歯車男とボルトレスガール   作:そらからり

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ボルトレスガール 4

■【高位操縦士】犬塚マキノ

 

「うぅ……待ってくださいよマキノさん」

「……これでもかなり歩調は合わせているんだぞ」

 

 MPが空っぽになったため、(俺が出した金で買った)回復アイテムを飲みながらワークスピサロは後ろをとぼとぼと付いてくる。

 俺も混合型から受けた傷を癒すべく回復アイテムを呷る。

 

 (これまた俺が出した金で買った)そこそこ優秀な【ガレージ】に収納された混合型は時間経過と共に先ほどの戦闘程度の破損は修復されるだろう。

 だが、せっかく手に入れた武具が装備出来ない辛さというのは、まあ分からないわけではない。

 〈マジンギア〉であればステータスに関係なく操縦者の技量次第という触れ込みもあるため、戦いにはならずとも動かして遊べるくらいには期待していたのだろう。

 

「……まずは【司祭】をカンストさせろ。今のジョブもMP補正は高いはずだ。下級職だから戦闘を繰り返していけばすぐにレベルも上がるだろ。次に魔法職を幾つかレベルを上げていけばその混合型も使い物になるはずだ」

「はい? 急に何を言ってるんです?」

 

 ワークスピサロは俺のアドバイスに首を傾げる。

 言葉の意味が理解出来なかったかのような反応だ。

 

「何って……その〈マジンギア〉を使いたいんだろ?」

「ああ。その話でしたか。大丈夫ですよ。どうせすぐに使えるようになります」

「は?」

 

 今度は俺がコイツの言葉の意味を理解出来なくなったが、ワークスピサロは構わず続ける。

 

「それよりもマキノさん。先の戦闘でマキノさんの〈マジンギア〉は幾らか損傷していたとお見受けしましたが」

「胸部装甲のところか。まあ支障はない」

「それに盾も真っ二つに……ああいえ、こちらは消えてしまいましたかね」

「ロスト扱いだな。元々使い捨てのつもりだったから気にするな」

「気にはしていませんが」

 

 と、一言多いがワークスピサロはこちらへと手を差し出す。

 左手の紋章――人形を抱く人間が浮き出た紋章――を見せると、

 

「あとで私のせいだと言われるのは面倒なので直してさしあげますよ」

「……」

 

 これだけは言わせてほしい。

 何があろうと、俺はこの女を言い訳にするつもりはない。

 この依頼に失敗しようと、戦闘で負けようと、それは俺の実力不足からくるものであり、俺はコイツのせいにするつもりはない。

 俺はコイツ程度に狂わされる歯車ではない。

 

 だが、気になってはいたのだ。

 始めから戦力外と見做していたワークスピサロのエンブリオ。

 戦力外であろうと、放置していいわけではない。

 

「エンブリオか」

「はい。私のエンブリオは非生物に対しても生物を対象としたスキルやアイテムを使えるという能力があります。多少効果は落ちますけどね。私は【司祭】ですのでマキノさんの〈マジンギア〉にも回復スキルが使えるんですよ」

「――」

 

 かなりの優秀スキルだ。

 それだけで一儲け考えられるくらいに。

 金に困っているならば、そちらをメインにすればいいじゃないか。

 その言葉をぐっと飲み込む。

 そのくらい思いつかないわけがない。

 ……何か理由があってのことだろう。

 

「頼む」

 

 紋章からアイギスを取り出すとワークスピサロに託す。

 実のところ胸部に取り付けてあるインサイトカメラが使えなくて困っていたのだ。

 

「お任せください。お茶の子さいさいで直してみせますよ」

 

 そう言って、レベル30の【司祭】は10分の時間をかけて表面上だけはアイギスの修復に成功したのであった。

 

「どうですか!」

「……ああ、ありがとう」

 

 自信ありげなその表情に何も言えず、ただ礼だけを述べる。

 カメラも直して欲しかったが仕方ない。

 

「むむ。お礼が足りませんね。駄目ですよマキノさん。人に良くして貰ったちゃんとお辞儀をしてお礼を言うのです」

「じゃあお前もお礼が足りていないよなぁ!? どれだけ俺に払わせた!」

 

 これまで散々金を出して来ただろうが。

 

「ぶっぶー。マキノさん、過去に女性に支払ってあげたお金のことを持ち出すのはマナー違反です。男として減点ですよ。マキノ株大暴落です」

「お前が大株主なら喜んで上げる努力をしてやるけどな?」

「今のところ私くらいしか買ってませんよね?」

 

 そんなことはないぞ。

 ミモさんとかミモさんとかミモさんとか……。

 

「さて、と。まだMPが余っていますし、マキノさんもこっちに来てください。あなたも回復しますから」

「いやアイテム使ったけど」

「何でですか!? 私という聖女がいながら!」

「聖女じゃなくて【司祭】だろ。それにお前にMP回復のアイテムを使わせるよりも俺がHP回復アイテムを使った方が効率が良いんだよ。……アイギスの回復は任せるから、そっちに尽力してくれ」

 

 やや不貞腐れるワークスピサロを見て少しだけ言葉を足す。

 それに機嫌を良くしたのか、先程までよりもワークスピサロの足取りは軽くなったようだ。

 

「それでマキノさん! 〈マジンギア〉は手に入ったことですし何で帰らないんですか?」

「一応調査だからな。坑道を一回りくらいはしておかないと依頼解決にはならん」

 

 後ろから聞こえる面倒くさーいという言葉は無視する。

 

「言うな。俺だって帰りたい気持ちは山々だ」

「なら――」

「このままだと赤字。分かるな?」

 

 この女に買わされたアイテム分を取り戻すためには依頼を完遂させなければならない。

 ワークスピサロは〈マジンギア〉を手に入れられて満足なのだろうが、俺は何も手に入っていない。

 せめて依頼の報酬くらいは……。

 

「律儀というか損する性格ですねぇ。もっとうまく立ち回らないと世の中やっていけませんよ」

「お前にだけ言われたくないからな」

 

 このぶっ飛んだ女の性格こそ損しているだろ。

 ……いや、損していると気づいていないのか?

 

「ちなみにあとどのくらい歩くんです?」

「そうだな……実は一回りといっても迂回路と休憩場所、つまりは行き止まりになっている小さな空間は無視していいらしいから、最奥の採掘場に辿り着くだけだ。一時間もすれば着くだろう」

「一時間もですか。トロッコ使いましょうよトロッコ。こういう場所にはあるものなんでしょ?」

 

 確かに線路は今も尚続いている。

 ……が、そのトロッコ自体が見つからないのだ。

 

「この線路の大きさだとトロッコもそれなりのものだろうが……如何せん見つからないじゃなぁ」

「ありました!」

「……は?」

 

 ワークスピサロの指さす先。

 そこには一台のトロッコと……〈マジンギア〉があった。

 トロッコには山のように【マナ・メタル】が積まれている。

 〈マジンギア〉の動きから察するに集めているのだろう。

 

「今度は甲冑型か……」

 

 通常よりもシンプルかつスマートなデザイン。

 形状からやはり無人型か。 

 混合型に比べて、最初から人を乗せるようには設計されていないようだ。

 だが、こちらも紫炎のマークから同じ設計者によるものと伺わせられる。

 

「あっちからも来ましたよ!」

 

 トロッコに【マナ・メタル】がこれ以上積めない程まで集められた時、奥から戦車型が現れる。

 戦車型はトロッコと連結すると、そのまま元来た道を走り出した。

 

「あぁっ。トロッコが! 追いかけないと」

 

 慌てて飛び出そうとするワークスピサロの首根っこを掴む。

 

「ぐぇっ。何をするんですか」

「待て。追いかけるにしても気づかれないようにだ」

「何で――」

「トロッコが壊れたら今度こそ歩いて帰る羽目になるぞ」

 

 大人しくなったワークスピサロを連れて、戦車型と甲冑型を追う。

 幸いにも積んだ【マナ・メタル】を落とさないようになのか、その速度は遅い。

 俺達が徒歩でも追いつけるくらいには。

 

「……どんどん増えてくるな」

 

 線路の合流地点の度に他の道から〈マジンギア〉が同様にトロッコを牽いたり、あるいはそれに追随するように現れる。

 

「あわわ。〈マジンギア〉が一つ、二つ……」

 

 立ち止まるワークスピサロの眼にはリルが浮かんでいた。

 駄目だコイツ金のことしか頭にない。

 軽くその頭を叩くと、こちらを睨みながら前進する。

 

「……! 壊れた〈マジンギア〉……」

 

 途中、半壊している〈マジンギア〉が捨てられているのに気づく。

 戦闘跡がみえる。

 ふむ……これは先行していたロージーとやらが倒した機体か。

 ならば倒したけれど再稼働したのではなく……二機目にやられたと考えるべきか。

 既に目にした〈マジンギア〉は十機。

 甲冑型、あるいは混合型が鉱石を集め、戦車型が運搬する。

 この鉱山の中ではそのような仕組みがつくられている。

 

「この山で何が起きているのでしょう……」

 

 ワークスピサロが俺の服を掴む。

 その表情には僅かに怯えがあった。

 

「……分からない。人為的なものであることは確か、だが……誰が何を、何のためにしようとしているかまでは……」

 

 そうして更に歩を進め一時間程。

 最奥の採掘場に辿り着いた時、俺達は目を丸くする。

 

「ハハ――ハハハハハハハハハハハハ――」

 

 そこにはおよそ百機の〈マジンギア〉と山のように積み上げられた【マナ・メタル】。

 そして、その山の脇で高らかに笑い続ける一人の男の姿があった。

 

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