ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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『SIREN』の後始末。流石にあれで終わりは、投げっぱなしになってしまうので。


報告と忠告

 「お前さんは頭の痛くなる報告しかできない病気にかかっているのか?」

 

 護国組織クズノハ、その重鎮の一人でもある亀山は、知己の少年のもたらしたトンデモナイ報告に頭を悩ませていた。

 

 「心外ですね。別にそんなつもりはありませんよ」

 

 少年こと卯月徹は、不本意そうな顔で応じた。

 徹とて、予期していたわけではなかったし、それどころか予想外のニャル案件だったので、慌てて対応する羽目になったというのが真相なのだから。

 

 「しかしな、これは頭の痛い報告だぞ」

 

 なにせ、先代ライドウが潰したはずのものが生き残っていたのいうのだから、これはクズノハの失態とも言えるのだ。

 

 「いえ、これはクズノハの落ち度ではありませんよ。これの元凶は特殊な不死者でしたから。ライドウが完膚なきまでに殺した後に復活したんだと思いますよ」

 

 「だが、お前さんは殺したのだろう?」

 

 「それは条件が整っていたからです。元凶は天敵たる邪神によって生かされていましたから、俺の炎は特攻だったんですよ。それに大きな声じゃ言えないですけど、ヤタガラスや軍部の妨害もあったんでしょ?」

 

 いかにライドウといえど、特定条件を満たさなければ殺せないギミック持ちの不死者を滅ぼすことは不可能だろう。大体、力の根源であるニャルラトホテプは、姿を見せなかったであろうから無理もない。それに戦時中の当時は政府と協力関係にあったヤタガラスの力は強かった。それを独断独力で潰したのだから、むしろライドウを褒めるべきである。ヤタガラスや軍部の妨害も当然にあったであろうから。

 

 「なるほどなあ。例の謎の神の天敵という神か。そして、秘儀事態には関わっておらず、表には基本出てこないと来たか。確かにそれではさしものライドウも孤立無援では見逃すか。まさか、村民全員皆殺しにするわけにもいかんのだからな。

 ……伝聞でしか知らなんだが、本当に当時のヤタガラスは間違えてしまったのだな」

 

 そう言って、亀山は苦々しげに手元の資料を見つめる。超力兵団のサブプランとして考えられていたのが、あの特殊な屍鬼を用いた不死の軍隊構想だった。件の異界攻略の功労者である須田恭也の協力者である竹内多聞と吉村克明によって、もたらされた異界に堕ちた村の病院の秘密倉庫に眠っていた旧日本軍の計画書だった。そこには、ヤタガラスの協力の下、不死の屍鬼をどうにか現世へと持ち出して戦場で使おうという狂った構想が書かれていたのだから、無理もない。

 

 「これだけ見ると、ヤタガラスがメシア教に散々やられたのも宜なるかなって感じですよね」

 

 徹も呆れたように言う。そら、こんなこと考えてたら潰されると彼も大いに思ったのだろう。

 

 「うむ、否定できないのが悲しいことだな。かつては轡を並べて戦った戦友だというのにな」

 

 かつて、クズノハに対する命令権すら持っていたヤタガラスの凋落ぶりは、正直目も当てられないレベルだ。辛うじて政府と繋がることで生きながらえているようだが、最早命令権どころか、共に戦うのさえ困難な戦力しか持っていないのがヤタガラスの現状なのだから。

 

 「生存者の面倒は、本当に頼んでいいいんですか?」

 

 「ああ、ある意味ライドウのやり残したことではあるからな。クズノハとしても、動かないわけにはいくまい?それにここでヤタガラスにとどめを刺すのは避けたいのでな」

 

 ただでさえメシア教によって弱体化されているのに、ここでかつての不祥事が明るみに出れば、潰されても文句は言えない。今は道を違えたとはいえ、ヤタガラスはクズノハにとってかつての盟友であるし、政府系からヤタガラスが締め出されれば、メシア教とガイア教に政府系が牛耳られてしまう。流石にそれを座視はできない。

 

 「助かります。まだ、安定したとは言い難いので」

 

 須田恭也を筆頭に生存者達は、クズノハが面倒を見ることになっていた。これはクズノハ側からの申し出であった。徹達の方で引き受ける考えもなかったわけではないが、現時点では自分達のことだけで精一杯で、他人の面倒をみられる程の余裕はないという結論になったのだ。

 

 「オリュンポスの神々はあくが強いと聞くからなあ……。しかし、ペルセポネーを表向きは豊受姫命として祀るとは考えたものだな」

 

 そう、表向きは豊受姫命の神社としているのだ。これはよくある同一視の手法だ。ポジション的にも食の神で、穀物の神様である稚産霊の娘である豊受姫命は、豊穣の神であるデーメーテールの娘であるペルセポネーと重なる部分があるのだ。まあ、捧げられる信仰という名の生体マグネタイトの大部分はペルセポネー(&デーメーテール)に流れるが、豊受姫命の本体にも一割から二割ほど流れるのだ。なので、悪神などに貶められでもしない限り、神々は同一視することに文句を言うことはない。むしろ、それを足がかりに自分の信仰を広めようとすらする。

 

 「メシア教のせいで日本神は駄目にされていましたからね。どうしても、ワンクッション置く必要がありましたから。それに使用用途がアレだったので、黄泉の穢れも気にしないといけなかったわけですから」

 

 因みに、デーメーテールのことは隠し札として、クズノハにも教えていない。これは徹にとってもイレギュラーな事態であるということもあるし、これ以上危険視される要因を増やしたくなかったからでもある。

 幸いデーメーテールは豊穣神であり、豊受姫命と同一視できないわけではない。それを利用して親子二柱をまとめて一柱として扱い、同一視させることにしたのだ。豊受姫命こと豊受大御神の別名は天御中主神とするものもあるので、二柱を纏めることで天照大神を超える大神とも定義できるので、そういう意味でも都合が良かったのだ。

 

 「全くメシア教はろくなことをせん」

 

 「まあ、俺達のことで溜飲は少し下がったんじゃないですか?」

 

 「ないとは言えんな」

 

 『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』から、奪われた霊地を譲られた形になっているクズノハが何気にあの依頼では最も利益を得たと見られている。メシア教も折角奪った霊地を取り戻されて、侵略の橋頭堡となる拠点まで失ったのだから、表向きはどうあれ内心では臍を噛んでいることは間違いない。

 

 「じゃあ、今日はこれで失礼します」

 

 「彼らに会っていかんのか?直接感謝したいと言っていたぞ」

 

 「あの異界を制したのは、本来彼らのお手柄ですから。俺はそれを利用して天敵ぶっ殺しただけです。その過程で偶々彼らは助かったにすぎません。なので、感謝されるのは心苦しいですね」

 

 「よく言う。後方支援に陰ながらの援護、近づく屍鬼の殲滅など大車輪の活躍だったと聞いたぞ」

 

 「主に頑張ってくれたのは、みこと弟子二人ですよ。なので、感謝は彼女らに」

 

 「ハア、お前さんも素直じゃないな。まあ、いい。それよりあの魔銃は、本当にくれてやってもいいのか?相当の逸品だと見たが」

 

 亀山のいうことは間違いではない。生存者、特に黄泉戸喫をしてしまった六人を助けたのは徹だといっても過言ではない。魔法で眠らせた六人をクトゥグアの炎で浄化したのは、ほかでもない徹なのだから。とはいえ、当の徹にそれを誇る気はない。

 生存者の一人である須田恭也が持っていた魔銃が徹によってもたらされた物であることは、亀山も知っている。正直、亀山でも喉から手が出るほど欲しい代物だったが、それをあっさりくれてやるというのだから驚愕だった。

 

 「彼が今後も悪魔業界に関わるなら、御守り代わりにはちょうどいいでしょう。それにあれも彼を気に入ったようなので」

 

 言外に、奪ったりしても彼以外使えないと匂わせておくことも、徹は忘れなかった。あの魔銃が普通の異能者にとって、垂涎の武器であることは理解していたからだ。

 

 「なるほどな。分かった、うちの者にも下手なことを考えぬように釘は刺しておく」

 

 クズノハの構成員にも、跳ねっ返りがいないわけではない。中には自分の方が上手く使えると考えて、奪おうとする者もいないとも限らない。

 これが厄介なのが、善意である可能性が高いからだ。クズノハの者なら、悪魔と関わること自体が罰ゲームなのは、誰もが理解していることである。なので、覚醒者とはいえ元一般人が、悪魔と関わることをよしとしない者は少なくない。

 結果、妖刀などが原因な場合は、それを取り上げて悪魔業界と切り離すことを試みる者も一定数いるのが現実だった。 

 

 「よろしくお願いします」

 

 ままならぬ現実に頭を痛める亀山に、厄介ごとを押しつけたとも言えなくもない徹は深々と頭を下げて、その場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「だー、クソ負けたー!」

 

 異界に設けられた修練場のど真ん中で、大の字に倒れ伏しながら美雪は悔しげに叫んだ。

 

 「うふふ、美雪ちゃんも大分良くなってきてますよ。でも、まだ負けてはあげられませんけど」

 

 そう言って、静かに佇むみこは、残心を忘れず警戒を解いていない。肉体系異能者のしぶとさを嫌というほど理解しているだけに、油断はしない。

 

 「凄いですね、みこ先輩。みこ先輩は私みたいなタイプだと思ってたんですけど……」

 

 愛は、予想外の光景に驚愕を隠せない。覚醒してすぐの最初の訓練以外では、専ら愛の訓練はみこが、美雪の訓練は徹が見ていただけに、彼女は誤解していたのだ。みこが自分と同じタイプだと。

 

 「徹を見ていれば分かると思いますが、異能も肉体も強い万能型異能者は極僅かですが存在します。私も徹ほど逸脱はしていませんが、異能よりではありますが一応万能型です。とはいえ、美雪ちゃんも肉体型としては上澄みですから、同じ霊格なら流石に負けます。でも、10以上の霊格差があっては負けませんよ」

 

 「万能型……反則だろ」

 

 「お二人とも凄いんですね」

 

 徹とみこから、散々才能あると褒めて伸ばしてこられた美雪と愛だったが、師である二人はもっとぶっ飛んでいようとは夢にも思っていなかった。いや、自分達が足下にも及ばない実力者なのは理解していたが、流石に得意分野では一矢報いることくらいできるのではないかと思っていたのだ。

 今回の美雪の挑戦も、そんなことから始まったものだったが、結果は惨敗だった。文字通り手も足も出なかった。なにせ、有効打を当てることすら叶わなかったのだから。

 

 「それでも、何回かはヒヤッとしましたから、大したものです。安心してください、美雪ちゃんは確実に強くなっていますよ」

 

 「……お見通しかあ」

 

 美雪が挑んだのは勝てるかもと思ったからではない。自分が本当に強くなったのか、その確信を得たかったからだ。

 

 「あの邪神は相当な格の持ち主でしたから、無理もないですけど」

 

 それというのも、一ヶ月前の事件でコズミックホラーの邪神であるニャルラトホテプと遭遇したことで、本物の神威に気圧されたというのが大きかった。その圧倒的な力と存在強度に、美雪は何も出来ずに怯えることしか、守られることしかできなかったかつての自分を思い出したのだ。故に、不安になったのだ。何も変わっていないのではないかと。

 

 「徹先輩が絶対に手を出すなといった意味がよく分かりましたから、あれが神様なんですね」

 

 件の邪神には、愛も少なからず思うところがあったのだろう。複雑な感情を隠そうともしない。

 

 「こう言っては何ですが、あれでも弱い方です。化身であって、神そのものではないですから。この世界、本当に上を見えればキリがないんですよ」

 

 「あれで弱いのかよ……」

 「信じたくない事実ですね」

 

 美雪と愛は、みこが語る悪魔業界の深淵を垣間見たように感じ、戦慄した。

 

 「そも、私達が使役する悪魔だって、日本神道の考えからすれば神様と言えます。八百万の神と言うでしょう?」

 

 メガテンにおいては、天使も神仏も妖怪や悪鬼の類も全部まとめて悪魔であるのだから。

 

 「ああ、妖怪である付喪神だって、神の一種なんだっけ?」

 

 「樹齢千年以上の御神木に精霊が宿ったり、そもそも御神木自体が精霊化するとか聞きますね」

 

 「そうですね、美雪ちゃんが言っているのは分かりやすいところだと雲外鏡や骨傘が、愛ちゃんの方はドライアードやイグドラシルなどが該当します。

 ですが、これらはあくまでも精霊種です。本当の意味での神とは言えません。真性の神とは、神話に語られる者です。メジャーマイナーに関わらず、神話に登場する神々こそが本当の神と言えるでしょう。大体、霊格にしてLV40以上の強さを持っています」

 

 「日本神話だと、スサノオとかアマテラスとか?」

 

 「そうですね、三貴子ともなれば、霊格はLV70くらいでしょうか?天照大御神は主神ですので、下手をすれば80台や90台であってもおかしくはありませんが」

 

 「LV70でも途方もないのにLV80やLV90?もう、想像もつかない世界ですね」

 

 急ピッチで育成されているとはいえ、ようやくLV20に達した愛と美雪には完全に雲の上の話だった。

 

 「神々の厄介な点は、強さだけではありません。その英知も恐るべきものです。あの二柱の女神も、徹に従うだけの価値がないと見ていたら、即座に反旗を翻していたでしょう。それくらい神というのは難物なのです。よく言うでしょう?『触らぬ神に祟りなし』と。あれは本当に正しいのですよ」

 

 「げー、あんなに美人さんなのに先輩が微妙な顔していたのはそういうことかよ」

 

 美雪は、二柱の女神を見て、徹にハーレムでも作るつもりですかと茶化したのだが、物凄く嫌な顔をして全力で否定されたことがある。その謎が解けた瞬間だった。

 

 「徹先輩、本気で嫌そうでしたからね。それにオリュンポスの神々って、性的にはかなり奔放なイメージがありますから」

 

 愛もその場にいただけに、その時の徹の心底いやそうな顔はよく覚えている。そういうことかと苦笑する。

 

 「主神であるゼウスをはじめ、ポセイドンにアポロン、アプロディーテーと多情な方が多いですからね。ここにおられる二柱はマシな方ですが、ペルセポネー様は愛人もおられた方ですから。二人とも気を付けてくださいね」

 

 「えっ、私達もですか?」

 

 「いやいや、ないだろ?」

 

 同性だからと言って、気を許し過ぎてはいけないと釘をさすみこに、愛と美雪は流石にないだろうと半信半疑だった。

 

 「悪魔からすれば性別なんて些細なものです。なんだったら、動物に変身して交わるなんてゼウスの得意技ですし、性別を容易に変えることができる者だっています。最悪、術で生やすなんてことも……」

 

 「「!?」」

 

 みこは、後輩二人に不幸になってほしくないので、これ以上なく真剣に赤裸々と語る。愛と美雪も、語られる内にドン引きしていき、最後は言葉もない。

 

 「分かりましたか?悪魔とは本当に怖いものなんです。本来、関わるべきものではありません。そして、神はその最たるものです。よくよく肝に銘じておいてください」

 

 「「……はい」」

 

 悪魔業界の先輩であり師匠でもあるみこの、これでもかという念押しと真剣な口調に、美雪と愛はそう返事をするほかなかった。




悪魔は怖いよという話。二人ともそっち方面の被害にはあっていないせいか、ちょっと認識が甘いので、徹とみこは心配している。
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