「困難の中に機会がある」──アルベルト・アインシュタイン
勝者の影には、敗者の涙がある。
栄光の裏には、苦悩と葛藤がある。
だが、困難は終わりではなく、新たな道を開く鍵となる。
それを、この夏に知ることになった。
オークス。スターリープライドの圧勝劇。
私はその光景を見届けていた。
2400mの長丁場。
スターリープライドはいつも通り後方でレースを進め、エレガンジェネラルはそのさらに後ろ。
しかし、最後の直線で、彼女は異次元の速さを見せた。
「これは強い! 後方から一気にスターリープライドが飛んできた!」
実況の声が響く。
まるで流れるように、スムーズに加速するスターリープライド。まるで初めから勝つことが決まっていたかのように。
そして。彼女の傍らには、キツネの幻影が再びいた。
彼女は、一流のウマ娘のみに許された”領域”に至っている。
そして、他のすべてを置き去りにし、ゴールを駆け抜けた。
エレガンジェネラルは6着。オークスという舞台を考えれば、決して悪い成績ではない。
だが、彼女の表情を見れば、満足していないことは明らかだった。
「……ダメだった。」
「悪くはなかったと思うよ。」
私は声をかけたが、彼女は首を振った。
「違う。……このままじゃ、勝てない。」
その言葉に、私は何も言えなかった。
なぜなら、それは私自身が感じていたことでもあるからだ。
スターリープライドが強すぎるのではない。
私たちが、まだそこに至れていないだけなのだ。
「……秋華賞は目指さない。」
「え?」
「今のまま走っても、何も変わらないから。」
エレガンジェネラルの声は静かだったが、その中に強い決意が感じられた。
「一から鍛え直す。基礎からやり直して、もっと強くなる。」
「……そっか。」
私は、それ以上何も言えなかった。
だが、彼女の決断が正しいことはわかっていた。
エレガンジェネラルは、本気で変わろうとしている。
ならば──私も。
夏。スターリープライドの試練。
彼女は、脚を痛めた。
致命的な怪我ではない。だが、本調子とは言えない状態が続いている。
「大丈夫なんでしょうか……」
私は、杉本トレーナーに尋ねた。
「詳しいことはわかりませんが、焦らず調整を続けているようですね。」
スターリープライドの陣営も慎重になっている。
無理にレースに出ることはせず、復帰のタイミングを見極めている。
夏の間、スターリープライドはレースに出なかった。
そして、私は、2勝クラスで勝利を収めた。
この夏、私は着実に調子を上げていた。
スターリープライドが調整に専念する中、私はトレーニングを積み、レースで勝ちを重ねた。勝利を重ねることで、自分の走りに確信が持てるようになってきた。
先行して差す。
それが、私のスタイルだ。
秋華賞──戦いの刻。
「ここまで順調ですね。」
杉本トレーナーが穏やかに言う。
「はい。」
私は、自分の手を握りしめる。
エレガンジェネラルは秋華賞には出ない。
スターリープライドは本調子ではないかもしれない。
だが、私が試される時が来た。
この秋、私はどこまで行けるのか?