その脚が砕けるまで   作:えすてる結合

7 / 19
模索の果てに

「昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう」──アルベルト・アインシュタイン

 

 過去から学び、今を生き、未来を目指す。

 成長とは、試行錯誤の繰り返しの中にある。

 

──私は、まだその途中だ。

 

「差しの手応えはどうでしたか?」

 

 レース翌日、杉本トレーナーに問われた。

 私は少し考え、言葉を選ぶ。

 

「……最終直線で、追われる立場ではなく、追う立場だったのは初めてでした。」

「それは、どんな感覚でしたか?」

「……思ったよりも、悪くはなかったです。」

 

 実際、先行でレースをしてきた私にとって、差しという戦法は未知の領域だった。

 最終直線で前を追いかける立場になり、一頭ずつ抜いていく感覚。

 

 確かに新鮮だった。

 

「ただ……」

 

 私は言葉を継ぐ。

 

「これが、私に合っている走り方かどうかは、まだわかりません。」

「ほう。」

 

 杉本トレーナーは、穏やかな表情で続きを促す。

 

「逃げや先行のウマ娘を抜いていくのは、確かに気持ちがいいです。でも、最後の直線で最大まで加速した時、勝ったウマ娘との速度差がほとんどありませんでした。」

「なるほど。」

「つまり、私は終盤で爆発的に加速するタイプではない、ということです。速さを持っているのは確かですが、あの差し脚一本で勝負するのは……」

 

「厳しい、と。」

「……はい。」

 

 杉本トレーナーは静かに頷く。

 

「なるほど。あなたの考えは理解しました。」

 

 夜。寮に戻り、エレガンジェネラルと談話を交わす。

 

「差しって、どうだった?」

「うーん……悪くはなかったけど、何か違う気がする。」

 

 私はベッドの端に腰を下ろしながら、曖昧な答えを返す。

 

「へぇ……」

 

 エレガンジェネラルは興味深そうに頷くと、ふと何かを思い出したように言った。

 

「サイレンススズカ先輩って、逃げて差す走りだったって言われてたよね。」

「逃げて……差す?」

「うん。最初から飛ばして、なおかつ最後までスピードを落とさなかった。だから、彼女の逃げはただの逃げじゃなかったんだって。」

 

 私は少し考え込む。

 

「……じゃあ、私の場合は、先行して差す……?」

「かもね。」

 

 エレガンジェネラルは微笑む。

 

「人それぞれ、合った走り方があるでしょ? 逃げ、先行、差し、追い込み……でも、その中間もあるはず。」

「……なるほど。」

 

 言葉の意味は理解できる。

 だが、それをどう実践に落とし込むかは、まだわからなかった。

 

 トレーニングを続ける。

 試行錯誤を重ねるが、なかなか思うようにいかない。

 差しの走りに慣れてきたとはいえ、まだしっくりとはこない。

 

「……難しいですね。」

 

 ある日のトレーニング後、私は杉本トレーナーにそう漏らした。

 

「ええ。ですが、道は一つではありません。」

「……?」

「今はまだ、あなたにとって最適な形が見つかっていないだけです。」

「……」

「焦らず、じっくりと取り組みましょう。」

 

 杉本トレーナーの言葉は、常に穏やかだった。

 だが、その芯には確かな信念があった。

 

 そして、迎えた2戦目。

 結果は──2着。

 勝ちきれなかった。

 だが、それ以上に驚いたことがある。

 

「スターリープライド、3着?」

 

 同じ日の直後の1勝クラスのレース。

 スターリープライドは、3着に敗れていた。

 あのスターリープライドが。

 

「試行錯誤しているのは、私だけではないのか……?」

 

 彼女もまた、新たな可能性を模索しているのかもしれない。

 負けを知り、道を探しているのかもしれない。

 

──ならば。

 

 私は、もっと強くなれるはずだ。

 試行錯誤の果てに、見つけ出すべき答えがある。

 それを求め、私は走る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。