「勝利とは、最も忍耐強い者にもたらされる」──ナポレオン・ボナパルト
どれだけ優れた戦略を持とうと、どれほどの知識を積み重ねようと、結局のところ、運命を掴めるのは諦めなかった者だけだ。
この言葉を、今ほど強く意識したことはない。
なぜなら、今日は、私にとって、最初の戦いの場となる日だからだ。
トレセン学園での生活は、思った以上に厳しかった。
授業は一般教養に加え、専門的なレース理論、身体のケア、メンタルコントロールの講義がある。トレーニングは基礎体力の強化から始まり、コース練習、スタートダッシュの反復練習、加速力の向上を目的とした坂路トレーニングなど、多岐にわたる。
私の前世はただの高校生だった。スポーツ経験も大したものはなく、体を動かすことに関しては特別得意でもなかった。だが、この体は違う。
ウマ娘としての本能か、それとも元々の適性か。身体が動きを覚え、求められる動作を次々とこなしていく感覚は、まるで水を得た魚のようだった。
体力的には確かにきついが、耐えられないわけではない。むしろ、走れば走るほど自分が成長していく実感があった。
私は、走ることが好きなのかもしれない。
そして、トレセン学園に入学してしばらく経った頃、ついにその機会が訪れた。
選抜レース。
デビュー前のウマ娘が実力を示すための舞台。ここで結果を残せば、トレーナーの目に留まり、スカウトされる。デビューへの道が開ける重要なレースだ。
舞台は芝1600m。距離は短すぎず長すぎず、適性を測るのにちょうどいい。
エレガンジェネラルも同じ組にいる。
「なんか緊張してきた!」
彼女は腕をぐるぐる回しながら、珍しく落ち着かない様子だった。
「私、こういうレースって初めてでさ……っていうか、デビュー前のレースって、めっちゃ大事だよね? ここで負けたらトレーナーにスカウトされないかもしれないって考えたら……うわああ、どうしよう!」
私は静かに彼女を見つめる。
「騒いでも結果は変わらないよ」
「そりゃそうだけど! でもさぁ、私たちよりすごいウマ娘、いっぱいいるじゃん?」
「……たとえば?」
「ほら、あの子!」
エレガンジェネラルが指さした先にいたのは──
スターリープライド。
学園でも有望株として注目を集めているウマ娘。その立ち姿は、どこか気高く、自信に満ちていた。
「今大会の注目株だって! 『期待の新星』とか『世代のリーダー候補』とか、みんな言ってるよ」
確かに、彼女はすでに頭一つ抜けた存在なのだろう。デビュー前とはいえ、学園内での評価は圧倒的だ。
「まぁ、私たちはそのスターリープライドと同じレースを走れるんだから、ある意味チャンスだよね!」
エレガンジェネラルは前向きに言うが、私は静かにスターリープライドを見つめる。
確かに、注目されているのは彼女だ。
だが、私は私のレースをするだけだ。
レースは間もなく始まる。
芝1600m、マイル戦。スタート地点に立つと、心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。
前世では味わったことのない感覚。
純粋な興奮。
「いよいよだね!」
エレガンジェネラルが隣で言う。
スターリープライドはは周囲の喧騒を意に介さず、静かに集中している。
私も、目を閉じ、一つ息を吐いた。
一瞬の静寂。
そして。
ゲートが開き、私たちは、一斉に飛び出した。