「大切なものは、目に見えない」──サン=テグジュペリ 『星の王子さま』
速さとは、単なるスピードの数値ではない。
勝利とは、ただ先頭でゴールを駆け抜けることではない。
その意味を、私はまだ知らない。
だが──今日は、知ることになるのかもしれない。
桜花賞当日。
春の陽光が降り注ぐ。
桜の花びらが風に舞い、ウマ娘たちの背中をそっと押していた。
私はエレガンジェネラルとともに、桜花賞の観客席にいた。
「いよいよだね。」
「……ええ。」
スターリープライドが走る。
彼女のことを思い浮かべるたび、どうしてもあの光景が蘇る。
選抜レースの直線、一瞬で私たちを置き去りにした背中。
その速さは、ただの才能ではない。
それは、何か特別なもの──私にはまだ見えない世界。
だからこそ、今日の桜花賞はただのレースではない。
私にとって、答えを見つけるための時間でもある。
「スターリープライドって、そんなに注目されてないんだね。」
エレガンジェネラルが、周囲を見渡しながら呟く。
「前哨戦の成績も悪くないのに……それほど話題になっていない。」
確かに、スターリープライドの名前を叫ぶ声は少ない。
ファンの熱狂は、他の有力ウマ娘に向けられていた。
「……でも、信じられない。」
私は呟く。
スターリープライドの実力を知る者なら、彼女が”普通”のウマ娘でないことは明らかだ。
そして、パドックに現れたスターリープライドを見た瞬間、確信に変わった。
勝負服を纏った彼女は、静かに歩いていた。
騒がしい観客の声も、他のウマ娘の視線も、彼女には関係ない。
彼女は、ただ自分の世界にいるようだった。
──いや。
彼女は、“そこ”に至ることを、もう知っている。
「……スターリープライド。」
私が呟くと、エレガンジェネラルも頷いた。
「やる気に満ち溢れてる。」
そうだ。
彼女は、これから”何か”を見せる。
レース開始。
ゲートが開き、一斉に飛び出すウマ娘たち。
スターリープライドは、いつも通り後方でレースを進めていた。
淡々と、静かに、けれど確実に。
彼女の走りに、迷いはない。
「……」
私は、じっと彼女の動きを目で追う。
何かが──起こる気がする。
最終直線。
その瞬間、私は見た。
スターリープライドの隣に──”キツネ”がいた。
幻覚だと、思った。
けれど、それはあまりに自然だった。
光を纏うかのような、淡い茶色のキツネ。
ふわりとした尻尾が風に揺れ、その瞳は静かに前を見据えていた。
──”大切なものは、目に見えない。”
キツネは、そう語るようにスターリープライドの隣を駆ける。
「
エレガンジェネラルが、呆然と呟く。
私は、彼女の視線の先を追った。
──これが、一流のウマ娘のみが至れる”領域”。
スターリープライドは、もはや”そこ”にいた。
彼女の存在そのものが、すでに光に包まれているかのように。
そして、彼女は、ただまっすぐに、先頭でゴールを駆け抜けた。
歓声が場内を揺らす。
「……勝った。」
エレガンジェネラルが、呟く。
私は、言葉を失っていた。
領域──
それが何なのか、今の私には説明できない。
ただ、スターリープライドが見せた走りが”特別”だったことだけは、はっきりとわかる。
「……」
私は、彼女の背中を見つめる。
あの世界へは、どうやって行けるのか。
私は、まだ知らない。
──だが、知りたい。