ペルソナのニャルをコズミックホラーと誤解した男   作:清流

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カオスヒーローを生み出した男であるオザワ君登場!


クズノハからの依頼 前編

 「『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』さん、クズノハから指名依頼が出ています」

 

 ニュートラルの悪魔依頼斡旋所に行ったら、珍しく個室に通され、聞かされた第一声がこれだった。

 

 (明らかに居場所が割られているな。でも、地元じゃ接触ゼロだったよな。ああ、東京限定で起動する発信器みたいなものか?)

 

 黒騎士姿で凄まじく目立つとは言え、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』は様々な場所の依頼斡旋所に顔を出している上に隠蔽護符も使っている。にもかかわらず、ピンポイントで、ここに依頼を出すのは、こちらの居場所を少なくとも大まかに把握しているからだろう。

 

 (恐らくあえて東京内限定にすることで効果を高めると共に、一応の信義を通すということか)

 

 まあ、謎の神の使徒で、幹部クラスの実力もってる野良の実力者なんか、せめて居場所くらいは特定しておきたいというのは理解できる。東京外までは追跡も特定もしないのが、クズノハの誠意なのだろう。

 

 「分かった、請け負おう。それでどんな依頼だ?」

 

 ここで断るという選択肢はない。これはクズノハからのラブコールであり、こちらを見定める試験なのだから。

 

 「ガイア教幹部オザワが潜むガイア教団の拠点襲撃、ひいてはオザワの暗殺を依頼したいとのことです。本依頼は、メシア教穏健派との合同作戦となります」

 

 「……何!?」

 

 流石に剣呑なものが声に混じるのを抑えられなかった。メシア教は敵だとハッキリ意思表示したにも関わらず、穏健派とはいえメシア教との共同作戦である。喧嘩売ってるのかと思っても仕方のないことだろう。

 

 「クズノハからは、『あなたのスタンスは理解しているが、それは護国とは無関係だ。時には怨敵と組まねばならないこともある。護国のために必要なら、クズノハはそうする』という伝言を預かっています」

 

 (初っ端からやってくれるな、踏み絵のつもりか?)

 

 メシア教穏健派とトラブルを起こさずに、この依頼を終わらせることが、満点条件なのだろう。これは俺が思っていた以上に警戒されているということの証左だ。というか、高確率でやらかすと思われてるのだろう。

 

 (ここで私怨を飲み込んで穏健派と共同できればよし、そうでなくとも『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』はガイア教とメシア教、双方からこれまで以上に睨まれることになると)

 

 クズノハからは、本当に想像以上に評価されたらしい……危険度を。

 

 (敵に回したくないから、他の陣営にも行けないようにかよ。思った以上に悪辣だな、クズノハ)

 

 「いいだろう、了解した」

 

 少しイラッとしたのは事実だが、今後のためにも断ることはできない。

 大体、謎の神の使徒なんて客観的に見たら怪しすぎるし、信用できないのも理解できてしまう。もしかしたら、ニャルの野郎が『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』の時の偽装に、種族を魔人にしていることも関係しているのかもしれない。

 

 (メガテンで魔人と言ったら、不吉の代名詞で「万人に等しく凶事と死を撒き散らすもの」と定義されていたからな)

 

 つい先日、アナライズ偽装について改めて確認したところ、新たに発覚した事実だった。あの野郎、悪意マシマシにも程がある。ニャルの野郎は本当に余計なことしかしない。

 

 「本当によろしいのですね?今回の依頼では、メシア教穏健派との戦闘は許可されていません。自衛以外で戦闘行為を行った場合、即座にクズノハは貴方を切り捨て、今後一切の接触を持たないでしょう」

 

 「構わない。()()()()上司によろしく伝えておいてくれ」

 

 それだけ言って、詳細が書かれた依頼書を受け取ると、個室を後にする。この場で得られるものは最早何もないからだ。

 

 「そういう察しが良すぎるところが、余計に警戒されるんですけどねえ~」

 

 さっきとは打って変わって間延びした口調で、斡旋所に潜り込んでいるクズノハの連絡員がそう宣ったのを俺は知る由もないのだった。

 

 

 

 

 

 「おや、まさか貴方がいらっしゃるとは思いませんでしたよ、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』殿。いつから、クズノハに所属されたのですか?」

 

 メシア教穏健派幹部佐竹晴信は、意外な登場人物に目を見張った。

 ここはクズノハからの援軍との合流地点である廃ビルの一画だ。特定の識別符をもっていなければ、近づくことも出来ないはずである。つまり、クズノハの援軍として派遣されてきたのは、噂の黒騎士だということだ。

 

 「クズノハに所属した覚えはない。単純に依頼を請け負っただけだ」

 

 返答に澱みはなく、恐らく嘘ではないだろうと佐竹は判断した。

 だが、これはこれで由々しき事態だ。少なくともクズノハには、『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』に依頼するだけの伝手があるということなのだから。

 

 「貴方と少なからず揉めた我々の援軍に、貴方を遣わすとは、クズノハも中々に意地が悪いようですね」

 

 もめたなどとオブラートには包んでいるが実態は凄惨な殺し合いだ。すでに多くのメシアンが、この黒騎士によって殉教しているのだから。周囲のテンプルナイト達が明らかに殺気立っているのが分かる。

 

 「貴様と同じ意見になるのは癪だが、今回ばかり同意せざるを得んな。

 ……それに揉めた?殺し合ったの間違いだろう?」

 

 どうやら噂の黒騎士も不本意であることは間違いないようで、声色に少なからず苦いものが混ざっている。

 そして、きっちり釘を刺してくる辺り、こちらへの遺恨を忘れたわけでもないようだ。

 

 「ふむ、我々は互いに含むのがあるのは確かです。ですが、この場はそれを捨て、ガイアーズ殲滅の為に協働するこということでいいですな?」

 

 「俺が請けた依頼は、ガイア教幹部オザワの暗殺だ。ガイアーズの殲滅じゃない」

 

 なし崩し的にガイア教戦力を削ろうという目論見は、あっさりと看過された。

 まあ、通れば儲けものという程度でしかない。少なくとも力だけの馬鹿ではないようだ。

 

 「これは失礼を!情けない話ですが、同胞の危機に逸っていましてな」

 

 これは嘘ではない。オザワによって浚われた聖母候補の女性の奪還こそが主目的なのだから。

 

 「貴様らの目的は同胞の奪還か。ならば、尚のこと、いらぬ欲はかかないことだ」

 

 (メシアンが同胞を救う?これはきな臭いな。ガイア教とドンパチしてまでとなると余計に)

 

 「これは手厳しい。では、手はず通りに陽動はお任せしますよ」

 

 もとより、クズノハのオザワ暗殺に乗じる作戦だったものだ。クズノハに察知されて、メシア教団による主攻であり、表向きはメシアとガイアの勢力争いとされることになった。安くない対価を払う共同作戦になってはしまった以上、役割事態に変更はない。

 

 「分かっている、お前らは余計なことして、足を引っ張るなよ」

 

 「それにしても、お一人ですか?他に人員はおられないので?」

 

 『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』の噂は知っているが、流石に単独ではオザワを舐めすぎではないだろうか。腐ってもガイア教の幹部である男なのだから。

 

 「足手まといは必要ない」

 

 「……。いいでしょう。我々としては、最低でも同胞を奪還出来ればいい」

 

 黒騎士が正面から行く以上、少なからず戦力が削がれるのは間違いない。

 であれば、こちらの目的は達成されたも同然だ。オザワが死なないのが業腹だが、ガイア教の戦力が少しは削れるのだから、収支で言えばプラスだろう。何より、これまで何度もメシア教の目論見を阻んできた正体不明な要注意戦力『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』が消えるのは好ましいことだった。

 

 「では、行くぞ。後は勝手にやるのだな」

 

 佐竹のそんな心中の思惑を知ったことではないといわんばかりに、黒騎士はそれ以上何も言わずに無言で歩くのだった。

 

 

 

 

 開戦の号砲は、静かなものだった。メシア教穏健派によるガイア教団支部に隔離結界が張られ、メシアンと『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』以外、出入りできない状態にされた。即ち、この時点でメシア教は絶対に逃がさない布陣を組んでいたと言っていいだろう。

 これにオザワが気づかなかったのは、彼の出自に大きく関係していた。オザワはそもそも優れた異能者などではなく、半グレのチンピラからの成り上がりだからだ。悪魔召喚プログラムが流布によって混乱した時代に、一大勢力を築き上げた彼だったが、本物のオカルトの玄人に勝てるわけがなく、ごく僅かの間に勢力を叩き潰され、ガイア教の一幹部になることで、どうにか生き延びていたに過ぎない。

 故に、彼の部下は半グレ上がりのカジュアルサマナーばかりで、伝統的な血筋のある異能者や善良な者達には倦厭されており、感知や防御という面で、他の幹部から大きく後れを取っていた。今回の襲撃に、結界を張られるまで気づけなかったのは、ある意味当然とも言える。

 

 <オザワよ、拠点を外界と隔離する結界が張られたぞ。恐らく、いや、確実に襲撃だな>

 

 「結界だと、メシアンか?それともクズノハか!?だから、命令以外で余計なことをするなとあれ程……クソッ!」

 

 自身の切り札である建御名方(たけみなかた)の警告に、オザワはままならない現実に歯がみする。

 混乱期を終えて自身の勢力を叩き潰された今でも、オザワがガイア教幹部の地位にいるのは、彼が数少ない悪魔召喚プログラムの()()()()()所持者だからだ。

 今、巷に出回っている悪魔召喚プログラムは、東京都内でしか使えない代わりに誰でも使うことのできるデッドコピー品に過ぎない。使用するのに、前提として使用者の魂の強さを要求される正規品たる()()()()()とは、なにもかもが決定的にものが違う。なにせ、使用できる悪魔の意思は極限まで制限され、霊格も落ちている場合が殆どで、使えるスキルの数は勿論、種類さえも制限されるという有様だ。おまけに召喚できるのは一人につき最大二体までで、耐性まで物理・火炎・氷結・電撃・衝撃・魔力しかなく、本来の悪魔の強さは発揮させられない代物だった。

 だが、()()()()()の悪魔召喚プログラムを持つオザワは違う。悪魔に仲魔として最大限働かせることができる上に、その召喚の場は東京に限らない。さらに、彼は悪魔召喚士(デビルサマナー)としても優れた才能を持っており、三体までなら同時召喚し制御維持するだけのマグネタイト生成量を誇っていた。しかも、オザワは自身が()()()()()を所持していることを秘匿し東京都外で活動しないことで、自身が優れた悪魔召喚士だから、できることだと周囲に誤認させることに成功していた。実際、彼最大の切り札である『鬼神LV43建御名方』を制御下に置けていないことも手伝って、オザワはカジュアルよりはマシだが、その程度の悪魔召喚士であるという認識に落ち着いた。勿論彼自身は大いに不満であったが、()()()()()の悪魔召喚プログラムを持つということは、それ以上にリスクが高い。全力でクズノハが殺しに来てもおかしくないのだから。

 

 だからこそ、オザワは自身がカジュアル、いわゆるカジュアルサマナーの頂点に立つことで、カジュアルの元締めとしてガイア教団幹部としての地位を確立したのだ。ガイア教の鉄砲玉の長、差配役として。

 数を頼みに、攻勢には滅法強いカジュアルだが、守るというのには致命的に向いていない。なにせ、誰でも使えるという利点のせいで、カジュアルはその殆どが不利になれば途端に逃げ出す弱卒ばかりだったからだ。よって、いくら力こそがものを言うガイア教であっても、カジュアルの評価は鉄砲玉以上になり得なかった。

 

 そんな連中の親玉扱いなのが、オザワだ。当然、幹部としての地位は最も低く、霊格も他の幹部には及ばない。

 よって、メシア教やクズノハからも、うざい連中を纏め上げているだけでも利益があると見逃されていた。曲がりなりにも悪魔を使役できるカジュアルは、組織として抱え込むのはリスクが高過ぎるが、放置も出来ないというのが現実であったからだ。実にオザワは巧妙に生き残ってきたと言えた。

 

 だが、そんなオザワの天下も、今崩れ去ろうとしていた。ケチのつけはじめは、自身の配下のカジュアルが、襲撃予定にないメシア教の教会を襲ってきたことだ。しかも、メシアンの女を浚ってきたのだ。これが東京じゃなければ、どうにか出来ただろう。

 残念ながら、勝手に動いたのはカジュアル達だ。つまり、東京でしかイキれない雑魚の群れ。当然、彼らが襲ったのは東京都内の教会だった。極めつけに、そこは過激派ではなく穏健派、それも日米友好関係の証として建てられた教会だった。覚醒者だけでなく、多くの無関係の一般人が犠牲になってしまった。自組織の拠点をやられたメシアンはもちろん、流石にお膝元でここまでやられた以上、クズノハも黙っているはずもなかった。それが今回の合同作戦になったというわけだ。

 

 「逃げられるか?」

 

 <無理であろうな。正面から叩き伏せにきておる。これはクズノハか?相当な霊格の持ち主だ>

 

 建御名方は、正確に『焔の黒騎士(ナイトブレイザー)』の脅威を感じ取っていた。契約者の逃げ腰を心中で侮蔑しながら、逃走は不可能であると告げる。

 

 「クソッ!こうなったら、なりふり構っていられねえ!」

 

 COMPを起動し、自身の限界である三体、いや、四体の悪魔を召喚した。この土壇場で、四体を制御召喚することに成功する辺り、オザワはけして才能のない悪魔召喚士ではなかった。

 

 <ほう、ついに四体目も扱えるようになったか。だが、いいのか?確実にバレるぞ>

 

 建御名方も契約者であるオザワが一皮剥けたのには、当然気づいた。まあ、そうでなければ、たとえ主従が逆転した契約であろうと、彼はオザワに使役されなかっただろうが……。

 

 「バレようがなんだろうが、ここで死ねば全部お終いなんだよ!行け!」

 

 主の命令に、制御下にある四体の悪魔は、襲撃者を迎え撃つ為に一斉に部屋を出て行く。唯一制御下にない建御名方だけが微動しないはずだった。

 

 だが、この時は違った。

 

 <そうでなくてはな。我も出てやろう>

 

 覚悟を決めた者は、その在り方が矮小であっても、小気味良い。珍しく上機嫌で、建御名方は自らの出陣を決めた。

 

 「……ああ、頼んだぜ!」

 

 自身の護衛、最後の砦に残すことも考えたが、自らの保身よりも勝たなければ終わりだという思いが勝る。オザワは一瞬の逡巡の後に最強のカードを切ることに決めたのだった。そういう判断ができることが、彼がけしてはったりだけで生き残ってきた男ではないことの証左であった。




悪魔召喚プログラムについて
基本的に流通しているのは、デッドコピー品(デビサバ仕様だと思えばいい)。東京都内でしか使えない欠陥品。これはいち早く正規品の存在に気づいたクズノハが、回収と同時に流したもの。そのままなら悪魔召喚プログラムの拡散は防げなかったが、インターネットがそこまで発達してなかったことに加え、相応の魂の強さがなければ使えないという正規品の仕様の穴をついて、わざと誰でも使えるが場所が限定される粗悪品を積極的に拡散した。これにより悪貨が良貨を駆逐するように、使える者が限られる正規品が不良品とされ、その殆どが回収された。結果、東京は今まで以上の激戦地となったが、日本そのものが地獄になることは防がれた。今も血眼になって、クズノハは正規品を秘密裏に回収している。
因みに現在の正規品のユーザーは、届け出が義務づけられている上に、ヴィクトルの全面協力の下、他者には絶対に使えないようにCOMPを改造されている。それでもオザワのような隠れユーザーは一定数存在する。

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