その脚が砕けるまで   作:えすてる結合

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勝利の時

「偉大なことを成し遂げるには、行動するだけでなく、夢を持たなければならない。また、計画するだけでなく、信念を持たなければならない」──アナトール・フランス

 

 未来を切り拓くのは、努力と計画だけではない。

 そこに、自分の道を信じる心がなければならない。

 

 私は、まだ道半ばにいる。

 だが、歩みを止めるつもりはない。

 

 2月。

 

 私は、まだ未勝利戦を抜け出せずにいた。

 デビュー戦は3着。2戦目、3戦目は2着。悪い成績ではないが、結果を出せていないのも事実だった。

 そんな間にも、同期たちは確実に前へ進んでいた。

 

 スターリープライド。

 彼女はすでに重賞2着を2回経験し、賞金を加算。

 桜花賞の出走を確実にし、さらに上を目指していた。

 

 エレガンジェネラル。

 1勝クラスを勝ち抜き、すでに次のステージへ。

 目標をオークスへと定め、調整を行っていた。

 

 焦りがないわけではなかった。

 だが、私はまだ、焦るべきではないと感じていた。

 

「焦っても仕方ありません。」

 

 杉本トレーナーの言葉は、穏やかだった。

 

「今、あなたがすべきことは、何でしょう?」

 

 私は、その問いの意味を考える。

 勝つこと。

 だが、それだけではない。

 

 ただ勝てばいいのではなく、どう勝つかが重要だった。

 私は、これまでのレースを振り返る。

 そして、ある結論にたどり着いた。

 

「私は……先行して、差す走りをすべきなのだと思います。」

「ほう。」

 

 杉本トレーナーは、興味深そうに頷く。

 

「なぜそう思うのですか?」

「差しを試しました。でも、私はトップスピードに乗ったときの伸びが、それほど鋭くない。むしろ、前にいるウマ娘と並走しながら、加速していくほうが……」

「合っている、と?」

「はい。」

 

 杉本トレーナーは少し目を閉じ、考えるように腕を組んだ。

 

「先行して差す……」

 

 しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと頷いた。

 

「それでいきましょう。」

 

 3月。

 

 桜花賞、オークス。

 どちらも、この時点で勝ち上がれていなければ、出走が厳しくなる。

 さらに、未勝利戦終了の足音も近づいていた。

 

「……ついに、この時が来たね。」

 

 エレガンジェネラルが、レース前にそう言った。

 

「このレースで決めないと、いよいよ時間がなくなるよ。」

 

 彼女の言葉に、私は静かに頷いた。

 

「ええ。でも、焦りはないよ。」

「そっか。」

 

 エレガンジェネラルは微笑む。

 

「まあ、あなたはそういうタイプだもんね。」

 

 私は、もう迷わない。

 ただ、自分のやるべきことをやるだけ。

 このレースで──勝つ。

 

 パドックで、杉本トレーナーと最後の確認をする。

 

「ここまで、よく調整できています。」

「ありがとうございます。」

「今日のレース、どう戦うつもりですか?」

 

 私は迷わず答える。

 

「先行して、差します。」

 

 杉本トレーナーは満足げに頷く。

 

「ええ、それでいきましょう。」

 

 ゲートイン。

 私は深く息を吸い、目を閉じる。

 偉大なことを成し遂げるには、行動するだけでなく、夢を持たなければならない。

 

 私は、この世界で何を成し遂げるのか。

 まだ、その答えは出ていない。

 

 だが、今はただ──

 勝利を掴む。

 ゲートが開き、私は飛び出した。

 

 先行集団へ取り付く。

 慌てず、冷静に流れを読む。

 

 先頭争いには加わらない。

 だが、決して後れを取らず、自分のペースで進める。

 

 最終直線。

 私は、溜めた力を一気に解放する。

 ここで迷いはない。迷っている暇など、ない。

 

 加速する。

 スピードが乗る。

 目の前のウマ娘たちを、次々に抜き去る。

 

──届く。

 

 私は確信した。

 ゴール。

 

 勝った。

 レース後、杉本トレーナーが迎えに来る。

 

「おめでとうございます。」

「……ありがとうございます。」

 

 まだ、実感が湧かない。

 だが、確かに私は勝った。

 夜、寮に戻ると、エレガンジェネラルが待っていた。

 

「勝ったね!おめでとう!」

「ありがとう。」

「これで、次に進めるね。」

「……そうだね。」

 

 私は、静かに息を吐いた。

 まだ、スタートラインに立ったばかり。

 だが、ここからが本当の戦いだ。

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