その脚が砕けるまで   作:えすてる結合

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来た、見た、勝った

「幸運は勇者に味方する」──ウェルギリウス『アエネーイス』

 

 恐れることなく進む者にこそ、勝利の女神は微笑む。

 過去の戦場で、剣を手にした者たちがそうであったように。

 

 私が手にした剣は──

 果たして、私をどこへ導くのか。

 

 関越ステークス。パドック。

 私は、ゆっくりと歩きながら、雲間の太陽を見上げた。

 

──今日、私は勝たなければならない。

 

 スターリープライドへ手を届かせるため。

 エリザベス女王杯を目指すため。

 そのすべてのために、ここで勝つ必要がある。

 

 しかし、心のどこかに引っかかるものがあった。

 

──また、剣闘士が見えた時、矢が刺さった時、どう走ればいい?

 

 左脚に矢が刺さった幻影、その痛みが私の走りを鈍らせた。

 今日もまた、同じことが起きるのか?

 私は、その時どうすればいい?

 

 答えは出ないまま、ゲートへと向かった。

 

 ゲートイン。

 

 私は深く息を吸い、意識を集中させた。

 今の私は、出負けたりはしない。

 しっかりと反応し、先行集団へと取り付く──はずだった。

 

 しかし。

 

 ほんの僅かに、迷いがあった。

 一歩目の踏み込みが遅れ、結果として私は集団の後方に位置することになった。

 

──いけない。

 

 そう思っても、すでに遅い。

 この位置からでは、先行策は取れない。

 ならば、どうする?

 

 瞬く間に私は集団に取り囲まれた。

 

 左右には、同じようにこのレースに懸けるウマ娘たちがいた。

 彼女たちは、全身全霊で走っていた。

 必死に前を目指し、全力で脚を動かしている。その姿は、まさに命の煌めきだった。

 

──私は、ハッとした。

 

 彼女たちも、オープン戦に出走できる一握りのウマ娘。

 誰もが、この一戦にすべてを懸けている。

 なのに、私は何をしている?

 

 この期に及んで、幻覚に惑わされ、足を止めるというのか?

 

 スターリープライドに手を届かせるために、私がすべきことは──

 

 答えは、自ずと出ていた。

 

veni, vidi, vici! (来た、見た、勝った!)

 

 私の視界に、再び剣闘士たちが現れる。

 彼らは、短剣(グラディウス)長方形の盾(スクトゥム)を持ち、整然と隊列を組んでいた。

 その背後に立つのは、かつてのローマの将軍。

 

──進軍開始。

 

 私は、剣闘士たちと共に、前へと進む。

 

「──リア、後方からすごい脚で飛んで──!」

 

 実況の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。

 しかし、そんなことに構っている暇はない。

 前方には、敵の矢の嵐が待っていた。

 

──また、矢が降り注ぐ。

 

 でも、私はもう迷わない。

 脚に矢が刺さる幻影。

 左脚に痛みが走る。

 

 しかし、それに何の意味があろうとも。

 

「速く走ることより、大事なことがあるもんか!」

 

 私は、叫ぶように前へ飛び出した。

 そして、私は──

 

 先頭でゴール板を駆け抜けた。

 

 関越ステークス、優勝。

 

 私は、ついに私の「領域」を掌握した。

 そして、もう一つの事実にも気づいていた。

 

──左脚は、もう限界を迎えつつある。

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