ある日、プレイヤーがコーヒーを飲もうとして、苦そうに顔をしかめる。
「……無理をしてまで飲むものではないと思いますが。」
皮肉めいた指摘をするが、それでもプレイヤーは「いや、大丈夫だよ」と微笑む。
プレイヤーは「無駄なこと」をする。それが彼女にはわからない。
「なぜ、そんなことを?」
プレイヤーは笑いながら答える。
「だって、たまには甘いものが欲しくなるじゃん。」
戦場ではあり得ない「無駄なこと」、でもそれが人間らしさなのかもしれない。
ウェディングはふと、コーヒーに砂糖を一つ入れてみる。苦さの中に、ほのかに広がる甘さ。その瞬間、彼女は理解する。
「……なるほど。こういうことですか。」
無駄なものも、ときには必要なのかもしれない——。
カフェの窓際の席に、二人並んで座る。窓の外には穏やかな午後の日差しが降り注ぎ、通りを行き交う人々の姿が映っていた。
ウェディングは静かにコーヒーカップを手に取り、一口含む。苦味が舌に広がるが、慣れたものだった。
ふと、隣に座るプレイヤーの動きを視界に捉える。彼はカップを両手で包み込みながら、妙に慎重に口元へ運び——そして、わずかに顔をしかめた。
「……苦そうな顔をしていますね」
淡々とした声で言うと、プレイヤーはぎこちなく笑う。
「いや、大丈夫。飲めないわけじゃないよ」
「そうですか。それなら何も言いませんが……」
ウェディングはカップを置き、目を細める。
「……あなた、無理をしていませんか?」
「そんなことは——」
「嘘ですね」
即答だった。彼女の観察眼を誤魔化せるはずがない。プレイヤーは視線を逸らし、気まずそうに口をつぐむ。
「……まさか、私に合わせようとしたのですか?」
プレイヤーは苦笑しながら、カップの中身を見つめる。
「うん、まあ……せっかく一緒に来たんだから、同じものを飲んでみようかなって」
「理解に苦しみますね」
彼女は小さく息をつき、視線を窓の外へ向けた。
「コーヒーが苦手なら、他のものを頼めばいいだけの話でしょう? 無理をして苦いものを飲むことに、何の意味があるのですか」
「うーん……なんだろうな。単純に、君と同じものを楽しみたかったというか……」
「不合理ですね」
即座に切り捨てる。それでも、プレイヤーは苦笑しながら肩をすくめる。
「でもさ、たまにはそういうものがあってもいいと思うよ。ほら、甘いものが食べたくなることだってあるでしょ?」
「甘いもの……?」
ウェディングは僅かに考え込む。確かに、彼女も甘いものを食べたことはある。砂糖を使ったお菓子やデザート。それらは栄養価だけを考えれば決して合理的な食事とは言えない。だが、それでも人は甘いものを口にする。
不合理なもの——。
彼女は再びプレイヤーのカップに視線を落とす。そして、何かを思いついたように、そっとテーブルの中央に置かれていた小さな砂糖入れを手に取った。
「……砂糖やミルクを入れれば、少しは飲みやすくなるはずです」
「え?」
「試してみますか?」
プレイヤーは一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間、ふっと笑みを浮かべた。
「じゃあ……試してみようかな」
小さなスプーンで砂糖をすくい、カップにひとさじ落とす。かき混ぜてから、もう一度口をつける。
「……お、さっきより飲みやすい」
「そうですか」
ウェディングは興味なさげに返しながらも、その横顔をちらりと見た。
「それなら、最初からそうすればよかったのでは?」
「でも、そうしたら君が砂糖を入れろって言ってくれなかったかもしれないし」
プレイヤーは冗談めかして言う。ウェディングは軽くため息をつき、カップを持ち上げる。
「……あなたは、本当に非合理ですね」
「まあ、そうかも。でも、君がこうして付き合ってくれるのも、少しは非合理じゃない?」
「……どうでしょうね」
ウェディングはそう返しながら、静かにコーヒーを口に運んだ。
苦味の中に、ふとわずかな甘さが混ざったような気がした。