みこによる大和の治療が済み、その時、「完全艤装状態で艤装を全損する回復魔法で直らないことが判明したりしたが、今優先されるのは、何よりも大和の所属であった。
本人にも聞いたのだが、大和自身は、「皆さんにお任せします」とだけ言った。どうやら、自分がとんでもない爆弾になり得ることはなんとなく理解出来ているようだ。それに少なくとも、この場にいる者達なら、そう悪いようにはしないだろうと信用してくれているらしい。
だからこそ、本人にとって最善の道を用意したいところである。
「それで大和のお嬢さんについてだがな、徹、お前さんにお願いしたい。いや、正確には卯月神社所属の異能者としてではなく『
「ふむ、その心は?」
「神出鬼没の
「そうですね、私達が保護するとなれば、流石に実家が所属する退魔組織が黙っているとは思えません。詳細の報告と戦力としての活用を求めてくる可能性は高いでしょう」
徹とみこは、ほぼ独立状態とはいえ、籍自体は卯月神社にある。最早、特記戦力といっていい徹とみこにもの申せる者はまずいないが、一応、所属する組織の命令に従う立場ではある。大和という特記戦力が棚ぼたで手に入るとなれば、戦力として利用したいという欲を抑えられるとは思えなかった。
「大和さんの霊格50だもんな。艦体呼び出せることを知らなくても、戦力としては十分過ぎるからな」
みこの懸念を徹は正確に理解する。地方においては、霊格30がおおよその上限だ。悪魔も人間もそこまで強くないのだ。だからこそ、徹とみこはほぼ完全な独立行動権を持っているし、大和という戦力がいかに過剰な暴力であるか、理解出来る。なんだったら、大和を確保するだけで、地方においては敵がいなくなると言っても過言ではない。政治的にも物理的にもだ。
「「そして、それはクズノハとて例外ではない。最近も新藤のゴタゴタがあったばかりだしな。組織としての歴史が長い分、どんな魔物が潜んでいるとも限らん。何より恐ろしいのは、善意の志願者が現れかねないことだ」
亀山のなんとも言えない複雑な表情に、徹は純粋に疑問を覚えた。
「善意の志願者ですか?一体なんの?」
「クズノハで保護するとなれば、大和のお嬢さんに関する資料は、必然的に我々が接収することになる。大和のお嬢さんの治療や経過観察の為に必要であるからな。とはいえ、原理を理解し、細かい研究資料もあれば、恐らくクズノハは再現できてしまう。そして、こんな方法があると知れば、戦える力は無くとも、憑坐としての才能がある者の中には、必ず志願する者が現れる。護国の為に戦うことを諦めていた者にとっては、道が開けるわけだからな」
「そ、それはなんとも……」
「善意であり己が意思で臨むからこそ断りがたいですね」
徹は、クズノハの護国ガンギマリ精神に本気でひいたが、みこは痛ましそうに呟く。戦えない無念さというのは、実父を思えば、彼女にとっては他人事ではない。
「うむ、厄介なことだ。クズノハとして正しく育ったからこそ、そういう結論に行き着くのだからな。儂らも頭ごなしには反対できんだろう。だがな、かの永世ライドウが命がけで阻止した超力戦艦計画。その系譜に連なる技術を、我々が護国を名分にして使うことなど、あっていいはずがないのだ。それはかつてのヤタガラスや旧日本軍と変わらぬ行いだ」
亀山にも相当の苦悩と葛藤があるのがよく分かる。大和という特記戦力を組織に内密にしなければならない上に、それは、護国の志を抱きながら戦う力に恵まれなかった者達の、一つの道を閉ざすことでもあるのだ。
(帝都守護役にして、四天王筆頭であるライドウの名はやはり重いか。ましてそれが永世ライドウともなれば、当然か)
クズノハ四天王の名が持つ重みを改めて実感しながらも、徹は亀山の結論に黙って頷いた。ここで余計なことを言うべきではないと判断したのだ。
亀山からの依頼が確定した以上、早急に動かなければならない。研究資料の回収は勿論、拠点そのものも跡形もなく燃やし尽くす必要があるのだから。ここからは、徹ではなく焔の黒騎士の時間だ。
「では、行ってくるよ」
「徹、どうか御武運を」「先輩、お願いします」「徹先輩、大和さんをどうか……」
漆黒の全身鎧に身を包んだ徹は、みこと後輩二人の声を受けながら、大和を抱き上げたまま走り出した。
「いえ、不満はありませんけど、この格好で行くんですか?」
異性に抱えられ、大和は恥じらいを隠せない。なにせ、お姫様抱っこだ。
「すまんが、おんぶだと加速の邪魔になるんでな。君には奴らの拠点へ道案内をして貰わないといけないし、何より機密フロアには君じゃないと入れないだろうからね。申し訳ないが我慢してくれ」
そう言うや否や、焔の黒騎士は地面を蹴って跳躍した。そして背中から炎を噴射し、一気に加速する。
「本当に早いですね。空を駆けているのも同然というのもありますけど、車より速いですよ。覚醒者って、悪魔なんかより余程人間離れしていると思います」
凄まじい速度でかつての家へと向かう黒騎士。その腕に抱えられた大和は、唖然としながらそんな感想を漏らした。
「まあ、高位の覚醒者って、基本的に化物揃いだからなあ。あっ、魔法で保護しているけど、寒かったら言ってくれ」
「私、もう悪魔なんですけど、暑い寒いとか、関係あります?というか、魔法って……いえ、今更ですね」
徹の問いに、どこか呆れたように返す大和。さりげなく魔法を使っていたとか、突っ込みたいところだったが、これまでのことを考えれば何ら不思議ではないと、それを呑み込んだ。
「暑いも寒いも、生きている以上は感じるものだ。悪魔だろうが、それは関係ないよ。悪魔になったからって、自分を粗末にしていいわけじゃない。痛いものは痛いし、喜怒哀楽だってある」
あれほどの火力を持つ主砲を接射するなどという無茶をしでかした大和に、徹も思うところはある。治せたからと言って、はい、そうですかと済ませられることではない。
「あははは……隠せませんね、あなたには」
大和は自分の本心を見抜かれていたことに気づき、決まり悪そうに笑った。そう、彼女はあそこで死んでも良かったのだ。あの畜生にも劣る、人の皮を被った悪魔を自らの手で討てるなら、それで十分だった。悪魔に成り果てた自分の命など、惜しむ理由がなかった。それが彼女の偽らざる本音だ。
「望まぬものを押しつけられたという意味では、俺達は同類だからな。いや、俺の場合、片方は自業自得だから、一概にそうとも言えないんだが……。まあ、生きてみろよ。人外であっても世界は意外に楽しいものだぞ」
クトゥグアの炎については、誤解があったとはいえ、自分で喚んだ結果なのだから文句は言えない。だが、ネガティブマインドに押しつけられたペルソナなど、まさに望まぬものの代表格だ。そんな自分でも、こうして折り合いをつけて生きているのだ。ならば、大和にもこれから先、楽しいと思えることが見つかるかもしれない。
「……」
「まあ、そうだよな。そんな簡単に割り切れたら苦労しないわな」
無言の大和に、徹はそれ以上何も言わず、ただスピードを上げた。
「着きました、ここです」
大和の案内で辿り着いたのは、港からほど近い山間の集落だった。そこには、鄙びた山村には不釣り合いなほど立派な和風の邸宅が建っていた。少々時代がかってはいるが、半端ではない金のかけようだ。
「ここ? 本当に?」
徹が疑うのも無理はない。だって、あまりにも目立ちすぎるのだ。あんな狂気の実験を行っていた連中の拠点とは、到底思えなかった。
「……すぐに分かります」
大和はその問いにあえて答えなかった。百聞は一見に如かずと考えたからだ。
徹が大和を地面に降ろすと、彼女は見事な日本庭園の傍らに建てられた倉庫へと向かった。
そして、徹はすぐに納得することになった。倉庫の中には、地下へと続く階段が隠されていたのだ。
長い階段を降りきった徹は、さらに度肝を抜かれることになった。階段が予想以上に長かったのもそうだが、それ以上に地下に広がる空間の巨大さに驚いたのだ。山を丸ごとくり抜いて造ったと言われても信じられるほどだった。
「人っ子一人いないとか、どういうことだ?流石に悪魔の警備とかいると思ったんだが……」
迎撃が一切ないことに、焔の黒騎士は拍子抜けした。相手は腐ってもガイアで独自の勢力を築いていた外道だ。当然ながら、協力者や配下などいると彼は考えていたのだ。
「驚くかもしれませんが、あの人面獣心の悪魔は単独だと思います。定期的に資材や日用雑貨を運び込む業者こそ出入りしていましたが、それ以外に訪ねてくる人間など、教官を除けば見たことがありませんから」
大和の言葉に、徹は耳を疑った。まさか大和の改造から人魔合体に至るまで、全てを単独でやり遂げたというのか。それが事実ならば、間違いなく天才であったことを彼も認めざるを得ない。
「馬鹿な、それでは資金はどうやって……いや、傭兵か」
大和の無敵戦艦計画には膨大な資金が必要だ。この地下拠点の改装だけでも、とても個人で賄えるものではない。まして人魔合体の為の設備や戦艦大和の中核部品のサルベージ費用、果ては大和に軍事教練を与えるための費用も考えれば、どれ程の額になるか、考えたくもない。
だが、すぐに徹は資金源に気づいた。ガイア教団が資金源だったと考えれば、辻褄は合う。後こんなカルト極まった研究に金を出す輩など、ガイア教団かメシア教くらいしか思いつかない。とはいえ、ガイア教団は決して慈善団体などではない。見返りなしでは金など出さないだろう。徹がその対価として思いついたのは、鷹司が従えていた100名の発展型超力兵だ。あれは徹にとっては雑魚に過ぎないが、平均霊格は40以上あったのだ。あの大戦力を金で雇えるなら、喜んで金を出す輩は少なくないだろう。
「ヤバイ、急ぐ必要があるな」
「えっ、どうしてですか?あの頑迷で誰も信じていない輩を助けようという者がいるとは思えませんし、研究の詳細を他者に教えるような性格でもありませんよ」
徹の慌てた声に、大和は心底不思議そうにする。確かに二次被害を起こさぬ為にも隠滅の必要はあるだろうが、そこまで急ぐことではないと思ったからだ。
「いや、傭兵稼業で稼いでいたということは、糞爺の技術を狙っていた奴は少なくないはずだ。なにせ、意のままに動く悪魔とも戦える軍隊だ。垂涎の的だろうよ。でも、大和さんの言うとおり、あいつにとっては大事な飯の種だ。製造技術まで外に出すはずがないし、研究内容も徹底的に秘匿していただろう。つまり、糞爺の死を気取られたら最後、ここにはハイエナが殺到する」
「……」
徹の推測に大和は絶句した。思っていた以上に危険な状況だと気づき、思わず身震いする。
「大和さん、家に出入りする業者が最後に来たのはいつだ?恐らく、そいつらはガイア教団の息がかかった連中だ。資材の搬入と同時に傭兵の運搬もしていたんだろう。異変があれば、当然そいつから連絡が行くはずだ」
「……最後に来たのは一昨日です。通常なら、3、4日ごとですが、私を完成させるための大一番があったからでしょう。そのとき、一週間は絶対に近づくなと怒鳴っていたのを聞いた気がします」
「うん、今夜中に片付けないと駄目だな。そいつらが単なる業者なら一週間待つだろうが、監視役も兼ねているなら話は別だ。むしろ、普段どおりの日程で様子を確認しに来るはずだ。後、その教官というのは?」
「私に訓練をつけてくれた方です。とはいえ、中学卒業までで、それ以降は音沙汰ありません」
大和の返答に、徹はひとまず胸を撫で下ろした。
「なら、今はその教官を警戒する必要はないな。大和さん、何か心当たりはあるか?」
徹は周囲を見渡した。一刻も早く、研究資料を奪取し、この拠点そのものを塵も残さず焼き尽くさねばならないのだから。
「あれが私には絶対に近づかせなかった区画があります。好奇心を抑えられず、遠目から覗いたことはあるんですが……何もない場所だったはずです」
「それはどこだ?」
徹の問いに、大和は地下空間の奥に鎮座する祭壇の脇を指し示した。そこには、岩肌が露出した洞窟の入口があった。
「あそこです。中には照明があるので、入り口からでも奥が見えるんです。何もない行き止まりにしか見えませんでした。以前は、崩落の危険があるから私を近づけないのだと思っていたのですが、あれの性格からしてありえませんね」
説明している途中で、大和も不自然さに気付いたらしい。本当にただの行き止まりなら、あれほど厳しく立ち入りを禁じる理由などないはずだ。
「……なるほどね。じゃあ、大和さん悪いけど俺と一緒に来てくれるかな」
徹は、鷹司が大和を成果物として大切にしていた可能性を理解していたが、あえて指摘しなかった。というか、大和自身も薄々分かっているのではないか。恐らく、意図的に考えないようにしているのだろう。
「分かりました。お供致します」
徹と大和は連れだって、洞窟の奥へと入っていく。そして、最奥まで辿り着いた時だった。
「やっぱり、なにも……!?」
確かめるように大和が最奥の壁に触れた瞬間、今まで何もなかったそこに、突如として扉が現れた。
「なるほど、こういう仕掛けか」
徹は突然現れた扉を手早く調べる。大和がその存在を確かめるように触れ、手を離しても、扉は消えなかった。
だが、徹がドアノブを握っても、全く開く気配がない。それどころか、明確に拒絶されたような感覚すらあった。先ほど扉に触れていた大和には、そのような反応はなかったというのに。
「で、当然ながら鍵がかかっている。でも、鍵穴はなし。つまり、そういうことか」
「どういうことなのですか?」
一人納得する徹に、大和は不思議そうに問いかける。しかし、徹は何も答えなかった。
(やっぱり、あの糞爺、血族に相当な執着があったんだな。でなきゃ、あんなに長々と語る必要はないし、研究に無関係な死因まで持ち出す理由もない。自分の血を吸血鬼に与えて、血の縁を辿らせていた時点で怪しいとは思っていたが……これで大和さんが扉を開けられたら、拗らせ爺確定だな)
「大和さん、俺には無理だったが、あなたなら開けられるはずだ。試してみてくれないか?」
徹は自身の考えをあえて語らず、大和に行動を促す。
「あなた様程の益荒男に無理なら、私では当然……あら?」
徹ではびくともしなかったドアノブが、嘘のように軽く回った。それどころか、迎え入れるように扉はひとりでに開きだしたのだった。
「……どういうことですか?」
「あの糞爺は誰も信じてなかったというだけの話だよ。自分の血を条件にしておけば、大和さんと当人以外には入口を見つけることすら難しいからな」
徹は、鷹司が本当に誰も信用していなかったのなら、自分だけが開けられるようにもできたはずだと理解していた。しかし、それを口にする気はない。あの狂人が実のところ家族の理解を求めていたのだとしても、何の救いにもならないのだから。
「なるほど、確かにそうですね。あえて奥が見えるようにすることで、私も入ってまで確かめようとはしない。認めるのは癪ですが、有効な手段です」
大和の声は冷えたものだったが、そこには納得の色があった。
「行こう。ただし、俺の後ろから離れないように」
「私、悪魔ですけど」
徹の言葉にきょとんとする大和。彼女は本当に心底不思議そうだった。
「古臭い考えかもしれないが、男は女を守るものだろう?悪魔だろうとそれは変わらない」
「戦う力がある私には、少々過剰な気遣いではないかとも思いますが、男子とはそういうものだというのは分かります。確かに私は戦力が激減していますし、病み上がりもいいところです。お任せします」
徹の言に、大和は非常に複雑な表情をした。なにせ、彼女は誰かの背後でただ守られているような性分ではない。幼少から軍事教練を施されたのは、伊達や酔狂ではない。素人なら、成人男性の一人や二人、余裕で伸せるのが大和という女性だった。
だが、それでも悪魔となってなお、女性として扱われることに、嬉しさを覚えないわけでもなかった。だからこそ、今回は素直に従うことにした。
扉の先で二人を待っていたのは、天井まで届かんばかりに積み上げられた大量の書籍と研究資料だった。そして、部屋の中央には巨大なシリンダーが鎮座し、その内部では赤い何かが蠢いていた。徹には見覚えがあった。鷹司が兵士の遺体から吸収し、自身を異形化させるために使ったものだ。
「これは、まさかヒルコか! 超力兵を使っている時点でそうじゃないかと思っていたが、ライドウが根絶しきれなかったやつを培養して使っていたわけだ」
「ヒルコですか?」
聞き慣れない言葉に大和が首をかしげる。蛭のようだと言われれば、そう見えなくもないが。
「ああ、日本神話のヒルコとは違うぞ。人の不安抑制物質を吸収して育つという霊的存在で、正式名称は『蛹体ヒルコ』だそうだ」
研究資料をあさりながら、徹は答える。原作知識があるとはいえ、流石にもう長い時間が経っている。細かい設定まで覚えているわけではなかった。覚えている限りの前世知識を書き留めた封印ノートもあるにはあるが、誰かに見せるつもりなど毛頭ない。となれば、鷹司の研究資料を精査するほかなかった。
「これは違う、これも違う。ああ、もう面倒くさい!」
全てを精査していたら、朝までかかっても終わらないことは誰の目にも明らかだった。徹は大和とは関係のない外れの資料を五冊ほど連続で引き当て、キレた。
影を拡大し、書籍と研究資料をまとめて影蔵に収納してしまったのだ。一瞬後、書籍や研究資料は根こそぎ消えていた。残るは巨大なシリンダーと研究机だけだった。
「い、今のって?」
「影蔵といって、影の中を異空間化して物品を収納する術だ。便利なので重宝している」
あまりの早業に愕然とする大和に、徹はなんでもないように説明した。そうして徹は、最大の懸念である巨大シリンダーに封じられたヒルコへと向き直った。
「さて、どうするかといっても、跡形もなく燃やす以外ないんだが」
これを利用されるとマズいことは言うまでもないので、残すことは論外だ。それに、できるなら、これが残っていたことを誰にも知られたくない。ライドウが失敗したみたいで、面白くないからだ。
「その、かなりの量だと思いますし、これ実質悪魔みたいなものですよね? 跡形もなくなんて可能なんですか? それこそ、私の主砲でも討ち漏らしが出そうな気がします」
心配そうに言う大和に、徹は不敵に微笑んだ。
「ああ、大丈夫。こう見えて広域破壊は得意なんだ。むしろ、それこそが一番の得手といってもいい。まあ、今回は出し惜しみなしだ。なにせ、焔の黒騎士の仕業だと盛大に思い知らせてやらないとな!」
次の瞬間、徹の手には極寒の魔剣アフーム=ザーが握られていた。そのあまりの寒気に、大和は室温がはっきりと下がったのを悟る。そして同時に、その魔剣そのものへ明確な恐怖を覚えた。あまりにも強すぎる、と。
「さあ、相棒。今日は遠慮はいらない。全て凍らせてやれ!」
魔剣の一閃がシリンダーを容易く切り裂いた。だが、中のヒルコは溢れ出す間もなく、何もできず凍りついていく。青い冷気の炎が、全てを凍てつかせていった。
「……」
その光景は美しく、同時に凄惨だった。凍りついたヒルコは、断末魔をあげるかのように生体マグネタイトを収奪され、無意味な氷像と化していく。僅か数秒で、室内は銀氷の世界へと塗り替えられたのだ。あまりのことに大和は完全に言葉を失った。そして、自分が寒さではない何かに震えていることに気づく。彼女はこの時、正しく理解した。目の前の少年がとんでもない強者であることを。悪魔となった自分であっても、現状では彼の戦闘に加わることなどできず、守られる側に回るしかないのだと。
「よし、用は済んだ。じゃあ、出ようか」
「えっ、燃やすのではないのですか?」
先ほどまでの凄絶な光景と、徹のあまりに軽い態度。その落差に風邪を引きそうになりながら、大和はおずおずと指摘した。
「いや、燃やすよ。ヒルコだけは絶対に残せないから、先に凍らせておいたんだ。最後は拠点ごと焼き払う。でも、ここでやったら俺達まで巻き込まれるじゃないか」
そうして、二人は呆気なく脱出した。ここまで来るのにかかった時間が嘘のようだった。まあ、徹が大和を抱えて天井をぶち抜いて脱出したのだから、速いに決まっているが……。
大和はこの日、地上に堕ちる極小の太陽を見た。その圧倒的な熱量は、彼女の生家はおろか、地下施設までも灰燼と化した。彼女は悟った。上には上がいるのだと。悪魔となって強大な力を手に入れたからといって、自分の力を過信してはならない。そう深く心に戒めるのだった。
こうして、後に焔の黒騎士による無慈悲なガイア教団襲撃として語られる大事件は、幕を閉じたのだった。