「昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう」──アルベルト・アインシュタイン
過去から学び、今を生き、未来を目指す。
成長とは、試行錯誤の繰り返しの中にある。
──私は、まだその途中だ。
「差しの手応えはどうでしたか?」
レース翌日、杉本トレーナーに問われた。
私は少し考え、言葉を選ぶ。
「……最終直線で、追われる立場ではなく、追う立場だったのは初めてでした。」
「それは、どんな感覚でしたか?」
「……思ったよりも、悪くはなかったです。」
実際、先行でレースをしてきた私にとって、差しという戦法は未知の領域だった。
最終直線で前を追いかける立場になり、一頭ずつ抜いていく感覚。
確かに新鮮だった。
「ただ……」
私は言葉を継ぐ。
「これが、私に合っている走り方かどうかは、まだわかりません。」
「ほう。」
杉本トレーナーは、穏やかな表情で続きを促す。
「逃げや先行のウマ娘を抜いていくのは、確かに気持ちがいいです。でも、最後の直線で最大まで加速した時、勝ったウマ娘との速度差がほとんどありませんでした。」
「なるほど。」
「つまり、私は終盤で爆発的に加速するタイプではない、ということです。速さを持っているのは確かですが、あの差し脚一本で勝負するのは……」
「厳しい、と。」
「……はい。」
杉本トレーナーは静かに頷く。
「なるほど。あなたの考えは理解しました。」
夜。寮に戻り、エレガンジェネラルと談話を交わす。
「差しって、どうだった?」
「うーん……悪くはなかったけど、何か違う気がする。」
私はベッドの端に腰を下ろしながら、曖昧な答えを返す。
「へぇ……」
エレガンジェネラルは興味深そうに頷くと、ふと何かを思い出したように言った。
「サイレンススズカ先輩って、逃げて差す走りだったって言われてたよね。」
「逃げて……差す?」
「うん。最初から飛ばして、なおかつ最後までスピードを落とさなかった。だから、彼女の逃げはただの逃げじゃなかったんだって。」
私は少し考え込む。
「……じゃあ、私の場合は、先行して差す……?」
「かもね。」
エレガンジェネラルは微笑む。
「人それぞれ、合った走り方があるでしょ? 逃げ、先行、差し、追い込み……でも、その中間もあるはず。」
「……なるほど。」
言葉の意味は理解できる。
だが、それをどう実践に落とし込むかは、まだわからなかった。
トレーニングを続ける。
試行錯誤を重ねるが、なかなか思うようにいかない。
差しの走りに慣れてきたとはいえ、まだしっくりとはこない。
「……難しいですね。」
ある日のトレーニング後、私は杉本トレーナーにそう漏らした。
「ええ。ですが、道は一つではありません。」
「……?」
「今はまだ、あなたにとって最適な形が見つかっていないだけです。」
「……」
「焦らず、じっくりと取り組みましょう。」
杉本トレーナーの言葉は、常に穏やかだった。
だが、その芯には確かな信念があった。
そして、迎えた2戦目。
結果は──2着。
勝ちきれなかった。
だが、それ以上に驚いたことがある。
「スターリープライド、3着?」
同じ日の直後の1勝クラスのレース。
スターリープライドは、3着に敗れていた。
あのスターリープライドが。
「試行錯誤しているのは、私だけではないのか……?」
彼女もまた、新たな可能性を模索しているのかもしれない。
負けを知り、道を探しているのかもしれない。
──ならば。
私は、もっと強くなれるはずだ。
試行錯誤の果てに、見つけ出すべき答えがある。
それを求め、私は走る。