親が再婚した俺に課せられたのは、義妹と生き別れた実兄の代わりになることだった 作:古野ジョン
端的に言えば、義妹が出来た。
高校二年生の夏休み、母親から再婚することを告げられた。ずっと女手一つで育ててくれた母さんが新たなパートナーを得るというのだ。これほど喜ばしいことはないと思い、もちろん賛成した。
母さんは昔から看護師として大病院に勤めていて、なんとそこの院長先生と再婚するらしい。聞けばその先生は十数年前に離婚しているものの、高校一年生の一人娘がいるそうだ。つまり、再婚によって義妹が出来るというわけである。
今までは二人暮らしだったし、母さんも仕事でよく家を空けていた。だから妹が出来るというのを結構楽しみにしている自分がいる。別に年下の女の子と同居するのが嬉しいのではなく、年が近い家族が増えるというのが楽しみなのだ。
「母さん、新しい家っていうのは……」
「もう少しで着くから。すごいお家だけど、ビックリしないでね」
俺と母さんは、迎えの車に揺られて新たな住まいへと向かっていた。今までは狭いアパートに暮らしていたが、これからはお手伝いさん付きの大豪邸に住むことになる。期待半分、怖さ半分ってところだな。
「うわっ、すご!」
やがて道の先に見えてきたのは、とんでもないお屋敷だった。周りを塀で囲まれており、大小様々な日本家屋が敷地内に配置されている。そりゃお手伝いさんも必要だよな。
「到着しました。お二人とも、どうぞ」
家の前に着くと、一足先に降車していた運転手がドアを開けてくれた。それに従って地面に立ち、再び家の広さに唖然とする。この木造の立派な門だけで豪邸ってことが分かるもんな。はあー、金持ちってすご――
「やあ、待たせたね」
「うわっ!?」
しげしげと門を眺めていると、その中から男が現れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。思わずしりもちをつきそうになりつつ、体勢を立て直す。よく顔を見ると、そこに立っていたのは母親の再婚相手だった。この人とは既に挨拶を交わしたことがあったので、顔を覚えていたというわけだ。
「今日からよろしくお願いしますね」
「よ、よろしくお願いします!」
「いやいや、今日からここはお二人の家なんだから。もっと肩の力を抜いて」
俺と母さんが頭を下げると、父親――と呼べばいいのか――は苦笑いで肩をすくめるような動作を見せた。大病院の院長先生だってのに、随分と気さくな人なんだな。一緒に住むわけだし、ひとまず安心した。
「そういえば、
「ああ、間もなく来ますよ。すいませんねえ、反抗期なものだから」
「いえ、難しい年ごろですものね……」
母さんは父親と会話を交わしていた。奏、とは恐らく父親の一人娘のことだろう。たしか俺と同じ高校に通っているそうだが、あいにく知り合いではない。俺の妹になる人間はどんなもんなんだろうか。
「おや、来たようだ。おーい、奏!」
噂をすれば、門の向こうからジャージ姿の少女が気だるげに歩いてきた。あれは……ソフトボール部のものだな。体育会系なのか、気が合いそうだ。長い黒髪をポニーテールでまとめたその少女は、やがて俺たちの前にやってきた。
「奏、挨拶しなさい」
「……
「奏さん、よろしくお願いしますね」
「お母さん、こちらこそよろしくお願いします」
「あら、もうお母さんって呼んでくれるの? 嬉しいわあ」
奏は母親に対してペコリと頭を下げた。意外と礼儀正しいんだな。やっぱり良いところのお嬢様なだけはある。よかった、これならうまくやっていけそうだ。
「初めまして、奏さん。
「……よろしく、陽翔さん」
こちらに一瞥もくれず、奏はムスッとした表情で言い放った。ちなみに福島とは俺の旧姓である。それにしても、母さんのことは「お母さん」と呼ぶのに、俺のことは名前で呼ぶのか。照れ臭いのかな? 初対面だし、ちゃんと打ち解けた方がいいよな。だったらちょっとおどけてみるか。
「俺のこともお兄ちゃんって呼んでくれていいんだよ? なーんて、あはは……」
わざとらしく笑いながら、聞いてみた。俺としては軽い気持ちで、大したことを言ったつもりはなかったのだが――次の瞬間、奏が俺の胸ぐらを片手で掴んできた。
「ぶえっ!?」
「誰がアンタのことを……!」
「や、やめなさい!」
父親が止めに入ったが、奏は気にもしていない。そして冷たく、どこか悲しそうに――奏は大きな声で言い放った。
「私のお兄ちゃんは一人だけ! アンタのことなんか絶対に認めない! 一生! アンタはただの同居人だから!」
奏は手を放すと、フンと鼻を鳴らして門の中へと戻っていってしまった。こうして、俺の新生活は「妹」からの拒絶で幕を開けたのだった――