ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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やだ、俺、存在自体が厄過ぎじゃね?

 さて、世間とは狭いもので、まさか幼馴染みの親父さんが霊地の守護者とか予想できるはずもなく、未だ完全に世界観を把握しきれていないどころか、怒濤の情報の洪水で、徹は完全に混乱していた。

 なにせ、女神転生&ペルソナな世界だと思ったら、全く関係ないエロゲの登場人物が出てきたのだから、混乱するなというのが無理だろう。そんな混乱している最中に、やらかした側がやらかされた側に言いくるめられるのも仕方のないことだろう。気づけば徹は、幼馴染みである『神山 みこ』の護衛をすることになっていた。

 

 いや、悪魔が蔓延る裏世界になんの後ろ盾も伝手もない徹にとって、後見や紹介はありがたいものではあったし、実際助かるのも事実であったが、強引に押しつけられた感は否めない。原作においても厳格で親馬鹿の類ではあったが、ここでもそれは変わらないようであった。

 

 「なんだか、上手いこと言いくるめられたような気がするな」

 

 釈然としないものを感じていたせいか、ついつい言葉が出てしまう徹。

 

 「父様がごめんなさい。でも、私は嬉しいです。徹君も一緒だなんて」

 

 その様子にみこは敏感に反応し謝ってくるが、それ以上に隠しきれない嬉しさが表情に浮かんでいた。

 

 (そんなに嬉しそうに言われると、文句言えないわ。やらかしたのはこちらだし、両親にも上手いこと話してくれるだけ御の字ではあるか)

 

 流石の徹も、今生において幼い頃から付き合いのある少女の感情を無碍に出来るほど、すり切れてはいない。

 むしろ、ニャルラトホテプの記憶封印のせいで、肉体に精神面が大いに引っ張られているため、本来の年齢ほど達観も出来ていないし、割り切れてもいないのだから。ここら辺は、流石に愉悦的にいい仕事をしているネガティブマインドの具現であった。

 

 「いや、いいよ。俺も力になれて嬉しいよ。門限とか色々厳しかったけど、まさか巫女としての修行だったとはね」

 

 この世界におけるみこは、ただの少女ではない。類い希な異能者としての才能を持った覚醒者だ。

 彼女の家はこの地で細々と血を繋げてきた異能者の家系なのだが、みこは歴代最高と言ってもいい才能の持ち主だったらしい。誕生してすぐに近隣の有力な守護者の家の一人息子に嫁入りが決まったぐらいだというのだから、余程のものであろうことは間違いない。彼女の父親が厳格で過保護になったのも無理からぬことではある。

 まあ、その有力者の家がメシア教に霊地を奪われた挙げ句、皆殺しになったので、縁談自体が消え去ったわけだが……。

 

 「徹君が力を持っているのは、私も父様も把握していました。勘とか言いながら、百発百中で凄かったですし。徹君がいたお陰で、父様も皆と遊ぶのを認めてくれたんですよ」

 

 みこはそう言って、微笑む。何気に原作ブレイクしていたことに徹は気づいていなかった。原作の彼女は、毒親レベルの過保護と束縛で、高校になるまで交友関係すら制限されていたし、門限は17時であったのだから。

 だが、ここでのみこは、小学生の時点でも相応に自由を得ているのだ。

 

 「はははっ、昨日までは本当に把握していなかったんだけどなあ……。そんな形で役に立っていたとは知らなかったよ」

 

 「覚醒すれば、良くも悪くも世界は変わります。だから、父様は気づかず目覚めなければ、それはそれで幸せなことだと言っておられました」

 

 みこの言葉には、少なからぬ重みがあった。それは彼女自身が体感したことなのだろう。

 

 「みこちゃ「駄目です」……へっ!?」

 

 「これからはちゃん付けは駄目です。私達ももう中学生になるんですから、呼び捨てにしてください。私もそうしますから」

 

 それはみこが勇気を振り絞った言葉であり、彼女の強い願いによるものだ。

 中学以降、彼女は本格的な修行に入り、幼馴染み達と今まで通りの交友関係は不可能で、疎遠になることは決まっていたのだ。唯一こちら側に来る可能性があった徹だけはその限りではなかったが、中学になるまでに覚醒しなければ同じことであった。

 

 常人とは違う特別な力を持っている、子供ならそれは有頂天になっても仕方のないことだ。

 しかし、みこはそれを喜んだり得意げにひけらかすような真似をするような娘ではなかった。むしろ、彼女は自分だけ違うのだという孤独感を深めた。特に仲のいい四人の中で唯一異なるのは自分だけというのは、気持ちのいいものではなかった。

 故に、徹も力を持っていると知った時、みこは嬉しかったのだ。孤独ではないと知れて、身近に同胞がいると知れて……。実のところ、誰よりも徹の覚醒を望み、喜んでいたのは彼女かもしれなかった。

 

 こうして覚醒して、自分の傍にいてくれて、これからも傍にいてくれることが何よりも嬉しい。それがみこの偽らざる本音であった。だから、彼女はなけなしの勇気を振り絞った。今までの仲のいい友達関係から一歩進めて、自分と徹だけの特別を求めたのだ。

 

 「……。」

 

 いきなりだったので、さしもの徹も真意は読めない。それが恋慕によるものか、友情の延長でしかないのかは定かではない。だが、みこが、引っ込み思案で瑞穂の陰に隠れていることの方が多い少女が、勇気を振り絞って強固な意思表示をしたのは、理解できた。

 

 「……駄目ですか?」

 

 消えいるような声で顔をうつむかせるみこに、徹の答は一つしかなかった。

 

 「駄目じゃないさ。分かった、これからみこと呼び捨てにさせてもらう。改めてよろしくな、みこ」

 

 「は、はい、こちらこそよろしくお願いします……徹」

 

 徹の言葉に花が咲いたように微笑み、恥じらいながら徹の名を呼びすてにするみこ。

 お互い、なぜか気恥ずかしくなって顔を赤らめ、微妙な空気が流れた。そこを邪魔するかのように、密かに隣室で様子を伺っていたみこの父親が割って入ってくるのだが、この時ばかりは二人とも内心で感謝するのであった。

 

 

 

 

 

 中学初日、俺とみこは廃工場にできた小規模異界の攻略に狩りだされていた。

 

 「うーん、確かに中学生にはなったけど、入学初日に早速これかー」

 

 歳月が過ぎるのは早いもので、俺が前世の記憶を取り戻して三ヶ月余りが過ぎた。思い出した記憶と今の世界での現実との擦り合わせに、突然降ってわいたかのような力の制御など、やるべきことは余りにも多く、気づけば年が明けて新年どころかもう中学生である。

 正直、未だに混乱はある。いや、だってメガテン&ペルソナはまだ分かるよ?でも、アトラスと全く無関係のメーカーのPCエロゲ『下級生』がそこに混入しているとか、どう考えても理解に苦しむ。それとも、俺の知らぬとこでソシャゲでコラボでもしたのだろうか?

 

 「すいません、父様がせかしたみたいで……」

 

 みこが申し訳なさそうに言ってくるが、実はこちらとしては渡りに船なので、謝る必要がない。むしろ、みこの親父さんにばれたせいで、勝手に異界に入っての活動するのが禁止されたことの方が痛いくらだった。

 なにせ、滅亡案件がゴロゴロ転がっているメガテン&ペルソナ世界である、一刻も早く強くなるべく、俺がレベルを上げたいと思ったのは無理もないだろう。

 

 「いやいや、謝る必要はないよ。必要なことではあるしね」

 

 異界に侵入する前に、基本的な悪魔業界の常識や不文律を教えて貰えたのは大きいし、なんなら、基本的な術法さえもみこのついでとはいえ、仕込んで貰えたのだから感謝しかない。

 神社経由で、野良悪魔のと討伐依頼を受けられたのも地味に大きい。親父さんからすれば、俺の腕試しだったのだが、俺のレベルは記憶を取り戻した時点でLV10だったのだ。異界外に出て、僅かなマグネタイトだけで活動できる程度の格しかないレベル一桁代の野良悪魔など敵ではなかったのだ。ぶっちゃけ、瞬殺だった。お陰でレベルなど一つも上がっていない始末。これはまずいと真剣に危機感を覚えたものである。

 

 「徹は本当に凄いです。幼い頃から修行していた私なんかよりずっと強いですし」

 

 恥じ入るようにみこが言うが、俺から言わせればみこの方がずっと凄い。神山神社始まって以来の才能というのに偽りはなかったらしく、彼女のレベルはLV5だった。メガテン主人公達の初期レベルと一緒だ。LV5とは思えない習得スキルの多さにも驚かされた。きちんと幼少から修行した人間の強さというやつを思い知ったさ。

 

 そして、そんなみこを容易く上回る強さを持っているのが俺だった。

 

 (邪神ブーストのお陰だから、素直に喜べないんだよなあ……。)

 

 みこが異能者としての孤独、人と異なることに寂しい思いをしていたとは聞いたが、確かに実際そうなってみるとくるものがある。完全に自分が人から外れているのだという自覚がある。なまじ、完全に忘れて普通の人間として生きてきたからこそ、余計にだ。

 

 (記憶封印したの、100%嫌がらせだろ!あのクソ野郎!)

 

 いや、全く感謝していないわけではない。記憶封印されていなかったら、前世の記憶から即座に下級生が混じっていることを看破して、その主要人物である幼馴染みとは関わらなかったはずである。記憶が確かなら、健太郎は主人公のデフォルトネームを漢字にしたものだし、瑞穂はメインヒロインで、みこも言わずもがなだ。エロゲ主人公とそのヒロインに誰が好き好んで近づくだろうか?少なくとも俺は絶対にしないと断言できる。なので、感謝もあるが同じくらい恨みもあるのだ。

 

 「それにしても徹の炎は、本当に凄いですね。炎に強い悪魔もいたのに、問答無用で燃やしちゃうんですから」

 

 火属性の攻撃は悪魔業界では珍しくない。当然、その力をもった悪魔だって数多くいるし、火炎耐性は結構メジャーな耐性だ。

 しかし、流石はコズミックホラーの邪神の神炎である。火炎耐性なんてなんのその。そんなの関係ねえと火炎無効のカソすら、あっさり燃やし尽くしたのだ。

 

 「正直、俺もこれほどとは自分でも思っていなかったよ」

 

 苦笑しながらみこに応えるが、その実内心は冷や汗だらだらだった。

 

 (クトゥグアの力強すぎる!デフォで貫通とかヤバ過ぎるだろ!こんなんバレたら、絶対目をつけられる!)

 

 LV10で貫通持ちとか、ありえなすぎるにも程がある。絶対危険視されるに決まっている。良くてスカウト合戦で、どの組織も放っておいてはくれないだろう。

 こうなると、正直ペルソナをメインにしてクトゥグアの力は奥の手にしたいが、クトゥグアとの約定でそれはできない。ペルソナ能力の所持を見逃す条件なので、反故に出来ようはずもないのだ。

 

 「そうなんですか?自在に使いこなしているように見えたんですけど」

 

 みこの目から見て、並み居る悪魔をあっさり葬り去る俺は頼もしく自在に力を使いこなしているように見えたのだろう。

 

 「実はそうでもない。ぶっちゃけ、加減がきかないんだ。親父さんにはそこら辺見抜かれてて、みこを巻き込んだりしないように野良悪魔討伐で練習させられたんだよ」

 

 だが、実情はお寒い限り。自由自在ではけしてない。流石にフレンドリーファイアをすることはないが、精々出力を大中小に切り替えるくらいであり、それも完全に上手くいってるわけではない。アギ位の出力を出そうとしているのに、出るのはアギラオ位の炎なのだから。そのせいで、悪魔達は完全にオーバーキルである。

 

 「徹だけで討伐に行っていたのは、そういうことだったんですね」

 

 討伐依頼に同行させて貰えなかったことを何気に気にしてむくれていたからな。ようやく納得がいった感じか。

 

 「ああ、それに炎だけじゃなくて、こっちも試さないとな」

 

 腰に差した妖しい雰囲気を漂わせる刀に手をやる。

 

 「……あの、それ、もしかしなくても妖刀ですよね」

 

 「ああ、うん。あの魔剣は強大すぎておいそれと使えないからって、倉から代用品の武器を貸してくれるという話だったんだけど」

 

 クトゥグアから贈られた魔剣にされたアフーム=ザーは、れっきとした神である。俺が使う分には問題ないようだが、強過ぎるという指摘はその通りなので、俺は素直に頷いたのだった。

 で、その代用品が妖刀というのは、別に親父さんが悪意を持って用意したわけではない。

 

 「確かそれ、倉の最奥に封印されてて、父様は絶対に触るなって言ってたと思うんですが」

 

 「うん、俺も聞いたよ。三百年以上封印されていた曰く付きの妖刀だって。でも、倉に入った瞬間、抜き身でこいつが飛んできたんだよね」

 

 親父さんも驚愕していたが、俺も吃驚である。なにせ、突然目の前に真剣が飛んできたのだから。

 

 「……刀の方が選んだと?」

 

 「親父さんは妖刀に見初められたと言っていたな」

 

 「父様は反対しなかったのですか?」

 

 「いや、勿論されたし、他の霊刀とかをすすめられたよ。でも、こいつ主張が強くてさ」

 

 他の武器を選ぼうとすると、即座に飛んでくるのだ。封印されてたんじゃないのかよと突っ込みを入れたくなった。

 

 「それで使うことにしたんですか?」

 

 「まあ、根負けしたというのもあるし、これも何かの縁だと思ったからな」

 

 恐らく妖刀が反応したのは邪神関連だからだろうし、もしかすると普通の霊刀や聖なる武器とかとは相性が悪いかもしれないなどと思ったからでは、けしてないのだ。

 

 (ああっ、ひたすらに厄ネタだけが増えていく……。)

 

 内心でぼやくが、目の前の現実は変わらない。

 前方から迫る悪魔の気配に、不思議と手に馴染む柄を握り、その妖しいとしか表現できない刃を抜き出す。

 瞬間、あふれ出すマグネタイトに己を支配するような感覚がはしるが、それをものともせず逆に支配し返す。

 

 (こちとら、コズミックホラーの邪神様とネガティブマインドと強制圧迫面接させられたんだぞ。今更、お前程度に支配されるか!)

 

 そして、妖刀の中にある剣術の記憶を強奪する。というか、これが出来なければ刀など扱えない。

 なにせ、今世では健太郎に付き合って体は鍛えていたが、剣術どころか、剣道すらやったことがない。精々、前世で中学の時にやったぐらいで心得はまるでないのだから。

 

 「自分から俺に繋げてきたのが運の尽きだったな」

 

 迫り来る餓鬼を一刀両断にしながら、不敵に笑う。

 そも、フィレモン式ペルソナ使いの条件は、どんな仮面を被っても自己を見失わない精神をもつ者なのだから。

 一瞬でも俺を支配して傀儡に仕立て上げようとしたことで、こいつは俺の仮面になったのだ。

 

 「本当に凄いです!」

 

 反則しているようなものなので、みこからキラキラした目で見られるのが辛い……。

 

 (いや、マジで君の方が凄いし、えらいんだよ!)

 

 内心で思っていることを声を大にして言いたいが、みこは自分が異能者として優れていることを喜ばないのでそれはできない。

 

 (邪神の炎に貫通、オマケに妖刀まで……。)

 

 これ、真っ当な退魔組織は受け容れてくれないんじゃないかと、将来がますます不安になる俺であった。




みこは異能者として覚醒している関係で、原作の天然ぼけは大分なりを潜めています。

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