ウタハは必要なものを買い終えエンジニア部に向かって歩いていた。いくつかのパーツ、新しく発売された工具、そして一人分の食料と水。
ミレニアムサイエンススクールエンジニア部。様々な発明を行い、ミレニアムだけでなく様々なところで話題に上がるほどの技術者が集まっている。そんなエンジニア部にはこんなうわさがある。
義手と義眼だけを作り続ける生徒がいる
といったうわさだ。…この噂は実際に正しい。だがエンジニア部で義手や義眼を制作している様子を見たことはほとんどない。実際依頼により作ることはあっても、それをずっと作っている生徒は普段は見られなかった。
しかしそれは、いたってシンプルな理由であった。エンジニア部に着き、食料と水以外の荷物を置いて部室の奥の部屋へと向かっていく。
「ヤナギ、居るかい?」
部屋の扉をノックし、中に人がいるかどうかを確認する。しかし、待てども返事は帰ってこなかった。
「入るよ」
声をかけながら扉を開ける。扉の先は奇妙な光景が広がっていた。
壁にはいくつもの義手がかけられていて、机には義眼が積み上げられていた。そして床には、いくつもの壊れた義手と義眼が転がっていた。
それらの中に1人の少女が何か作業をしていた。
「ヤナギ」
ウタハが声をかけると少女はびくりと肩を震わせた。そして作業をやめ、ウタハの方に向き直った。
「…こんにちは、ウタハ部長。お元気ですか?」
微笑を浮かべ、機械のような丁寧な言葉を話すヤナギにウタハも普段の笑顔で返す。
「こんにちは、ヤナギ。そっちこそ、まともに陽の光を浴びているかい?」
「問題ありません、健康そのものですよ」
丁寧だがどこか固い。緊張でもしているかのようだ。
「これ、どうせご飯も食べていないんだろう?あげるよ」
「ありがとうございます」
ウタハは持っていた袋を渡し、部屋の中を軽く見まわす。
「…いつ見てもすごいね。少し見ていってもいいかい?」
「もちろん、かまいませんよ」
許可を得たウタハは、部屋中を見て回った。どれもこれも素晴らしい出来のものばかりだ。
ウタハはふと疑問に思った
「そういえば、どうして君はこんなにも義手と義眼を作っているんだい?」
ウタハが不意に質問すると、ヤナギは顎に手を当て考え込んでしまった。
「……昔から、好きだったんです」
「?」
「人を助けることと、物を作ることが」
「それが、ちょっとした生きがいだったんです」
まるで過去のことのように語る彼女に、ウタハは違和感を覚えた。
「今は違うのかい?」
そう聞くとヤナギは、少し困ったように顎に手を添え考える。
「……今も好きなことは変わらないとは思います。けど…」
「けど?」
「これを作っている理由は昔の考えとは変わっていると思います」
「それじゃあ、どうして…」
ピりりり!
ウタハの持っていた携帯が鳴り、ウタハは電話に出る。相手は、ユウカだ。
「あ~、何か忘れていたかな…ヤナギすまないが私はもう行くよ。見せてくれてありがとう」
「いえ、お気おつけて」
ヤナギは軽く手を振ると、慌てて出ていくウタハを、見送った。
扉を閉じ、ウタハは電話に出た。
少し不気味な後輩のことを考えながら。
相河ヤナギ(あいかわ やなぎ)17歳
ミレニアムサイエンススクールの2年生。エンジニア部に所属しているが、表に出ることは少ない。自分が作ったものは完璧であるべきという思想のもと物を作っている。義手と義眼を作り続けているのはその思想のせいでもある。