歯車男とボルトレスガール   作:そらからり

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ボルトレスガール 6

■【高位操縦士】犬塚マキノ

 

「ハ――」

 

 不意に、続いていた音が止む。

 鉱石の山から身を起こした男は、まるで一切のダメージが無いように衣服を正すと、こちらを睨む――否、ただ視線を向けていた。

 

「肉塊が。僕に何か用か」

 

 その瞳はワークスピサロとどこか似通ったものであった。

 何に対しても平等な……いいや、人を人として見ていないかのような目。

 

「何用かは分かるだろ?」

「ああ……嗚呼……? 地獄人の使いか? いいや、それにしては小奇麗過ぎる。ならば現世人か……なればこそ分からない。なぜ、ここにいるのか」

 

 その言葉は奴一人で完結していた。

 疑問を投げ掛けているようで、誰に対して問うでもない。

 己が思考を整理するために自問自答しているようだ。

 

「いや、違うな。この場合の適切は、何故、僕に出来るんだ?」

「……?」

「理解出来ていないという顔だな。まさか、説明が必要だとでも?」

 

 この男は心の底からそう思っているのだろう。

 自分に理解出来ていることは他人にも出来ている。

 そのような顔をしている。

 だからこそ、俺の顔に浮かぶ疑問符が理解出来ないのだろう。

 

「悪いが俺にはお前の言っている言葉の意味が全く分からないな。ご高説願おうか」

「良いとも。勿論。是非に。確かにだとも。へりくだるのは良いことだ。教えを乞う立場に甘んじることは悪いことでは無い。嗚呼、肉塊全てが君のように立場を弁えていれば楽なのに」

 

 先程のアイギスとの衝突など無かったかのように、男は俺に対して敵意をみせない。

 まるで通りがかった通行人に事情を説明するように、言葉を返す。

 

「マキノさん! 男同士で話してないで、私を、忘れないで」

 

 ワークスピサロの悲鳴が聞こえる。

 そういえば男のインパクトが強かったために忘れかけていた。

 ……〈マジンギア〉の操縦初めてだよな?

 それにしてはまあまあ形になっている。

 

「その前に悪いが、アレを止めてくれないか?」

「アレ?」

「〈マジンギア〉のことだ。俺の仲間が襲われていて大変なんだ」

「嗚呼……」

 

 男は遠くを見る。

 その先にワークスピサロはいない。

 虚空を見つめていた。

 

「無理だ」

「無理?」

「彼らは私の指揮下には無いよ。使命を全うしているだけに過ぎないのさ」

「その使命ってのは?」

「邪魔者を――侵入者を排除せよ」

 

 邪魔者、あるいは侵入者か。

 ならばワークスピサロは元より、俺も当てはまるはずだ。

 だが、俺は今は〈マジンギア〉達に囲まれはしているものの、彼らの動きは止まっている。

 

「……戦闘行為をしなければ襲ってこないというわけか」

「その理解で問題はない」

「ワークスピサロ! 攻撃中止だ! 混合型を【ガレージ】に仕舞ってこっちに来い!」

「へぁ!?」

 

 三機の〈マジンギア〉によってキャタピラと両腕部分にあたるアームを解体されていた混合型の中から間の抜けた声がした。

 

 

 

 

「うぅ……死ぬかと思いました。デンドロ生活二日目にしてデスペナルティを覚悟させるとか、マキノさんもハードプレイしますよね」

 

 ワークスピサロが〈マジンギア〉達の中心で暴れるのを止めたためか、すぐに彼らは攻撃を中断する。

 混合型の中から這い出たワークスピサロはそのまま這う這うの体でこちらへと逃げてきた。

 

「俺のせいじゃないだろ。全部自分で招いたことだ」

 

 ちなみに俺は初日で死んだぞ。

 自慢することではないから言わないが。

 

「ちなみにだが、侵入者は君たち以外にはいないな?」

「ああ。依頼を受けたのは俺達だけのはずだ。しばらくすれば話は別になるだろうがな」

「良かろう――」

「―–ッ!?」

 

 ワークスピサロが合流したタイミングで男がパチンと指を鳴らす。

 すると、あれだけいた数多の〈マジンギア〉達が霞のように……まるで幽霊のように消えていく。

 

「……〈マジンギア〉の幽霊」

 

 思わず呟いた俺の言葉を無視したのか、あるいは聞こえなかったのか。

 男はワークスピサロの搭乗していた〈マジンギア〉を見て、

 

「ふむ……当たりを引かれていたか」

 

 そう、言ったのであった。

 

「それでこちらは?」

「黒幕」

「ハ――ハハハハハハハ」

 

 ワークスピサロの言葉に俺は即答する。

 すると再び、高らかに男は笑い始める。

 

「黒幕。良い響きだ。裏方であり最後は表舞台に立ち、そして全ての元凶。だが、しかし残念ながら――」

 

 徐々に声が小さくなっていき、男の表情は陰りをみせた。

 

「僕は黒幕でも元凶でも無いのだ」

 

 これが俺達とヴォ・ヴァークの出会いであった。

 

 

 

 

「肉塊の名は?」

「初めて聞いたわ、その名前の尋ね方」

「ワークスピサロです」

「そして答えるのか」

 

 気にも留めていないワークスピサロはあっさりと名前を明かす。

 

「……犬塚マキノ」

「ワークスピサロに犬塚マキノ……長いから肉塊で良いか?」

「良くねえな。名前を憶えてくれ」

 

 肉塊を連呼するな。

 

「……で? これは一体どういうことなんだ」

 

 百機あったはずの〈マジンギア〉。

 それらは今、僅か数機だけに減っていた。

 ワークスピサロとの戦いの果てに破壊されたわけではない。

 無事であったはずのものも姿を消したのだ。

 だが、残った全てに紫炎のマークがあることから同一人物により設計であることは確かだろう。

 

「ハ――」

「それももういいから」

「――そうか」

 

 笑おうとするヴォ・ヴァークを制し、話を続けさせる。

 

「まず第一に、この山は鉱山ではない」

「……ん?」

「でも鉱石たくさん採れるじゃないですか」

「嗚呼。それは鉱山ではないにせよ、副産物によって作り出されているからだろう」

「作り出されている?」

 

 鉱石って溶岩とかが固まったみたいなやつだろ。

 ……溶岩?

 

「その表情で正解だ。この山はまだ生きている」

「……活火山か」

「正確には、モンスターが山の中心部で火を噴いているといったほうが近い」

 

 ヴォ・ヴァークが言うには、この山は一度死んでいたらしい。

 火山としては終わっており、後は残された鉱石を掘り尽くされるだけの運命。

 だが、一匹のモンスターが中心部に巣食ったことで、再び火山として蘇った。

 

「名を【溶層牢 ヒュエ】」

「寒そうな名前ですね。ヒエー」

 

 ワークスピサロの抱いた感想はそんな呑気なものだったらしい。

 だが俺は此れまで聞いたことの名前のモンスター、そして冠についた言葉に目を丸くする。

 

「UBMか……」

「如何にも。等級は伝説級といったところか。マグマの中で泳ぐ様は愛玩動物のようだがね。環境を変化させた上で陣を敷いているため等級以上に手強い」

「一度戦ったことがあるのか」

「惨敗だったがね。くくっ、我が肉体も結局は肉塊なれど」

 

 何が面白かったのか、短く息を漏らす。

 

「まあ、そんなわけで再戦のための準備をしていたというわけだ」

「……この〈マジンギア〉か」

「嗚呼。我がエンブリオによって生み出された彼ら百機の〈マジンギア〉。エネルギー源が無いためにろくに動かすことは出来なかったが、この鉱石があれば欠点は消える」

 

 ヴォ・ヴァークは【マナ・メタル】の山を見る。

 活動を再開した数機の〈マジンギア〉達がせっせと積み上げているため少しずつ山は高くなる。

 

「つまりは……UBMを倒すために〈マジンギア〉の力が必要で、その〈マジンギア〉を動かすために【マナ・メタル】を集めていたということか」

「その通りだ。説明せずとも分かることだろう」

「いや分かるか」

 

 ……なるほど。

 この男には悪意は無かったわけだ。

 ただ純粋にUBM討伐の為に出来ることをしていたと。

 

「……お前が鉱石を集めているおかげで町の連中が迷惑しているみたいなんだが」

「遅かれ早かれヒュエが暴れ出していただろう。襲われる前に避難出来たと喜ぶべきではないかと思うが?」

 

 事情を説明していればそうなのだろうが、今回はヴォ・ヴァークの独断専行によるもの。

 なので町の印象としてはただの迷惑行為に過ぎず、感謝する理由にはならない。

 

「……分かった。ギルドには俺がUBMの危険性を示唆した上で報告しておく。しばらくはお前だけがこの山を占拠することになるだろうが……街に被害が出ないなら文句もないはずだ」

「ふむ。まあそれでよかろう」

 

 こちらの譲歩にヴォ・ヴァークは納得したようだ。

 

「もうじきこの山全ての【マナ・メタル】の採掘が完了する。終わり次第ヒュエの討伐に向かおう」

「分かった……討伐出来たらお前も町のギルドに一報入れろよ」

 

 その言葉に返答は無かった。

 多分、やらないだろうな。

 

「肉塊共よ」

「名前憶えろって言っただろ。犬塚マキノだ」

「ここで結べたせっかくの縁だ。いずれかで再会した際は祝いの言葉を述べるといい」

「……はいよ」

 

 そうして俺達は町へと戻ったのだ。

 ――依頼の達成がいつまでも届かないと気づかないまま。

 

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