実際、この組み合わせがここまで刺さるとは予想していませんでしたよ。
<行くのサマナー、あの娘を置いて?>
イゼベル討伐を成し遂げ、帰還した翌日の早朝、徹は一人完全装備をして出かけようとしていた。隠形していた滝夜叉姫から、感心しないという風に声がかかる。
「俺がベルの王位争いに巻き込まれたのは不本意ではあるが、俺自身が選択した行動の結果ではある。これ以上、この件にみこを巻き込む気は無い」
どんな形であれ、みこに人殺しをさせてしまったのも、徹としては痛い失点だった。みこの覚悟の程は理解しているが、だからといって、積極的に手を汚して欲しいとは思わない。我が儘なようだが、それが徹の偽らざる本音だった。
<あの娘がそれを望んでも?>
「それでも駄目だ。昨夜のことは、なんとか隠蔽できたが、翔門会を潰すとなれば、流石に誤魔化しはきかない。だから、
翔門会は腐っても、ガイア教団に所属する一組織だ。そこを潰したとなれば、明確にガイア教とことを構えることになる。
<言わんとするところは分かるわ。でも、些か過保護ではなくて?>
「過保護なのは否定しないが、まだ早すぎるのも事実だ。せめて高校を卒業するまでは、こちら側の事情にどっぷり浸からせたくはない」
<あら、貴方はいいのかしら?>
「先程も言ったろう。俺は自分の行動の責任はとる。こうなった以上、絶対に東京封鎖を起こさせるわけにはいかない」
イゼベルを倒し、ベルの因子を吸収したことで、徹は今代のア・ベルとなってしまった。完全な事故で不可抗力だったが、それでもそうなった責任は取らなければならない。本来のア・ベルであったデビルサバイバーの主人公が目覚めること無きように、普通の学生として過ごせるように、東京封鎖の原因である翔門会教祖、ひいてはベルの王位争いを起こそうと企むベル・ベリトを殺さねばならない。それが本来の運命を捻じ曲げた責任だと、徹は思っていた。
<サマナーは真面目ねー。もっと好きに生きても誰も文句言わないと思うわよ>
「生憎とそんな風に生きられるほど図太くないんでな」
いっそ何も知らなければ、それで良かっただろう。だが、幸か不幸か、徹は知っているのだ。である以上、見て見ぬ振りをすることはできなかった。
<いいでしょう、父上との約束は果たされた。あの娘が参戦するのは四天王を守るための戦いだし、貴方がこれからするのはそうではない。元凶を殺しに行くのだから>
「ガルムに無理言って、一時的に異界の主を引き受けて貰って、両女神も回収した。文字通りの総力戦だ」
愛にも秘密なことに、ガルムはかなり渋ったが、生憎とペルセポネーの代役を務められそうなのは、地獄の番犬たるガルムしかいない。ある依頼を引き受けることを条件に、ガルムは一時的な代理を承諾した。
<サマナーの本当の意味での全身全霊、見せて貰いましょうか>
「ご期待に添えるといいが」
(実は、ニャルラトホテプに夢の中で、ア・ベルである可能性を考えていなくて、自分から今代のア・ベルになったようなものであることを、散々爆笑されてこけにされた憂さ晴らしがメインとか、絶対に言えないな)
精一杯真面目こくった顔しながら応える徹だったが、その真意は絶対に誰にも言えなかった。
「『
翔門会教祖である九頭竜は、朝駆けとも言える黒騎士に変身した徹の襲撃を唯一人で迎えていた。幹部も信者も、最早一人として残っていない。四天王襲撃の策が破られた時点で、愛娘の天音が破れた時点で翔門会は終わったのだ。
九頭竜は自身の末路に誰も巻き込む気は無かった。だから、結界に何の変化もなく、襲撃に行った者が誰も戻ってこなかった時点で、翔門会を解散したのだ。ベル・ベリトは文句を言ってきたが、九頭竜からすれば、主上と崇めるベル・ベリトすら、彼の大望の為の手段に過ぎないのだ。ベルの王位争いをベル・ベリトが目論んでいたのは知っていたが、彼にベル・ベリトをベルの王にする心算はなかった。神の試練を二度と起こさせないようにできるなら、そんなものは必要ないのだから。
「……分かるのか?」
「ええ、これでも翔門会教祖にして、ガイア教幹部の一人ですからね。まして貴方の持っているベルの因子を目覚めさせたのは、我が愛娘である天音に宿っていたイザ・ベルのものだ。違いますかな?」
「テメエ、自分の娘にとんでもないトラップ仕掛けてくれやがって!こちとら、ベルの王位争いなんて欠片も興味なかったっていうのに……」
「ああ、なるほど。それは申し訳ないことをしました。ですが、私にとっては福音です。人閒からベルの王が出るかもしれないのですから」
「何が福音だ!自分の娘に悪魔憑依させて、何ほざいているんだ、毒親が!」
「安心しました。その様子なら、天音は生きているのですね。噂の黒騎士殿が情に厚いとは、とんと知りませんでしたよ」
(こいつ、察しが良すぎる。どこまで知ってやがるんだ!?)
九頭竜の察しの良さと、何もかも見透かしたような口ぶりに背筋を嫌な汗が流れる。
「安心してください。貴方の正体をバラす気はありませんし、無駄に足掻く気もありません。私が生涯をかけて用意した策は破れたのですから」
「随分諦めがいいな」
「私が死んでも、ベル・ベリトは残ります。あれはこのビルの異界の核に宿っていますからね。それに解散する前に、信者達からマグネタイトも限界まで搾取していましたから、しばらく顕界することに不自由はないでしょう。
である以上、君はベル・ベリトを見逃せません。つまり、君が勝てば、人のベルは、ベル・ベリトの力さえも呑み込むことになります。無論、ベル・ベリトが勝っても構いません。あれは唯一神を憎悪していますからね。精一杯、神の試練を邪魔してくれるでしょう」
「貴様……」
九頭竜の言葉を徹は否定できなかった。確かにその通りだからだ。
ベル・ベリトが復権を求める限り、存在を貶めた唯一神とは絶対に相容れない。そして、己の方は言うまでも無い。最初から、九頭竜とベル・ベリトの首が狙いだったのだから。
「分かるでしょう?私は最早万策尽きました。しかし、君という存在が、後に私の大望が成就するかもしれない可能性を示しています。ならば、ここで君に討たれることに、何ら悔いはありません」
(デビサバでもそうだったが、こいつ無敵の人かよ)
これから間違いなく殺されるというのに、九頭竜の顔には何の恐怖も後悔も浮かんでいない。むしろ、晴れ晴れとした感すらある。憂さ晴らしの八つ当たりに来たというのに、元凶がこの様とか、徹としては面白くない。
「ああっ、もういい」
もう喋らすだけ、ストレスがたまるだけなので、精神衛生の為にもさっさと殺すべきだと、徹は判断した。そもそも、公に弓引いた時点で九頭竜の命運は尽きているのだから。
「私の財産は天音に行くように手続は済んでいます。君への報酬は、私の足下にあるスーツケースに用意しておきました。まさかの用意でしたが、本当に必要になるとは分からないものですね」
ファーガスの剣で袈裟斬りにされながら、九頭竜は言いたいことを最後まで言って果てた。徹からすると、なんともしまらないというか、やりたい放題やりやがったな感が凄い。なんというか、負けた気分である。
<この男なりに娘を愛していたのね>
隠形していた滝夜叉姫が姿を現し、弔うように言う。
「ふん、だとしても愛し方が歪なんだよ。自分の娘に悪魔を憑依させるのが、愛であってたまるものか!」
デビルサバイバーにおける天音の苦しみを思えば、九頭竜の愛情など詭弁に過ぎないだろう。
自分の中に自分でない者がいる。しかも、それを埋め込んだのは、血の繋がった実の父親だというのだから。そんな状況でありながら、父親のために翔門会の巫女として動く天音は、どれほど複雑な心境であったのか、他者には想像も出来ない。
だが、それを愛情などと言ってしまうのは、決定的に間違えていると徹は思ったのだ。
<そうね、確かにそれはその通り。でも、サマナー、男親というものは、得てして不器用なものよ。母親がいないなら、尚更ね>
「だとしても、一つ間違えれば、天音の意思どころか、魂さえもイゼベルに奪われてもおかしくなかったんだ。不器用な愛情で済ませられてたまるか」
九頭竜もそこら辺はきっちり対策していたし、ベル・ベリト的にイザ・ベルを天音にするのは力の回収的に不都合だったので、その可能性はまずなかったのだが、徹が知りようはずもない。それにイザ・ベルが本気でその気になれば、それは児戯にも等しいことだったのだから、徹の憤りも間違いではない。
<……。>
滝夜叉姫は、それ以上何も言わなかった。徹の怒りは正しいものであったし、九頭竜が自身の大望のために、娘を犠牲にしたのも、間違いない事実であったからだ。
「そんなことより、奴の場所は分かるか?」
<あら、サマナーの方がそれは理解しているんじゃないかしら?>
「ちっ、忌々しいがその通りだ。野郎、誘ってやがる!」
ベルの力の波動が共鳴するかのように、徹にベル・ベリトの存在を教える。それはあたかも一つに戻ろうとするかのように、力自体に意思があるようであった。何より、ベル・ベリト自身が、彼を誘うように気配を隠そうともしていない。それどころか、自分はここにいるぞと言わんばかりの存在感を示している。
<サマナーを喰らって上に行きたいのでしょうね。そのベルの因子とやらで>
「上等だ、死ぬのはどっちか教えてやるよ。全員出ろ」
影からアンジェリカが姿を現し、COMPによる召喚でデーメーテールとペルセポネーとが現れる。
<出番ね>
<ホホホ、親子揃っての初陣とは心躍るものよ>
<サマナーの力の真価見せて貰いましょう>
魔剣を構えた徹の左右に高位の妖精と滝夜叉姫が侍り、後ろを二柱の女神が支える。掛け値なし正真正銘の徹の全力全開であった。
ところで、戦いにおいて、本当の意味で公平公正、全てが平等で尋常な勝負というものがあるだろうか?
答は、実戦ではそうはないだ。誰しも、勝つべくして戦うのだから当然のことだ。夜討ち朝駆け、騙し討ちに奇襲、罠に伏兵など、ありとあらゆる手練を駆使して、勝利をつかむのが戦いというものだ。
故に、全くの同条件での勝負など、実戦ではありはしない。あり得たとしたら、それは戦いではなく、スポーツや試合だろう。命を奪り合う真剣勝負において、フェアもルールもあったものではないからだ。
<だからと言って、最大限まで補助魔法かけて挑むのは、流石にズルくない?>
「ズルくない!あっちだって、待ち伏せしている以上、相応のものを揃えているだろうからな」
アンジェリカが呆れたように言うのに、徹は平然と返す。大体、自分の命がかかっているのだから、格上相手にはこれくらい当然だとすら、徹は考えていた。
徹が覚えている限り、デビルサバイバーのベル・ベリトの霊格は、LV65以上LV80未満だった位にしか覚えていない。流石にもう朧気な前世の記憶だ。しかも、その中でプレイしたゲームのボスの詳細データなど、詳しく覚えているはずもない。前世の記憶を思い出してすぐにメガテンとペルソナ関係は、覚えている限り書き出してまとめてあるが、漏れがないとは到底言えるはずもなく、また細かいところは誤っているものもあるだろうとこと徹自身理解していた。
それに先のイゼベル戦のように、原作知識が足を引っ張ることもあるのだ。自身が事故のような形で今代のア・ベルになったことも含めて考えれば、いくらでも変わる要素はあるのだから。確定情報で絶対の指針ではなく、あくまでも参考資料程度に考えておく必要があると、徹は考えを改めていた。
<用心深さと用意周到さは買うべきではなくて?それで負けては本末転倒だものね>
滝夜叉姫は武家の娘として、当然の心構えだと言わんばかり。彼女にとって勝つということがいかに重いのか、感じられるようだった。
<英雄も準備なくしては勝てぬよ。ヘラクレスのような英雄の中の英雄でもない限りな>
デーメーテールは、良く悪くも人の弱さも強さも知っているのだろう。そして、その範疇に収まらない規格外のことも。
<私まで引っ張り出したのですから、むしろ当然でしょう。出し惜しみはするべきではありません>
ペルセポネーは異界外にまで連れ出されたのが不本意であるようだ。まあ、彼女は異界の主として召喚したのだから、ある意味当然の反応とも言える。そして、そこまでしたのだから万全を尽くすのは当然だという認識のようだ。
「よし、行くぞ!」
そう言って勇んで異界へと侵入した徹達を迎えたのは、灼熱の洗礼であった。6体ものLV57龍王ヤマタノオロチの【アギダイン*1】の嵐が徹達を襲う。
「いきなりこれか、だが!」
徹が先頭かつ炎による攻撃なのが幸いした。そうでなければ、回避型で防御面が心許ないアンジェリカなどはここで墜ちていただろう。
徹は炎を一身に引き受けつつ、魔剣を薙ぎ払った。今回は絶氷の冷気を伴う本来の姿だ。弱点の氷結属性の魔剣は、容赦なくヤマタノオロチを切り裂いていく。
(こいつ、本当にヤマタノオロチか?手応えがない。何かあるのか?)
いかに弱点属性とはいえ、あまりにも容易く葬れるヤマタノオロチに徹は違和感を抱く。
だが、これは徹の考えすぎであった。そも、ヤマタノオロチは九頭竜が仲魔としてストックしていたものを、ベル・ベリトに提供したものだからだ。つまり、デッドコピー品の悪魔召喚プログラムによって召喚されているものに過ぎない。よって霊格は勿論、耐性やスキルも本来より弱体化した悪魔なのだ。
なので、徹の想定より弱く脆いのは当然と言える。それでもHPは霊格相応なのだが、補助魔法最大がけの徹の魔剣による攻撃に耐えられるはずもない。
無論、敵もやられるばかりではない。ヤマタノオロチの後ろから出てきたのは、LV63堕天使ムールムールが6体にLV55堕天使アガレスが3体。前者は【テトラカーン*2】、【パララレイ*3】×4、【死神の点呼*4】、物理反射をしきながら状態異常による即死コンボ。後者は、それでも死ななかった時の純粋な暴力として、【マハザンダイン*5】×3の嵐が徹達を襲う。
しかし、既に第一波を凌いだ時点で、仲魔達は臨戦態勢を整えている。状態異常コンボは、デーメーテールの【エレウシスの祝福*6】の前には無意味だ。そして、マハザンダイン三連発も防壁を削りきるにはいたらない。
そのお返しとして、ペルセポネーが【溶解ブレス*7】を放ってデバフをつけ、滝夜叉姫が【マハブフダイン*8】でヤマタノオロチの討ち漏らしを片付けて全体にダメージを与え、アンジェリカが【風の舞*9】でトドメをさす。たった数秒でベル・ベリトが用意した悪魔の群れによる待ち伏せは殲滅されたのだった。デーメーテールは特に何もしていないが、彼女がそこにいることこそが最大の貢献とも言えるので、徹としても文句はない。
(というか、デーメーテールのあのスキル何?強過ぎない?俺、あんなの知らないんだけど……。ペルセポネーも知らんスキル持ってたし、何母子召喚した特典か何か?)
召喚したデーメーテールのアナライズ結果に驚愕したのは、いい思い出である。ペルセポネーも徹が知らないスキルを持っており、本当に頭を悩ませたのだった。
ソシャゲーをやってなかった徹は、D2の存在は知っていても、その内容までは知らなかったのだ。もし、知っていたら、デーメーテールの人権ぶりに目を剥いていただろう。
<あの程度の悪魔共では相手にもならぬか、人のベルよ>
徹達が、悪魔の襲撃をしのぎきったところに、重々しい雰囲気をもった声が響き渡るのだった。
<あの程度の悪魔共では相手にもならぬか、人のベルよ>
重々しい口調でそう言いながら、俺達の前に現れたのは人型の男悪魔だった。俺の知るデビルサバイバーのベル・ベリトとは、似ても似つかない姿だが、恐らくこれがバアルベリトとしての姿なのだろう。
「大物ぶっての登場ご苦労さん、それしか能が無いのかな?大悪魔強調して嘘八百教えたんだっけ?」
俺はあえて挑発してみせることにした。ベル・ベリトには謎が多い。バアルベリトは、そもそもがソロモンの有力悪魔であるバアルとベリトの名を合わせてつけることで偉大な悪魔であることを強調し、ミカエリスが自身の得た「天使九階級に対する悪魔の階級」の正当性を主張する為に利用したに過ぎないともされる。だが、デビルサバイバーでのベル・ベリトはバアルの欠片、バアルから派生した悪魔という風にされていたと思う。現実にはどちらなのか、確認しておく必要があると考えたからだ。
<我を貶めた唯一神を崇める愚者共に、なぜ貴重な知識を与えてやらねばならぬ?>
なるほど、そういうことなら嘘も分かろうというものである。というか、実際俺が疑うまでもなく、真実性は疑われているので当然かもしれないが。
「なら、お前は、分裂させられたベル、貶められたバアルの欠片たる悪魔ということでいいのか?」
<その理解で構わぬ。意外や意外。思いの外、知性的ではないか>
奴にとって、俺が話し合いから始めたこと意外だったらしい。だが、俺からすれば当然だ。
(これ以上、ベルの力なんていらないんだよー!)
ベルの王位争いなんて、心の底から棄権したいし、なんだったら不戦敗でもいいくらいであるのだから。
「俺には俺の目的があるんでな。でだ、あんた、大人しく帰るつもりはないか?」
<なんだと?>
「俺はあんたに勝っても、ベルの力なんて欲しくないんだよ。王位争いをするつもりもない。俺は一介のDBで十分なんだよ」
(<ガイア教幹部を楽々とぶっ殺す辺り、一介のDBなんて口が裂けても言えないと思うけど……。>)
(<サマナー、一介のDBは、父上に謁見しようなんて絶対に思わないんですよ>)
(<妾とペルセポネーを従えている時点で、一介などとは到底言えぬであろうに>)
(<私と母様を同時召喚できる召喚士が、英雄でなくてなんでしょう?>)
以上、俺が言ったことに対する仲魔達の感想だが、無論この時の俺が知る由もない。
<ククク、無駄よ無駄。ベルの力、いや、引き裂かれたバアルの力は一つに戻ろうとする。お前がどれだけ厭おうと、けして逃れられぬ。分かっていよう?>
「ちっ」
そう、実のところ分かっている。スタンド使いが引かれ合うように、バアルの力も一つになろうとする力が働いている。俺にその気が無くても、向こうから来るだろうし、結局戦いは避けられないのだ。
<やはり、理解しているのだな。お前も、今代のア・ベルなら分かるはずだ。引き裂かれたバアルの嘆きが、唯一神への怨嗟を>
「分かるけど、無視できる程度のもんだな」
<なに!?>
俺からすれば、四六時中邪神様が見ている(ガチ)なのだ。でもって、夢で煽ったりあざ笑ってきたりするクソ野郎にもつきまとわれているのだ。今更、バアルの欠片の言い分など、余裕で聞き流せる程度のものでしかない。
「悪いが、俺には俺の事情があるんでな。というわけで、あんたの野望は潰えたんだ。さっさと魔界に帰れ」
<……どうやら、本当にバアルの意思を無視できるようだな。確かにベルの因子は感じるというのに、なんという異常か>
何やら、俺のベル因子に共鳴による干渉を行っていたようだが、甘い甘い、そんなものシャットアウトしてやったわ。伊達に邪神&ネガティブマインドの化身と長年付き合ってきたわけじゃないのだ。
「無駄なことしてないで、さっさと帰れ。こちとらいつまでもお前に構ってられないんだよ」
それに俺としては、教祖九頭竜の思惑通りになるのも御免である。俺が勝つにせよ、ベル・ベリトが勝つにせよ、目的が果たせることになるので、無敵の人と化していた九頭竜だが、奴の思惑を外してやろうと考えた挙げ句、捻り出した唯一の策が大人しく帰って貰うだったのだ。
<残念だな、お前にはなくても我にはある。お前のベルの力も喰らって、我はさらにバアルに近づくのだ!>
こちらの戦力を見ても、ベル・ベリトの戦意は旺盛だ。つまり、勝てる算段があるのだろうが……。
(俺が思っている通りだとすれば、本気で偶然だけど多分封殺できちゃうんだよなあ……。)
最初のヤマタノオロチの弱さは、恐らくデッドコピーで召喚されたものだからだ。故に霊格も耐性もスキルも大幅に弱体化していたのだ。そうでなければ、日本最高峰の龍ともいうべき八岐遠呂智があんなに弱いわけがない。
だとすれば、堕天使達もそうであろうことは容易に予想できる。実際、氷結が通ったのは運が良かっただけだが、疾風属性の物理攻撃が通ったのは、耐性がない証拠だろう。連中をあっさり一掃できたのは、運が良かったとも言える。
だが、本当にそうだろうか?もし、あの配置が意図的なものであったのなら、元々殲滅しやすく配置されていたらどうだろう。イゼベルのように異界の主として、自身を強化するのに使うつもりでもない。
なぜなら、奴は異界の主ではないからだ。こう判断できるのは忌々しいことに、九頭竜の奴が予め教えていてくれたお陰だ。即ち、異界の核に宿っていると。つまり、本来動かないし、動けないはずなのだ。実際、デビルサバイバーでは、その為にイザ・ベルを便利使いしていた部分があったし、大抵のことは翔門会の信者達を使えばいいのだから、それで良かったのだろう。
しかし、今の奴は、明らかに独立して動いている。異界の主として、縛られていては不可能な芸当だろう。そして、奴がこちらの口上に長々と付き合っているのは、何らかの狙いがあると思うべきだ。ベル・ベリトはけして気が長いわけでもないのだから。
――例えば、信者の一人を潜ませておいて、そいつに何らかの工作をさせるとかな!
そう思うが早いか、ずっと隠れ潜んでいたろう何者かが動き出したのが、気配で分かった。
「この命、主上の御為に!リカームドラ*10!」
(やっぱり、そうか。ヤマタノオロチの配置とか、あの巨体で逃げ道を防がせるのが目的だったわけだ。で、俺達がベル・ベリトの方へ行けば、完全な形で挟み込める。上手くすれば、背後から奇襲になるかもしれないと)
ベル・ベリトは、バアルの欠片たる悪魔だけあって、戦略も達者のようだ。流石に霊格差もあり奇襲を受ければ危ういだろうし、倒したはずの悪魔が瞬時に復活すれば、俺の仲魔達も動揺もするだろう。まして、倒した悪魔以上の数の悪魔が襲ってくれば、ひとたまりも無いだろう。
そう、この異界に入っての最大の違和感。敵の本拠地であるのに、敵が少なすぎるということだ。ベル・ベリトのデビルサバイバーでの用意周到さを考えれば、もっと多くの悪魔がいてもおかしくはないのだ。だからこそ、補助魔法最大がけなんてことまでして用心していたのだから。それなのに、この少なさは異常であった。
その答は、今、目の前に示されていた。全てはこちらの油断を誘い、逃げられぬよう異界の奥に誘い込むための布石。ベル・ベリトはあろうことか、自らの手勢を殺めていたのだ。現世では呆気なく霧散してしまう悪魔であるが、異界内であれば話は違う。ましてベル・ベリトの支配下にある異界内であれば、その存在をとどめておくことは不可能ではないのだろう。そうして、こちらが万一にも逃げ切れぬほど深入りしたところで、狂信者の魂を犠牲にして全体を蘇生。数と霊格差で圧殺するという計画だったのだろう。
(まさか、ペルセポネーを連れてきたことがこんなところで刺さるなんてな。万全の体制で来て正解だったな)
「やれ、デーメーテール」
<サマナー、汝はどこまで読んでいたのだ?そら恐ろしいことよ。だが、こうなれば妾も働かざるをえまいよ、メギドラ*11>
デーメーテールの放ったあらゆる耐性をものともしない万能属性の全体攻撃によって、呆気なく悪魔の群れは一掃されたのだった。
<ば、馬鹿なこんなことがありえぬ!いくら万能属性とはいえ、霊格差もあるというのに、全てを滅ぼせるわけがない!>
ベル・ベリトが、目の前のあり得ぬ光景に驚愕を露わにする。実際、ありえない光景だろう。タネを知らなければ、メギドラを受けたところで、全ての悪魔は生き残っていたはずなのだから。
<私の前で、冥府の理を冒す安易な蘇生は許しませんよ。見事です、サマナー。私を引っ張り出したその慧眼に敬服しましょう>
ペルセポネーが、してやったりと誇らしげに笑う。これこそが彼女の持つ俺が知らないスキルの効果だ。その名も【ザクロの制約*12】という。
正直、何の意味があるのだと思っていたのだが、実際に体験すると恐ろしい効果だ。蘇生魔法が台無しにされる。ほぼ瀕死と言っていい状態での蘇生では、戦力になるどころか、即座に再殺されるだけなのだから。これは集団戦において、非常に強力でえげつないスキルと言えよう。
(すいません、買い被りです。完璧に偶然です)
改めて忠誠を誓う両女神には、口が裂けても本当のことは言えない。
「さて、覚悟はいいかな?」
こちらは未だ補助魔法最大がけの状態、死んだ悪魔の中には解除できる悪魔がいたのだろうが、全滅してしまっている。その状況下で、霊格差があるとはいえ、1対5。如何にベル・ベリトが強いとは言え、ここからの逆転勝利は不可能である。
<馬鹿な、我が敗れるというのか!?ありえぬ、あってはならぬ!>
自身の敗北を悟ったのだろう。喚き散らすベル・ベリトを、俺達は寄って集って滅ぼしたのだった。
――数の暴力、素晴らしいね!
【リカームドラ】について
この自己犠牲魔法は、メガテンにおいても、作品によって効果が違います。よって、蘇生+完全回復が可能なものを蘇生不可能なものとして扱い、単純にHP&MPだけを完全回復するものを蘇生可能なものとして扱うことにします。