その脚が砕けるまで   作:えすてる結合

19 / 19
勝利のその先へ

「これが……領域……。」

 

 エレガンジェネラルの息が乱れながらも、静かに聞こえた。

 スターリープライドの領域がそうだったように、彼女にも、他のウマ娘たちにもこの剣闘士たちは見えているのだろう。

 

 視界の中に、規律を持った隊列が浮かび上がる。

 鎧に身を包んだ剣闘士たちが、無言で整列し、共に進軍する姿。

 それは、もはや幻ではなく、私の戦いの象徴となっていた。

 

「でも、ストーリア、あなたには負けない!」

 

 エレガンジェネラルの声が響く。

 

 私は、ちらりと横目で彼女を見た。

 彼女の瞳には、私と同じ決意が宿っていた。

 

 彼女の呼吸は荒い。

 それでも、彼女は前を向いていた。

 

「第4コーナーにさしかかり、エレガンジェネラルが位置を上げてきた!ストーリアと並び、最終直線に入ります!」

 

 実況の声と、スタンドからの歓声が重なる。

 エレガンジェネラルも、速度を上げ迫ってくる。

 

 だが──私は、負けない。

 

veni, vidi, vici(来た、見た、勝った)

 

 剣闘士たちは、短剣(グラディウス)長方形の盾(スクトゥム)を携え、整然とした隊列を組んでいた。

 その一人一人が、無言のまま槍を構え、盾を固め、私の両脇を進む。

 

 背後から、ローマ将軍の進撃を告げる号令が響く。

 

「進め!」

 

 その瞬間、全身が覚醒する。

 脚は軽く、風は速く、世界が研ぎ澄まされていく。

 

「──っ!!」

 

 私は、加速する。

 エレガンジェネラルを引き離し、先頭へと踊り出る。

 

 彼女の気配が遠のく。

 視界の隅で、彼女の必死の形相が見えた。

 しかし、私は止まらない。

 

 観客の歓声が大きくなる。

 ゴールはもうすぐそこだ。

 

 だが、その瞬間。

 

 前方から、矢の嵐が襲いかかってくる。

 

──これまでも、私は矢の幻影を見てきた。

 

 左脚に突き刺さる幻覚は、私の走りを一瞬鈍らせたこともあった。

 しかし、今の私は違う。

 

 足の痛みでは、もう迷わない。

 

「痛む左脚なんて、構うものか!」

 

 私は、叫ぶように前へ飛び出した。

 剣闘士たちは盾を掲げ、矢を防ぎながら進軍する。

 私はその先頭を駆け抜ける。

 

 もう、迷いはない。

 

──私は、勝つ!

 

 視界の先に、ゴールが見えた。

 歓声が混ざり合い、世界が揺れる。

 

……その時だった。

 

 矢の一つが、左脚を貫通した。

 

 それは、これまでの幻覚とは違っていた。

 

 全く異なる痛み。

 鋭く、深く、何かが決定的に壊れるような感覚。

 

「……っ!?」

 

 私は、思わず脚を見る。

 

 左脚に刺さった矢。

 もちろん、実際には何もない。

 

 しかし、脚は動かない。

 

「そんな……」

 

 次の瞬間、身体が傾いた。

 バランスを崩し、地面が近づいてくる。

 

 

 歓声が、悲鳴へと変わる。

 

「ストーリア!!」

 

 誰かの叫び声が聞こえた。

 

 私は、それが誰の声なのか分からなかった。

 

 ただ、白い光に包まれながら、私の世界は閉じていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。