ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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厄ネタを積み重ねて行くスタイル!
大丈夫大丈夫、死亡フラグも立てまくれば、逆に大丈夫って言うし!


東京封鎖!?やらせねえよ!

 「なぜだ!?どこから漏れたのだ!」

 

 翔門会幹部東間は、予想外の敵襲に動揺を隠せずにいた。

 どうやったかは東間も知る由もないが、東京を守護する結界の要を看破した教祖九頭竜の四天王襲撃は完璧な計画だったはずだ。四天王の耐性も、折良く死んだオザワの残党を捨て駒に使ったことで、ほぼ完全に分析できた。いかに霊格の差があるとはいえ、後は信者達(カジュアルに毛が生えた程度の練度)の数を頼みにすれば勝てると踏んでいた。最悪、教祖の娘でイザ・ベルを憑依させた天音が出れば、勝利は不動のもののはずだ。

 

 だが、目の前の現実はどうだろう?たった二人の少年少女に、四天王に近づくことも出来ずに阻まれているのが現状だった。その若さとは逆に、二人は天音にも劣らぬ実力者だったのだ。こんな実力者が偶然にも四天王襲撃の現場に居合わせるなどと考えるほど、東間の頭はおめでたくない。あちらの陣地の構築ぶりに、武装の充実ぶり。どう考えても、待ち伏せであり、情報が漏れていたとしか考えられない。

 

 「クソクソクソ、たった二人のガキ相手に何をしている!数で押しつぶせ!」

 

 東間の命に、信者達も覚悟を決めたのか、一斉に悪魔を召喚する。しかし、それは相対する少年少女、徹と巫女の前では致命的な隙でしかなかった。

 

 「滝夜叉姫、呪え!みこ!」

 

 「分かっています。マハンマオン*1

 

 <仲魔になったばかりなのに、遠慮がないんだから>【丑の刻参り*2

 

 

 全体呪殺と+呪いと全体破魔が召喚された悪魔達に容赦なく襲いかかかる。翔門会の悪魔召喚プログラムはデッドコピー品であり、破魔や呪殺には対応していない為、容赦なく呪い殺され、あるいは昇天していく。それでも、元々の悪魔としての耐性で耐えきる悪魔も少数ながらもいる。

 だが、信者達の霊格は最大の者でもLV25。つまり、悪魔もそれ以下の者達でしかない。滝夜叉姫との霊格差は最低20という酷いものである。しかも、彼女は呪殺ハイブースター持ちだ。即死しなくても、純粋な呪殺ダメージに耐えられるわけがない。召喚されてもすぐさま消滅する悪魔達。

 

 結果、召喚されても、実体化した瞬間にすぐさま消滅する悪魔達に呆然自失する信者達というなんともアレな光景が広がった。

 

 そして、この世界におけるデッドコピーの悪魔召喚プログラムには、デビサバのものとは一つだけ違う欠点がある。彼らの悪魔契約は死亡した時点できれるのだ。つまり、蘇生させて、再召喚ということができないのである。諦めずに召喚しようとする者もいたが、それが出来たのは僅かな連中だけだった。これは東間が信者からの造反を恐れて2体しかストックできないように制限をかけていた故だった。自分の息のかかった者だけに制限解除していたのだが、この場ではそれが大いに響くことになっっていた。

 

 「ありえない!なんなんだ、お前らは!?」

 

 その召喚した少数の者達さえ、徹に妖刀で斬殺されていたのだから、もう目も当てられない。東間は狂乱して叫ぶしかなかった。

 

 「貴様如き小物に名乗る名はない。公に弓引きしこと、冥府にて悔いるがいい」

 

 徹の言葉は残酷だった。その言葉が聞こえたと同時に、妖しくも美しさをもった刃が東間に迫る。

 本来なら、一刀両断にされていたはずだったがそれを止める者がいた。いや、止めるどころか、それは反射すらして見せたのだった。

 

 「っ、アンジェリカ!」

 

 <相変わらず悪魔使いの荒いサマナーだこと!>

 

 反射された斬撃を徹の影から出てきた金髪のエルフが、剣で切り払う。それは、今やLV45エルダーエルフとなったアンジェリカだった。

 

 「<中々、珍しいものを連れた坊やだね>」

 

 いつの間にか東間の前に現れていたのは、LV49鬼女ランダだ。物理攻撃のことごとく反射する彼女は、そんじょそこらのサマナーに扱える悪魔ではない。当然、東間如きに使役できるような悪魔でもない。つまり、ランダを使役できるほどのサマナーがここにいるということだった。

 

 「<まさか、四天王の前にあたしが出張るはめになるとはね。なんとも情けない連中だ>」

 

 LV52神獣ウカノミタマを従えて、その少女は現れた。年の頃は、徹と同年代の美しい少女だった。徹の記憶に間違いがないなら、その少女は九頭竜天音。翔門会教祖の娘で、イザ・ベルとレミエルをその身に宿す者だ。

 しかし、その口から紡がれる言葉は、少女にはまるで似合わぬ者。見るものが見れば、少女が少女ではない何者かに乗っ取られていることに気づいただろう。

 

 「徹、気をつけてください!その少女は悪魔に憑依されています!」

 

 「分かっている。肉体と中身の霊格に差がありすぎるからな!」

 

 一目で悪魔の憑依を見破ったみこから警告の声が上がる。それに徹も応じる。

 なにせ、少女の肉体霊格LV35に対し、中身の霊格はLV58だ。どう考えてもおかしいのだから。

 

 「<おやまあ、いい目をしているじゃないか。どうやら、こいつらのような素人に毛が生えた程度の連中とは、ものが違うようだねえ>」

 

 「悪魔よ去れ!この先は貴様如きが踏み入っていい領域ではない!」

 

 「<あんた、人間にしては大した霊格だけど、それでもあたしよりは下だろう。そんな奴が、ベル神たるこのイザ・ベルに大きな口を叩くじゃないか>」

 

 「ベル神?笑わせるな。ベル・ベリトの使いっ走り風情が神を名乗るな!バアルを崇めた末に、裏切られて殺された王妃イゼベルよ」

 

 徹はイザ・ベルの戯れ言を切って捨てる。デビルサバイバーを知る彼は、彼女の本性が神などではないことを知っていたのだ。そして、その断定は言霊となり、この場において思わぬ力を発揮する。

 

 「<馬鹿な、なぜお前がベル・ベリト様のことを!?何よりなぜ妾のことを!?グウアアアア――>」

 

 自身の素性を完璧に言い当てられたことに驚くイザ・ベルだったが、同時に認めてしまったことにより、徹の言霊が力を発揮し、苦悶することになる。

 

 「徹、これは一体?」

 

 <存在の零落、哀れなものね。身の丈以上の力を外付けで与えられて粋がるからそうなるのよ。サマナー、予想していたの?>

 

 「いや、流石にこうなるとは思っていなかった。滝夜叉姫の言うとおり、神でないことと人であったことを認めたから、神の座から堕ちたのさ」

 

 平将門公が、その魂の強大さ故、守護神として御霊として祀られたのとは、逆のパターン。本来、神の域にない者を外付けの力と名によるこじつけで、神にまで存在を高めたのがイザ・ベル、いや、イゼベルなのだ。公は祀られなくても、そもそも強いし力があるので、なにも問題にならない。だが、イゼベルは別だ。外付けで無理矢理その地位にしがみついていたに過ぎない彼女にとって、神であることを否定されるということは致命的なことなのだ。

 

 「<馬鹿な、力が抜ける!?ベル・ベリト様から賜った力が霧散していく!>」

 

 この現象は、天音を完全に乗っ取れていないということも大きかった。あくまで彼女は天音の肉体に間借りしているだけであり、根付いているわけではない。これは最終的にベル・ベリトに力を返納しなければならないというどうしようもない事情からだったが、それが災いした。

 肉体という安定した外殻があればこそ、人は言霊に対して強い。だが、悪魔はこの世界では本来実体を持たない。実体化しようとすれば、生体マグネタイトを必要とする。つまり、存在としては酷く不安定なのだ。言霊が強く作用するのはそれ故だ。

 

 イゼベルは、神魔の類ではない人であった者だ。神魔が人に憑依することはあっても、人が人に憑依することは基本的にない。基本的に人は自身の肉体しか操れないからだ。クズノハキョウジという特級の例外を除いて。

 

 <馬鹿な、小娘の肉体から追い出されたのか!?>

 

 倒れ込む少女の傍らで、人型をした女悪魔が信じられないといった表情で呆然としている。明らかに弱体化しているのが分かる。現在の霊格はLV53、ぎりぎりウカノミタマを使役するのに足る程度になっている。何より、アナライズした種族は、ベル神から鬼女に変化してしまっている。神から零落したのだと、徹は瞬時に悟った。

 

 「イゼベル覚悟!」

 

 天音からイゼベルから分離している今こそが、イゼベル討伐の絶好の機会にほかならない。徹としては、父親である教祖の被害者である天音はできれば助けたかったので、予想外ではあったが願ってもみない展開ではあった。

 

 <小僧が舐めるでないぞ!>

 

 ランダを再び盾にするイゼベルだが、徹は予想済みであった。特大の炎弾でランダを弾き飛ばし、妖刀でイゼベルの首を狙う。しかし、相手も然る者、いつの間にか入れ替わっていたウカノミタマに【ザンダイン*3】で迎撃される。

 あわや頭を捻じ切らんとする衝撃波を、徹は寸でのところで躱し後退する。

 

 (今のは神獣の種族特有スキル瞬転の舞*4か?それをあのタイミングで使うとは……。こいつ、サマナーとしてはかなり出来る)

 

 イゼベルは既に体制を立て直し、ウカノミタマとランダを両脇に従え、泰然と佇む。その姿は歴戦のサマナーと言って何ら過言ではなかった。

 

 「徹、彼女は任せてください!どうか、ご存分に!」

 

 「流石みこ、マジで愛してる!」

 

 徹が言うまでもなく、みこが天音を保護してくれたことに心から感謝する。

 

 <目敏い娘よな。まあ、よかろう。こうなった以上、汝らは皆殺しだ!あの娘は、汝を殺した後で、ゆっくり嬲るとしよう>

 

 天音をまんまと奪われたことに悔しげなイゼベルが手を一振りすると、徹だけを隔離するように業火が火柱となって周囲を覆う。一番近くにいたアンジェリカすら排除するのだから、念の入ったものと言えよう。

 

 「部分的な異界化とは無茶をする。みこどころか仲魔すら排除するかよ」

 

 この炎の柱で隔離された空間は小規模な異界だった。これでは仲魔を呼び寄せることもできない。COMPなしでも仲魔を召喚することができるサバトマが使えれば、契約を頼りに召喚することは不可能ではなかっただろうが、現在主力は召喚済みであり、COMPで異界を超えて召喚することは不可能だ。つまり、今の徹は正真正銘孤立無援だった。恐ろしいことにイゼベルは、独力かつ即興でそれをやってのけたのだ。

 

 <汝は得体が知れぬ。故に絶対にここで殺す!>

 

 言うが早いか、イゼベルはランダとウカノミタマを徹にけしかけてくる。どちらもLV50クラスの悪魔であり、徹であってもけして雑魚などとは言えない相手である。それが歴戦のサマナーの指揮の下連携してくるのだから、たまったものではないだろう。

 

 (うん、ハッキリ分が悪いな。相手は歴戦のサマナーで、悪魔化した異能者だ。仲魔なしでは厳しいといいたいところだが……イゼベル、お前は失敗した!完全に隔離されたこの状況こそ、俺が望んだものだ!)

 

 「出やがれクソ野郎!出番をくれてやる、ニャルラトホテプ!」

 

 徹のやけくそな叫びと共に、具現化する這い寄る混沌ことニャルラトホテプ。徹が忌み嫌い、予想できる結果から、召喚自体を禁忌としてきたその力を解放する。

 漆黒の顔のない獣は、解放されたその一瞬で、ランダとウカノミタマをいとも容易く薙ぎ払い、マグネタイトへと霧散させた。それがイゼベルへも届かんとするところで、徹はニャルラトホテプを戻した。

 

 (危な!後1秒でも遅れていたら、暴走してたわ……。やっぱり、完全に制御出来るまで使うべきじゃないな)

 

 凄まじいまでの召喚負荷と脱力感が徹を襲う。いかに霊格でLV50に達したとは言え、LV66のニャルラトホテプを召喚するのは難行以外の何者でもなかった。むしろ、一瞬とは言え制御出来ただけ自分を褒めるべきだろうとすら、徹は思った。

 

 <ククク、汝も人のことは言えぬな。随分なものを内に飼っているではないか?>

 

 「返す言葉もない。とはいえ、こいつは押しつけられたもんなんでな」

 

 <なるほど、我はまんまと汝にあれを使う機会を与えてしまったというわけか。悪魔も排除されたが、我は負けぬぞ>

 

 イゼベルの両手に灼熱の業火が生まれる。

 

 「ああ、お前が得意とするのが炎じゃなかったら、俺の負けだったろうよ」

 

 この空間なら、全力全開で炎を解放しても現世には影響がないと判断し、徹も自身の身内で炎を精錬する。

 

 <汝も炎使いのようだが、妾の炎はひと味違うぞ!>

 

 実際、デビルサバイバーにおいて、イザ・ベルは中々の強敵だ。その言葉は、けして大言壮語ではないのだろう。

 

 「生憎と俺も炎には自信があるんだよ」

 

 というか、徹的には、これだけは絶対に負けられない戦いですらある。炎で後れを取ったら、クトゥグアが何を思うか、何をやらかすか分かったものではないのだから。

 

 <妾の炎と汝の炎、どちらが強いか、存分に競うぞ!>

 

 二人しか存在しない炎の世界で、徹の炎とイゼベルの煉獄の炎がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 時は徹が隔離された時に遡る。

 天音(イザ・ベル)の介入によって、九死に一生を得た東間であったが、彼は必死に頭を働かせていた。

 

 (天音様が最終的に出張ることは決まっていたことだ。だが、四天王と戦う以前に出ることは完全に予定外だ。これでは私の評価が!嫌だ、また失敗したくない!)

 

 東間は、翔門会教祖が抱く大望など知ったことではない。彼が欲したのは純粋な力だ。何者も寄せ付けぬ全てを見返せる力こそを彼は欲したのだった。

 そもそも、東間は元はカルト宗教とは無縁なエリート街道をひた走っていた男だ。だが、彼はある時、大きな失敗をした。周囲はそれでも、次頑張ればいいと励ましたが、それまで明確な失敗をしたことがなかった東間はそこで折れてしまった。結果、自暴自棄になり、その振る舞いを見て周囲からも見放され、カルト宗教にはまって悪魔業界にまで堕ちたのが東間という男だった。

 

 そこまで堕ちても、東間が宗教の熱から冷めて、再起できたのは悪魔という理外の存在を知ったからだ。そして、それを容易に用いることができる悪魔召喚プログラムは、彼にとって自分を見捨てた連中を見返す為の最高の力だった。東京でしか使えないという欠点も何ら問題ではなかった。東京でしか使えないというなら、東京まで来て貰えばいいのだから。

 

 悪魔の力を手に入れた東間が、まずやったのは復讐だった。他者にとっては八つ当たりでも、東間にとっては正当な復讐だった。自分を見捨てた連中を立ち直ったと旅券つきで便りを出せば、東京に喜び勇んで来てくれた。東間はそこで決定的に間違えた。彼が見捨てたと思ってた人達は彼を見捨ててなどいなかったことに、彼は気づけなかった。そうでなければ、カルト宗教に縋るまで堕ちた人間の為に遠路はるばるやってくることなど無かったのだから。周囲の人々は、しばらく距離を置いた方がいいと判断しただけだったのだ。そんな人達を東間は手にかけたのだ。喜悦すら浮かべて。

 

 (俺は成り上がるんだ!こんなところで終わってたまるか!)

 

 そう思う東間の視界に、一人の女の姿が映る。確かみこと呼ばれていた女。女だてらに大した力だったが、霊格だけなら東間の方が上だし、切り札を用いれば勝つことは可能だと算段をつける。マグネタイト消費が激しいので、出し惜しんだのが幸いした。

 

 (あの女を手土産にすれば、教祖も文句は言うまい。それに美しい女というだけで使い道はいくらでもある)

 

 イゼベルによって作られた炎の異界を心配げに見やるみこを、東間は躊躇いなくその毒牙にかけることにした。なんら良心は痛まない。そんなものとうに捨て去ったのだから。

 

 なにも言うことなく、東間は手元の悪魔召喚プログラムを起動し、切り札であるLV40邪神アバドンとLV44堕天使デカラビアを召喚する。この邪神と堕天使は、彼が復讐を果たした時、ひとりでに現れた二体の悪魔だ。それ以来、彼はいいことずくめだった。あれ程上がらなかった霊格もLV44まで上がり、異能者としての才も花開いた。アギダイン*5とブフダイン*6という魔界魔法を使えるようになった東間は、瞬く間に幹部の座へと上り詰めた。それを教祖は興味深そうに観察し、何かを悟った天音は哀れんでいたのを彼は知らない。相反する属性の魔法を覚えることは、普通の異能者ならありえぬことであると東間は気づけなかった。なにより、その二つの魔法を彼の切り札も使えるということが何を意味するのかも。

 

 しかし、それだけ強大な悪魔が召喚されて、みこが気づかぬはずもない。瞬時に彼女は弓を構えて。迎撃態勢に移った。

 

 「白お願い!」

 

 <承知!>

 

 みこの影から現れた白い狐が、東間達めがけて特大の狐火を放つが、即座に火炎耐性のアバドンがその巨体を生かして盾になり、デカラビアと東間には何ら影響がない。

 その隙に放たれるのデカラビアのアギダインがみこを、東間のブフダインが白を襲う。

 

 <私達を忘れて貰っては困るわね><アクアダイン*7!>

 

 徹にみこの守護を厳命されている仲魔がそれを見過ごすわけがない。滝夜叉姫が結界をもって白を、アンジェリカが水弾を放って、みこを守る。

 みこと白も負けていない。すかさず矢を放ち、アバドンの影を縫い、白がそこを逃さずに巨大化させた尾で薙ぎ払った。

 

 物理弱点のアバドンに耐えきれるはずもなく、為す術も無く吹き飛ばされるアバドン。当然、その余波が東間を襲うが、物理無効である彼にはなんの痛痒にもならない。

 

 「くははは、無駄なことを!」

 

 「人の身で物理無効!?そうなるような装備もつけていないのにあなたは……」

 

 無駄な足掻きだと嘲笑う東間だが、みこは何かを悟ったかのように哀れむように彼を見る。

 その目が、東間の逆鱗に触れた。

 

 「俺を哀れんでんじゃねえ!クソガキが!生かして捕まえようと思ったが、もういい!殺せ、アバドン、デカラビア!」

 

 当初の目的すら破却し、上品なエリート然とした外面すらもかなぐり捨てて、東間はドス黒い殺意を露わにした。

 

 <グググ>

 <滑稽>

 

 命に応じて動き出した自身の仲魔にすら嘲笑されていることも気づけず、東間は激昂する。滅茶苦茶に魔法をまき散らし、みこを殺さんとする。

 だが、当然ながら、そんな破れかぶれの攻撃が、みこに届くわけもない。その殆どは白によって迎撃され、流れ弾や余波も滝夜叉姫の結界によって完全に遮断されていた。切り札たる邪神と堕天使も、アバドンはアンジェリカに封じ込まれ、デカラビアもみこの弓矢と滝夜叉姫の薙刀のコンビネーションに阻まれ、近づくことすら出来ない始末だ。

 

 「なんで、なんでうまくいかねえんだよ!」

 

 駄々っ子のように喚き散らす東間だが、彼にこれ以上の手札はない。大体、彼は単独で戦うことは殆どない。基本的に配下の信者の数による圧殺を得意としているのだ。四天王戦にしても、天音任せで己は出るつもりがなかったのだから。そんな彼にカタログスペック以上の引き出しなどあろうはずもない。

 

 「悪魔を使役しているつもりで、その実逆に侵食されていることに気づけなかったんですね。……哀れな人」

 

 オリジナルの悪魔召喚プログラムとデッドコピー品との差異は、みこも徹から聞いていた。オリジナルでは絶対にありえない悪魔側からの侵食。それは本来使えないはずのものを使おうとした代償なのかもしれない。徹がニャルラトホテプの一瞬の召喚で凄まじく消耗したように、身の丈に合わないものを使うということはそういうことなのだ。

 

 「違う、違う、チガウ!」

 

 さらに激昂し鬼面と化していく東間だが、みこの目にはハッキリと悪魔達から逆流する何かが視える。東間から搾取される生体マグネタイトとは異なり、それは絶対に良くないものであった。

 

 「お二人は、悪魔の対応をお願いします」

 

 <私はいいわ。あのニヤケ面気に入らなかったのよ>

 

 アバドンを自分の標的と定めたアンジェリカが応える。

 

 <では、私があのヒトデ擬きを。ですが、よろしいので?きっと辛いですよ?>

 

 滝夜叉姫が確認するかのように言う。それは彼女なりの優しさであったのだろう。

 

 「大丈夫です。徹と共にあるなら、いずれは避けて通れない路ですから」

 

 みこは、影から護神刀を取り出す。それは彼女の父が、生まれたばかりの娘の才に将来を憂いた彼が特注で作らせた破邪の守り刀だ。人は斬れないが、邪を祓い悪意を寄せ付けぬ護身刀。だが、今の東間には有効なはずだった。

 

 <覚悟は出来ていると。いいでしょう、その覚悟に免じてご覧あれ。伝説に謳われる滝夜叉姫の妖術を!>

 

 滝夜叉姫の影から浮かび出る巨大なドクロの化物がデカラビアを捕らえ、握り潰す。苦悶の声を出す暇も無く堕天使が瞬殺されたことに、東間が呆気にとられる間にもみこ達は止まらない。

 戦闘時はキリングマシーンと化すアンジェリカは、他者のことなど知ったことかと、アバドンへと突撃する。彼女はエルダーなんてついてるが、バリバリの物理型だ。

 

 <今宵は新月。月のない夜闇に乗じたんでしょうけど、逆効果よ。残念だったわね!>

 

 【残月*8】+【ミナゴロシの愉悦*9】&【物理ブースタ*10

 

 弱点にクリティカルになったのか、アバドンは一瞬も耐えることもかなわず、アンジェリカの剣撃によって邪神は実体を失い霧散した。

 

 「ば、馬鹿な!?」

 

 立て続けの切り札の呆気ない最期に、流石の東間も狂乱から冷めるが、それはあまりにも遅かった。既にみこは東間の至近距離にまで近づいていたのだ。

 

 「我が護り刀よ、この者に宿る邪悪を、魔を祓い清めたまえ!」

 

 みこの霊力がこれでもかと注ぎ込まれた破邪の護神刀は、狙い過たず東間の心臓を貫いたのだった。

 

 「あっ!?オオオオオーーーー!」

 

 何が起きたか分からないという顔で、東間は胸を見やり、次の瞬間絶叫を上げた。護神刀を媒介に黒い何かが、東間の肉体から抜け落ちていく。そして、それと同時に彼は急速に老いさらばえていく。

 

 「やはり、そうでしたか」

 

 護神刀が東間の肉体を貫いたことで、みこの抱いていた疑惑は確信に変わった。人を斬れぬはずのもので、刺し貫けたということは即ち、最早人ではないということだ。

 東間は、悪魔からの契約を使った侵食で、悪魔になりかけていたのだ。異能者として覚醒したわけではなかったのだ。堕天使と邪神に、その魂までも浸食された結果、両者の力を受けて両者の魔法を使えるようになったに過ぎなかった。

 そして、今みこによって、その中心であった心臓が貫かれ、身の丈に合わない力を扱ってきた代償を支払わされているに過ぎない。

 

 <……>

 <残念、後少し>

 

 東間から抜け落ちた残滓から、邪神の無念そうな気配と堕天使の戯れ言が感じられたが、みこは意に介さない。

 

 「去りなさい、下郎。ここにあなた達に与えられるものなど、もうないのですから」

 

 みこは、すんでの所で東間の魂を奪われることを防いだのだ。本来は、東間の魂を喰らって顕現するつもりだったのだろう。それが上手くいかなかったのは、偶々狙いがブッキングしてしまったからにほかならない。どちらかだけなら、早々に東間は肉体は勿論魂さえも奪われていただろう。ある意味、幸運であり、不幸でもあった。単独ではなくなったことで、悪魔の侵食速度が加速したのも事実だからだ。

 

 「ああっ、わ、私は……」

 

 東間は茫然自失、艶を持っていた黒髪は真っ白になり、抜け落ちてすらいる。その整った容貌も、老いさらばえて皺くちゃな老相となっており、かつての面影はどこにもない。過剰に生体マグネタイトを搾取されたせいか、肉体も骨と皮だけに成り果て、最早用をなさない。

 

 「お眠りなさい。大丈夫、あなたは人として死ねますから」

 

 「……ああ、そうか。よ、よかっ……た」

 

 東間はみこの言葉に、僅かに表情を崩すと事切れた。

 悪魔に出会ったことで、決定的に間違えてしまった男の生が今終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 <ククク、思った以上にやるではないか>

 

 「炎といいながら、雷霆が混ざってるとか、この詐欺師野郎が!」

 

 俺とイゼベルの戦いは、意外なことに互角の争いになっていた。いや、単純な炎だけの勝負なら俺が勝っていたのは間違いない。

 だが、イゼベルの炎には雷霆が混ぜられていたのだ。それによって、霊格の差もあり五分の戦いに持ち込まれていた。

 

 <妾がバアル様の巫女であることを看破したのは、汝であろうが。妾がバアル様の力の一端を賜っているなどとは思わなかったか?>

 

 (クソ、ここに来て原作知識が裏目に出た。デビサバのボスであるイザ・ベルの印象が強すぎて、イゼベルを本質を見誤っていた!)

 

 痛恨のミスと言わざるをえない。イザ・ベルと言えば炎だ。専用スキル灼熱の花や狂信の炎から、完全に炎使いだと思っていたのだ。

 しかし、よくよく考えればイゼベルの本質は、嵐の神であるバアルの巫女という部分にあるのだから、雷霆を使ってもなんらおかしくはない。つまり、これは完全に俺のミスだ。

 

 <貴様の炎は確かに大したものだが、妾の炎とバアル様の雷霆には勝てん。潔く骸を晒すがいい!>

 

 【マハラギダイン*11】 

 

 煉獄の炎が嵐となって俺を襲う。これが本当に額面通り炎だけなら、俺にダメージなどない。だが、実際にはダメージを受ける。この炎には雷霆が含まれているからだ。幸い、炎に比べて一段階は威力が落ちる(マハラギダインにマハジオンガ*12)のでどうにかなっているが、雷霆の部分は素通しなのでジリ貧だ。ペルソナはニャルラトホテプを召喚した代償が思った以上に大きく、雷撃無効のアステリオス改に変更することもできない。当然ながら召喚も不可能だ。今、ここでニャルラトホテプを再度召喚すれば、イゼベルは殺せても、みこも含めて四天王まで皆殺しだろう。そんなことになれば、本末転倒である。

 

 イゼベルは、炎に対して絶対の耐性を持っているわけではない。デビルサバイバーでもイザ・ベルは火炎耐性に過ぎなかったはずだ。だが、どういうわけか、炎で奴は回復している。

 

 (何か、何か、タネがある。イゼベルになったことで奴はベル神ではなくなった。その分、バアルの巫女としての力を出せるようになったようだが、弱体化しているのは間違いない。なら、火炎耐性が火炎吸収になったりはしないはずだ)

 

 そう考えつつ、雷霆に耐えきって周囲を改めて見やる。炎の柱で隔離された特殊な異界だ。

 

 (うん?異界?まさか、そういうことか!)

 

 「……なるほど、お前この異界に引きずり込んだ時点で必殺だったわけか。小規模とは言え、異界の主になることでの霊格の強化、仲魔がやられることも全て折り込み済みというわけか」

 

 <ようやっと気づいたか。汝はランダとウカノミタマを倒して五分にしたと思っていたようだが、滑稽だったぞ。妾を強化したに過ぎぬ>

 

 異界の主である悪魔は、異界内のマグネタイトの支配権を持つ。イゼベルは、早々に倒された自身の仲魔のマグネタイトをその身に吸収し、自身を強化していたのだ。

 

 「極めつけはこの異界。炎は全てあんたの糧になるという性質が付与されているんだな。だから、あんたはダメージを受けない」

 

 <ホホホ、そこまで気づいたか。それなら、嫌でも理解したであろう?汝が炎使いである以上、この世界では妾には絶対勝てぬ!>

 

 「……」

 

 俺に返す言葉はない。確かに必殺。俺が炎使いなので炎が効かない可能性を踏まえても、奴にはバアルの雷霆があるのだから。イゼベルの絶対の自信は分かるというものだ。

 

 (魔剣は出来れば抜きたくない。俺がここにいることが、クズノハに確実にバレる。そうなれば、ここまで築き上げたクズノハとの関係が水の泡だ)

 

 対外的には、自分達はあくまでも偶然居合わせた謎の異能者でなければならないのだから。外界との隠蔽遮断は翔門会がやっているようだが、魔剣の気配まで完全に隠せると思うのは甘いだろう。

 つまるところ、俺は魔剣なしでこの詰んだ状況をひっくり返さなければならないというわけだ。

 

 (うーん、なんというクソゲー。近づかせてもらえないから、魔法しかないのに、こっちの攻撃全吸収とか、詰んでるにも程がある。ああ、そういやソウルハッカーズでもこんなクソボスいなかったか?……いたいた、クソイルカだ。確かスナッピーとかいったな。それなら!)

 

 「なあ、イゼベル、お前、自分に自信はあるか?」

 

 <なんじゃ、藪から棒に。当然であろう。妾はバアル神の巫女にして王の妃イゼベル。自信がないはずがあるわけなかろう>

 

 流石は古代の王妃様。自分の美しさや強さにも相応の自負がうかがえる。いいだろう、器比べといこうじゃないか!

 

 「なら勝負だ!俺の全身全霊と貴様の容量、どちらが勝つか!」

 

 バニシングバスターの時のような制御はいらない。文字通りの全身全霊、魂の一滴まで絞り出す。

 

 <なっ、汝まさか!>

 

 イゼベルの言葉が終わるその瞬間、俺は全身から極大の炎を解放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 パーンと何かが爆ぜるような大音声が響き渡る。みこも徹の仲魔達も、一斉にそちらを見やる。

 炎柱は解けるように消え失せ、そこには一人の男が立っていた。言うまでも無く、徹であった。

 とはいえ、その姿は酷いもので、満身創痍その言葉がピッタリであった。

 

 「クソッ、イゼベルめ」

 

 結界ごと焼き尽くす勢いで炎を放つことで、イゼベルの許容限界を狙ったのをあちらも理解したのだろう。

 イゼベルはそうはさせじと最大級の雷霆を放ってきた。流石に炎が効かないのは、あちらももう理解していたのだろう。最後っ屁に過ぎないとは言え、霊格差もあり【ジオダイン*13】級の雷霆を素通しでくらってただで済むわけがない。

 それでも阻止できずに、炎を放つことには成功したのだが、これでは辛勝といったところだろう。

 

 <フフフ、妾にそう簡単に勝てると思われてはかなわんのでな>

 

 その声に驚愕して、徹は声の方を向くが、すぐに力を抜いた。そこには既に半分以上消滅しかけた上半身だけのイゼベルがいたからだ。

 

 「驚かせてくれるなよ」

 

 <ククク、そういうところは未熟よな。考えればすぐ分かるであろうに、異界が消滅している以上、異界の主であった妾がどうなるかなどというのはな>

 

 「うるさい、これでも本気で焦ったんだぞ」

 

 <妾を殺しておいて、何という言い草か。まあよい、それだけ汝にとって妾が強敵であったということだからな>

 

 「ちっ、ああ、認めるよ。あんたは強敵だった」

 

 徹が隔離して早々に、ニャルラトホテプという鬼札をきったのも、イゼベルという歴戦のサマナーに悪魔を十全に使われたら、勝ち目がないと判断したからだ。結果的にイゼベルを強化することになったが、判断自体は間違っていなかったと徹は思っている。

 

 <そうか、妾は強敵だったか。うむ、悪くはないな。これが戦士の喜びというものか。人である時は感じることのなかったものだ>

 

 「そら、王妃様だからな、当然だろうよ」

 

 <王妃か、懐かしい記憶だな。しかし、強敵である妾に勝ったのだ。褒美をやらねばな>

 

 イゼベルから光の玉のようなものが現れ、避ける間もなく徹に吸収されていく。

 

 「はっ、えっ、これって!?」

 

 <なんじゃ、気づいとらんかったのか?ア・ベルの因子を持つ者よ>

 

 徹からすれば、青天の霹靂どころの話ではない。確かにデビルサバイバーにおいて、ア・ベルの因子を持つ者は数多くいると聞いていたが、まさか自分もその一人などとは夢にも思っていなかったのだから、当然である。

 

 <ククク、これは愉快。よい意趣返しになったようじゃな>

 

 そう言って、満足げに笑うとイゼベルは消滅した。

 

 「えっ、これベルの王位争いしなきゃいけないやつ?」

 

 一人残された徹は、身の内に充満する力を感じながら、呆然として呟くのだった。

*1
敵全体を破魔属性で中確率即死させる

*2
敵全体に呪殺属性ダメージ+呪い

*3
敵単体に大威力の衝撃属性攻撃

*4
選択した味方チームと位置を交換する

*5
敵単体に火炎属性で大ダメージを与える

*6
敵単体に氷結属性で大ダメージを与える

*7
敵単体に水属性で大ダメージを与える

*8
敵単体に強力な攻撃を行う。新月時威力1.5倍

*9
クリティカル率を大きく上昇させる

*10
物理属性攻撃時の攻撃力を1.25倍にする

*11
敵全体に火炎属性で大ダメージ。まれに敵を炎上させる

*12
敵全体に電撃属性で中ダメージ。まれに敵を感電させる

*13
敵単体に電撃属性で大ダメージを与える




悪魔召喚プログラムデッドコピーについて
クズノハによって、デビサバのものより改悪されている部分があります。まずデビオクでしか仲魔を入手できないのは勿論ですが、それ以上に一度死んだら、その時点で契約が切れます。これはデビオクの値段だと、それくらいの契約が関の山だろと私が独断と偏見で判断したからです。つまり、蘇生魔法とか持たすだけ無意味です。
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