■【高位操縦士】犬塚マキノ
「まずは完結から話そう。我が徒は全てヒュエに触れることさえ叶わなかった」
重度の【火傷】も削られたHPも全て回復を終えたヴォ・ヴァークは口を開く。
「……それほどに強力なスキルを扱うのか。ヒュエというのは」
「いやなに。そも奴はマグマ溜まりの中でしか生息できない。我がマジンギア全てがそのマグマで溶かされただけのことだ」
「……は?」
「ク。計算を少しばかり間違えていたようだ。UBM戦ということで耐熱よりも耐衝撃に装甲を割り振っていたのが仇となった。ク、クク」
クツクツと何が可笑しいのかヴォ・ヴァークは笑っている。
「だがまあ、少しは近づけたことでヒュエの解析は完了した。前回のデータと合わせれば次は勝てるだろう」
「それはフラグだ」
「データキャラは大概予想を外すものですよ」
前回は大敗したとか言っていたか。
今回も同様だろう。
「散々な言われよう。それはそれとしてヒュエの情報はいるかね?」
「ああ。勿論だ」
「ならば良し。まずヒュエの能力は高熱物質の操作。増やすことはできないようだが、高熱を伴ったもの……マグマや溶岩を自在に操れるようだ」」
「なるほどな……増やせないから火山を刺激したのか。自身の棲み処を強化するために」
「あるいは広げるためにだな。奴自身のステータスは低い。それにどうやら、高熱を離れると途端に弱体化してしまう特性を持ち合わせている」
「淡水魚とか海水魚みたいな感じですか」
「似たようなものだろう。その環境にしか適応できない代わりに、その環境では無類の強さを発揮できる。それがヒュエという生物」
ならば倒す方法は3つ。
1つ目は単純にゴリ押す。耐熱装備を整えてステータス任せにヒュエを殴れば死ぬだろう。
2つ目はどうにかしてこの火山を停止させる。マグマの中で強いのであれば冷ましてしまえばいい。
3つ目はここからヒュエを追い出す。2つ目と同様の理由だが、結局は高熱の場所で無ければ力を発揮できないUBMに過ぎないのだ。
「この火山をどうこうすることは不可能に近い。【氷王】クラスを連れて来れば話は別かもしれないが。いや、それこそ僕達に何かが出来ることも無くなるだろう」
「ヒュエをここから動かすというのも無理そうですね。ヴォ・ヴァークさんのマジンギアが触れなかったんです。どうやって運ぶんだって話ですよ。自分からお引越ししてくれるはずもないでしょうし」
「……ならば力づくで倒すしかないか」
ヒュエまでの道はヴォ・ヴァークが知っている。
そこまでの距離から計算すれば、俺だけであれば1分とかからずに到着できる。
「肉塊よ。君が行くかね」
「犬塚マキノだ。……もう町にまで影響は出ている。ヒュエを倒さないことにはこの現象も収まらないというなら、行くしかないだろう」
「ヴォ・ヴァークさん。この人、もう自分の世界に入り込んでますから、止めても無駄ですよ」
「止めはしない。元より僕は誰かが倒せばいいと考えていた。……人間は好かんから、こうして1人で赴いた次第だがね。……マジンギアを触っている方が気楽だし」
この性格なら友人の多い方では無いだろう。
マジンギアに関連するクランであれば受け入れてくれるかもしれないが、1人でいるだけに、何かしら理由があるはずだ。
人間よりもマジンギアの方が気楽というのは賛同したいところだが、それを言ってしまえばこの男はますます塞ぎ込んでしまうだろうか。
「だったら私達で倒しましょうよ!」
「……君達と?」
「ええ。1人で無理なら3人で! 知っていますか、三本の矢!」
ワークスピサロは実際にアイテムボックスから矢を3本取り出す。
3本纏めて折ろうとし、しかし矢は多少しなりこそすれど手折れない。
次いで1本だけ折ろうと……というか順番逆じゃないか?
普通は1本から始めて、1本だと折れるけど3本ならみたいな話だろ。
「だって1本から始めると矢は4本必要になるじゃないですか。3本からにすると3本で済むんですよ?」
「ほう……確かにな」
ヴォ・ヴァークは感心するが、そんなのに頷かなくていい。
そして結局ワークスピサロは矢を折ることが出来なかった。
「……おい」
「見事にステータスが不足していました」
この世界、扱う人間のステータスもそれなりに高くなってくるから自然と武器の強度も上がる。
レベル30程度のワークスピサロのステータスでは矢すら折れないようだ。
「つまりはですね! 1本でもこれだけつよい矢が3本集まったらさらにつよくなるってことです!」
「無理やりだな」
「まあ炎の前には容易く燃えてしまうんですけどね。あっはっは」
ワークスピサロは笑いながら炎の上がっている場所に矢を3本投げ入れた。
矢は虚しく燃え、煙をあげて消えていった。
こいつの情緒どうなってるんだ?
「それで? マキノさんはなにか勝算はあるんですよね」
「……俺頼みかよ」
「当たり前じゃないですか! 3本になっても燃えてしまう矢。燃やさないでヒュエに届かせること、マキノさんなら出来るんじゃないですか?」
「……」
まあ、あるにはある。
「俺のアイギスの必殺スキルは常時発動型だ。効果は時間比例による性能強化と耐性の獲得」
「ほう?」
「24時間でリセットされるがな。だが、昨日からこの山でアイギスを出しているからこのくらいの温度ならアイギスは表面すら熱くならない」
「殴れば殴るだけ物理耐性も付くってことですか」
「そういうことだ」
と、ワークスピサロがこちらを見てニマァと気味の悪い笑みを浮かべた。
……分かっている。
アイギスとワークスピサロのエンブリオの能力。
これは途轍もなく相性が良い。
アイギスはエンブリオであると同時にマジンギアである故に修理が生物と同じようにいかないという欠点がある。
時間経過でこそ完全に修復はするが、その時点で24時間は経過し、耐性は失われてしまう。
此れまではどうにか強化の方で戦ってきたが、正直ワークスピサロがいれば戦闘の幅が広がる可能性は見えていた。
「マキノさんマキノさん」
「なんだうざいな」
「ひどっ!? 名前を呼んだだけじゃないですか」
「顔と声がいつものうざさ100倍だ」
「んもぅ。いつもの私が良いならそう言えば良いのに」
「……君たちは長い付き合いなのかね」
「「昨日初めて会った」」
ヴォ・ヴァークがなんともいえない表情をしているが、それはともかくとして。
「それで? 何が言いたかったんだ」
「思ったんですけど、マキノさんがアイギスに乗った状態で溶岩の中に飛び込んで私がアイギスを回復し続ければ、熱さに対して無敵のアイギスが出来上がるんじゃないかと」
「……原理としては正しいな」
そう、それが可能になるくらいには俺とこの女のエンブリオの相性は良い。
「耐性獲得までにお前のMPが持てばな?」
「そんなことは――ありますね」
第一マグマの傍にワークスピサロもいなければ成立しない策だ。
俺が安全地帯とマグマを往復すれば可能だろうが、それも時間の無駄。
「だがまあ、悪い作戦ではない。今のお前に出来ないだけだ」
「はい?」
「……いずれは頼むかもしれないってことだ」
「デレた! マキノさんがデレましたよ! 聞きましたかヴォ・ヴァークさん」
「ああ。どうやら犬塚マキノは君と別の冒険も求めているようだ」
「……うるせぇ」
結局ヒュエ討伐は力づくで押し切ることとなった。
俺がアイギスで熱耐性を少しでも獲得しながら上がっていくアイギスの性能でヒュエを叩く。
俺は2人に伝えると、
「あれ? それだと私達必要じゃなくないですか?」
気づいたか。
これより一本の矢作戦を開始する。