乙骨くんの憂鬱アーカイブ   作:イルカライフル

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時系列的には本編開始前です
再編集して書き直しました。
流れは変わっていません。
※2026年6月28日


最悪な1日

 

家を出てから数分、歩き続けているがなかなか住宅街から抜け出せない。ここにあるのはどれも高級住宅といった美しい外観の家だった

 

 

「すごいなぁ……」

 

 

本当に夢なのではないだろうかと思える程の景色に、思わず声が漏れ出した

 

 

そんな住宅街も終わりが見えてきて大通りにでる

 

 

「こ、コレが学校!?」

 

 

目の前に現れた城とも呼べる程大きな校舎は、見ているだけで取り込まれそうな程とてつもない存在感を放っていた

 

 

あまりの驚きで圧倒されていると後ろから声をかけられた

 

 

「貴方は……この学校の新入生ですか?見たところ……男子生徒のようですが」

 

 

「あっ、はい!ここの生徒……だと……思います」

 

 

声を掛けてきたのは恐らくこの学校の先輩だろう。黒くて大きな翼に頭の上に浮かんだ天使の輪っか?みたいのが目立つ

 

 

(天使のコスプレ?)

 

 

家に気を取られていたため、まったく気づかなかったが周りの人全員に同じような翼と輪っかがあった

 

 

「それで……何か僕に用が?」

 

 

恐る恐る聞いてみる

 

 

「ああ、いえ、失礼しました。私はトリニティ総合学園2年正義実現委員会の羽川ハスミと申します。キヴォトスに男子生徒は珍しいものですからつい声を掛けてしまいました」

 

 

「……そうなんですか?」

 

 

よくよく周りを見ると何処を探しても女子生徒しかいない。嫌な予感がしたので聞いてみることにした

 

 

「あの、ここって女子高だったりします……か……ね?」

 

 

するとおかしいなことを言うといった目で返事を返してくれた

 

 

「そもそもキヴォトスに男子高なんてものはありませんよ、私も学生で男の人を見るのは今日で初めてです」

 

 

「えっ?」

 

 

まさか自分以外に男子生徒を見たことがないなんて、やっぱりここは自分が知る場所とはまったく違う場所なのだろう

 

 

「えと、その……頑張りますね……」

 

 

「はい、よい学園生活を」

 

 

そう言うと羽川先輩と別れて門を潜った

 

 

ーーーー

 

 

しばらく中を見渡すと校舎の入り口が見えてきたので中に入る。男子一人というだけでもだいぶ肩身が狭いというのに、周りの生徒は皆お嬢様のような人ばかりだった

 

 

(ここが僕の席か……)

 

 

席は教室の左端後ろ、目立ちすぎないので丁度いいのかもしれない。そう思い授業の開始時間を待つ

 

 

時間になっても先生が来ないと思っていると、何やら皆タブレット端末を使って授業を受けていた

 

 

(えぇ……タブレット端末なんて持ってきてないよ……)

 

 

そんな事を思いながらカバンを探る

 

 

「あのー、よければ一緒に使いませんか?」

 

 

突然、隣から声を掛けられた。

 

 

驚いて顔を向けると、鳥のような可愛らしいアクセサリーが付いたタブレットを差し出してくれている。

 

 

「あ……うん。見せてもらってもいいかな?」

 

 

「はい! もちろんです!困っている人には手を差し伸べるべきですから!」

 

 

そう言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

 

「私は阿慈谷ヒフミです!」

 

 

「僕は……乙骨憂太」

 

 

「乙骨君ですね! これからよろしくお願いします!」

 

 

「あ、ああ……よろしく」

 

 

少しぎこちない返事になってしまった。

 

 

それでも阿慈谷さんは気にした様子もなく、嬉しそうに笑っていた。

 

 

(よかった……)

 

 

隣の席が優しい人で、本当に良かった。

 

 

その瞬間だけは、この学校へ来たことを少しだけ前向きに思えた。

 

 

(ここの生活も……案外悪くないのかもしれない)

 

 

ーーー放課後

 

 

「あの……今日はタブレットを見せてくれてありがとう」

 

 

「はい! 次は忘れないように気を付けてくださいね」

 

 

「うん。気を付けるよ」

 

 

軽く手を振って別れ、僕は一人で帰路についた。

 

 

(一日目……なんとか乗り切れた)

 

 

そう安堵する一方で、一つだけ気になっていることがあった。

 

 

(それにしても……なんでみんな銃を持ってるんだろう)

 

 

今日一日、それがずっと頭から離れなかった。

 

 

あんなに優しかった阿慈谷さんですら、当たり前のように銃を持ち歩いている。

 

 

(この辺りって、そんなに治安が悪いのかな……)

 

 

考え事をしながら歩いていると──

 

 

ゴツン。

 

 

「いたっ」

 

 

何かに頭をぶつけた。

 

 

恐る恐る顔を上げる。

 

 

そこには、二体のロボットが立っていた。

 

 

「何だ? チッ、コイツ男かよ」

 

 

「ヒッ……!」

 

 

思わず身体が竦む。

 

 

その瞬間、理解した。

 

 

(だから……みんな銃を持っていたんだ)

 

 

自分の身を守るために。

 

 

「いや待てよ。キヴォトスで男は珍しいんだろ? 何か利用価値があるかもしれねぇ」

 

 

「ヘイローもねぇ奴なんて、一瞬だろ」

 

 

二体のロボットがゆっくりと僕へ近付いてくる。

 

 

「ま、待ってください! それ以上は……!」

 

 

必死に制止を呼びかける。

 

 

だが、ロボット達は止まらない。

 

 

そして、その手が僕へ届こうとした──。

 

 

ギシッ……ギシギシッ……ミシッ――。

 

その瞬間、辺りの空気が一変した。

 

 

重く、息苦しい。

 

 

まるで何か巨大な存在が、この場に現れようとしているかのようだった。

 

 

「お、おい! なんだ、この感じは!?」

 

 

「なんだ?? 何が――」

 

 

ゆうたを゙……いじめるなぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁぁッ!!

 

悲鳴とも怒号ともつかない声が響き渡る。

 

 

振り返った二体のロボットの背後には、人とは到底呼べない異形の怪物が立っていた。

 

 

「里香ちゃん!」

 

 

折本里香。

 

 

幼い頃、事故で命を落とした僕の幼馴染。

 

 

成仏することなく呪いとなって僕に取り憑き、こうして僕に危険が迫る度に姿を現しては守ってくれる。

 

 

だけど――。

 

 

それが、僕が転校を繰り返してきた理由の一つでもあった。

 

 

僕を傷つけようとする人が現れる度に、里香ちゃんはその相手を容赦なく殺してしまう。

 

 

「い、嫌だ! 死にたく――」

 

 

叫び終える前に、里香ちゃんの拳がロボットを吹き飛ばした。

 

 

鈍い音と共に装甲が砕け散る。

 

 

もう一体も逃げる暇すらない。

 

 

「ば、化け物だ! 助け――」

 

 

言葉は最後まで続かなかった。

 

 

叩きつけられ、踏み潰され、何度も何度も殴られる。

 

 

やがて二体のロボットは動かなくなり、辺りには壊れた部品だけが散らばっていた。

 

 

静かな夕暮れに残ったのは、戦いの痕跡だけだった。

 

 

里香ちゃんは僕の方を一度だけ見つめると、何事もなかったかのように姿を消していく。

 

 

「……どうして、里香ちゃん」

 

 

助けてくれたことは嬉しい。

 

 

本当に、感謝している。

 

 

だけど――里香ちゃんに誰かを傷つけてほしくなんてなかった。

 

 

相手がロボットだった分、人だった時より罪悪感は少ない。

 

 

それでも、もしこれが学校で起きていたら。

 

 

そう考えるだけで胸が苦しくなる。

 

 

里香ちゃんは、誰かを傷つける度に僕の心にも傷を残していく。

 

 

(僕のせいで、また誰かが傷つく……)

 

 

(里香ちゃんだって、きっと望んでこんなことをしたわけじゃないのに……)

 

 

僕は足早に家へ向かった。

 

 

もう二度と、里香ちゃんを人前で顕現させない。

 

 

そう心に誓いながら。

 

 

家へ帰ると、最低限のことだけ済ませて布団へ潜り込む。

 

 

目を閉じても、さっきの光景が何度も脳裏に蘇った。

 

 

忘れようとしても、忘れられない。

 

 

それでも疲れた身体は少しずつ眠気に飲み込まれていく。

 

 

(……明日こそ、いい日になるといいな)

 

 




乙骨くん、強く生きてくれ……
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