流れは変わっていません。
※2026年6月28日
惨めな自分
僕は何がしたいのだろう。
何を望み、何から逃げたいのだろう。
明日になれば、また知らない学校で新しい生活が始まる。
問題が起こるたびに転校を繰り返し、その度にいじめの標的になる。
そして、僕に関わった人は決まって姿を消していく。
もう誰にも迷惑をかけたくない。
いっそのこと、このまま一人で消えてしまえたら──そんなことばかり考える日々だった。
それでも学校だけは辞めようとは思わなかった。
理由は分からない。
ただ、どんなことがあっても学校へ通うことだけはやめてはいけない。そんな気がしていた。
「……次の学校では、誰にも迷惑をかけずに馴染めるといいな」
叶うはずもない願いを胸に、僕は静かに目を閉じた。
「……ん、んん……?」
差し込む眩しい日差しに目を覚ます。
(おかしいな……カーテンは閉めたはずなのに)
寝ぼけ眼のまま身体を起こし、部屋を見渡した。
「……え?」
そこは昨日まで寝ていた部屋とは、まるで別の場所だった。
家具の配置も、壁紙も、窓の位置も何もかも違う。
「ど、どどど……どういうこと!?」
慌てて頬をつねる。
(夢だ……きっと夢なんだ)
そう願ったが、頬には確かな痛みが走るだけだった。
「学校……どうしよう……」
こんな状況で学校へ行けるわけがない。
それでも何か手掛かりがあるかもしれないと思い、家の中を調べ始めた。
家具は最低限しか置かれておらず、生活感はほとんどない。
冷蔵庫を開けても、中にはわずかな食材しか入っていなかった。
そんな中、玄関で一枚のカードを見つける。
「これは……学生証?」
恐る恐る拾い上げる。
そこには見覚えのある自分の顔写真と、自分の名前が記されていた。
「僕の……学生証?」
もちろん、こんなものを作った覚えはない。
「でも、これがあれば学校には行ける……のかな」
そう呟いた時、視界の端に妙なものが映る。
「……っ!?」
玄関の壁には、一丁の拳銃が立てかけられていた。
「なんで家に拳銃なんか……」
思わず一歩後ずさる。
(……こんなもの、使うことなんてないよね)
疑問は増えるばかりだった。
テレビをつければ、見知らぬアナウンサーが見知らぬ街のニュースを伝えている。
そこで初めて、この街の名前が「キヴォトス」だと知った。
「そうだ、スマホ……!」
机の上に置かれたスマートフォンを手に取り、いつものパスワードを入力する。
問題なくロックは解除された。
カレンダーアプリを開くと、その日に予定が細かく書き込まれていた。
「読んでみよう……」
一つずつ内容を確認する。
学校は八時登校。
現在は七時。
地図を見る限り、学校までは徒歩三十分ほど。
急げば十分間に合う。
そう判断すると、ハンガーに掛けられていた制服へ着替え、トーストを一枚だけ焼いて口へ運んだ。
味なんてほとんど分からない。
「……行きたくないな」
学校に良い思い出なんてない。
教室という言葉を思い浮かべるだけで胸が苦しくなる。
それでも行かなければならない。
「行ってくるよ、里香ちゃん」
誰もいない部屋へそう告げると、学生証を鞄へしまい、静かに玄関の扉を開けた。
外は、僕の気持ちとは正反対にどこまでも青く澄んでいた。
雲一つない快晴。
その眩しさが、今の僕には少しだけつらかった。
漏れそうになるため息を飲み込みながら、僕は見知らぬ学校への道を歩き始めた。