歯車男とボルトレスガール   作:そらからり

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ボルトレスガール 3

■【高位操縦士】犬塚マキノ

 

 一口に〈マジンギア〉といっても、その種別は大別して二つに別れる。

 即ち、戦車型と機械式甲冑。

 目の前で今まさに銃口を向けているのはそのどちら……でも無かった。

 

「なんだこいつは……!?」

 

 戦車型にみられるキャタピラを履き、しかしその上に鎮座する本体は間違いなく甲冑。

 甲冑部分の上体だけを回転させると俺達へ狙いを定め、即座に銃口が火を吹く――

 

「ッ! 下がれ!」

「ぅげっ」

 

 瞬間、俺は右腕を伸ばしワークスピサロを今来た通路へと押し込む。

 俺の身体は銃口から丸見えであるが、仕方ない。

 そちらは左手に任せよう。

 

「《瞬間装備》!」

 

 即座に出現した大盾が地面に突き刺さり、俺を弾丸の嵐から隠す。

 本来は〈マジンギア〉専用の盾であるため俺は持ち運べないが、地面に固定するくらいならば出来る。

 

「……ッ。何発か貰ったか」

 

 貧弱なHPが目に見えて削られている。

 左足と両肩に損傷の痕がある。

 我ながら良く死ななかったものだ。

 

「マキノさん!?」

「そのまま……顔を出すな。今はまだ、こうして様子見をしてくれているが、いつ接近されてもおかしくない」

 

 そして、近づかれてしまえばワークスピサロを守り切れるかは自身が無い。

 想定以上に、あの〈マジンギア〉は得体が知れない。

 

「良いか。お前が次にこちらに来るのは、あの〈マジンギア〉が動かなくなった時だ」

 

 そう言いながら、俺は盾の影から飛び出す。

 ……やはり足を撃たれたおかげか体の動きが悪い。

 

 元々遅いが、顕著だな。

 

「マキノさん! 早く〈マジンギア〉を、というかガレージはどうしたんですか!?」

 

 【ガレージ】とは〈マジンギア〉を格納する専用アイテムのこと。

 通常、〈マジンギア〉はこれを使わなければ出すことは出来ないが、俺の場合は別だ。

 

 走りながら俺は左手の紋章を光らせる。

 再び敵の銃口が俺に向けられる。

 やはりキャタピラ部分と甲冑部分は駆動系が別か。

 

「来い……アイギス!」

 

 弾丸が吐き出される寸前、紋章から俺の愛機である白銀の〈マジンギア〉が出現する。

 これこそが俺のエンブリオ、そして〈マジンギア〉である【天来具足 アイギス】だ。

 

 全身甲冑でありながら、〈マジンギア〉同様に魔力によって稼働する。

 アイギスは俺を包み込むとより光を増す。

 まるで俺という搭乗者を歓迎するかのようだ。

 可愛い奴だろう?

 

「《滅蛇の盾》!」

 

 先程取り出したのよりも更に大きな盾がアイギスへと装着される。

 構わず弾丸が敵〈マジンギア〉より吐き出され、その全てが《滅蛇の盾》に吸い込まれると同時に、返されていく。

 一定以下の威力の攻撃であればそのまま相手へと跳ね返すことが出来るアイギスの固有スキル。

 先程自身で喰らって体感していたおかげで、この程度であれば問題無いことは分かっていた。

 

「お次は……ブレードか!」

 

 剣の柄部分だけを取り出したように見えるが、そこに魔力が注ぎ込まれビームブレードが完成する。

 くそっ……アイギスに搭載されているバトルナイフだと切り結ぶには不足しそうだな。

 

 敵〈マジンギア〉はキャタピラを駆動させると瞬時に俺へと近づき、ビームブレードを振り回す。

 情報では搭乗者がいないということだが、納得の技量だ。

 駆け引きもなにもない、ただ敵存在へと武器を向けるだけの兵器。

 

「だったら……避けるのも容易いなぁ!」

 

 ジュウゥと地面を抉りながら縦横無尽にビームブレードが振るわれる中、俺が取った行動は回避に専念することだった。

 下手な反撃は被弾を招くだろう。

 ならば相手の武装を確認がてら、時間を稼ぐことも必要だ。

 

 右に、左に避けながらアイギスの中で俺は考える。

 

 敵〈マジンギア〉は戦車型と甲冑型を混ぜ合わせたようなもの。。

 ハイブリッド……いや混合型か。

 凹凸の激しい坑道内でも足を取られることなく移動できることは戦車型の利点だが、同時に欠点にもなる。

 

「こっちだ!」

 

 大きく回避しながら混合型〈マジンギア〉の回りを動く。

 キャタピラでは旋回が難しい。

 だからこそ、甲冑部分は別で動かせるように出来ているのだろう。

 

「だが、ワンテンポ遅い!」

 

 甲冑型が振り向き、俺を視認するまでは2秒ほどかかる。

 その間に俺は盾を混合型〈マジンギア〉へと投擲する。

 

 眼前に迫る盾に臆することなく混合型はビームブレードで切り裂くと、距離を取った俺へと再度銃弾を吐き出していく。

 

「よく見ろよ。その盾は別物だ」

 

《滅蛇の盾》を失った俺に身を守る術が無いと思っての行動だろうが、生憎とその盾はただの盾だ。

 アイギスは俺の〈エンブリオ〉であると同時に鎧。

 俺が装備出来るものの大半はアイギスでも装備出来る。

 アイテムボックスから《瞬間装備》された盾は役割を終えたように二つに別たれたまま消えていく。

 

 俺のブラフによって撃ち出された弾丸は《滅蛇の盾》で撃ち返され、何発かは混合型の機体に沈んでいく。

 だが、それだけでは混合型は止まらない。

 ビームブレードを振り回しながら俺へと近づこうとし、

 

「っここだ!」

 

 それよりも前に地面へと滑り込んだ俺は下方からビームブレードの柄を蹴り上げる。

 胸部装甲がやや削られてしまったがこの程度は自動修復の範囲内。

 甲冑の柄を持つ固定力は強く、ぐらつく程度であるが、それで問題はない。

 

 少しでも取り落としそうになった武器を、混合型はどう捉えるか。

 弾丸が通用しない相手に対してビームブレードは混合型に残された強力な武器の一つ。

 絶対に失いたくはないはず。

 

 甲冑のもう一つの手も柄へと伸び、両手共に柄を捉えた形となる。

 そして、咄嗟であったためか上体が不安定なままに前方へと重心が傾いたため、キャタピラの後方が僅かに浮き上がる。

 

「日本人ならよぉぉぉぉ、柔道は義務教育だよなぁぁぁぁぁ!」

 

 起き上がった俺は混合型の両腕を掴むと背負い投げ……るのは重くて無理だったために横倒しにする。

 まあ払腰に近い形になったか。

 一度倒れたキャタピラは虚しく回転を続けるも起き上がることは出来ず、やがて魔力が途絶えたのか動くことは無くなった。

 

「無力化完了だ」

 

 甲冑部分を開き、内部を確認するとやはり搭乗者はいない。

 ならば無人型か。

 ……どこから魔力が流れ込んでいたのか。

 

「ん? 何かあるな……」

 

 コックピット部分に白い結晶のようなものが幾つもあった。

 アイギスを解除し、俺は混合型に入り込む。

 ……これすると後でアイギスの駆動が遅くなるんだよな。

 

「……見たことない鉱石だ」

 

 名を【マナ・メタル】。言葉通りに魔力を多分に含んだ鉱石のようだ。

 恐らくは足りない魔力を補うために混合型が蒐集していたのだろう。

 

「いやー。お見事お見事。やはり私が見込んだだけのことはありますね」

 

 パチパチパチと手を叩きながら盾の裏からワークスピサロが現れる。

 俺を称賛しているようで、そうでないことは分かる。

 

「その登場の仕方だと黒幕みたいだぞ」

「えっへへ」

 

 照れたように頭を掻くが褒めたわけではない。

 

「しかしマキノさんの〈マジンギア〉?〈エンブリオ〉?随分と柔軟な動きしますね。まさか投げ技を使えるなんて。それにスライディングタックルみたいなこともしていませんでしっけ」

「そこは〈エンブリオ〉である利点の一つだろうな。アームズ型って持ち主に重さを感じさせないとかあるだろ。多分その一環で、アイギスを纏った状態でも俺は何も装備していない時と同じように動けるんだ」

「ほへー。つまりはアイギスさんを装備していても裸みたいな状態と」

「何故裸と言い直した」

 

 ワークスピサロは俺を弄ることに飽きたのか、混合型に乗り込んでくる。

 下半身は戦車型であるが上半身は甲冑型の混合型は搭乗者を一人用として造られている。

 つまりは、ワークスピサロが乗り込んできたせいで狭い。

 

「ちょっと、狭いのを良いことにあちこち触らないでくださいよ」

 

 そんなことを言ってくるが無視して混合型のあちこちを触っていく。

 ふむ……本来であれば武装はまだまだあったようだな。

 だが魔力不足でガトリング砲とビームブレードしか使えなかったと。

 

「想定魔力は……うわ、えげつないな」

 

 魔力効率はあまり良くは無いようだ。

 上級魔法職に就いていれば動かせるだろうが、そうでなければまともに運用は出来ないだろう。

 

「おい、これ本当に要るのか?」

「要ります! 欲しいです!」

「はいはい……ええと制御システムはどこだ……」

 

 サブジョブにある【技師】のおかげか、多少は〈マジンギア〉の設計も分かる。

 この混合型は自動操縦と手動で切り替えることが出来るようで、簡単に手動型にすることが出来た。

 

「……これでお前にも使えるようにはなった、が」

「本当ですか! やった、マキノさん大好き!」

 

 抱き着いてくるワークスピサロを押しのけ、俺は混合型から出る。

 まず間違いなく試運転をするだろうワークスピサロが起こすかもしれない事故に巻き込まれないために。

 

「マキノさん! ちょっと起こしてくれません?」

 

 そういえば倒れたままだったな。

 アイギスを纏い、力任せになんとか混合型を起こす。

 

「それでは……行きますよ」

 

 ゴクリ、とワークスピサロが喉を鳴らす音までも聞こえる程に坑道内は静寂に満ちる。

 そしてキャタピラがゆっくりと動き出すと混合型は前進し……止まる。

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁ!? 一瞬でMPが空っぽに!」

 

 予想通り、ガス欠となったワークスピサロの声が静寂をかき消し、坑道内をしばらく反響した。

 

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