鳴らす。

 すると、祭壇の水鏡から異形の何かが現れる。恭也達はそれをなんと形容すべきか分からなかった。兎に角、途方もなくおぞましく、痛々しい者であるとしか思えなかった。

 

 <オオオオオーーーーー!>

 

 そして、そのおぞましい異形の中心には、悲痛と法悦を同時に浮かべる元凶たる女の顔があった。最早、正気ではないのは誰の目にも明らかだった。

 

 「おやおや、折角念願の本物不老不死になったというのに、正気を失ってしまうとは、どこまでも無様な女だ。クククッ……」

 

 黒幕たる女の嘲笑が、どこまでも耳障りに響くが、恭也達にそれを気にしている余裕はない。なにせ、おぞましい異形は、明らかに彼らを狙っていたからだ。

 

 原作とは異なり、神代家の宝刀である『焔薙』も、使用者の命と引き換えに絶大な力を発揮する『宇理炎』も存在しない。ニャルラトホテプは変数として、あえて作らなかったのだ。なにせ、この世界には強固な退魔組織が存在したからだ。

 だが、ニャルラトホテプの思惑通りにはいかず、ヤタガラスは対抗勢力どころか、戦時中に軍部と協力して、不滅の屍鬼を戦争に使おうとさえしたのだ。無論、上手くいくわけがなく、その計画を察知した当時のライドウにより関係者は皆殺し*3になるも、元凶も含めた神代家の人閒は不死の呪いにより生き延びていたし、何も知らない村人まで殺すことはしなかった為、結局秘儀は存続することになったのだった。

 

 そんなわけで、恭也達には、異形への対抗手段がない。度重なる屍鬼との邂逅と戦闘により、覚醒してこそしているものの、明確に武器と言えるものは屍鬼と化した警官から奪った拳銃と猟師の遺品である猟銃だけだ。異形は曲がりなりにも神の肉体の一部である。所詮、唯の人間が悪魔化したに過ぎない屍鬼とは違い、覚醒者が使ったところで、何の霊的な力も持たない銃では傷一つつけられないのだった。最早、ここまでかと恭也達が覚悟を決めようとした時、異形と恭也達の間を遮るように炎が中空から突き刺さる。そして、炎が晴れた場所には不思議な拳銃があった。

 

 「こ、これは!?」

 

 その炎の魔銃といういうべきものは、当然ながら徹が投げ入れたものだった。以前にデモンベインの魔銃を再現できないかと挑戦した試作品である。コルヴァズの剣と自身が持つ魔剣の製法から、ある依頼で手に入れた曰くつきの呪われた銃を霊媒として、炎精を召喚して宿らせた後、クトゥグアの炎で鍛え直しながら、呪いと炎精が使用者に悪さしないようにしつけをし、最後に魔剣で冷やした。手間暇かけた甲斐あって、デモンベインの魔銃ほどの威力ではないが、使用者のマグネタイトがあれば無限に撃てる炎の魔銃は完成したのである。唯一の欠点は、徹が使うと相乗効果で完全にアウトな威力になるということだ。その為、死蔵されていた逸品だった。

 

 「恭也、その銃ならあれを倒せるよ!私にはわかる」

 

 美耶子の断言するような言葉に、恭也は魔銃に飛びついた。不思議なことに、異形は魔銃に近づけないようだった。

 

 「燃えているように見えたのに、むしろ冷たい?でも、分かる。これならいける!」

 

 恭也の手に吸いつくようグリップを握り、躊躇う様に後ずさる異形へと迷いなく引き金を引く。彼の生体マグネタイトを吸収し生成された魔弾が、寸分たがわずあっさりと異形を貫いた。

 

 <ggurluooooo――――!?>

 

 異形は、まさかダメージを負うとは夢にも思っていなかったのだろう。最早言葉にすらなっていない絶叫、苦悶の悲鳴が上げる。

 ビーモスの神体の一部とはいえ、眷属の肉体を用いた不完全な顕現であり、ビーモスの意思は既になく、それを操るのは元凶たる女でしかない。本来の性能を発揮できるはずもなく、この世界唯一の使徒である徹謹製の炎の魔銃に抗う程の力は持っていなかったのだ。

 

 「やれる!やれるんだ!――!?」

 

 初めて入った明確なダメージに恭也は勢いづくが、自身を突然襲う凄まじい疲労感に驚愕する。

 

 「この銃、俺の何かを吸い取って弾にしているのか!?」

 

 ただの一発でも、霊格にしてLV10でしかない恭也には、負担が大きい。徹がサブウェポンとして作っただけあって、本来の装備適性レベルはLV25なのだから無理もない。

 

 「恭也、私の力も使って!」

 

 その様子に何かを察した美耶子は、恭也を背後から抱きしめる。普段から幻視の異能を用いる上、生まれつきの覚醒者とも言える神代家直系の娘である彼女の生体マグネタイトの生成量は、同じ霊格でもつい先日までド素人でしかなかった恭也とは雲泥の差がある。たちまち、恭也の肉体にマグネタイトが充足され、魔銃に再び弾が装填される。その数、15発。魔銃に1回で込められる最大装填数であった。

 

 「美耶子サンキューな!後は任せろ!」

 

 恭也は、確かな重みを持った銃に頼もしさを感じ、全身が脱力した美耶子の頭を撫でて寝かせる。異形にとって、美耶子は何か意味があるようで、美耶子が近くにいる時はなぜか襲ってこない。盾のようにするのが正解なのだろうが、恭也はそれを選ばなかった。そんなことをするような男なら、そもそも彼はここにはいないのだから。

 

 <mmmmiiyyaaakkoooo――!>

 

 美耶子を背後に庇うようにして、異形と対峙する。異形はハッキリと美耶子を認識しているようで、恭也が美耶子と離れた瞬間に攻撃を仕掛けてくる。

 それをどうにかこうにか、泥まみれにながら恭也は避け、隙を見つけては撃つが、どれも決定打にはほど遠かった。いや、魔弾そのもののダメージはけして小さくないのだが、異形の質量の大きさとありえない回復能力のせいで、連続で叩き込まない限り、痛手にはならないのが現実だった。

 

 (今ので11発目。ドンドン軽くなってる。確か、15発装填できる銃だったかな?だとしたら、後4発しかない。それにしても、こいつ余程この銃が嫌なんだな。攻撃するにしても、俺だけを狙ってきている)

 

 まあ、ニャルラトホテプの力で動いているようなものである異形は、その天敵たるクトゥグアの炎が宿った魔銃を嫌厭するのは無理からぬことだろう。素人に毛が生えた程度の恭也が、曲がりなりにも異形とやり合えているのも、魔銃に触らないように攻撃するという異形の習性が大きかった。

 

 (間違いなく効いてはいるし、残弾全部当てて、もう1回全弾ぶち込めれば殺せるとは思う。でも、残り4発じゃ無理だ。何か、何か弱点はないか?)

 

 ここまで異界で生き残ってきた生存本能と屍鬼達との戦闘経験が、恭也に現状をなんなく理解させるが、そこから導き出される答は非情なものだった。恭也自身が装填するという手もあるが、先程の疲労感からして出来ても2、3発。最大限無理して4発だろう。しかも、4発生成した時点で、恭也は指一本動かせなくなるだろう。つまり、銃も撃つことが出来なくなるので意味がない。

 故に、恭也が勝つためには、今ある残弾で致命傷を与えねばならなかった。

 

 (澄子を、八尾の顔を狙いなさい)

 

 美耶子によく似た誰かの声が、恭也の頭に響く。恭也は、迷うことなくその指示に従った。異形の胸元にある元凶たる女『八尾比沙子』を狙い撃つ。そこで初めて、異形が防御行動をとったのだ。まるで八尾の顔を守るかの如く、護りを固めるように完全に動きを止めた。

 

 「八尾比沙子――!」

 

 全ての元凶である女を撃つことに、恭也は何の躊躇いもなかった。彼はすかさず駆け出し、異形の腕をかいくぐると至近距離から、八尾の顔めがけて魔弾を撃ち尽くした。

 

 一発目は、それでもかすった程度だったが、それまでとは比べものにならないダメージを受けたようで、異形が大きくのけぞる。

 二発目は、大きくのけぞった隙にさらに近づき放ち、頬の辺りを貫いた。その効果はさらに絶大で、弾道上にある異形の肉体が弾け飛ぶ。

 三発目は、防御どころではなくなった異形が放った毒液のようなものを吹き飛ばし、八尾の顔下半分を引きちぎった。

 四発目は、完全に無防備になった八尾の額に銃口を押し当て、連続で引き金を引いた。額に見事な孔が穿たれ、目は完全に意思の光を失った。異形は力なく倒れ伏し、たちまち燃えて消滅していく。

 

 「どうだー、やってやったぞー!」

 

 土壇場での弾丸生成による疲労感に倒れ伏しながらも、大声で叫ぶ。

 

 「ええ、本当にお見事です。ドルミナー」

 

 初めて聞く女の声に、慌ててそちらを見やる恭也だったが、急激襲ってきた眠気に疲労困憊の肉体は抗うことが出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 異形に元凶の意思を宿らせた直後に、話は巻き戻る。

 

 「ああ、折角本物不老不死にしてあげたのに、流石にその醜い姿は嫌かい。まあ、だからといって、生け贄になるはずだった少女を身代わりにしようとするなんて、どこまでも性根が腐っているんだねえ」

 

 一心不乱に自身の血族を狙い、恭也達に迫る異形の姿に、ニャルラトホテプは心底呆れたようにように呟く。なんと滑稽で愚かしい生き物だろうと、この世に本来あらざる邪神は人閒を嘲笑する。

 しかし、次の瞬間、中空から飛来した魔剣に、脳天から真っ二つにされることになる。

 

 「不意討ちで、いきなりこれは酷いんじゃないかな?」

 

 魔剣によって、文字通り両断されているにも関わらず、何でもないことのいうニャルラトホテプ。その人閒のような肉体は擬態だったようで、真っ二つにされた断面にあるのは血肉ではなく、黒い泥のような粘液だった。

 

 「ジョゴスで肉体を形成させているのか?貴様、自らを食わせたのか?」

 

 それを訝しげに問うように、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』がニャルラトホテプの前に現れる。

 

 「おやおや、参ったね。なんだか予定外の乱入者がいると思っていたら、その魔剣にあの炎、彼の使徒か。本当に驚いたよ」

 

 邪神は、はっきりと天敵の気配を目の前の黒騎士から感じていた。

 

 「悪いが貴様と喋る舌を持たん。死ね!」

 

 全身に炎を纏い、邪神を焼き滅ぼさんと黒騎士が迫るが、ニャルラトホテプは人としての形を完全に失って液状化し、飛散するように避けてみせた。

 

 「やれやれ、容赦がないなあ。流石にその炎で焼かれたら死んでしまうのでね。こちらも反撃させて貰うよ!」

 

 よくあるファンタジー小説におけるスライムの如くになったニャルラトホテプは、首から上だけを形成し、そんなことを宣言すると剣山の如く変化した。

 周囲を埋め尽くす漆黒の針は容易に人間を刺し貫く硬度を誇っていたが、それは黒騎士を刺し貫く前に身に纏う煉獄の炎で焼き払われる。

 

 「その化身の霊格で勝てると思うなよ!」

 

 今、黒騎士の目の前にいる邪神の霊格はLV40程、正面から戦っても勝てると徹は踏んでいた。

 みこや後輩達を連れてきていたなら、守勢に回らざるを得なかっただろうが、予め想定済みである。わざわざ単独かつ黒騎士で来たのは、全力で容赦なく殺すためなのだから。

 

 「なるほどなるほど、確かに分が悪いし単独で来たのはそういうことか!じゃあ、全力で逃げるしかないね―――!?」

 

 そう言って、その身を周囲に飛散させて逃げようとしたニャルラトホテプだったが、瞬間無数に分裂したはずの己全てが凍結して動けなくなったことに驚愕する。

 

 「何のために魔剣を回収しなかったと思っている?お前を絶対に逃がさないためだ」

 

 横槍も自分以外への被害も、徹は絶対に許すつもりはなかった。別存在とは言え、同名の存在がいかに厄介でアレな存在なのかは骨身に染みて理解していたからだ。

 故に、切り札である魔剣をあえて見せ札にし、回収することなく、周囲の空間ごとを凍結させていたのだ。

 

 (しかし、こうも上手くいくとは……。やっぱり、クトゥグアの天敵であるニャル相手のせいかね?魔剣も俺も絶好調だからなあ)

 

 とはいえ、平時ならこうも見事に悟らせることなく素早くは無理だっただろう。彼らにとってもっとも優先すべき事柄だからこその神業だった。 

 

 「なんとまあ、ボクとしたことがこれはしてやられたね。大したものだ……。認めよう、此度は君の勝ちだ。だが、次はこうはいかないよ?」

 

 感嘆するようにニャルラトホテプは言う。全く悔しそうに見えないのが、この邪神の厄介なところである。敗北すら愉しむ神なのだ。

 

 「俺はお前と二度と会いたくないが、結局会うことになるんだろうなあ」

 

 諦観とともに徹はそう言うと、カイザーフェニックスを放ち、ニャルラトホテプの化身を完全に消滅させたことを確認する。けして殺し損ねていることがないように。

 ダメ押しの念入りな探査の後、徹は空間ごと凍結させた結界を解除し、黒騎士の姿から普段の姿に戻る。

 

 「先輩、終わったんだな?お疲れ」

 

 「徹先輩、お疲れ様でした」

 

 「ああ、ありがとう。二人もお疲れさん。よく手を出さずに見に徹してしてくれたな」

 

 美雪と愛は、最後の砦として、徹が預けた魔封環を用いて、魔剣を用いた結界のさらに外側に結界を張る役目を請け負って貰っていたのだ。どんなことでも、見ているだけというのは歯痒いものだ。両者には、優れた才と力があるだけに尚更。

 

 「悔しいけど、今の私達じゃ足手まといになるだけだからね。それに先輩の言うとおり、アイツ性格が悪そうだった」

 

 「美雪ちゃんの言うとおりです。先輩の言うとおり、バックアップに専念して正解でした。あの邪神は、私達を利用することを躊躇わなかったでしょうから」

 

 美雪も愛も悔しげではあったが、現段階では無謀な挑戦でしかないことを彼女達はよく理解していた。

 実際、後輩二人を連れて戦っていたら、二人を守るのに少なからずリソースを割かなければならなかっただろうし、高確率で邪神に逃げられていたであろうことは間違いないのだから。

 

 「いやいや、二人とも大活躍だったよ。この異界で、彼らに分からないように陰ながらの援護は大変だったろう?」

 

 そう、みこも含めた彼女達三人には恭也達生存者の陰ながらの援護を頼んでいたのだ。徹は、邪神に存在を悟られないように、自身はずっと潜伏していたのだ。そのお陰で不意討ちが成功したと言っても過言ではない。そういう意味では、美雪や愛も立派な功労者だ。

 

 「ああ、悟らせないようにって、難しいよな。あの女の人にはバレてたっぽいし」

 

 「美雪ちゃん、しょうがないよ。あの人、私とは違うけど見る異能をもってたみたいだから」

 

 美雪としては、美耶子に悟られたのは痛恨だったようだ。愛は同種の力を持っていることを悟っていたようで、仕方の無いことだと割り切っているようだ。

 

 「念のために確認するが、この世界の物を飲食はしていないな?」

 

 「大丈夫だよ、念押しされてたし」

 

 「私も大丈夫です。保護した先生と生徒の方とご家族にも徹底しました」

 

 原作とは異なり、ここでは赤い水はない。しかし、その分この世界の物を飲食することで、異界に囚われる仕組みになっている。逃げるのに必死で飲食する余裕がなかったらしい五人は、幸い早期に保護できたので、愛や美雪によって、黄泉戸喫を防ぐことが出来たようだ。

 

 「よし、改めて屍鬼の殲滅及び生存者の保護支援、陽動役にバックアップ、ご苦労だった。すぐに五人を連れて異界から脱出するように」

 

 「了解」「了解しました」

 

 「うん、いい返事だ。俺もやるべきことをやったら、すぐに後を追うから」

 

 ニャルラトホテプが消えたとは言え、その影響力が多大にあるこの異界をそのままにはしておけないし、他の生存者達のケアもしなければならないのだから。

 

 「先輩助けてやってくれよ。あの人達凄かったよ」

 

 「徹先輩、彼らをお願いします。本当に頑張ってましたから」 

 

 恭也を筆頭に他の生存者達の頑張りは、1ヶ月の修行を経て異能者としてそれなりになっている二人からしても、大したものだと思えたようだ。

 

 「ああ、任せろ。必ず助ける」

 

 徹としても、彼らを助けるのに異論はない。いや、原作を知っている身であるから、尚更助けねばならないという念は強いのだから。徹は力強く応えたのだった。

 

 

*1
対人間限定で、HPコストを無視して単体攻撃スキルを全体攻撃として使用できる。同時に文字通り三十三人を殺すまでは逃亡を不可能にし、食いしばりとして作用する。但し、1ターンにつき3回までしか発動しない

*2
HP2%を消費して、敵全体のうち1体に銃撃ダメージを与える

*3
この時の光景がこの世界における三十三人殺しの噂の元になった




SDK関連ネタバレ(『SIREN』のネタバレ考察が入るので、知りたくなかったらスルー推奨)
 原作では高校生のSDKは、オカルト掲示板で得た情報を元に大量虐殺の伝説がある村に、夏休みを利用して自転車で向かうが、そこで何かを壊しているヒロインと出会うも、見られてはいけないことだったらしく逃げられてしまいます。その後、逃げたヒロインを探していたSDKは、やっとのことで彼女を見つけるのですが、同時に村の秘密の祭儀をのぞき見てしまい、追われることになります。
 この秘儀は、飢えに耐えかねて堕辰子を食べたことで不死の呪いを受けた元凶(一緒に食べた人間は他にもいたが、元凶以外は死亡しています。元凶が助かったのは妊婦だった為)の直系の子孫である神代家直系の娘(必ず双子の娘が生まれる)の妹の方を生け贄に捧げることで食べた血肉を返し、堕辰子を食したことについて、元凶が許して貰おうとして行っているものです。とはいえ、元凶は長きに渡る精神の摩耗により、最早儀式そのものをすることが目的となりつつあり、本末転倒なことになっています。
 因みに本来の儀式の目的は、神代家の人間の不完全な不死の呪いを抹消することです。これは不完全な不死のせいで肉体が死滅しても精神だけの状態で生き永らえ、最後には自我すら消えてしまうという末路をどうにかするのが本来の目的だったというのが神代家の真実です。
 実際には元凶が贖罪を果たすと同時に、自分だけは真の不老不死をえる為だけに行っていますので、救いはないです。

 原作では本来の妹の方が生け贄として捧げられたことで儀式が完遂され、不完全な形で復活するも、元凶が完全にする為自身を捧げ完全な形で復活させる。結局精神だけの存在となったヒロインの助力を得たSDKにより滅ぼされるが、ヒロインの血をその身に宿すSDKは異界より脱出できないため異界ジェノサイダーとして生きることになる。また、その最初として、屍人化した村人達を皆殺しにした。その光景が、現世で村人三十三人殺しと認識されることになりました。


 こちらの世界では堕辰子に当たる存在は、ビーモスが眷属の肉体に宿ったものに過ぎず、それも不完全な顕現だった上に、この世界にくる前に、ニャルラトホテプに8割方殺されていた為、意思と呼べるものはなく、反射的な反応を示すだけのものになっています。なので、原作では一応意味があったのかもしれないが、この世界では儀式は完全に無意味な行為となってしまっているのです。
 原作同様に、元凶は度々自身のことを忘れて、別人格で暴走しやらかすという代わり映えのないパターンを繰り返した為、ニャルラトホテプに飽きられてしまい、原作とは異なる形ではあるが、原作同様に自分が最後の生け贄として捧げられることになりました。
 この世界での神代家の呪いは原作と異なり、精神だけで生きるということはありませんが、肉体が完全に滅びない限り死ねないという呪いになっています。老衰や病気ではなく肉体を焼き尽くすことでしか死ねない為、よりエグくなったと言えるかもしれません。ちなみに完全に焼き尽くされるまでは意識もあるので、焼かれる苦しみを最後まで味わうことになります。
 また、原作では堕辰子の血である赤い水を体内に一定量取り込むことで、屍人という不死の化物になりますが、こちらの世界では、異界に巻き込まれた者は黄泉戸喫により、徐々に屍鬼と化します。そして、この異界内に限り、屍鬼は不滅です。この異界はビーモスの神体を隔離保存する為にニャルラトホテプが作ったものなので、その影響下にある屍鬼達は天敵であるクトゥグアの炎に弱いです。

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