ある日、画期的なフルダイブVRプログラムが誕生した。その名もヒト娘体験VR。ウマ娘向けのフルダイブVR体験プログラムで人間の体を体験出来るものだ。これはあっという間に口コミやネットで大人気になり、公開後二週間で公開停止になった。体験に参加した主に十代の体験者に重篤な精神破壊が多く確認されたためである。このフルダイブVRプログラムは昨今のウマ娘から人間への事故を憂いた有志が作ったと聞いた。人間の弱さを体感することで人間を丁寧に扱ってもらおう、というものだ。その人間の弱さが、ウマ娘には大変ショックらしかった。うちのチームでもヴィルシーナ、シュヴァル、ヴィブロスが抽選をくぐり抜け、体験してきたらしいのだがえらいことになった。
「・・・・・・ッ!」
「大丈夫かヴィルシーナ。」
「え、ええ。だ、大丈夫・・・・・・」
「ヒッ・・・・・・」
「シュヴァル?」
「すみません・・・・・・」
「・・・・・・」
「ヴィブロスもそんな端っこいないでこっち来ないか?」
「・・・・・・いい。」
ヴィルシーナは水に怯える狂犬病患者のように俺に触れられるのを怯えているし、シュヴァルはウロウロと忙しない。ヴィブロスは完全に心を閉じて部屋の隅にいる。一応部屋に来てくれるだけのものはあるらしい。
「参ったな・・・・・・」
かなり重傷な心のダメージを負っている。ヴィルシーナたちはもう引退しているのでレースは無いもののトレセンでは卒業までトレーニングを見る契約だ。この状態ではそれもままならない。
「ここまで酷いと俺には対応出来ないな・・・・・・」
仕方がないから臨床心理士のカウンセラーに任せるしかない。まったくえらいもんを作ってくれたもんだ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「え?なんですって?」
「だから、例のVRに視察に行くんです。」
あれから数日後、たづなさんがやってきて例のヒト娘体験VRに視察に行くと行ったのだ。
「あれはもう公開停止されてますがトレセンでも確認しなければなりません。」
「でも倫理委員会では何も問題無いって判断が下ってますよね。」
「はい。ですがうちの生徒に重大な被害が出ています。いくら倫理委員会で問題無いと言われていても被害が出ている以上確認しないわけにはいきません。」
「まぁ、わかりました。行くのは俺だけですか?」
「ウマ娘のトレーナー二人と人間のトレーナーあなたともう一人、それと私です。」
「わかりました。いつ行くので?」
「今すぐです。」
「今すぐ!?!?」
「はい。準備してください。」
たづなさんも無茶言ってくれちゃってぇ。今すぐなんてそんな簡単に動けるわけねーだろ。しゃーねーな。俺はトレーナールームに走り、ちょうどいたキングに急に出掛けてくると言付けて任せた。荷物をまとめてたづなさんの元へ。
「準備出来ましたか?」
「ええ。他のトレーナーは?」
「もう裏の駐車場に集まってもらってます。行きましょう。」
「了解です。」
そして車に乗り込み、たづなさんの運転で出発した。しばらく車に乗りでっかいビルの駐車場に入った。
「着きましたよ。」
車から降りて他のトレーナーと談笑する。
「ここは。」
「VRソフトのメーカーらしいですよ。」
「今日何するか聞いてます?」
「例のヒト娘の体験じゃねーの。」
「俺たち女の子になるってこと?」
「皆さん行きますよ。」
たづなさんに案内されて中に入る。するとすぐに出で立ちの良いウマ娘が現れて案内を代わってくれた。しばらくすると白くて丸いポッドが並ぶ部屋に案内された。俺はこのフルダイブVRは初めてなのでこのポッドも初めて見た。
「それでは、ポッドはアミューズメント施設にあるものと一緒です。今回の視察するVR体験の説明をさせていただきます。」
メーカーのウマ娘が話すには公開したVRと同じものだという。ただ視察では痛覚をオンにしているらしい。
「VRではまず。人間の少女の体になってもらいます。それに乗じて五感などのレベルをウマ娘から人間へと引き下げます。これは人間に体感してもらうとあまり変化はないかもしれません。ですが年齢を重ねた体験者からすると研ぎ澄まされるかもしれません。」
俺たち五人で説明を受ける。ふんふん頷きながら聞いている。
「コースとしては人間の体にダイブしていただき、触覚、聴覚、視覚、嗅覚を体感するコース、1000メートルを走るコース、そして最後に転んで膝を擦りむく程度の怪我をするコースとなっています。全体で15分くらいのコースです。」
「なんか・・・・・・そんなびっくりするくらいのトラウマを植え付けられるような内容じゃないな。」
「じゃあうちの子なんであんなに怯えてるの?」
「わからん・・・・・・」
「・・・・・・」
俺は寒気がした。他のトレーナーたちは気づいてないが、この内容は危険だ。五感を使って弱者の体験をした後、身体能力の差を見せつけ、最後にその弱い身体で怪我をする。一生もののトラウマになる可能性は非常に高い。それも人間の近くにいて人間を慕っているウマ娘なら尚更。
「ではポッドにお願いします。」
俺はこのVRの内容の危険性をどう伝えるか。頭の中で構築するのであった。公開停止されているが、再公開されて新たな犠牲者を出さないためにも。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
結局。今日のフルダイブVR視察では他のトレーナーは脅威に気づけなかった。俺はさっさと帰り、40ページほどのレポートにしてメーカーと倫理委員会に送った。これで、この危険に気づいてくれればいいんだけど・・・・・・
「ヴィルシーナ。大丈夫、大丈夫だから。」
「はい・・・・・・はい・・・・・・」
俺は怯えるヴィルシーナの手を握り、簡単には人間は壊れないのだと説く。俺のチームでは三人以外に体験した者はいなかったが、このダメージは甚大過ぎる。ヴィルシーナだけではなくシュヴァルとヴィブロスも面倒を見なければならない。
「・・・・・・ッ!」
「大丈夫だヴィルシーナ。手を握ってごらん?」
「はっ・・・・・・はっ・・・・・・ひぃっ・・・・・・!!」
過呼吸気味に息を吐き震えるヴィルシーナの頭を撫でながらどうにかしないといけないと知恵を凝らす。あのVRは倫理的には全く問題は無い。だがそれで体験者がダメージを受けないかどうか別だ。ウマ娘から見れば人間は弱い生き物であるのは知識ではわかっているはずだ。だがそれを身体でわからせられれば脆すぎる人間に恐怖を抱くのは当然の帰結と言える。人間はウマ娘には勝てない。この言葉の重さが体験としてわからせられるこのVRは、確かに画期的で、しかし悪魔の発明であった。