その程度で書き始めました
エタらないように祈っててくれ
ボルトレスガール 1
■【高位操縦士】犬塚マキノ
「〈マジンギア〉の……幽霊!?」
「しーっ! マキノさん、お静かに!」
ギルド内に響いてしまった俺の声に、雑多な視線が幾つも向けられる。
常に喧騒で満ちたギルド内でも俺の声はよく通っただろう。
俺の……男にしてはやや高めの声は。
「わ、悪い……。でも、幽霊? 〈マジンギア〉は機械仕掛けの兵器だ。悪霊や骸骨の類じゃない。……ゴーレムか何かと見間違えたんじゃないか?」
「それがですねぇ」
冒険者ギルドの受付嬢であるミモ・カナザは悪戯めいた表情をつくる。
身を乗り出し、台座に上体を預けると柔らかな身体が浮き上がる。
そのまま俺へと上目遣いに見つめ、
「一人や二人じゃないんですよ。中には〈マジンギア〉の制作に携わったことのある職人の方も見たとかで。『あれは間違いねぇ! 型は分からねえが〈マジンギア〉だ』って」
「型が分からない、ねえ」
このギルドは皇都からは大きく距離が離れた町にある。
それでも皇国に所属しており、鉱山から採掘される鉱石が流通の大きな支えである。
その鉱石を目当てに時折生産職が訪れ、大量の素材アイテムを購入していく。
命知らずな〈マスター〉であれば生産職自らが採掘をすることもあり、ある意味では〈マスター〉と距離が近い町である。
中には〈叡智の三角〉のような技術屋もいたことだろう。
「それでこの幽霊騒ぎのせいで炭鉱夫の皆さんが軒並み怯えてしまって。不吉が起こる前兆とか言ってアルノーム鉱山へ行こうとしないんですよ」
依頼書にはアルノーム鉱山に出現した〈マジンギア〉の調査とあった。
幽霊なんて文字はどこにも書いていない。
「正体不明の〈マジンギア〉がその鉱山にあるのは分かった。それで、どこから幽霊なんて話が出たんだ?」
俺の問いにミモはよくぞ聞いてくれましたとばかりに目を光らせる。
この女は表情以上に目で感情を表してくることが多い。
ギルドに通い詰めた俺だから分かる。
最近では瞬きで俺のことを呼んでいる気がするくらいだ。
「はい。実はですね、この依頼を他に受けたパーティーがいらっしゃいまして。“言葉狩り”のロージーという方のいるパーティーなんですけど、知ってます?」
「いや全く知らないな」
「マキノさんですからね、予想はしてました。そこそこ実力のある〈マスター〉さんってことです。それで、その方が仰るには、件の〈マジンギア〉を発見し、半壊近くまでダメージを与えたらしいんです」
やるじゃないか。
操縦士の腕次第だが、旧式でも亜竜級程度には戦闘力があるはずだ。
「コックピットには……誰もいなかったらしいんです」
「は?」
「だから……これですよ、これ」
幽霊です、とミモは舌を出した。
「操縦士のいない〈マジンギア〉か。……自動操縦だっただけでは?」
「現実的に考えればそうなりますよね。その後、無人の〈マジンギア〉が再稼働してロージーさんのパーティーは全滅してしまったらしいのですが、ロージーさんは自分の失敗を認めたくないのか、〈マジンギア〉の幽霊が出たと吹聴しているということです」
「……結局、そのロージーとやらが原因じゃないのか?」
操縦士不要の自動操縦型の〈マジンギア〉が鉱山に出現し、ロージーパーティーと戦闘。
ロージーらが敗北したが言い訳のように幽霊の仕業にしようとしていると。
「良くも悪くも目立っていたパーティーが敗北したとなると、他の方々も動きづらくなっているようで」
「それで俺に白羽の矢が立ったと」
「〈マジンギア〉関連ですので」
にっこりとミモが笑う。
……確かに俺はここ数カ月、〈マジンギア〉に関係した依頼を幾つも解決してきた。
だけどそれは成り行き上仕方なかったというか、巻き込まれたというか……。
自ら進んで乗り込んだ船ではないというわけだ。
「報酬は……悪くはないが。ロージーって奴に睨まれるんじゃないか?」
幽霊の噂を吹聴しているのは自分らが再戦するまでは手を出すんじゃないぞという威嚇のつもりだろう。
そんな中で空気を読まずに俺が勝手に依頼を受けようものならば、ロージーから顰蹙を買うのでは?
「私達としましては迅速な解決を望んでいるわけでして。準備を整えているパーティーよりも先に解決してくれそうな方に依頼を回す方が最適解です」
再度確認するが報酬は悪くない。
むしろ、炭鉱夫が作業を再会した後に取れた鉱石の一部を安く買えるという権利は、使い方によっては大儲けが出来そうなもの。
メインの報酬である金銭や、幽霊疑惑の〈マジンギア〉もそのまま持って帰っていいという条件も、悪いものではないだろう。
「うーん……あ、そうだ。じゃあ依頼が解決したらデートとか、どう?」
「ふふっ。ご冗談を」
「冗談じゃないんだけど」
まだ好感度が足りなかったかな?
これがアクションゲームじゃなくて恋愛ゲームだったら速攻でオッケー貰えてたはずだが……ううむ、隠し要素の攻略は難しい。
「どっちにしろマキノさんは受けてくださると信じていますよ? なにせあなたは――」
「その依頼、私が受けてあげますよっ!」
依頼書が小さな手によって横から奪い去られる。
思わず振り返るとそこに居たのは……中学生くらいの女の子であった。
左手には〈マスター〉である証の紋章。
「破格の報酬を貰える依頼と聞いて駆けつけて来ました! そっちのあなた、受けるの渋っていましたよね? だったら私が受けても構いませんね!」
ビシィッと効果音がかかりそうな程に真っすぐに俺へ指をさす女の子は視線を依頼書へ落とす。
「なるほどなるほど……この〈マジンギア〉を壊せば依頼達成と。破壊しなくても無力化すればいいんですね。受付さん、この依頼受けます!」
あっさりと、女の子は依頼を受注する。
「えっと……」
「いいよ、別に。ミモさんも依頼を受けてくれる人を探していたんだろ?」
困惑した表情を浮かべるミモに対して俺は構わないと手を振る。
〈マジンギア〉の幽霊とやらに少し興味もあったが、絶対に受けたいというわけではない。
「ですが……その、依頼にも推奨レベルというものがありまして。あの方では……」
「ん?」
ミモがカウンターからこちら側へと回り、こっそりと俺に耳打ちしてくる。
「あの子……最近この町へ来たばかりなんですが、まだレベルが30くらいの【司祭】なんですよ……」
つまりは一パーティーが壊滅するような依頼に下級職の少女一人を放り出せないとのこと。
「うわっ!? なにこの依頼の難易度……9って高すぎぃ!」
そして依頼を受注した女の子はあまりの高難易度に驚いていた。
「えっへへ……あの、依頼を取り下げってのは……」
「残念ながら依頼破棄の違約金がかかってしまいます」
「……ですよねぇ」
縋るような目でミモを見ていた視線がこちらへ向く。
「そっちのお兄さん……あの、受付さんが指名しているくらいだから相当の実力者とお見受け致します。その、話を少ししませんか?」
「なんだその宗教勧誘みたいなナンパは」
「ナンパじゃないですよ! 難易度が高すぎる依頼なのでお兄さんに肩代わりさせて楽をしたいってだけですよ!」
「おい下心見え見えだぞ!」
最悪だなコイツ。
「まあまあ、マキノさん。良いじゃないですか。可愛い女の子からのお誘いなんですから、少しくらい付き合ってあげても」
「ミモさん!?」
「マキノさんってお名前なんですね。なんだか女の子みたいです」
「うるせえな。お前、少しは下手に出ろ」
なぜ俺を煽るのか。
「旅は道連れ世は情け。旅の恥は掻き捨て。一期一会を大事にしましょうよ」
「全部意味分かって言ってるんだろうな?」
絶対ノリで言ってるだけだろ。
「私の名前はワークスピサロ。昨日デンドロを始めたばかりですがよろしくお願いします!」
「勝手によろしくするなパーティーに加えようとするな」
ワークスピサロは名乗りと同時にパーティー申請を送ってくる。
しかもなんでパーティーリーダーがあっちなんだよ。
そしてその名前でよく俺の名前弄ってきたな?
「まあまあマキノさん」
「いいじゃないですかマキノさん」
ミモさんとワークスピサロ、両方からの圧にやがて俺は耐えきれなくなり――
「ああもうっ……!」
遂には依頼を受注することになったのだ。
依頼名:【アルノーム鉱山】の調査
難易度:四
ついでに新人教育もお願いしますよ。
ミモは目で訴えかけてくる。
……これならば最初から一人でさっさと受けた方が良かったのではないか。
隣で跳びあがって喜ぶワークスピサロを見て俺は溜息をついた。