歯車男とボルトレスガール   作:そらからり

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そろそろもういっこも書いてくか


ボルトレスガール 5

■【高位操縦士】犬塚マキノ

 

 笑い続ける。

 笑って嗤って哂って嘲笑って、まるで壊れた玩具のような、ネジがぶっ飛んで歯車が欠けたような笑い方を男は続ける。

 

「うっわー。何ですかあの道化みたいな男は」

 

 ワークスピサロは笑う男に対して言い得て妙なたとえ方をする。

 道化。そう、まさしく道化だ。

 男はこちらに気づいている様子もなく、笑いながら〈マジンギア〉が運ぶ【レア・メタル】をうっとりと眺める。

 時折撫で、舐め、全身を擦り付けているのは何が楽しいのだろう。

 

「……ワークスピサロ。朗報だ」

「はい?」

「此れにて依頼は完了。あの男を発見したからか、それともこの場に辿り着いたからかは不明だが……これ以上は進む理由が無くなった」

 

 ウィンドウで確認した限りでは、冒険者ギルドに戻れば報酬は貰えそうだ。

 経験値は既に入ってきており、【高位操縦士】のレベルが僅かに上昇した。

 

「ほんとだ! 【司祭】が36になってます!」

 

 その場で踊り出しそうなワークスピサロを抑える。

 ここで見つかっては元も子もない。

 

「……ここからどうする?」

「どうするとは」

「新たな依頼が発注されている。続けるかどうか、だとよ」

 

 難易度七。

 依頼名は【アルノーム鉱山】の異変の解決。

 

「解決……ってことはあの男を倒すってことでしょうか」

「多分、な。だがあれだけの〈マジンギア〉だ。奇襲をかけないと……そして失敗したら詰む」

 

 気づかれでもしたら男への攻撃どころか逃亡すら困難になるだろう。

 ましてやワークスピサロという荷物を抱えた状態では……。

 

「おや。あの方も〈マスター〉のようですね」

「見えるのか!?」

 

 男まではまだかなりの距離があり、俺では左手を認識することも困難。

 リアルでの視力ってこっちでも通用するんだったか……?

 

「いえ、ちらりとそれらしい色が見えただけです。でも、あんなところに肌色以外がある時点で〈マスター〉でしょう?」

「……だな」

 

 だったら話し合いが通じるかといえば、可能性は低いだろう。

 こんなところで何かをしている時点で犯罪者予備軍みたいなものだ。

 迷い込んで笑っていましたという可能性に賭けても良いが……その場合の賭け金は下げさせてほしい。

 

「さて、では作戦を練りましょう」

 

 そう言って、ワークスピサロはあっさりと依頼を受注する。

 

「おや。私一人では難易度が九ですか。ふふっ。先ほどまでの調査以来と大して変わらない難易度みたいですね」

 

 何が可笑しいのかワークスピサロは笑っている。

 

「早くマキノさんも受けてくださいよ。でなければ、私一人で報酬全取りしてしまいますよ?」

「……はいはい」

 

 どこからその自信が沸いてくるのか分からない。

 だが、こいつの顔を見ていると俺もどこかが狂っていくように危機感が過ぎ去っていく。

 

「……! 難易度が六、か」

 

 ワークスピサロが受けたことで難易度が下がった。

 つまりは、こいつの存在が依頼完遂の鍵ということか……?

 

「難易度が九から六……。マキノさんもっと頑張ってくださいよ」

「うるせえ」

 

 前言撤回。

 こいつの役回りは御囃子と同じだ。

 

「……。装備からして戦えるような奴では無さそうだな。研究職か?」

 

 作業着と白衣の中間のような衣服。

 

「マキノさん。これどうぞ」

「……用意周到だな」

 

 ワークスピサロに渡された双眼鏡で覗き込む。

 

「だから必須だって言ったじゃないですか」

 

 絶対適当に買い漁ったのがたまたま役に立っただけだろ。

 

「……白衣のようだが煤汚れているな」

 

 整備士か何か、か。

 この〈マジンギア〉を操っているのはあの男で十中八九間違いないだろう。

 そして、双眼鏡を使ったことで男がやはり〈マスター〉であることも確認できた。

 

「あのマキノさん」

「なんだ」

「あの人が悪人前提で話が進んでいますが、ただの採掘に来た人って可能性は?」

「……ここを〈マジンギア〉を使って占拠している時点で犯罪だ。町一つの貿易が止まっているんだぞ」

「……ですかぁ」

 

 なんだ?

 双眼鏡であの男を見た途端にワークスピサロの戦意が削がれた気がする。

 

「殺すかどうかは後にするとして、制圧だけはしておかないといけない。話を聞くなら、その後だ」

「ですねぇ。立ち止るか、逃げるかの選択肢はもう消え失せましたし。進むしかないみたいです」

 

 ゴソゴソと、ワークスピサロが取り出したのは【ガレージ】。

 そこから混合型を出現させる。

 

「何をしているんだ?」

「ですので、作戦を練ろうということです。私は残念ながら時間稼ぎしか出来ませんので、抑える役割はマキノさん、頼みましたよ」

 

 そう言いながらワークスピサロはアイテムボックスから【マナ・メタル】を積み上げた。

 

 

 

 

「さあさあ初陣を飾りますのはこのワークスピサロ! 仕留められたい奴からかかってこいやぁ!」

 

 ふらふらと進んでいく混合型を見送りながら俺はアイギスを装着する。

 アレに比べればアイギスの安定感は遥かに高い。

 だが……今だけは交換してやりたい気持ちの方が強い。

 

「……簡単にくたばるなよ」

 

 蟲系統のモンスターを引き寄せるお香を撒き散らしながら進むワークスピサロの搭乗した混合型は百機の〈マジンギア〉へと突撃していく。

 やや遅れた反応を見せた後に遊撃を開始する〈マジンギア〉だがその動きは鈍い。

 お香には蟲の動きを阻害する麻痺性の毒が仕込まれており、誘因される蟲を仕留めやすくする効果があるのだ。

 更には同時に混合型がふらふらとしながらも地面に時間経過により起動する火属性魔法の込められた【ジェム】が次々に爆発していき、〈マジンギア〉を吹き飛ばしていく。

 

「……完全に赤字だな、ありゃ」

 

 ワークスピサロのエンブリオによって対虫型モンスターへのアイテムであろうと何だろうと、特攻効果すら非生物への対象に移せるらしい。

 しかしながら効果は薄れてしまうため、動きが襲いながらも〈マジンギア〉は数で圧倒しようと襲い掛かる。

 

 マシンガンや小型ミサイルを混合型へと放つと、他の機体は巻き込まれないように一度下がる。

 

「あわわ……」

 

 ワークスピサロにそれを回避する技術などあろうはずもなく、すぐに爆発に呑まれる。

 だが、数瞬の後に混合型は光に包まれると、見かけだけは爆発以前の姿を取り戻している。

 

『これを使います』

『【マナ・メタル】か。……なるほど、MPタンク』

『はい。これなら私でも扱えるかと』

 

 ワークスピサロが得意げに取り出したのは混合型が集めていた結晶。

 それ一つで上級魔法職分のMPくらいは賄えるはずだ。

 これがあればMP要求値の高い混合型であろうと、動かすくらいならば問題はなくなる。

 彼らは【マナ・メタル】を用いて自立していた。

 だったらワークスピサロも同様に、混合型を操縦する。

 

 だが、動力の問題は無くなったとしても技術の差はある。

 俺と戦った際の鋭敏さも機転も、今の混合型には無い。

 あるのはワークスピサロによる回復やアイテムの援護のみ。

 

「……生物も非生物も同じ、か」

 

 非生物に対しても生物へのスキルやアイテムを使うことが出来る。

 ワークスピサロは俺達をどのように見ているのだろう。

 

 被弾が続く混合型は絶えず回復魔法がかけられ修復されていく。

 対する〈マジンギア〉の群れは互いの被弾を嫌っているのか数機ずつしか前に出て来れず数の利が取りづらそうだ。

 

「っと、いけない。俺も行かないと」

 

 だが、ワークスピサロが言ったようにあの行動は時間稼ぎにしかならない。

 今は強襲しているという相手の混乱を足枷にしているために何とか混合型が落ちずにいるが、次第にワークスピサロの技術の低さと、そもそも【操縦士】系統ですらないことに気づかれる。

 そうなれば幾らでもやり方はあるだろうし、あの男の目が時間稼ぎであることに勘づくのもすぐだろう。

 

 だから俺はアイギスを全力で動かす。

 俺が近づいてることに気づいた〈マジンギア〉数機がこちらへと向かうが、全て無視する。

 機関銃の弾が放られてくるが、全て《滅蛇の盾》で返していく。

 

「――ハ」

 

 男は俺の接近に慌てて何かしようと紋章を光らせるも遅い。

 勢いを落とすこともせずにアイギスが男と衝突し、

 

「――ハ」

 

 ダンプカーに跳ねられたような勢いで男は吹き飛び、乾いた笑声と共に【マナ・メタル】の山に沈んでいった。

 

「いっけね。やり過ぎた」

 

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