A.なれるわけねぇだろ
ある日、いつものように俺の家でごはん会をしていた。今日の面子はドリームジャーニー、アグネスデジタル、ツインターボ、ゴルシである。今日は俺が料理を振る舞いたい気分だったので俺が作った。こう見えても元の世界で俺の家は定食屋で中学生の頃から鉄鍋を奮っていたのだ。自信がある。
「ふぅ。ごちそうさまでしたトレーナーさん。」
「食器さげますねぇ。」
「アタシデザート用意するわ。」
「ターボいちごがいいもん!」
穏やかにご飯会を済ませ、のんびりと過ごす。俺は少々仕事があるのでテーブルでパソコンを広げているが。
「ゴルシさんこちらのいちごどこで・・・?美味しいですね・・・」
「姉御?これは千葉の方から取り寄せたやつだぜ。」
「あーん。」
「あーん。」
デジタルにあーんされながらパソコンを叩く。一区切りっと。
「ふう。」
「終わりですか?お茶おかわり淹れます?」
「おう、頼むわデジタル。」
「はーい。」
「・・・。」
パソコンを閉じて肩を回す、なかなか肩凝ったな。するとジャーニーがじーっとこっちを見ていた。
「どうしたジャーニー?」
「あ、いえ・・・」
「なんか気になることでもあったか?」
「そう、ですね・・・」
「お茶おかわりでーす。」
デジタルが淹れてくれたお茶で一息。ジャーニーはうーむと顎に手を当てて考え込んでいる。
「あの、トレーナーさん。」
「おう?」
「トレーナーさんは、どうしてトレーナーになったんですか?」
「そりゃ・・・お前らに呼ばれたからだけど?」
「ああ・・・質問を変えます。」
ジャーニーはメガネをくいっと直し、姿勢を正した。そんな緊張することなくない?
「トレーナーさんは、どうやってトレーナーになったんですか?」
「そりゃあ・・・勉強してだよ?」
「それはわかっております。ですが、1番不可解なのはトレーナーになると決めて、トレーナーになるまでの期間です。」
「ああ。なるほどな。」
「普通、ウマ娘のトレーナーになると言うのは親がそう望み、赤ん坊の頃から教育して、義務教育を振り、人生を賭けて試験に挑み、それでも試験を最低8回は落ちるの前提にしてトレーナーバッジを手にする物です。それをトレーナーさんは・・・どういう魔法を使ったのです?」
「ああっと、えっとな。」
「何か、言いづらい事でも・・・?それなら構いませんが・・・」
「いや、言いづらいんじゃなくて・・・どう説明したもんかな。」
「あたしも気になります。トレーナーさんって裏口合格なんていう噂があるんですよ。」
「それもあながち間違いじゃないなデジタル。」
「そうなんですか!?」
「裏口合格?とは?」
「シンプルに言うとな、俺は試験を受けるのとは別の、もうひとつの方法でトレーナーになったんだよ。」
「そのような物があるんですね・・・?」
「ああ。まぁこの方法は最良の方法でトレーナーになれるが実現不可能だから全然知られてないんだよな。」
「気になります。どう言った方法なのでしょう・・・」
「それはだな。『トレーナー及び監督特待志向性援助教育制度』だ。」
「トレーナー及び監督特待えと・・・」
「トレーナー及び監督特待志向性援助教育制度だ。」
「ふむ・・・」
「この制度はな、簡単に言うと試験官を常時周りに付けてトレーナーや監督としての能力があるか精査してもらい、教育し、水準に達したらライセンスを得られる制度なんだ。」
「ふむ・・・」
「なんかそれほど実現不可能そうじゃないですけど・・・」
「いや実現不可能なんだよ。」
「なんでですか?」
「この常時付ける試験官というのは条件があって現役のトレーナーか監督であること、試験官の資格を持っていること、実務経歴が13年以上あることが条件なんだ。」
「・・・?まだそれほどには・・・」
「なんか不思議なとこあります?13年以上のトレーナーが数少ないのは難しいかもしれませんが・・・」
「問題は試験官の資格を持っている事なんだよ。」
「試験官の資格?」
「ああ。今現在、この試験官の資格を持っているトレーナー及び監督は存在しないんだ。」
「えええ!?」
「なんと・・・」
「なら資格を取らせようと考えるだろ?この資格が出来た時は数人いたんだが・・・当時の試験官が今生きてるとしたら146才。試験問題も古すぎて更新しなきゃならない。しかも難易度はトレーナー試験以上。でも現代でこの制度を利用してトレーナーになろうとする人物はあり得ない。俺が百数十年ぶりの制度利用者だったらしい。」
「えええ・・・」
「トレーナーさんの時は試験官をどうやって用意したのですか?」
「現役トレーナー数人に声をかけ、限定的に資格を与えて対応したんだと。」
「なるほど・・・」
「はわぁ〜すごいですねぇ〜」
「教育も大変だったよ・・・1日13時間勉強漬け!それを3ヶ月の超短期濃密詰め込み!普通トレーナー試験の勉強って8000時間やるらしいんだが1250時間でやったからな。それだけじゃなく実地研修と実地試験。これもガチガチの詰め込み。たった6ヶ月で俺はトレーナーになったとさ。」
「おおう・・・」
「素晴らしい才能ですね。」
「いや、俺の才能というよりは俺を教育してくれたトレーナーがすごいな。まじでタメになることしか教えなかったから。」
「そうでしたか・・・」
「・・・。」
「デジタルさん?どうしました?」
「あにょ・・・」
「なんだデジタル。」
「そんな突貫工事のトレーナーさんに・・・100人以上担当させるって無理無茶無謀が過ぎるのでは・・・?」
「ようやくそこに気づく子が出てきたな。」
「えええええええええええええええ!?!?!?!?」
「そうだ・・・!!普通に考えればそんなの普通のトレーナーでも匙を投げるのに・・・何故?」
「俺が良いって言ってくれる子を見捨てる訳にはいかなかったからかな。」
「究極の善性ですね・・・」
「トレーナーさん!!!あたし!!!手伝えることあったらいつでも手伝いますんで!!!!なんでも言ってくださいね!?!?!?」
「はははは!そうだな!なんか手伝って欲しかったら頼むよ!」
「ほんとですよ!?!?」
「私も何かありましたら手伝いますので、トレーナーさん。」
「おう!ジャーニーもよろしくな!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ジャーニーは思案していた。妹のオルフェーヴルの次、いや同等に愛しているトレーナーさんの事情を少し知れたことでその危険性を感じたからだ。
「(トレーナーさんの原動力は、その究極の善性にある。もちろん清濁併せ呑む器量が無いとは言わないがどうしても善性由来の行動が多い。)」
ジャーニーのトレーナーは異世界人である。それは趣向も、思考も、社会観念さえも違う世界から来た異邦人である事だ。
「(この女尊男卑・・・いやウマ尊男卑と言えるこちらの世界で、その究極の善性は良くない方向に動く可能性が非常に高い。ウマ娘も割と善性ではあるが情によって振り回されやすいウマ娘はトレーナーさんを使い潰す可能性がある。)」
「(トレーナーさんは以前ルドルフさん等にこちらの情勢や対ウマ娘の観念を植え付けたと聞いた。だが・・・植え付けても芽吹いているようには見えない。)」
ジャーニーは他のウマ娘よりも理を司れるウマ娘である。だがそれでも内なる本能に振り回されてしまう可能性は低くない。それはウマ娘たらしめるものであり、それがなくなればウマ娘ではなくなってしまう。
「チッ・・・。思えばあのごはん会も妙だ・・・ゴルシさんが始めたと聞いていたが明らかにゴルシさん以外の息を感じた。担当の誰かが近づく為に仕向けたか・・・」
ウマ娘とは近づけば近づくだけ危険な存在である。だが離れれば離れるだけ近づいてくるものでもあるのだ。良き隣人でいられるのは適切な距離を取って維持できた場合のみ。
「仲間を排除せねばならないのは心が痛むが・・・トレーナーさんに不必要に近づこうと言うなら致し方ない。」
停戦ラインを踏み越えようとするならば、力づくで止められる。それがトレーナーとの不可侵協定だ。
「私1人では動けない・・・もう少し仲間を集めましょう。慎重に。」
これもトレーナーとの適切な距離を保つ為。もし、誰かが踏み越えれば、自分も、と後に続くだけだ。そうなったら自分も止められるかわからない。
「・・・トレーナー、さん・・・」
何故ここまで惹かれてしまうのかはわからない。だが惹かれてしまったのだから、トレーナーさんの身を案ずるならば自ら引くしかないのだ。