『翔門会』、そう呼ばれるガイア系の組織が怪しい動きをしているというのを徹が耳に挟んだのは、完全に偶然だ。DBとしての仕事帰りに近場まで来ていた時、P5のルブランって実在してるのかなと行ってみたことに端を発する。
実際にルブランが存在したことに驚きつつも、折角だから看板メニューのカレーを食べていこうと思い立って、店内に入ったのだ。そこで明らかに警察関係者みたいな人間が小声で話し込んでいるのを、異能者の超感覚で聞き取ってしまったのだ。昼時でちょうどランチタイムで店内は騒がしく、客も多かったので、まず他者に聞かれないと思って気が緩んでいたのだろう。実際、普通なら絶対に不可能と言えるので、話し込んでいた二人に罪はないだろう。
(『翔門会』、よりにもよって、デビルサバイバーかよ!)
そうは言うものの、実のところ、一番可能性のある世界だと徹が思っていたのはデビルサバイバーだったりする。なにせ、今普及しているデッドコピーの悪魔召喚プログラムは、デビルサバイバーで出てくるCOMPとほぼ同性能のものだからだ。あれで某携帯ゲーム機だったら文句なしだったとは徹の言である。
デッドコピーの悪魔召喚プログラムが東京だけでしか使えないというのも大きい。諸外国が知ったら、東京封鎖はおおいにありえることだと言わざるを得ないからだ。
(『翔門会』が表の警察の話題に出るほどに大きく動いているか。となると、狙いは四天王による結界だろうな。だが、クズノハによる四神結界、さらに天海による五色不動を用いた五行結界も健在だ。四天王の一角を落としたところで、影響は……。
いや、待てよ。この世界にはデビサバにはなかったメシア教がある。これ幸いとして、神の試練を勝手に始め、東京封鎖をしても驚かんな)
むしろ、メシア教なら喜んでやりそうだと思ってしまい、徹は心底げんなりする。メシア教のクソさ具合は原作をしゃぶりつくした彼は理解してるつもりだったが、実際現実となるとそれのクソさ具合は天元突破していたのだから無理もないだろう。
(となると、四天王の失陥は絶対に許されないとみるべきだろうな。出来れば、公とは話を通しておきたいが、俺ごときが目通り願うかね?)
関東を守護するといわれる平将門は、メガテンにおいては東京の守護神であり、四天王結界も彼によるものだ。悪魔召喚プログラムは動作しても、悪魔が自然発生することがないのは、公の恩恵によるものなのだ。
故に、四天王結界をなす四天王の一角を墜とそうというのは、公に弓引くことに等しい。『翔門会』が神として仰ぐのは別の存在だから気にしないのかもしれないが、日本在住の生粋の日本人である俺からすれば大問題である。間違っても、とばっちりは食らいたくない。
日本三大怨霊の名は伊達や酔狂でついたものではない。その祟りや逸話は枚挙がなく、21世紀になっても衰えることを知らないのだから。
(首塚に行っても、はい、そうですかと会ってもらえるとは思えないしなあ)
特別な宿命を持ったメガテン主人公達であっても、公と会うのは難行だったのを考えれば、何の宿命も持たない異邦人である徹は言うまでもないだろう。
(クズノハに話を持っていても、信じてもらえるかは怪しいからなあ。それに公との接触なんて絶対拒否されるわ。そもそも何で知っているかという話だしな)
公の守護と四天王結界は、悪魔業界でも最大クラスの機密事項だ。表向きは根願寺が要ということになっているが、実際には違うのは公然の秘密だ。これはクズノハの巧みなところで、そういうことになってはいるが、実際はそうではないかと思えるだけの戦力を張り付けているのだ。なので、真実は闇の中というわけだ。
(だが、『翔門会』は真実を突き止めたというわけか。また、ヤタガラスの連中がおもらしでもしたのかね)
徹の中で、ヤタガラスの評価は最低クラスだ。元々、ライドウシリーズで政府や軍部とズブズブで印象が悪かったのもある。流石にメシア教程は酷くはないが、今となってはガイア教とどっこいどっこいである。先の須田恭也達の件があってから、それは決定的なものになった。
(人対人で、悪魔を引っ張り出しちゃいかんでしょ。超力兵団でもあれなのに、その上でサブプランで屍鬼使った不死の軍隊とか、完全に頭狂ってるわ)
改めてヤタガラスと当時の軍部の迷走ぶりに頭が痛くなる。いくら追い詰められているからと言って、ものには限度というものがある。悪魔を使うのは完全にその一線を越えてしまっている。先代ライドウが独断であっても動き潰したのもそれ故だろうから。
(まあ、それはそれとして、やっぱり、謁見を願い出るしかないな。ハア、今日は気楽な東京見物の予定だったんだがなあ。みこには謝らないとな)
この後合流して、デートの予定だったみこのことを思うと気が重くなるが、下手をすれば世界崩壊案件だけにそうもいってはいられない。つくづく地獄のような世界だと思う徹であった。
ルブランでの食事から1時間後、俺は見事にみことのデートをキャンセルするのに失敗していた。
「それでみこも来ちゃうんだから、計算違いにもほどがあるよな」
「私は徹と一緒なら、地獄でもお供しますよ」
涼しげにそう言ってみこは笑う。軽く言ってるようで、その実覚悟が決まったものであることは否が応でも分かってしまう。
「相手は日本三大怨霊にして、東京の守護神平将門公だぞ、後悔するなよ」
「貴方とともにあれるなら、どうあっても後悔はしませんよ。それにこれでも私だって強くなったんですよ」
そう言うみこの言葉が偽りでないことは理解している。クズノハとの繋がりによって、修験界の使用が許可されたことにより、潜れる異界の格が上がった。今や彼女の霊格は、LV40にも迫るLV38だ。みこの才能が凄まじいことは知っていたが、俺の予想以上のもののようだ。才能限界など、全く見えてこないのだから。
「しかし、完全武装だな。貯めこんだ魔封環に護符まで、そちらの弓は卯月神社秘蔵の神弓だろう?」
「公との謁見など、どれ程の難事か、想像もつきません。出し惜しみはできませんから」
祭儀の際に神楽舞を披露する時にしかつけない装飾品もつけているところをみると、掛け値なしの全力全開だろう。みこに用意できる装備で、現状これ以上はないという装備だと言っていい代物だ。
「親父さんがよく許したな?」
「……。父様には内緒ですよ」
「へっ?それってつまり……!」
「内緒ですよ」
「……」
親父さんが知ったら卒倒間違いなしの事態だが、みこの有無を言わせぬ微笑みに、俺は何も言えなかった。
(いや、みこにこうまでさせたのは俺だ。窘めるんじゃなくてやるべきは!)
「ありがとう、みこ」
「ふふふ、どういたしまして」
その満面の笑みを見つめながら、俺は改めて必ず生きて戻ることを決意するのだった。
今、徹とみこの目の前には、将門塚がある。意外なことに人は多い。
しかし、異能者である二人には感じられる。とてつもなく強大な存在の威が、神にもなんら劣らぬ霊的圧力が。間違いなく御霊平将門は、ここにある。
「……なんという圧力、これが元人間の発せる威なのか」
「……神々の荒御霊とも思える力に、それに反する如き静謐で厳然たる威。これが平将門公」
異能者であれば、ここに不用意には絶対に近づかないだろう確信がある。それでいて、どこの組織も監視を置かないのは、下手なことをすれば命がないことを心得ているからだろう。
しばし、徹とみこは霊的圧力と威にさらされながらも、時を待つ。謁見を願うにしても、あまりにも人目が多すぎるからだ。その時間は、けしてたやすいものではない。待つだけであっても、絶えず二人を襲うのだから。それでも二人は、互いの存在を頼りに待ち続ける。そうして、どれだけ待っただろうか。突如、人の流れが途切れる。
「みこ、頼む」
「はい、参ります!」
徹は横笛を取り出し、奏で始める。みこも遅れじと神楽を舞い始める。
それは静謐でありながら、峻厳な舞であった。みこは全身全霊で舞い、徹もまた全力で奏でる。これなるは平将門公へ捧げる神楽舞。神と同等の存在に謁見しようというなら、それなりの作法がいるとはみこの言である。
徹も指摘されて気づいたのだが、よく考えればきちんと手順を踏んで謁見すれば、それを無下にするような公ではないのだ。メガテン主人公達は、切羽詰まっているので正式な作法もくそもないだろうが、自分達までそれに倣うことはないのだから。
徹とみこによる神楽舞は、しばし続いた。そして、みこが全身全霊をもって踊り終えた時、声が響いた。
<見事な舞であった。その舞に免じ、しばしの謁見を許そう。して、そのような若き身空で、我に謁見を求めるとは何用か?>
そのたった一言で、押しつぶされるかと思うほどの霊的圧力が二人にかかる。徹はみこをかばうように前に立ち、跪いた。
「はっ、私は卯月徹、巫女は神山みこと申す者にございます。此度は公に許しを頂きたく参りました」
<ほう、許しとな。それはなんぞ?>
「はっ、いつかとは正確には申し上げられませんが、近々翔門会なる者達が公の結界を破砕せしめんと、四天王を狙うのです。その際に、私とみこの参戦をお許し願いたいのです」
<ふむ、それは結界を守るためにということだな?>
「はっ、未だ若輩なれど、足は引っ張らぬつもりです」
<確かにクズノハでもないのに、そなたらの霊格は大したものだ。が、なぜクズノハに助力を求めん?>
「恐れながら、私の言葉は世迷言にとられましょう。まだ見ぬ未来のことをどうして知ったかが問題となりまする」
<なるほど、確かにそなたの魂は普通ではないようだ。幻視か予知夢か知らぬが、そなたは現実にありえる危機となると確信したのだな>
「はっ、詳しく説明致しますと……」
徹は、翔門会の四天王襲撃から始まる東京封鎖、神の試練にベルの王位争いに至るまでを詳細に説明する。*1
<荒唐無稽と言うには、筋が整い過ぎているな……。なるほど、そなたはそうなることを事前に防ぎたいのだな>
「はっ、徒に人が死ぬのも、悪魔の存在が表に出ることも好ましいことではございません。まして、神の試練など認められようはずもありません」
デビルサバイバーの結末は、どれも受け入れ難いものばかりだ。けしてハッピーエンドとは言えないし、あまりに悪魔の存在が表に出過ぎている。あれでは悪魔との関りは否応なく深くなるだろうから。徹はそれを許容できない。
<よかろう。我とて日本の子らが犠牲になるのは望まぬ。四天王と共に戦うことを許す>
「突然の申し出を認めていただき感謝いたします、公」「深く御礼申し上げます」
徹とみこが深々と頭を下げる。
<良い、久々に楽しい時間であった。……ふむ、そなたら頭を上げよ>
実は殊の外、将門の機嫌はよかった。恐れられはしても、将門に神楽を捧げようなどという豪気な者は、今まで現れたことがなかったからだ。
その言葉に応じて、徹とみこは顔を上げる。
<そなた達の名と顔確かに覚えた。また参るがよい>
「はっ、ありがたき幸せ! 必ずや」「御意」
<そう固くなるな、焼いて食おうというわけではない。だが、卯月徹よ、そなたの言が偽りでなきことは監視させてもらうぞ。五月や、これに>
将門の呼び声に、徹達の前に長い黒髪の美女が現れる。平将門の娘である五月姫、別名を滝夜叉姫。荒神の加護を得て呪術師となった伝説を持つ。
<これは父上、突然ご無体な。何事でございましょう?>
<惚けなくてもよい。お前も聞いていたはずだ。この者の仲魔として共にあれ。そして、言葉違えるか、偽りであるならば、その命をもって償わせよ>
<承知いたしました>
滝夜叉姫は、気難しい己が父が、殊の外目の前の二人を気に入っていることに気づいていた。この男の話ぶりからして嘘でないことは理解しているだろうに、監視を名目に分霊とはいえ自分を下賜するとは余程のことである。とはいえ、分かっていても言わないのがイイ女、良き娘というものだ。滝夜叉姫は何も言わず、父のいう通りにすることにした。
(恋仲ではあるようですけど、まだ清い付き合いのようですね……フフフ)
何より、掻き回し甲斐がありそうな二人だ。父公認のしばしの現世、存分に楽しもうではないか。退屈とは無縁であろうことを確信し、数奇な魂を持った男を見つめ、妖艶にほほ笑む。
<私はLV45鬼女 滝夜叉姫よ。今後ともよろしくね!>
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
徹も応じて頭を下げるが、後ろから絶対零度の視線が突き刺さる。
「また女悪魔ですか……」
「いや、あの、これは仕方なくないですかね?」
途端言い訳に終始する徹に、みこの視線は痛くなるばかりであった。
因みに誰も助けてくれなかったそうな。いつの世も、男は女に勝てないものなのだ。
あっ、今更ですが、基本的にLVの部分は名乗っていません。これは読者用に分かり易いようにつけているだけなので、実際には鬼女の滝夜叉姫と名乗っています。