たづなさんの帽子の中見ちゃった事件から数日。あまり気にしないようにしてきたがやはり気になる。今日はたづなさんと朝の挨拶活動をする日なのでちらちら確認してみよう。
「おはようございます。」
「おはようございまーす!!」
「はい、おはよう。」
「おはよー!トレーナー!」
みんな元気に挨拶して登校しているが俺はたづなさんで頭がいっぱいだった。たづなさんの頭頂部、耳は見れた。だが尻尾。これは未確認だ。夜のベッドを共にすれば1発で確認できるがそんなこと出来るはずがないので却下。水着になってもらうわけにもいかんし・・・・・・というか尻尾のある位置をチラチラ見たが、あの長い毛の尻尾があるような膨らみは無いし、毛が無くても尻尾のある位置に痕跡は無い。尻尾無い?やっぱり。というかたづなさんのおしりに半額シール付いてるんだけどこれ伝えた方がいいかな。
「ちょっと貴方。」
「ん?お、アルヴとドゥラか。おはよう。」
「おはようトレーナー。」
「おはよう・・・・・・ってそうじゃないわよ。」
アルヴはなんかプリプリしている。どうしたんだろう。
「貴方、なんでたづなさんをじっと見つめてるのよ・・・・・・挨拶活動じゃないの?」
「まぁ。そうだが・・・・・・いやちょうどいいな。アルヴ、ちょっと耳を。」
「なによ・・・・・・」
コショコショとたづなさんのお尻にシールが付いてることを伝えた。俺が伝えるとセクハラの可能性があるからアルヴに伝えて欲しいとも。
「そういうことだったのね・・・・・・まぁいいわ。たづなさん。」
「はい?」
こうして朝の挨拶活動は無事に終えた。俺の疑問は終わらないが・・・・・・
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そして午後。昼寝もしてスッキリ、なんだが。やっぱりたづなさんが気になる。どうなってるんだ耳と尻尾は。
「むぅん・・・・・・」
そうこうしてたらドヤドヤとみんながやってきて準備してコースに向かった。
「トレーナー、今日は足休めの日なのよね。」
「そうだぞ。だから今日はロードワーク以外禁止だ。」
「わかってるわよ・・・・・・」
今日は休みのアルヴとスズカがいる。スズカは今にも走り出しそうにうずうずしているが抑えるのも仕事だ。
「スズカ、いつも走らせてるんだから今日くらいは休むんだぞ。わかってるな。」
「わかってます。夕方のロードワークまではきっちりおやすみ・・・・・・ですね?」
「そのロードワークも10キロまでだぞ。わかってるよな?ほんとに。」
「わ、わかってますよ?ほんとですよ?」
スズカはわたわたと弁明するがこいつは監視を付けといた方がいいなと机の下でスペに連絡しておく。
「む、今日の休みはアルヴとスズカか。」
「お、エアグルーヴ。お疲れ。今日はもう終わりか。」
「ああ、軽めのメニューだったしな。」
エアグルーヴが今日のメニューを終えて戻ってきた。ちょうどいい。たづなさんの秘密は秘密のままにしていろいろ聞いてみよう。
「エアグルーヴ、ちょっといいか?」
「?・・・・・・なんだ?」
「ちょっと相談・・・・・・というか世間話がしたくてな。エアグルーヴは知識豊富そうだし。」
「まぁ一応勉強はしているが・・・・・・専門家には劣るぞ。」
「いいんだ。世間話だから。」
エアグルーヴにコーヒーを淹れてやった。エアグルーヴは礼を言うとテーブルについた。
「ちょうどいいからアルヴとスズカも聞いてくれないか?」
「はぁ・・・・・・いいけど。」
「なんでしょう?」
アルヴ達はもうお茶を飲んでいたので良しとして早速切り出した。
「ウマ娘ってさ、耳と尻尾を失ったらどうなるんだ・・・・・・?」
「耳と尻尾・・・・・・だと?」
「はぁ・・・・・・?」
「耳と尻尾を失くしてしまう事例があったんですか?」
「いや・・・・・・ちょっと病院の症例で見たんだ。最近になってうちのチームでは些細な怪我が増えてきただろ?デカイ怪我にも対応しようと思ってな。」
「そうか。たわけにしては勤勉だ。リスク管理は重要だな。」
「ははは。」
「それにしても。耳と尻尾を失う・・・・・・事例よね。」
「まぁ大変な事になりますよね。」
アルヴとスズカは想像したのか少々顔を青くした。かなり重大案件だな。
「まずは耳の話からするか。私もそこまで詳しいわけではないが。耳は340度回り真後ろ以外の周囲の音を取り込む器官だ。人間の数十倍の感度を誇るが・・・・・・その、耳を失うというのは両方か?片方か?」
「片方だな。」
「尚悪いな。それなら両耳失った方がまだ救いがある。」
「そうなのか?」
「うむ。両耳の・・・・・・まぁ外耳を失えば両方難聴という障害で済む。重症だがバランスが良いのだ。」
「まぁそれくらいは俺も勉強したな。」
「そうか。だが片方だけ失うというのはかなり悪い。片方の耳だけ受け取る情報が極端に減り、片方の耳が極端に増える。車でいえば右側のタイヤが失われた上に失われなかった方のタイヤが巨大化するようなものに近い現象が起こるんだ。」
「それも教本で読んだが・・・・・・車の例えは分かり易かったな。」
「トレーナー、私のおばあちゃんが左耳が難聴なんだけど右耳が前より鋭敏になってるって言われてるの。どちらかが失われるとそれを補うようになるらしいわ。」
「そうなのかアルヴ。年寄りになってもそういうことあるのか・・・・・・」
「まぁそういう症例って少ないからね。ウマ娘の怪我と言ったら足の怪我だから。」
「まぁ普通はな。でもウマ娘だって交通事故に合わないわけじゃないだろ?スピードの出し過ぎで車と衝突したってニュース割と見るぞ。」
「まぁ・・・・・・」
「話を戻すぞ。ウマ娘の耳を失うというのは聴覚に異常をきたすだけではない。方向感覚も、バランス感覚も、他にもいろいろな感覚を失うに等しいのだ。」
「なるほどな。」
「次は尻尾だ。」
「尻尾な・・・・・・人間には無い器官だから教本で勉強もしたが知識はあるがよくわからん。」
「そうだなウマ娘の尻尾は、車で言うとステアリングだ。」
「ステアリング。」
「毛も重要だ。ウマ娘の尻尾の毛は猫のヒゲほどではないが感覚器なのだ。」
「毛も?教本にそんなことは書いてなかったけど・・・・・・」
「まぁ医学的に見ればただの毛だからな。だが当人にとってはセンサーやレーダーとして使ってるんだ。」
「それはちゃんと発表すればすごいことなのでは?」
「そうだな。だがそれを実証した例は無い。毛をセンサーにする神経など繋がっていないし。本当に気のせいなのだからな。」
「そうなのか・・・・・・」
「だが毛は本当に感覚に直結している。アルヴ、毎日記念の話をしていいか。」
「・・・・・・え?あれ話すの?」
「尻尾の毛の話をするのにちょうどいいだろう?」
「毎日記念って確かアルヴが7着だったレースだろ?それが何かしたのか?」
「あれで私は相談を受けていてな・・・・・・アルヴ。」
「・・・・・・そうね。もう時効よね。」
「何かあったのか。」
「トレーナー、あの時、私レース場に行くときのタクシーで、尻尾をドアに挟んでしまっていたの。」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
「それで尻尾の毛が何本か抜けちゃって・・・・・・多分それで負けたと思う・・・・・・」
「そうだったのか・・・・・・」
「言っただろうたわけ。尻尾はハンドルだと。毛が抜けるだけで感覚は狂い、マトモに走れなくなるんだ。」
「なるほどなぁ。」
「そしてだ。これが毛をまるごと。それどころか尻尾をまるごと失ってしまったら。どうなると思う?」
「ハンドルを失うわけだから、走れなくなるか?」
「違う。ハンドルが失われたら起こるのは走れなくなるではなく、コントロールを失うだ。」
「ああ、そうか・・・・・・」
「尻尾はバランス調整の全てを担っていると言っていい。それが毛だけでも失われ、最悪尻尾をまるごと失えば・・・・・・想像など容易い。体幹は崩壊し、歩行もままならず、腕も振れない。ウマ娘は思ってるより尻尾に依存してるんだよ。」
「・・・・・・。」
なるほどな・・・・・・するとたづなさんは・・・・・・
「そう、なると・・・・・・耳と尻尾を失ったウマ娘は・・・・・・」
「よっぽど若くてリハビリに励めるとかでは無い限り、一生要介護だ。」
なるほど大分聞けた。そう考えるとたづなさんはまだ全然若いし要介護なんで状態じゃない。耳と尻尾を失ってるようだがその障害は無い様に見える。じゃあたづなさんはなんだ?耳が片方しかなく、尻尾の存在は微塵も恐らく無い。たづなさんは人間か?それはない。明らかに人間離れした腕力と脚力。そして頭頂部の片方しかない耳。存在がどうあがいても観測出来ない尻尾。じゃあウマ娘か?と言われても怪しい。耳はあるが片方しかなく、両耳ちゃんとあるかわからない。尻尾は外見では無い様に見える。とにかくウマ娘なのか?という疑惑は晴れない。
「・・・・・・もう辞めるか。」
ここまで考えて1人ごちる。あまりたづなさんを探るのはもうやめよう。たづなさんは可愛い同僚。それでいいではないか。
「・・・・・・。」
「アルヴ、お茶のおかわ・・・・・・スズカ何してる?」
「ふふふ・・・・・・」
「スズカ?え?スズカなに?えなに?」
スズカはちょちょいとこっちにやってくると俺の右手を掴んで指に何か巻き始めた。
「トレーナーさん?これ、どうぞ。」
「なにこれ。」
「私の尻尾の毛です♪」
「話聞いてた?」
スズカはニコニコと俺の指にもう一本の毛を巻いている。大丈夫この子・・・・・・
「どうせ今日はほとんど走れないですし。」
「そういう自暴自棄やめな。」
アルヴとエアグルーヴはドン引きしている。そらそうよ。尻尾の毛すごく大事なんだよーって話したら早速毛を抜いて俺の指に巻き始める子がいるなんて思いもしないよな。
「♪」
「もう好きにしな。」
「たわけ。ついでに明日のメニューが出来てれば今の内に欲しいのだが。」
「もう組んであるから。今印刷する。」
「トレーナー、私も欲しいわ。」
「おっけ。」
多分、多分だけど。たづなさんの秘密を暴いてしまったら。こんな日常も無くなってしまう気がする。だから。もう辞めよう。それがたづなさんの為にもなるはずだ。