あの天使もどきのクソメシアンをぶっ殺して、早一年。いつの間にかLV45になっていたのに驚愕したのもいい思い出……いや、気づくのが遅れてニャルの野郎から密かにカバーされていたことを奴に散々嘲笑されたので、嫌な思い出だな。
みことの退魔業も順調で、対外的にはLV35とLV30のコンビとして認知されるに到っている。ついに、白狐様超えも果たしたので、もうあの異界では道具集めとマグネタイト稼ぎくらいしかできない。みこはそれでも
だから、『
(マジで何がどうしてこうなった!?いや、この程度の呪詛では死なんし、俺のことはいい。問題は後ろの二人だ……。)
『
背後には見覚えのありすぎる同じ制服を着た少女二人が、お互いを抱き合って恐怖に震えている。ポニーテールの少女は、それでも気丈にこちらを見ているが、長い髪をした少女は完全に恐慌状態だ。まあ、動くことが出来ないという意味では両者とも変わらない。
この二人は、俺やみこも所属する中学の後輩だ。ゲームと違い髪の色こそ黒だが、容姿や身体的特徴、性格からして、恐らく下級生のヒロイン『飯島 美雪』と『南里 愛』だろう。学年も違うし、まず自分とは縁がないだろうと思っていた二人に、よりにもよってこんなとこで会うことになろうとは……。
あちらは、二年の初めにある社会見学だろう。生徒からのあまりの要望の多さに学校側が負けて、現地での自由時間が設けられたとは聞いていたが、まさかこんなことに巻き込まれるとは、ほとほとついていない娘達だ。
(とはいえ、ついていないのはこちらも同じか。不動産をのっとった怨霊を討伐した帰りにこんなことに巻き込まれるとはな)
『
(帰宅して着替えるのも面倒だし、制服のままだったからな。もし、平常時の活動中なら危うく身バレの危機だった。危ない危ない。まあ、それはそれとして、どうしたもんかね?)
二人が動けない以上、徹もまたここから動くことはできない。それが悪手だと分かっていてもだ。
なにせ、目の前にあるのは凄まじいまでの呪詛の奔流だ。こんなもの覚醒していない人間が受けたら、一発で全身が腐れて死ぬ。そうである以上、彼女達を守るためには呪詛の奔流を切り裂き、背後には絶対に通さないことが必要なのだから。
(<ククク、見捨てればいいではないか?出身地以外、お前に何の縁も所縁もない者達なのだからな>)
(うるさい、黙っていろ!今日ここで初めて会った人間だろうと、学校の後輩を見捨てられるか!寝覚めが悪くなるわ!)
呪詛を受けないようにする為、ペルソナをいつものアステリオスではなく呪殺無効の『LV66 ニャルラトホテプ』を降魔しているため、這い寄る混沌がここぞとばかりに囁いてくる。本当に余計なことしかしない奴である。
(とはいえ、どうする?)
今は炎を剣のように放出固定して、呪詛を切り裂いているわけだが、呪詛の奔流はとどまるところを知らない。発生源を潰さねば意味がないのは言うまでもない。
だが、それをしにここを動けば背後の少女達は間違いなく死ぬ。この呪詛によってすでに多くの人間が死んでいるとはいえ、偶然巻き込まれたに過ぎない彼女達が死んでいい道理はないからだ。
(結界はみこほど得意じゃないんだよな。自分を守るだけなら、何の問題もないんだが……。)
悔しいが、単純な結界の技量ではみこに負けるのが実情だ。無論、炎を使えば話は別だが、他者を守るというのには致命的に向いていない。己が望まないものを燃やすことはなくても、その圧倒的な熱量が容易に人を殺してしまう。この呪詛を防げるレベルの炎の結界を作ったら、間違いなく蒸し焼きになる。通常の結界術ももっと頑張っておくんだったと心から思うが、今更後の祭りである。そして、切り札二つはもっと駄目だった。ニャルを召喚すれば間違いなく暴走して、この場にいる人間は皆殺しになるに違いないし、魔剣も出力のトンデモぶりから、とてもではないが少女達に害がないとは断言できない。
故に、現実として、己には現状を打破する力がないと認めざるを得ない。
(<では、どうする?このまま、無意味に耐え続ける気か?>)
(無意味じゃない!集めた情報が確かなら、クズノハもヤタガラスも存在するはずだ。東京のど真ん中でこんなことが起きて、彼らが動かぬはずがない!)
俺とて無策で耐久を選んだわけではない。痩せても枯れても、ここは東京だ。ならば、護国組織が動かぬはずがない。
「『
果たして徹の献身は報われた。耐えること5分、室内放送を伝えるスピーカーから、そんな声が聞こえてくる。背後を見やれば、いつの間にか二人は意識こそないが無傷で結界と思われる光の膜に覆われている。
(<ほう、クズノハも侮れぬものだな。遠隔でこれほどの結界を張るとは。余程優れた結界術士がいるようだ>)
「承知した、彼女達の保護に感謝する、クズノハ」
「――――!?いや、感謝には及ばない。悪魔から無辜の民を守ることこそクズノハの務めなれば」
一瞬、驚愕の後に返答が来る。うん、なにかおかしいことを言っただろうか?
「続報だ、発生原因の悪魔は、いつまでたっても死なぬ君達に痺れをきらして、君の方へ急接近中だ。奴の狙いは間違いなく君だ、彼女達を巻き込みたくないならば、早々にそこを動け」
(<ホラホラどうした?余計なことを考えていると、折角助かった命が巻き添えで死ぬぞ?>)
「チッ、了解!」
そう返答するが早いか、目の前の壁に亀裂が入った。迷う暇はない。霊視に任せて飛び込んで体当たりする。
(手応えあり!このまま、外まで吹き飛ばす!)
亀裂の入った壁をぶち抜いた先には、体当たりを出会い頭に受けてフラつく黒山羊の頭をした悪魔の姿がある。恐らくLV33バフォメットだろう。迷うことなく、炎を噴射し急加速で吹き飛ばさんと迫る。
「なっ!?」
だが、止められていた。手加減抜きの『
(しまった、呪詛の威力に範囲の広さ、普通の個体じゃないことに気づくべきだった!)
ニィと嫌らしくバフォメットが笑う。それは必殺を確信した笑みだった。
<マハムドオン*1>
「???」
捕まれた腕から凝縮された呪詛が伝わってくるが、今の俺には意味がない。俺の全身を包み込んだ呪詛はあっけなく霧散した。
(呪殺無効の俺にマハムドオンとか、こいつアホなんだろうか?特殊個体といっても流石に呪殺貫通なんてレアものもっていないだろうし、マジで何がしたいんだ?)
(<アホはお前だ。こいつは貴様が呪詛を切り裂いているのを見ていたから、呪殺無効であるとは思っていなかったんだろう。まして接触状態だ。直接呪詛を送り込まれれば、多少の耐性程度無視して死ぬぞ>)
その疑問には、煽り混じりでニャルが教えてくれた。むかつく奴だが、たまには役に立つ奴である。
「!?」
想定外の結果に動揺を隠せないバフォメットに対し、俺は笑う。
「運がなかったな!」
動揺につけ込んで、捕まれた腕をそのまま力尽くで押し込み、手指を鉤爪へと変化させる。それはあっさりとバフォメットの肉体にめり込んだ。
「不思議だよなー、悪魔でもお前みたいにある程度人型っぽいのは、心臓の位置が一緒だ!」
心臓を握りつぶし、そのまま内部から焼き尽くす。クトゥグアの炎で体の内側から灼かれたバフォメットはあっさりと消滅していく。
カランと音がして、その体があった場所には一本の剣が転がっていた。
「おっ、ラッキーだな。ちょうど普段使いの剣が欲しかったところだ」
その剣を拾い上げる。ズッシリとした重量が伝わる。見た目は中々の名剣のようだが……。
「『
(<さあ、お客さんだぞ。貴様が望んだクズノハのな>)
剣を抜いて、確かめようとした背後から俺にかけられた声は、思った以上に緊迫感のあるものだった。
『
龍脈が集中するこの国は、火薬庫のようなものだ。ガイア教・メシア教の二大勢力だけでなく、多くの組織がこの国を狙っている。魔都東京、その表現は全く間違っていない。人々が日常を過ごす裏で、どれだけの悪魔が消滅し、どれだけの人が死んでいるのか、想像もつかないほどだ。
故に、クズノハは期待した。新たな国を守る力になるのではないかと。私も期待した一人だ。だからこそ、今回の役目を引き受けたとも言えるのだから。
そして、実際に初めて見た『
だが、アナライズの結果は……。
「『
故に戦利品である剣に手をかけた黒騎士に対する言葉は、そこはかとない緊張感に満ちていた。
「なぜと聞いてもいいかな?」
それを感じ取ったのだろう黒騎士は剣を抜くのを止めて、こっちの意を理解したのだろう、振り向かず両手を上げた。
「申し訳ないが、貴方をアナライズさせてもらった。その結果はLV45という驚くべき高い霊格、そして『クトゥグアの使徒』とある。貴方はいずこかの神の使徒なのか?」
「そうだな、それは否定できない事実だ」
黒騎士はこちらの問いを肯定した。別に知られたことで困ることはないと言わんばかりだ。
「その神はいずこの神か?」
「ここではないどこかかな?俺も正確には分からない」
はぐらかしているわけでも嘘を言っているわけでもない。私の霊性がそう判断している。
「貴方の目的はなんだ?」
「特にない。平和に生きることかな?」
これも嘘ではない。分からない、ならば、なぜこんな修羅の巷に身を置いているのだろうか?
「それではなぜ悪魔業界に?」
「強くならなければならないし、それが俺の神の天敵に繋がるからさ」
「天敵とは?」
「ニャルラトホテプ、無貌の神、千の化身を持つ神、どこにでもいてどこにもいない神、いずれも奴のことを指す」
またしても、寡聞にして聞かない神の名だ。しかし、嘘ではないというのは分かってしまう。
「俺とクトゥグア様の契約があるとしたら、一つだけだ。天敵と天敵の眷属を根絶やしにすることのみ」
冷やりとした。今の言葉に含まれる殺意は凄まじいものであった。クトゥグアとニャルラトホテプの対立は相当のもののようだ。そして、これも嘘ではない。
「では、最後の質問だ。貴方とその神はこの国と民に仇なす者か?」
「ない。俺も、俺の神も、国にも民にも仇なす気はない。ただ、流石に自衛はするし、その為なら戦うぞ?」
やはり、嘘ではない。結局、黒騎士は最後まで嘘も誤魔化しもはぐらかすような答もしなかった。なんだか、拍子抜けである。
「あっ、一つだけ追加でメシア教は敵だ。散々嫌な思いをさせられたんでな。ガイアの連中はまだ話せる連中もいたが、奴らは駄目だ。話にならないからな」
これも本当。どうやら、メシア教関連の依頼などで相当に嫌な目にあったらしく、その声色は苦々しいものであった。
「承知した。結構、そういうスタンスならば、これを」
ここまでの審問で、黒騎士の有り様は掴めた。これならば、クズノハの理念と対立することもないだろう。
だが、まだ全面的な信用は難しい。やはり、謎の神の使徒というのは、どうしてもネックになる。
故に渡せるのはこれだ。式神に運ばせて、目の前に落とす。
「御守り?」
「正確にはそれに見せかけた識別票かな。もっているだけで構わない。それを持っていれば、クズノハが貴方に依頼を斡旋し情報を提供することもある。その程度のものだ」
「そうか、ありがたく貰っておく」
「貴方がこの国を民を守る力になることを心から願う。我が神は一言主大神、言行一致を由とされる。貴方の言葉が嘘でないことは分かった。これ以上は、貴方が自らの行動をもって我々の信用を勝ち取って欲しい。
私の名は信乃。貴方がクズノハの力となると確信できたその時、また改めてご挨拶に参るとしよう。
ああ、巻き込まれた少女達の処置はこちらでやっておくので、心配はいらない」
私は自らの仕事を果たし、一礼して、その場を後にするのだった。
徹の背後に確かにあった気配が突然消え去る。まるでワープしたかのように。同時に奇妙な圧力と緊張感もなくなる。
(<姓を隠し姿さえも見せずとは、中々の徹底ぶりだな。それに念入りに人払いもしていたようだな>)
(確かにな。分かっちゃいたが、しっかりアナライズされていたな。危なかった)
本来、この世界にいないはずの神格と契約したせいか、徹をアナライズするとバグるのだ。もし、生身でアナライズ能力をもっている者がいて、それを彼に使った場合、間違いなく発狂するというのがニャルの野郎の見立てである。
流石にそんな歩くアナライズトラップにはなりたくないので、徹は渋々ながらもニャルラトホテプと契約したのだ。認識や人の精神という分野で奴に匹敵する存在はフィレモンしかいない。奴ならアナライズを偽装し、普通にできるのではと交渉したのだ。結果、それを勝ち取ることに成功したのだが、同時に嫌なデメリットも甘受することになったというわけだ。
このデメリットこそが、黒騎士姿の時はアナライズされれば『クトゥグアの使徒』とハッキリ表示され、レベルも隠さないというものだ。当然だが、思った以上に危険視されていたのは間違いない。
一言主大神、古事記に記述のある言葉の神だ。事の善悪を一言で断言できる力を持つと言われている。恐らく信乃というクズノハの遣いは、その権能の一部を用いて徹の言葉の真偽を判定してたに違いない。
そうでなければ、クトゥグアの使徒なんてアナライズ結果が出た徹をクズノハの協力者として認めはしないだろう。
(思ったより柔軟な組織のようだな。謎の神の使徒である俺を信用できなくても、不平不満を飲み込んで力を利用するだけの度量がある。この先のことを考えたら、クズノハの助力は欲しかったから、協力者になれただけでも御の字だ)
(<ふん、貴様はまだまだ温いな。あの女には貴様と同等以上の護衛がついていたぞ。貴様の答次第では、あの場で殺されていただろうな>)
集合的無意識と繋がっているニャルラトホテプに隠形など無意味だ。徹が感知できなくても、彼はハッキリと護衛の存在を認識していた。
(あの圧力はそのせいか。ようやく得心がいった。まあ、謎の神の使徒なんて奴に、あんな重要人物単独で会わせるわけないか)
あの信乃というクズノハの女は、間違いなくクズノハでも要職にあるものだと徹は判断していた。一言主大神の権能を一部とは言え用いることができる稀少な才能だ。言葉の真偽判断ができるという引っ張りだこの能力も相まって、重宝されているのは間違いないからだ。
(<貴様が怨霊退治している時から見られていたのに、呑気なのものだな>)
(ちょっ、おまっ!?気づいていたなら教えろよ!)
(<ふんっ、甘ったれるな。契約者とはいえ、貴様になんでもかんでも教えてやるわけがなかろうに。教えるとしたら、その方が面白くなる時だけだ>)
ニャルラトホテプはばっさり切り捨てて、嘲笑するように言う。
信乃が来た時、彼女がクズノハであることを教えたのもわざとだし、結果徹はクズノハと看破した形になり、余計に警戒されていたのを徹は知らない。護衛の存在を感知しながらも、教えなかったのはそういうことであろう。実際、ニャルラトホテプは徹がここで死んでいたとしても、それはそれでよしとしていた。
(ぐぬぬ、相も変わらず嫌な野郎だ。しかし、思った以上にクズノハの接触が早い……。これ本気で人手不足なんじゃ?)
DB『
(<さてな、私の知ったことではない>)
これ以上喋る気はないと言わんばかりに、ニャルラトホテプはにべもない。そもそも相談相手には絶対にしてはいけない相手なので、これは徹が間違えているだろう。なんだかんだ付き合いが長いので、僅かではあるが徹も警戒が薄れているのだ。
(ハア、分かってはいたが前途多難だ……。)
邪神の契約者になった時点で、自身の人生は平穏とはほど遠いものになったことは徹も理解はしている。それでも実感してしまうと、さしもの彼も溜息が出るのを抑えられないのであった。
後輩ヒロインとニアミス!まあ、お互いに面識ゼロですけどね。
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いやいや、全面禁止で
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感想ならいいんじゃね
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