周りもわからず、ただ生きることに必死だった…
なんでもやって生きてきた…
光のない底を…
…そんな底から見えたあの光…
それを追いかけるなと言われても…誰が従うことができるだろうか…
玄武商会。朱城ルミが会長を務める組織は、今日も多くの人たちでにぎわていた。
「うん、今日もにぎわっているね」
「上海経の外からも多くの人たちが来ているので、とてもにぎわっていますね」
「そうだね。それじゃ、いつも通りいろんな人たちの案内は任せたよ、トラ」
ルミは、そういって目の前にいる彼女に仕事を任せた。
「お任せください、ルミ会長。今日も完ぺきに案内して見せます」
トラはにこにことルミに返事をし、歩き出していた。しかしルミは、あまり浮かない顔をしていた。
「まあ、大丈夫でしょう」
少し不安がありながらも、ルミは信じて待つしかなかった。
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夕方。人通りも減り、ルミの仕事もひと段落してきており今日もこのまま何もなく終わればいいなとルミは思っていた。
「ルミ会長!」
しかし、そんなルミの思いは勢いよく開けられた扉とともに吹き飛んでいった。
「トラさんが!『暇だから玄竜門へ遊びに行ってくる』と言って、飛び出していきました!」
最悪だ、とルミは頭を抱えた。とりあえず、謝罪のための菓子折りを作っておこうと決意し動き出した。
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玄武商会郊外。玄竜門と隣接しているこの場所に近づく存在が一つあった。玄武商会案内人の桃山トラであった。猛スピードで近づく彼女を止められるものはそうおらず、今まさに境界を越えようとしたその時、一発の銃弾が彼女に向かって放たれた。彼女はそれを軽々とよけ、境界ぎりぎりで立ち止まった。
「…久しぶりだな。カラフル頭」
そう言いながらトラが見た方向には、リボルバーを構えた少女がいた。
「私はサクラという名前をもらったと何度も言ったはずだが?」
「お前がどんな名前を語ったところで、カラフル頭なことには変わらんだろ?それとも、ガトリングアームとでもいった方がいいか?」
にこにこと笑いながら話すトラのことを、サクラはうんざりした目で見ていた。
「はぁ~…。ここに来たってことは、やるきか?」
「ああ!やろう!今すぐやろう!」
嬉々として二丁のハンドガンを抜くトラに対し、サクラは持っていたリボルバーを懐におさめた。
「なんだ?素手でやりあうのか?それもありだな!」
トラも銃をおさめ、こぶしを構える。しかし、その様子をサクラは興味なさげに見つめていた。
「今日はそのまま帰ってくれ」
「……はぁ?」
「毎度毎度面倒なんだよ、お前とやりあうのも」
サクラはあきれたように語り、そのまま踵を返していった。その様子を見たトラはにこにこしたまま話しかけた。
「なんだ、玄竜門はずいぶんと臆病なやつを№3に置いたんだな。門主の器量も知れたものだな」
その言葉を聞き、サクラの足が止まった。そして振り向き、トラに近づいていった。トラは構えを取り、何がきても耐えられるようにしていた。刹那、サクラの足がトラの体に突き刺さった。
凍頂烏龍拳 大紅砲
サクラの扱う拳法、凍頂烏龍拳。その中で最も早い技を繰り出したが、トラは少し後ろに下がった程度であまり効いていない様子だった。
「やる気が出てきたじゃねぇか。最初っからそうしろよ」
「黙れ。玄竜門のみならず、よくもキサキ門主様まで馬鹿にしたな!」
凍頂烏龍拳 鉄観音
休む間もなく強烈なかかと落としがトラを襲ったがトラは軽々とそれをよけ、地面が大きくえぐれた。
「はは!いいねぇ!それならこっちも!」
白毫拳 煎
サクラの技にカウンターするように、サクラの顔に自分のこぶしをたたきこんだ。しかし、サクラは微動だにしなかった。トラは距離をとるために入れ替わるように体を動かした。
「相も変わらず、ふざけた頑丈さだな。のけぞるくらいはするだろ」
「もう黙れ」
「おぉこわ。残念だけど、まだまだ黙る気はないね!」
2人の戦いは、地面をえぐり、壁を壊し、もはや野次馬たちでさえ身の安全のため隠れるほどだった。そして日が完全に落ち切り、街灯の明かりだけが二人を照らしていた。
「ふぅ、ずいぶんと暗くなってきたな」
「それがどうした」
「いや、そろそろ終わらせようと思って」
そういうと、トラは腰を落とし、こぶしを腰に構えた。
「来いよ、カラフル頭」
サクラのことをあおり挑発する。その誘いにサクラは正面から討ち果たすことを選択した。軽やかな足取りで、まるで流れる水のようにトラへ近づいていく。トラも打ち出すタイミングを見計らっていた。サクラは最も強力な技、凍頂烏龍拳の真髄ともいえる技を繰り出す。
凍頂烏龍拳 水仙
対するトラは最も破壊力のある技、白毫拳の奥義とも呼べる技を繰り出す。
白毫拳 玉
2つの技がぶつかり、はじける。その衝撃は、2人だけでなくあたりを吹き飛ばすほどであった。
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吹き飛んだ先で、トラはがれきに埋もれていた。
「あ~、結構とんだな。とりあえず起きるか」
がれきをどけ、起き上がると大きな袋を携えたルミと目が合った。
「あ!ルミ会長。お疲れ様です」
「やあ、トラ。これはいったいどういうことだい?」
「これはですね、テンション上がった結果こうなりました」
「どうやったらこうなるんだか…」
「あはは!まあいいじゃないですか。ところで、どちらに?」
「玄竜門に謝罪の菓子折りを持っていくところだよ」
「わかりました、自分も行きます」
「当たり前だろう。ほら、早くいくよ」
「はーい」
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「…おぬしがこうやってがれきに埋もれたのを見るのは久方ぶりじゃな」
サクラは、がれきに埋もれたまま動かず、キサキの話を聞いていた。
「申し訳ございません、キサキ門主様。挑発に乗り、挙句こんな無様な結果に終わってしまいました」
「良い、気にすることではない。それよりも早く起き上がってこい」
「わかりました」
サクラはがれきをどかし、できる限りほこりを払ってキサキのもとへと向かった。
「じきに玄武商会から謝罪の品が届くそうじゃ。粗相のないようにな」
「はい、分かりました」
上海経は今日も平和に終わった。少々の問題は起こったが、それはあくまで些細なものだ。
明日もきっとこのような日々が続くのだろう。
各々が見た光に焼かれながら。
桃山トラ(ももやま とら)
上海経の2年生。玄武商会に所属し案内人兼用心棒として過ごしている。ルミに惚れ込んでおり、命を捧げる覚悟がある。サクラを拾い一緒に暮らしていた時期がある。彼女に技を教えた存在である。
龍華サクラ(りゅうげ さくら)
上海経の1年生。キサキに心酔しており玄竜門のナンバー3になるほどの実力を持つ。トラは勝手に自分を連れていった狂人だと思っている。技を教えてもらったことは感謝している。