「トレーナー君・・・やはり辞めよう・・・いくらなんでもここまで体を張るのは・・・」
「いや、やるんだルドルフ。これは必要なんだ。お前たちの心証を良くするためならば俺はなんだってやる。」
「だが・・・下手したら死んでしまうぞ!」
「大丈夫だ。やれ、ルドルフ。」
「トレーナー君ッ・・・!!」
涙目で懇願するルドルフを見て決心が揺らぎそうだが・・・やると決めたんだ。ウマ娘は確かに怖い存在だ。だけどヒトと同じで、可愛らしく、愛す事の出来る隣人だと言うのを伝えなければならない。
「やるんだ!!!!ルドルフ!!!!」
「うう・・・」
「ルドルフ!!!!」
「わか・・・わかった・・・」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それは数日前の事だった。
「またか・・・」
以前キング達に言われて認識を改めて、新聞やニュースに目を通すようになったら。かなり目にする。ウマ娘による殺人事件。今回はヒト側がウマ娘との結婚の約束を破り、掛かったウマ娘が殺してしまったという記事が新聞にでかでかと載っている。自業自得感が強いがあまりにもウマ娘が恐ろしく書かれている。
「・・・。」
「おいーっす。」
「お、ゴルシ。」
「トレピッピよう。あたしのシューズ新調してくんねーか。遂に側面が裂けちまったよ。」
「なんだ。そういうのは早く言えよな。怪我の元なんだぞ。」
「へへ。わりーわりー。」
「ゴルシ、足の大きさなんぼだっけ?28?」
「いや29だ。またデカくなっちまったよ。」
「そうか。まだ伸びしろがあったか。」
「ああ。あんまり足がデカくなっちまうとゴルシちゃん4872の必殺技を2681に削減しなきゃなんなくなっちまうなぁ・・・」
「なんだそりゃ・・・」
棚から29のサイズのシューズを取り出しゴルシに当てがう。ゴルシは早速と履いて感触を確かめていた。
「うーん・・・」
「どうだ?」
「トレピッピこれゴムの靴紐無いか?ちょいキツくしたい。」
「あるぞ。ええーっと・・・これ、ピンクと黄色だが・・・」
「じゃあ黄色。」
「はいよ。」
サクサク靴紐を取り替えて調整するゴルシはピッタリより少しキツめを好むのでその様に。
「これでいいか?」
「おう。ちょうどいいぜ。」
「よし。あ、ゴルシ。」
「なに?」
「今日第6コース使ってるだろ?みんなにドリンク持ってってくれ。」
「はーいゴルシちゃんにお任せ⭐︎」
ゴルシはクーラーボックス二つににドリンクを詰めると肩に担いでそのまま出て行った。そして破壊されたシューズをまじまじと眺める。
「そういえば・・・ウマ娘のシューズってハイパーアラミド繊維製だって言ってたよな・・・そのシューズを走ってるだけでここまで破壊するのは・・・やっぱすげーわウマ娘。」
シューズをゴミ箱に入れて新聞をまた流し読みする。ウマ娘による事件は後を絶たない。だがこうも恐ろしい面ばかりがピックアップされるとウマ娘批判が集まりすぎて逆上するウマ娘も増えそうな気がする。
「むぅ・・・」
そこで俺の携帯が鳴った。画面を見るとそれは懇意にしてる雑誌社の人だった。
「もしもし?」
『もしもしトレーナーさんですか?ご無沙汰してます。』
「ええ。どうされました?」
『今朝の朝刊って読みました?』
「ウマ日新聞なら。」
『ですか。いや実はですね・・・』
話を聞くになにやら最近のウマ娘ニュースは行きすぎていると感じているらしい。一計を案じて何かウマ娘の信頼回復の為にやりたいとのこと。
『それで以前の公開トレーニングの様な物をまた催して貰えたらなと・・・』
「ええ、構いませんよ。直近のレースがある子は出せませんが・・・」
『構いませんよ。』
「それじゃあちょっと詰めてメールしますので。」
『はい。よろしくお願いします。』
電話を切る。よしならば・・・
「またわからせ系で行くか。」
パソコンに企画書を立ち上げる準備をした。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
公開トレーニングの日。今回もいつもの雑誌社だけ集めるつもりがテレビにまで話が行き大勢集まった。お前ら守秘義務って知らんの?そんな簡単に情報漏らすなよな。
「してだ。トレーナー君。今回は何をするんだ?」
「そう焦るなルドルフ。今から説明する。」
公開トレーニングに集めたメンバーはルドルフ、キング、オグリ、タマ、クリーク、エアグルーヴの6人。俺はまず普通にトレーニング、主に坂路やゲートトレーニングやスタートのトレーニングを映そうと考えた。
「それじゃ始めてくれ。」
はーいと返事が返ってきてそれを追いかける様にカメラが追っていく。その間に、俺は準備に走った。
「これとこれと・・・中にこれを着て・・・サポーター巻いて・・・プロテクターと・・・」
これはとある様子をカメラに映そうと計画したものだ。だが準備を怠るとショッキング映像をお茶の間に映す事になる。入念に準備をする。
「マウスピースして・・・ふがふが・・・よし。」
コースに戻ると坂路を走り終えたのかインタビューに答えるルドルフ達が。特にやはりオグリは人気なようで次々と写真を撮られている。
「よーし。みんなー」
「トレーナーく・・・!?」
「えっ!?」
「!?」
ガチガチに固めた俺を見てルドルフ達が息を呑む。
「それでは記者の皆さん。きょうのトレーニングは見ていただけたでしょうか。ここからがマグマなんです。」
「トレーナー君・・・?その装備はいったい・・・?」
「今日はですね。ウマ娘との付き合い方の講座をしようと思います。」
ざわざわと集まったマスコミ達がざわめく。
「昨今ウマ娘による事件が後を絶たないと思われます。ですが全てがウマ娘が悪いというわけではありません。その気性に火を付けてしまった、ヒト側にも責はある。」
「このおばか・・・」
「キングちゃんしっ・・・」
「で、でもクリークさん!あのおばかはまた何か・・・!」
「トレーナーさんにも考えがあるんですよ〜」
「・・・よってヒトがウマ娘にちょっかいをかけると言うのは自殺行為で・・・」
「トレーナー・・・ラグビー部だったのか。」
「ちょいまちオグリ、あれをラグビー部なんかで済ませられるんか?」
「タマモクロスはこの話聞いてたか?」
「なんも。エアグルーヴは?」
「何も・・・」
「何させられるんやろ・・・」
「すなわちウマ娘と良き隣人である為には・・・」
俺の熱弁をカメラは撮り続けている。後ろでゴニョゴニョ言ってるのは置いといて、とりあえず伝えるべきことは伝えたい。
「ウマ娘はヒトほど気性が穏やかではありません。彼女達は別種族で、別な生物だと言う認識が足りないから事故が起こる。今朝の朝刊にもありましたが結婚詐欺にあったウマ娘が相手を殺してしまったとあった。これはウマ娘特有のことでしょうか?ヒト同士でもあり得ますしヒト同士の方が多い事件です。ウマ娘にピックしたこの記事は意図的にウマ娘を陥れる物だと考えても良い。」
「なんや嫌な予感するなぁ・・・トレーナーが多弁だと・・・」
「タマモさんもそう思います・・・?」
「キングもそう思うか。絶対何か企んどるで。」
「というわけでウマ娘を怒らせるとどうなるか、文字ではなく実際に見てもらいましょう。」
「は?」
「えっ。」
「ん?」
「ええ!?」
「!?」
「なに!?」
マスコミ達が青い顔をしている。もう察したらしい。担当達も今から何をするかわかったらしい。
「さて、誰にやってもらおうかな。」
「待て待て待て待て!!!!」
「トレーナー君!!??!」
「おばか!!!!!このおばか!!!!!」
「うるさいなぁじゃあルドルフ。」
「じゃあ!?!?!」
「はいこっち来て。」
芝の上までルドルフを連れて行き対峙する。ルドルフは青い顔をしているがやってもらわないと困る。
「では皆さん!シャッターチャンスを逃してはダメですよ!そんな何回も出来ませんから!」
「・・・トレーナー君。」
「なんだルドルフ。」
「今から私に何をさせたいのか教えてくれるかい・・・?」
「俺に本気蹴りしろ。」
「だと思った!!!!ルナちゃんいやぁぁぁぁーーーー!!!!」
ルドルフが人目も憚らずイヤイヤし始めたので睨みつけておく。
「ルドルフ必要なことなんだ。これはお前の理想の世界に繋がることなんだ。」
「知らない知らない!!!」
「聞けルドルフ。お前は全てのウマ娘が幸せな世界を作るんだろ。その為にはヒトとの正しい距離感での付き合いが必要なんだ。」
「無茶が過ぎる!!!!」
「じゃあ聞くが、これをお前が拒否したら誰がこれをやると思う?」
「え・・・?」
「教えてやろうか?」
「だ、誰なんだ・・・?」
「・・・ニシノフラワーだ。」
「おうっこら!!トレーナー!!!ようじょ脅しに使うとか気が狂ったんか!!!」
「たわけ!!!!!流石に見過ごせないぞ!!!!」
「おばか!!!!!何考えてるのよ!!!!!」
「く、クリーク・・・私はどうしたら・・・」
「あらあら〜困りましたね〜」
阿鼻叫喚の状況になったが俺は本気だ。
「聞け!!!!!」
「・・・ッ」
「ルドルフ。必要なんだ。ウマ娘を怒らせたらどういう事になるのか、文字じゃなくて映像で、知らしめなきゃならない。そしてお前達が苦悩する姿も映す事でウマ娘側の心情も理解してもらうんだ。」
「だけど・・・!!」
「ルドルフ!!!!!」
「う・・・」
「お前の事だから手加減するかもしれない。だけどな、ウマ娘の本気蹴りを受ける状況を今後作らない為にやるんだ。そうした方が世の中は良くなる。ここで手加減すれば手加減した分だけ、そういう世界から遠のいてしまうんだぞ。」
「でも・・・トレーナー君・・・」
「大丈夫だ。異世界人舐めんな。」
「・・・わかった。」
ルドルフが構える。涙目だが。俺はそれを見てカメラに向かって語りかけた。
「皆さん見てますか。本質的にヒトを傷つけたいウマ娘なんていないんです。この状況の様にそうせざるを得ない理由があるからヒトは傷付けられたんです。同時にウマ娘はそれ以上傷ついています。それを忘れないでください。」
「いくぞッ・・・!!」
ルドルフが助走を付けたの見て、俺も構えた腰を低くしてお腹に力を入れて顎を下げる。
「シッ・・・!!!」
来るッ・・・!!!次の瞬間、俺は空を見ていた。
「・・・!!!」
「・・・!!」
「・・・・!!!」
「!!?」
「!?!?」
「!!!!!」
みんなが涙を流しながら駆け寄ってくるのが見えた。そして俺は眠くなり、意識を落とした。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はっ・・・」
気が付いた。ここはどこだ?
「うお・・・いてて・・・」
病院らしい。腹が痛くてなんだろうと思ったら思い出した。俺ルドルフの本気蹴り喰らったんだった。
「どうなって・・・」
病院着を捲ると腹にはでかい青痣と大量の湿布。やべ〜
「そういえば報道はどうなったんだろ。」
ベッドの横に俺のカバンが置いてあったので中を漁り携帯を探す。あったわ。
「どれどれ・・・」
すると・・・思ったより反響があったようだ。中央トレーナー、命懸けの訴え!!と題された新聞記事やネット記事、パカチューブの動画など。それに伴うウマッターの評判などを見るとウマ娘を悪し様にする言葉は少なく、それどころか俺の体の張り用をバケモンを見る目で見られている事がわかった。
「これで少しは変わればいいんだが。」
ウマ娘は夢を乗せて走ってくれるのだ。確かに力が強くて恐ろしく感じるかもしれない。でもそれは一側面でしかないのだ。以前ルドルフはウマ娘を天使の顔をした悪魔だと言っていたがそんな事はない。ヒトが付き合い方を間違えなければお互いを傷つけることなんて起きはしないのだ。
「はぁ・・・」
その後、お見舞いに来たキング御一行にギャンギャンに怒られて、2度としないよう言いつけられ、破ったら自ら脚を折ると脅された。わかってるから。もう2度としないよ。