ロクでなし魔術講師と氷輪丸   作:洟魔

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8話

 

 

アルザーノ帝国魔術学院では、魔術競技祭開催前の一週間は、競技祭に向けての練習期間となっている。具体的にはその期間の全ての授業が三コマ──午前の一、二限目と午後の三限目──で切り上げられ、放課後は担当講師の監督の下、魔術の練習をしてよいことになっている。

「はぁ……」 

放課後。針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院中庭にて。グレンは適当な木に背中を預けて座り込み、自分のクラスの生徒達が競技祭に向けて魔術の練習を行っているさまを、疲れたような遠目で眺めていた。呪文を唱え、空を飛ぶ練習をしている生徒がいる。

念動系の遠隔操作魔術でキャッチボールをしている生徒達がいる。

攻性呪文(アサルト・スペル)を唱え、植樹に向かって電光を撃つ練習をしている生徒がいる。

中庭の向こう側では、システィーナとルミアがベンチに腰かけて呪文書を広げ、難しい顔で羊皮紙に何かを書き連ねており、その周りを何人かの生徒達が、あれこれ相談しながら取り囲んでいる。彼女達は競技用の魔術式の調整をしているらしい。グレンのクラス一同は今、一週間後の競技祭に向けて静かに盛り上がっていた。

ちなみにセラはセリカに連れ出されている為ここにはいない

「まったく熱心なこった……人の気も知らないで……」 

昨日までの熱血ぶりとは一転、今日のグレンはテンション駄々下がりだった。なにしろ見てしまったのだ。他のクラスのそうそうたる参加メンバーを。

「ちぃ……今からでも無理矢理、編成を変えるか? 担当講師権限で……」

「そんなことしたらセリカさんに消し炭にされるよ」

その事を思い出したグレンが自身の胸の奥底から聞こえてくる悪魔の囁きを漏らすと、突然上から声が聞こえる。

「誰かと思ったら……お前かよユキト、てかお前なに堂々とサボってやがる」

グレンが声のした上をむくと木の上からユキトが顔を覗かせていた。

「いいじゃん、オレなら所詮学生同士の『決闘戦』なんか余裕なんだし…それよりも編成を変えるって言ってたけど…そんなにセリカさんにしばかれたいの?」ニマニマ

「んなわけあるかー!!俺はそんなのには目覚めてねーよ!気持ちわりぃこと言うな!」

ユキトは木の上から返事をしつつグレンをからかうが、グレンは即座に否定する。心做しか鳥肌がたっていた。

「ハハ…まぁ最後のは冗談だけど…編成を変えるのはやめた方がいいよ。なんだかんだ言っても皆楽しそうだからさ」

そう言ってユキトは辺りを見渡す。昨日までは気後れして尻込みしていたようだが、皆、なんだかんだで少しでもいいから競技祭に参加したかったのだろう。生徒達は生き生きとしながら、自分が出場する魔術競技の練習をしていた。

「分かってるよ……ったく、ド下手くそ共が……あー、こりゃ無理だわ、無理無理……特別賞与は諦めるか…」

その光景をグレンも見ながらも勝つのは無理と言うも、その顔はどこかさっぱりとした顔だった。

「それよりも餓死だけはゴメンだからな…シロッテの木とか生えてりゃあれの小枝で何とか持たせられるんだが……」

そう言ってグレンが学院内の森などで食べられる野草や枝を探しに行き、それを見たユキトは…

「……うそでしょ?」

思いっきり引いていた。

 

それからユキトが木の上で休んでいると…

「あ!こんなところにいた!ユキト君!」

木の下からユキトを見つけたルミアに声をかけられる。

「ん?どーしたの?」

「どうしたじゃないよ!もう…1人だけサボってるんだから。そういうの良くないよ?」

「う…でもオレが学生同士の『決闘戦』なんて余裕なのルミアも知ってるでしょ?だから休んでもいいんじゃ……」

「確かにユキト君なら簡単に勝てるのは知ってるけど…それでも皆が一生懸命頑張って練習してるんだから1人だけサボるのは違うと思うな」

「でも……」

ルミアはユキトにサボっていることについて注意するがユキトはなかなかうなづかない…すると

「じゃあこの前言ってくれた、なんでも言うことを聞いてくれる権利を使うね!練習をサボるの禁止!」

「え〜…分かったよ」

ユキトがこの間機嫌取りで言った【なんでも言うことを聞く】権利をルミアはフルに使いユキトに納得させた。

「でもこんなことに使って良かったの?」

「?いいんだよ」ニコ

納得したユキトだったがルミアにこんなことで権利を使ってしまっていいのかと聞くがルミアは笑顔で返し、続けて…

「だって回数制限なんて聞いてないもん!だから何回でも使えるってことだよね!」ニコニコ

「……………………うそでしょ…」

とサラリとエグいことを言い、ユキトはそれを聞いて軽く絶望した。

 

ユキトがルミアの言葉に軽く絶望していると…

「さっきから勝手なことばかり……いい加減にしろよ、お前ら!」

突然、激しい怒声が耳に飛び込んでくる。

見ると、カッシュと別のクラスの男子で何か言い争っているとグレンがそこに介入してきた。

「…………おーい、何があったんだ?」

「あ、先生!? こいつら、後からやってきたくせに勝手なことばかり言って―――」

「うるさい! お前ら二組の連中、大勢でごちゃごちゃ群れて目障りなんだよ! これから俺達が練習するんだから、どっか行けよ!」

「なんだと――――ッ!?」

「はいはい、ストップ~」

グレンは取っ組み合いを始めたカッシュと男子生徒の首根っこを掴んで、左右へ強引に引き剥がした。

「あがが……く、首が……痛たた……」

「うおお……い、息が……く、苦し……」

「ったく、くっだらねーことで喧嘩してんじゃねーよ……お前ら沸点低過ぎだろ」 

生徒達が大人しくなったのを確認して、グレンが手を離す。首を解放された二人がむせながら地面に這いつくばった。

「えーと? そっちのお前ら……その襟章は一組の連中だな。お前らも今から練習か?」

「え……あ、はい。そうです……その……ハーレイ先生の指示で場所を……」

比較的大柄な生徒二人を、腕力だけであっさり制したグレンの姿に萎縮してしまったらしい。一組の生徒達は先ほどまでの威勢を引っ込め、殊勝に応じる。

「ふーん、そう……」

がりがりと頭を搔きながら、周囲を見回す。

「うーん、まぁ、確かに俺ら、場所取り過ぎか……悪かったな。全体的にもちっと端に寄らせるからさ、それで手打ちにしてくんね?」

「ば、場所を空けてくれるなら、それで……」 

なんとなく丸く収まりそうな雰囲気に、様子を見守っていた生徒達が安堵するが──

「何をしている、クライス!さっさと場所を取っておけと言ったろう! まだ空かないのか!?」

怒鳴り声と共に二十代半ばの男がやってくる。学院の講師職の証である梟の紋章が入ったローブを羽織り、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。その男の名は──

「あ、ユーレイ先輩、ちーっす」

「ハーレイだ!ハーレイ!ユーレイでもハーレムでもないッ!ハーレイ=アストレイだッ!グレン=レーダス、貴様、何度、人の名前を間違えれば気が済むのだ!?てか、貴様、私の名前を覚える気、全ッ然!ないだろッ!?」

ハーレイは物凄い形相で詰め寄った。

「…………で? ええと、ハー……なんとか先輩のクラスも今から競技祭の練習っすか?」

「…………貴様、そこまで覚えたくないか、私の名前」

ぴきぴきと拳を震わせるが、ハーレイはつき合ってられんとばかりに話を続ける。

そのやり取り見ていたユキトは_

「フフッッ!?!」

グレンがハーレイの名前を間違えた辺りから口を抑えて声を殺しながら爆笑していた。

(ブフッッ!先生センスいいな!)

そんなユキトをおいて2人のやり取りは続いていき、グレンが練習の場所割りを提案すると_

「何を言ってる?お前達二組のクラスは全員、とっととこの中庭から出て行けと言っているのだよ」 

そんなハーレイの一方的な言葉に、その場の二組の生徒達が凍りついた。

流石にグレンが渋面でこめかみを押さえ、抗議する。

「先輩……いくらなんでもそりゃ通らんでしょ……横暴ってやつですよ」

「何が横暴なものか」

ハーレイが吐き捨てるように言い放つ。

「もし、貴様に本当にやる気があるのであれば、練習のために場所も公平に分けてやってもいいだろう。だが、貴様にはまったくやる気がないではないか!なにしろ、そのような成績下位者達……足手まとい共を使っているくらいなんだからな!」

「──っ!?」

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で群れ集まって場所を占有するなど迷惑千万だ!わかったならとっとと失せろ!」 

そのひどい言い草に、グレンのクラスの生徒達はしゅんと、表情を暗くし……

「それは言い過ぎでしょ」

不意にユキトの声が中庭に響いた。

「なに?……どこが言い過ぎだというんだ?事実だろう!」

ハーレイはユキトに噛みつきさらに二組を貶すが

「仮にもあんたは講師でしょ?だったら言葉には気をつけないと…やれ雑魚やら足手まといやら…それが仮にも講師の言うことなの?」

「キサマッ!!」

ユキトの言い分にハーレイが怒るが、それらを無視しユキトは続ける

「そもそも成績優秀な生徒達だけを使い回してるのだって可笑しいよね…だってそれは『オレたちは優秀な生徒達を使い回さなきゃ勝てない』って自分から言ってるようなものなんだからさ」

「なッ!」

「その点グレン先生は生徒全員を参加させてる。つまりあんたのクラスの基準でいうと全員が『優秀な生徒』ってことだ。オレらのクラスに『足手まとい』なんて1人もいないんだよ…分かりましたか?ハゲ先生?」ニコ

そう言い終わるとユキトは飛びっきりの見せる。

「……ッッ」

当然ハーレイは激昂し、ユキトを睨むが…

そこにグレンが割って入る

「ユキトの言う通り!いいっすか?先輩。俺達は全員で勝ちに行く、全員でな。目指す一つの目標の前に、誰が主力だとか足手まといとか、んなもん関係ない。皆は一人のために、一人は皆のために、だ。その一体感こそ何よりも最強の戦術なんですよ?わかりませんかね?」

「くっ……そんな非合理的な精神論が通用するとでも……ッ!?」 

だが、そんなハーレイの反論を、グレンは胸を張って切り捨てるように返す。

「給料三ヶ月分だ」

「な、何ィ……ッ!?」

「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三ヶ月分だ」

グレンの宣言に、ハーレイは当然、周囲全員がどよめいた。

特にグレンのクラスの生徒達が、ぽかんとした表情でグレンを見つめている。

「しょ、正気か、貴様……ッ!?」

「さて、どうしますかね? 先輩。この賭け乗りますか? いやぁ、三ヶ月分は大きいですよねぇ?もし負けたら先輩の魔術研究が、しばらく滞っちまいますよね……?」

「ぐ……ぅ……ッ!」

当然、ハーレイも三ヶ月分もの給料を失うようなリスクは避けたい。が、生徒達の手前、ハーレイもここで退くに退けないのだろう。

「私も、私のクラスが優勝するに、給料三ヶ月分だ!」

脂汗を浮かべながら、ハーレイは忌々しそうに宣言した。すると

「え〜?三ヶ月?聞き違いかなー?まさかあの第五階梯(クインデ)ともあろうお方が第三階梯(トレデ)のグレン先生と同じ三ヶ月分って聞こえたんだけど〜?」

ユキトが突然割って入り、煽るように言う。

「お、おいユキト?」

グレンも困惑するがユキトは続ける。

「まさかね〜?さっきまでの自信はどこにいったんだろうね〜?あれだけ自分のクラスは優秀な生徒達を使い回すから勝てるって言ってたのに…これじゃあ一組の生徒じゃ勝てないって思ってると考えていいのかな?」

「そんなことはない!」

「………」ニヤリ

そのユキトの言葉にハーレイは言い返す。するとその言葉を待っていたとばかりにニヤッと笑うとさらに続ける

「じゃあ証明してくださいよ?」

「証明?」

「そう、そう思ってないんだったら………給料五ヶ月分賭けてよ」

「なっ!?」

その言葉にハーレイは絶句する。給料五ヶ月分を失うのは痛すぎる。研究も確実に止めざるおえないのでそう簡単に賭けることは出来ない…だが

『…………』

ハーレイが自身のクラスを見ると、一組の生徒達の不安そうな視線が突き刺さる。ここで賭けにのらなければ自分は一組に期待してないと言っているも同然。しかし賭けるには大きすぎる金額。ハーレイはしばらく悩み続け、だした結論は__

「いいだろう!私のクラスが優勝するに給料五ヶ月分だ!」

賭けに乗ることを選んだ。

「さすが!ハボック先生だ。ねぇグレン先生?」

「ああ…くっくっく……いやぁ、ごっつぁんです、せ ん ぱ い?」

悪魔のような笑顔で笑うユキトとどこまでも余裕綽々に、不敵に笑うグレン。

「ちぃ……ッ! こ、この私に楯突いたこと、必ず後悔させてやるぞ……ッ!」 

恨み骨髄とばかりに、ハーレイはグレンとユキトを烈火のごとく睨みつけるとその場を去り、一組もその後を続くように中庭を去っていく。

そして、全員がいなくなると

「よーしお前ら、練習再開だ!」

「「「「「「「「おおーーーーーーー!!!!!」」」」」」」」

グレンは生徒達に呼びかけ、生徒達も大きく声を上げる。

 

その後、各自元の場所に戻って、練習を再開し、ユキトも元の木の上に戻ろうとするが_

「ユキト君?」

「……」ビクッ

背後から声をかけるルミアにビクつくユキト。まるでイタズラがバレた子供のような反応だ…

「まさかまたサボる気じゃないよね?約束したもんね?」

さらにルミアは追い打ちをかける。

「はい……」

「じゃあ行こうか♪」

「はい……」

そんなルミアに遂に屈したユキトは大人しくルミアについて行き練習をするのだった…

 

 




この場面での言いたいこと全部書けたのでスッキリしてます笑

五ヶ月分の給料を賭けたハーレイの選択やいかに!笑
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