徹やみこ達が中学二年になる頃には、悪魔業界において神山神社の俊英二人の噂は、それなり知られるようになっていた。地方の異能者としては、あの若さで突出した才能と実力があるとの評判だった。
しかしまあ、所詮は地方の実力者、魔都東京の最前線で鎬を削る組織から見れば、注視するほどの者ではない。精々、頭の片隅に留めておくくらいの扱いが関の山だ。
そんなことより、今現在の悪魔業界を騒がせているのは、神出鬼没の
一年前より各地に出没するようになった謎の黒騎士は、無所属かつ在野とは思えぬ圧倒的な実力でいくつもの異界を攻略し、外道をなしたメシア教徒やガイア教徒を滅殺していたのだから。
いくつかの企みを潰されたメシア教やガイア教は当然敵視したし、DBの界隈でも正義の味方気取りかと揶揄されてもいたが、クズノハを筆頭にヤタガラスなどの護国組織は、正体不明のDBを好意的に見ていた。
そう、徹は表向きは神山神社所属の異能者としてみことともに活動する一方で、漆黒の全身甲冑を纏った状態『
基本的に卯月町から離れた東京近郊で悪魔関係の依頼を請けている。普段は用いている妖刀すら使わずに炎と体術だけで依頼をこなし、一刻も早く強くなるために腕を磨いていた。なにせ、徹には特大の厄ネタがすでに2つもあるのだ。いつまでも弱いままでは怖すぎたし、この世界にゴロゴロ転がっている世界崩壊案件がいつ起こってもおかしくないのだから。
そんな二重にDBとして活動している中、中学一年も終わりになる頃、『
(ハアッ、またメシア教徒かよ。マジで嫌になるぞ)
今回のは、悪魔業界のニュートラル系の依頼斡旋所から斡旋された調査依頼だった。
ある病院で、手遅れなはずの末期癌患者がのきなみ助かったという奇跡のような出来事が起きているという。一件なら偶然で、本当に奇跡が起こったのかもしれないが、これが二度三度どころか、十人以上となると話は変わって来る。当然、悪魔が関わっているのではないかという疑いを悪魔業界は持った。病気を治すという奇跡は、分かりやすいもので、そういった力を持つ悪魔は、けして少なくないからだ。
「この万全の迎撃態勢、どう考えても罠依頼だよなあ!」
迫り来る天使の群れを炎で薙ぎ払いながら、徹は考えを巡らす。
件の病院に入った時点で、問答無用で異界に引きずり込まれ、周囲にはこれでもかと天使が待ち構えている。これが罠でなくて、何が罠なのだろう。黒騎士姿は目立ちすぎるので、擬装用の霊符を使っていたのに、あっさり見破られたらしい。
まあ、一般人には普通の人にしか見えない程度になる偽装効果なので、そこまで頼りにしていたわけではないが、調査依頼は複数人に出ていたはずなのに、こんなピンポイントで自分だけを狙う辺り、どう考えても情報が漏れていたとしか考えられない。
「斡旋所には、倍、いや、3倍は貰わないと割に合わないな」
ニュートラル系の依頼斡旋所は、どんな勢力・組織の人間であっても請けられる代わりに、こういった罠依頼がしばしば含まれるのが欠点だった。普段みこと活動している時は、基本的に親父さんが精査してくれた依頼を請けているので、依頼人とのトラブルと言えるトラブルはなく、罠依頼など潜り込む余地はないのだが。よくよく世話になっていると徹は実感せざるを得なかった。
「それにしても、天使にしてはえらく弱くないか?アークエンジェルならLV21、エンジェルにしてもLV14はあるはずだ。ここの奴らは大半がそれ以下。しかも、人型を保っていないのが大半と来た。こいつらは本当に天使なのか?」
「流石に勘がよろしいですな、黒騎士殿。いえ、『
当たるを幸いに天使もどきを薙ぎ払い、異界の中心へと進む徹だったが、突如前方に現れた白衣の男に足を止める。
「……。」
その男は、医者なのだろう聴診器が首にかけられているのが見て取れる。同時に銀色のロザリオも。間違いなくメシア教徒であり、この異界の元凶であろう。メシアンとは話すだけ無駄と理解している徹は口を閉ざす。
「おや、黙りとはつれないですな。今日は素晴らしい提案をお持ちしたのですがね」
「……。(お前らの素晴らしい提案って、大抵の人間にとっては下の下の提案だからな!)」
徹としては、内心で思っていることをぶちまけてやりたいのが本音だが、メシアンと会話すること自体がエネルギーの無駄であるとこれまでの経験から悟っているので、沈黙を選ぶ。幸い全身甲冑姿なので、彼の表情は外部には伝わらないのだが、もし第三者がいてそれを見ることができたとしたら、メシアンにこういっただろう。話すだけ無駄だと、それくらい彼の表情は苦々しく歪められていた。
「おや、本当につれませんね。我らが主の教えに帰依しませんかという素晴らしい提案なのですが?」
「お前、頭おかしいのか?俺はこれでもかなりの数のメシアンを殺してるぞ。そんな奴を迎え入れる?正気とは思えんな」
卯月徹としてはメシア教と表だって敵対してはいないが、『
「我らの間にあった不幸な行き違いですな。彼らの犠牲は残念ですが、教徒にも選別が必要ですからな」
「よく分かった――やはり、お前らとは話す価値がないことがな!」
腐っても同胞の死をよしとし、さらに選民思想を得意げに語る。そんな奴に語る口はもっていないというのが徹の結論だった。得意げに語る男へと炎弾を放つ。人一人など容易く灰燼と化す代物である。
「……交渉は決裂ですか、残念です。それにあなたに挑むのに何の対策もしないほど、私は驕っていませんよ」
しかし、男の返答に澱みはない。それを証明するかのように、爆炎の中から姿を現したその男は翼で覆われていた。
「炎に対する強固な防護を施した翼だと?お前の霊性の感じからして、お前は天使ではない。まさか天使人*1か?」
「素晴らしいでしょう!これも主の御力の一端なのですよ!あなたの代名詞たる炎すら完全に防ぎ、末期状態で死を待つだけであった肉体さえも復活させる。いずれも現代科学、現代医学では絶対に実現不可能な所業。まさに奇跡の御業と言えるでしょう!」
光悦の表情で言う男の様子に、徹は嫌悪感しか湧かなかった。
「そうか、回復した患者は運良く悪魔(天使)の血肉に適合できた人間というわけだ。そして、ここにいる天使もどきは適合できなかった患者。天使人のなり損ないか」
「その通り!死に怯える彼らは、死の恐怖から逃れる為に喜んで全てを捧げてくれましたよ!」
死を逃れるためなら、人間は何でもやる。この異界に溢れる天使もどきを見れば、どれだけの人間が犠牲になったのか、想像には難くなかった。これだけの人数を犠牲にして、助かったのは僅か十人だ。しかも、文字通り何もかも捧げさせられたに違いない。財産・肉体はもちろん、その魂までも。
「お前、人の魂を食ったな」
仮に最初から『
「ええっ、ええっ、当然ですとも!聖餐は残さず食させねば、非礼というものでしょう」
そうでなければ、ただの天使人風情が徹の炎を耐えられるはずもない。コズミックホラーの邪神様の炎である。そんじょそこらの悪魔など耐性ごとぶち抜いて殺す文字通りの神炎なのだから。
「そして、お前の後ろにいるのは成功作である十人の天使人というわけだ」
いつの間にか、メシアンの男の後ろには、物言わぬローブに身を包んだ十人の人影があった。
「いえいえ、彼らは成功作などではありませんよ。よく言って習作ですね。唯一無二の成功作は私自身なのですから!他の者は、天使様の血肉に適合したはいいものの、自我を保つことが出来なかった。今は命令を聞くだけの傀儡です。ですが、あなたを殺すには十分過ぎるでしょう。やりなさい!」
その言葉に応じて、十人がローブを投げ捨て一斉に動き出す。ローブの下にあったその肉体は、人型こそ保っているが、いずれも歪な翼をはやしており、異形の如き者さえいた。そして、何よりその目はいずれも意思の光を宿していなかった。
「……どこまでも見下げ果てた腐った奴だな」
メシアンの男がわざと喋って聞かせたのは、徹を生かして返す気がないのは勿論、少なからず葛藤を生じさせるためでもあった。哀れな実験の犠牲者であろうが、徹に手加減はない。天使人になった時点で、最早人としては終わってしまっているからだ。人が悪魔になることがあっても、その逆はない。不可逆の変化であり、悪魔となった魂は輪廻の輪からも外されるのだ。最早、救いはないのだから。
故に、容赦も葛藤もあろうはずがなかった。徹は我先にと言わんばかりに特攻してくる天使人達を、躊躇いなく殺す。一人目は心臓をえぐりぬき内部からもやしつくし、背後をとった二人目は返す刀で蹴り殺し、それを踏み台にして上空から強襲してきた三人目の頭を粉砕する。着地際を狙ってきた四人目には特大の炎弾をプレゼントし、炎を噴射することで加速し、なにやら詠唱し溜めていた五人目を放つ暇すらなく首をねじ切って、叩き潰した。この習作だという天使人達も炎に対する防護はされているようだが、メシアンの男と違って魂食いをしていないのだろう。それは徹にとって、ないも同然の護りであった。
(レベルにして25~30といったことろか。能力メタられてるし、普通なら確かに脅威なんだろうがな……。)
徹の現在のレベルは35。中堅の退魔組織におけるエースクラスである。幹部クラスのメシアンでも、そう簡単に負けはしないのだから、所詮霊地も任されていない一般上がりのメシアンになど負けるわけがない。まして、その傀儡なら尚のことだ。
「馬鹿な、こうも簡単に!?」
傀儡とは言え、レベルだけなら男自身とそう変わらない存在を瞬殺されたのだから無理もないが、明らかにメシアンの男は動揺していた。
「意思なき傀儡に俺は殺せんよ。さあ、貴様も殺してやる。今更、逃げられるとは思わないことだ」
鮮血に塗れた腕を一振りすれば、マグネタイトとなってたちまちに霧散していく。元は人間とは言え、悪魔化した以上は死ねば塵一つ残さず消滅するのが定めだ。それでも血が残っていたのは、殺してすぐだったということもあるし、恐らく完全に悪魔化したわけでもなかったからだろう。
メシアンの男には、それがこれから辿る自分の運命を明示しているように思えたのかもしれない。
「ふ、ふざけるな!私は、私は選ばれたのだ。こんな失敗作共とは違う!見るがいい!」
激昂して叫ぶメシアンの男は、何かのアンプルを自分に注射し、ロザリオを掲げてなにかをしようとした。
当然、みすみすやらせるほど徹は甘くないが、余りに位置関係が悪すぎた。メシアンの男の間には残る五人の天使人が障害となっている。しかも、先の五人とは違い、自分から向かってこず、あくまでも道を阻むのに専念してくるのでたまらない。いかに急いでも、残る五人の天使人を殺し尽くした時には、すでに手遅れだった。
「チッ、間に合わなかったか」
舌打ちする徹の前には巨大化し、異形と化した四枚羽根の翼ある者がいた。
「フゥ、よくもここまで殺し尽くしてくれたのものです。お陰で私、いや、我がこの異界の主として完全にくくられてしまったではないか。――この罪は重いぞ、人間!」
元々異界の核とされていたのは銀のロザリオだったのだ。メシアンの男はそれを取り込んで一時的に異界の主となり、強大な力を手に入れるつもりだったようだ。だが、偶然ではあるが、徹が異界中の悪魔を根こそぎぶち殺したせいで、異界の主として完全にくくられてしまった。最早、仲魔契約でもしない限り、この異界から動くことは不可能である。
「どうやら、意思さえも悪魔に塗り替えられたようだな。結局、お前も失敗作だったわけだ」
「我を馬鹿にする不敬、その命をもって贖うがいい!」
二重の意味で鼻で笑う徹に、完全に悪魔と化したメシアンの男が怒りも露わに襲いかかる。
飛んでくる魔法の雨を炎でもって相殺し、巨大な翼による打ち付けをすんでの所で躱す。明らかに相手の動きが速い。翼が打ち付けられた地面の惨状を見るに、力も中々のものである。
(とはいえ、完全悪魔化&異界の主化したせいで、マジで強くなってやがる。一時的にだったら、ここまでの強化はなかったんだろうが、完全に異界にくくられたせいで、強化幅が思った以上に大きい。)
体感的に、完全悪魔化+5、異界の主化+15といった感じだ。本来なら、異界の主となっても、ここまでの強化は出来ないはずだが、奴が魂を食らったここで果てた無数の犠牲者達が鍵となって、それを成した。本来、犠牲者達はメシアンの男に仇なして逆に弱体化してもおかしくないのだが、奴はそれを患者との契約と魂食い、異界の主となることで解決した。異界の主である以上、異界のマグネタイトの支配権は、主ある悪魔にあるのだから。それがメシアンの男への憎悪に染まったマグネタイトであろうと、その根源である魂を喰らっているメシアンの男には関係ないのだ。
「クククッ、先ほどのまでの威勢はどうした?それとも、ようやく力関係が逆転したのに気づいたか?」
メシアンの男の元レベルは30、それに+20の強化が加わって、現在のレベルは50。レベルだけなら、立派な幹部クラスと言えよう。対する徹のレベルは35、この異界で散々悪魔を殺してきたものの、連続戦闘で未だ休みを入れていないので、レベルアップもない。
つまり、現在の状況はLV50対LV35という状況だ。天使の姿をした悪魔の言う通り、純粋な力の大きさでは完全に上回られてしまい、力関係は逆転した。
「勝敗はレベルだけで決まるわけじゃない!」
無論、徹にも切り札はある。それも、目の前の状況を完全に覆す力が二つある。一つはニャルラトホテプのペルソナ、もう一つは魔剣である。しかしながら、どちらも容易くきれるものではなく、特に前者は彼としても絶対に使いたくないし、後者もこの程度のことで使っていたら、成長が見込めないように思えたので、どうしようもなくなるまで使う気はなかった。
とはいえ、このままならジリ貧なのも確かである。なにせ、メガテンにおいてレベルが10以上離れているというのは、死ねというのも同然であるからだ。格上殺しはメガテンの華とはいえ、それは仲魔の存在ありきのものだ。基本的にタイマンで、レベルが10以上の差があればまず勝てないのは常識だ。
だが、そんな状況にあって、徹は思いの外冷静であった。なぜかは分からないが、妙な違和感を感じていたからだ。
(なんだこの違和感は?何を俺は勝機として感じ取ってるんだ?)
そこで徹は、先程から件の悪魔が一定以上動けていないことと、何か光るものが悪魔の中心部にあるのに気がついた。
(そうか、こいつ、色んな意味で成り立てだから安定していないんだ!無理矢理人であった己から主導権を奪ったようだし、不安定な部分がまだあるに違いない!そして、あの光るものは恐らく……。マジで親父さんとみこには頭が上がらないな)
「次でどうなろうと最後だ、天使もどき!」
「もどきだと、我こそ偉大なる大天使だぞ。この四枚の翼が見えぬか、不信心者め!」
徹の挑発にあっさりと悪魔はのってきた。まあ、自身のアイデンティティに関わることなので無理もないが……。
結果、悪魔の攻撃がより苛烈になり、全て躱しきれるものでもなく、彼も少なからず傷を負う。
しかし、その反応が徹に勝機を確信させた。特に大天使を名乗るものが自身の名を名乗れないのは致命的だ。今も、人間の人格と主導権を綱引きしている証左にほかならないからだ。
(万全に動かれたら負ける!ならば、安定する前に殺す!)
徹は漆黒の殺意を宿し、自身の身の内で炎を精錬する。回避がさらに疎かになり、ダメージも馬鹿にならないが、死ななければ安いものだと彼は割り切った。
(即死さえしなければ、手持ちの回復アイテムでなんとかなる。)
自身の内で炎を精錬するなど、本来自殺行為に等しいが、転生して以来ずっと共にあったその炎は徹を灼くことはけしてない。
「さあ、御目見得だ。光栄に思えよ!<バニシングバスター>*2!!」
徹自身の肉体の内で精錬した炎を最大まで圧縮し、肉体を砲身として放つ極大の炎熱光砲は、それまで神炎すら防いでいた強固な翼の護りを易々と貫通し、巨大な翼の奥に隠れていた悪魔の体を一瞬で焼き尽くした。異界の核であった銀のロザリオ諸共に。悪魔の断末魔はなかった。文字通り消滅したのだろう。無残に貫かれた巨大な翼も形を保てず、マグネタイトが霧散していく。
「どうにか勝ったが、ヤバかった。初披露で変身が解けなかっただけでも御の字か」
徹は懐から魔石を取り出して使い、全身の傷を回復する。
正直、彼の想定以上に危なかったのは事実だった。残りHPというものがあるなら、<バニシングバスター>を使った時点で、彼のHPは二桁をきっていたのだから無理もないだろう。
(勝てるという確信があったから無茶できたが、やはり、格上との戦闘は死力を尽くしたものになるか……。)
異界の核であったロザリオを取り込んで異界の主となったなら、それを消滅させれば少なからぬ影響が出るとみての博打ではあった。それが想像以上に上手くいったのは、<バニシングバスター>の予想以上の威力とみこと一緒に修行した霊視によって、取り込まれたロザリオの位置を正確に把握できたからであった。
「結論、まだまだ修行が足りない!あっ、でもクトゥグア様的には高得点?ありがとうございます!」
どうやら、思いの外<バニシングバスター>は邪神様に好評だったようだ。徹に満足のような意が伝わってくる。
「それはそれとして、あんなのに苦戦するな?ちょっと厳しくないですかね?」
とはいえ、それそれとして苦戦したのが気に入らないと不満も伝わる。『邪神様が見てる(ガチ)』は冗談でもなんでもないのだ。
「ハアッ、もっと強くならないとな……。」
そんなこと言ってる徹であるが、今回の格上殺しと異界の悪魔虐殺連戦の結果、LV45に達していた。もう、すでに神の領域に足を突っ込んでいたとは、流石に知る由もなかったのだった。
変身が解けてしまう必殺技、いいよね!
ゲームだと、これ使うよりもフェンサーかルシエド連打が基本だったけどw
感想では、ダイス結果に言及して欲しいですか?
-
いやいや、全面禁止で
-
感想ならいいんじゃね
-
感想書いている人が求めているならOK