「ヤバイ、マジでヤバイ。本気で強くなり過ぎた」
俺は異界の修練場で一人焦りまくっていた。霊格は今やLV63。60の大台に乗っていた。メガテンの作品によってはクリアレベルに該当する強さである。それを証明するかのように、魔剣抜きでも、俺の炎は反射も吸収も抜けるようになってしまっていた。それどころか、魔剣を持てば【凍炎変化*1】【両炎神化*2】なんてものが使えるようになってしまった。こんなんが在野にいるとか、どこの野生のラスボスだろうか。
「制御自体は出来ているけど、これは確実にバレる……」
九頭竜の思いも寄らぬ潔さと完全に偶然なベル・ベリト封殺によって、みこに気取られることなく、帰還には成功したのだが、ベル・ベリトの異界での戦いが余りにおいしすぎた。霊格が10以上も上がってしまっている。これではみこに気づかれないのは、不可能であろう。100%問い詰められる未来しか見えない。
「ペルソナも進化してるし、これ100%ベルの力の影響だよな」
自身の専用ペルソナ『LV45アステリオス改』は、いつの間にか『LV68雷光のアステリオス』に進化していたのだ。よくよく考えると、専用ペルソナのアルカナ『刑死者』だったのがア・ベルであることの暗示だったのかもしれないと思ったりもしたが、それ以上考えるのを止めた。最早、なってしまった以上、どうしようもないことなのだから、これ以上無駄に考えるのは、精神衛生上よくないからだ。
そんなことより、今一番大事なことはどうやって誤魔化すかである。みこが学校から帰ってきたらアウトだ。その前にどうにかしなければならない。最早、魔封環などではいくつつけようが、なにも意味を為さない。何よりベルの力の波動がアウト過ぎる。独特の波動で、明らかに因子所持者に分かってしまうからだ。これでは平穏な生活など望むべくもない。
ベル・ベリトは、まだ他のベルの悪魔を吸収していなかったようなので、原作通りだとすれば、ベル・デルこと北欧の光の神バルドル、ベル・イアルこと「無価値なもの」を意味する大悪魔ベリアル、ベル・ゼブブこと魔界の副王たる蝿の王ベルゼブブ、怠惰と好色を司る悪魔ベルフェゴールにレメゲトン序列一位の大悪魔バエル。バ・ベルに到るには、少なくともこれだけの悪魔を下さねばならないのだ。
故に、不幸中の幸いだが猶予はあるし、なし崩し的にベルの王になるなんてことはまずないだろう。
とはいえ、このベルの力の波動、いや、正しくはバアルの力の出す波動だが、一つになろうという意思があるのだ。幸い俺自身は無視できるが、他の悪魔達はそうではないだろう。いや、デビルサバイバーでの反応を見るあたり、ベルゼブブやベリアルあたりは無視してそうだが、直接遭遇すれば、それはそれとして嬉々として殺しに来そうな気もするので、余り意味は無い。結局、ベルの悪魔に狙われるのは、何も変わりがないのだから。
「これって公にお願いするしかないんじゃないか?」
ぶっちゃけ、かつて至高天にも到ったバアルの力の波動を誤魔化せる程の力を持つ存在なんて、現状公以外思いつかないのだから。もしかしたら、クズノハならどうにかできるかもしれないが、ベルの王位争いをバラすのは論外なので、頼れない。というか、わざわざ黒騎士単独で翔門会を潰したことが無意味になってしまう。今回のことは、あくまでも翔門会と『
<父上なら不可能ではないでしょう。でも、よくて?父上からの褒美なんて、滅多にあるものじゃないと思うのだけれど>
俺のその言葉に、傍らで見物していた滝夜叉姫が、公の褒美を力隠す為に使うのは流石に勿体ないんじゃないかと確認するように言ってくるが、俺にとっては死活問題である。
「それでベルの王位争いを避けられるなら、平穏な生活ができるなら安いもんだよ」
<前者は兎も角、後者は不可能だと思うけど……。>
どこか呆れたように言う滝夜叉姫の言を、俺が全力で聞かなかったことにしたのは言うまでもない。
<なるほどな。急ぎ、一人で謁見したいとはこういうことか。確かにまずかろうな>
あらかじめ滝夜叉姫に繋ぎを頼んでいたおかげで、徹は二度目の公との謁見を成功させていた。流石は東京の守護神である平将門公。徹を一目見ただけで、即座にその状況を理解したらしい。
<結界を守るだけでなく、首尾よく元凶をも討ち果たしたのだから、褒美をくれてやろうとは思っていたが、そなたの方は決まりだな。そのままにはしてはおけまいよ>
「おお、それでは力と波動を封じる何かを頂けると?」
まさかの快諾に、徹は勢い込んで言うが、公の答は徹の予想したものとは異なるものであった。
<うむ、それなのだがな。力の波動を封じることはできるが、完全には無理だ。なにせ、あのバアルが一つに戻らんとするためのものだからな。いかに我であっても、完全に封じることはできぬ。が、誤魔化すことはできる。少なくとも因子持ちのベルの悪魔達にしか察知できぬようにすることはできる>
「本当ですか!それだけでも助かります」
今の徹の状態は、全力でメシア教に喧嘩売っているといっても過言ではない。なにせ、メシア教の唯一神たる聖四文字が名指しで大敵としているのが、バアルなのだから。その力を持っているというだけで、命を狙われる理由になるのだ。
<うむ。だが、慌てるな。まず、元凶たる悪魔は何か残さなかったか?>
「ええと、一応ガントレットみたいなものを残しました。後、こんなのもあります」
徹が陰から取り出したのは、西洋甲冑の籠手だった。それは中々にしっかりとした作りで、美しい艶があり、それでいて重厚な雰囲気を持っていた。ちゃんと両手分あり、不思議と徹の手に馴染むというか、つけろという主張が強かったが、流石の徹もつける気にはなれなくてしまい込んでいたのだ。もう一つは、九頭竜から報酬として渡されたアタッシュケースに入っていた禍々しい雰囲気を持った直剣だった。
<なるほど、両手分あるのだな。ふむ、こっちの災禍の剣*3は特定の者を呪った魔剣か>
「ええ、元凶の協力者が私に渡してきたものです。恐らく元凶を呪うものなのでしょう」
そう、九頭竜はあんなこといいながら、ベル・ベリトに勝たせる気は欠片もなかったのだ。その証拠に、確りとベル・ベリトを背中から刺す刃を用意していたのだ。それを徹への報酬として渡すあたり、本当にいい性格をしている。
(あのおっさん、マジで食えない人だったわ。幸い使わなくて済んだから良かったけどさあ、使うことになってたら、いいように動かされた感が凄かっただろうなあ……。)
徹がケースの中身を確認した時は、本気で戦慄したものである。まあ、それもあって格上の異界に特攻なんてことができたわけだが。結果として、使わずに済んだことは僥倖であった。
<クカカカ、その協力者とやらは、中々にいい性格をしていたのだな。では、こうするか――フン!>
公が腕を一振りすると、一瞬の稲光と共にガントレットは一つになり、そこに直剣が溶け込んで徹の左腕に装着されていた。
「これは?」
自身の為に誂えたかのようにピッタリで、不快感はまるでない。それどころか、体の一部のようにさえ感じられる。
<気配を濃くする為と受容体として強固にするために一つにさせてもらった。これ以降は基本的に外してはならぬ。直剣の対象を呪い、封じこめる効果をもってお前のバアルの力の波動を封じるだけでなく、霊格もある程度制限できる。これならば、バアルに縁のない者にはバアル由来の籠手としか思われまい。メシア教も、流石に装備一つに目くじらを立てるほど暇ではないであろうからな。但し、それにバアルの波動を集中させた結果、ベルの悪魔達と直接会えば確実に悟られるだろうから留意せよ>
(ガントレット?ガントレットと言えば、4のサムライ衆。これ4のあれみたいにできないかな?)
一つになった漆黒のガントレットが、そこにあるのが当然とばかりに徹の左腕で存在を主張する。ふとそれを見て、徹は一つのことを思いついた。
「ありがとうございます、公。……あの大変不躾ではありますが、この籠手にこちらも収めることはできるでしょうか?」
徹はそう言って、悪魔召喚プログラムが入った軍用の高性能小型端末を取り出す。
<ぬっ、正規の悪魔召喚プログラムか?何者か知らぬが、これを作った者は超常の天才よな。これを籠手に収めよと、ふむ>
「私にとっても命綱であるものです。こちらを外すことができぬというのなら、籠手に収めて守れぬかと思いまして」
<なるほど、いかに手を尽くしても、ある程度の脆弱性は消えぬか。まあ、我が娘の依代でもある。よかろう、その方の願い聞き届けよう>
小型端末がふわりと浮くと、次の瞬間左腕に装着された籠手に溶けるように消えた。だが、表面上籠手には変化がないので、失敗かと徹は不安になる。
<慌てるな、悪魔召喚プログラムを使いたいと念じてみよ>
「はっ、はい」
半信半疑でそう思って籠手に触ると、籠手の表面に端末の画面が現れ、悪魔召喚プログラムが使える状態になった。
<うむ、我ながら上出来だな。籠手が消滅させられない限り、壊れることはない。だが、完全に一体化させたので最早分離はかなわぬぞ?>
「あ、ありがとうございます!それで一向にかまいません」
言ってみるものだと徹は、内心で滅茶苦茶喜んでいた。なにせCOMPの弱点の一つを完全に潰せたのだから。電源は、元々マグネタイトバッテリーだったので、充電は必要ないが、精密機器であるが故の脆弱性はどうしようもなかったのだ。それが今、完全に克服されたのだから、徹が喜ぶのも無理もない話であった。
<そなたは、どのような形であれ、この東京をひいては日本を救ったのだ。これくらいの褒章はあってしかるべきであろう>
「本当に感謝に堪えません、公」
徹は深々と頭を下げる。そこには心からの深い感謝と誠心がこめられていた。
<よいよい、これからも日本と民の為につくすがよい。五月、そちはどうする?>
<はい、父上。今しばらく、この者、いえ、我が主の行く末を見届けたいと存じます>
滝夜叉姫は、あえて言い換えてはっきりと答えた。
ベル・ベリトとの戦いで忠誠を改めた両女神同様、これまでの道中で彼女にも思うところはあったようだ。
<ほほう、五月がそこまで認めるとは、余程の武者ぶりだったと見える>
「ありがたき仰せなれど、公はよろしいので?」
<元より五月はそなたに下賜した者。我が娘にとっても良き滋養、良き娯楽になろうよ>
滋養は霊格が上がっていることをさしているのだろう。LV45だった滝夜叉姫の霊格は今やLV60だ。後に本体に還元されることを考えれば、確かに滋養と言って差し支えないだろう。
「滋養は分かりますが、娯楽ですか?」
<そうだ、このわずかの間にバアルの力などという特大の厄介ごとを持ってくるのだ。そなたの生はさぞかし波乱に満ちたものになろうよ。傍から見るには良き娯楽だと思わんか?>
「流石に同意しかねます、公」
公のいうことには、基本的にNOという気はない徹だったが、流石にこればかりは意地でも認めるわけにはいかなかった。
<クハハハッ、許せ戯言よ。そなたはそなたの思うように生きるがよい。未来を知っているかもしれぬが、それに囚われることなくな。安心せよ、そなたひとりでどうこう出来るほど、この世界は温くない>
「はっ、金言ありがたく」
<そなたの相方である娘には、この弓を渡しておけ。来歴は定かではないが、神弓と言って過言ではない力を持つ弓だ。あの娘は、本来なら我に謁見できるほどの力を持っていなかったのだからな>
どうやら、礼を尽くしたとはいえ、みこは地力が足りていなかったようだ。あの謁見でみこの存在が認められたのは、あくまでもメインが徹で相応の力を持っていたからのようだ。以前より霊格が上がった今は分からないが、公との謁見が、肉体的にも、精神的にも、霊的にも、酷く消耗を強いられるものであることは間違いないだろう。そういう意味では、公の配慮はありがたいものであった。徹としても、一人だけで謁見したことに対する理由になるので、いうことなしである。
「はっ、では、失礼します」
<五月、そちは少し残れ。安心せよ、少し個人的に聞きたいことがあるだけだ。それを聞いたら、すぐに戻す>
<はい、父上>
「分かりました、では、私の仲魔をお願いします」
徹は、少し訝しげにしたものの、親子水入らずで話したいこともあるのだろうと納得して、先に異界から脱出した。
<さて五月、そちはあれをどう見た?運命に選ばれた者ではないだろうが、確かにあれは一つの滅びを覆して見せたのだから>
<はっ、確かに運命に選ばれていないのは間違いではないでしょう。我が主には、今回の件と何の因果も見出せませんでした。しかし、我が主が無視できない力を持っているのは間違いありません。そして、天運も持ち合わせております>
そう言って、滝夜叉姫はベル・ベリト戦について語った。仲魔中唯一滝夜叉姫だけは、あの嵌め殺しが偶然の産物であることに気づいていた。これは滝夜叉姫が、今回の件では四六時中召喚されていたからだ。隠形しながら、常にそばにいた滝夜叉姫は、おおよその徹の考えを把握していたのだ。
<なるほど、愉快痛快とはこのことよ。あれは運命に選ばれてはいないが、定められた筋書きを乱す特異点とはなれるやもしれぬ>
<はっ、私もそう思いました>
<なれば、しかと見届けよ。あれが運命にさざ波を起こしたに過ぎない投げ石で終わるのか、それとも運命を壊す変革者となるか。いずれにせよ、あれは英雄だ。退屈とは無縁であろう>
<はっ、私としても今生程度は付き合ってもいいと考えております。フフフッ>
<うむ>
どこか楽し気に笑う滝夜叉姫に、満足げに公は頷くのだった。
どんな形であれ、東京救っていますからねえ……。