FAIRY TAIL 才禍の怪物 作:XAI
大変長らくお待たせしました!!
今話から書き方が変わっていますが読みやすくはなってると思うのでお楽しみください。
最後の方に少し閑話を書いてるので良かったらどうぞ
「「この世にアルは二人といらない」」
「「この闘い……どちらか一方が倒れるまでだ!!」」
宣言と同時に、二人の身体が消えた。
──ガァンッ!!
次の瞬間、空中で火花が散る。
アルの刀と、シュティレの鎖剣。
激突した衝撃で、レギオン達が大きく揺れた。
「ハハッ!! いいぞ!! そうこなくっちゃなァ!!」
シュティレは狂ったように笑いながら鎖を振るう。
じゃらり、と不気味な音を立て、分割された刃が四方へ広がった。
「《
鎖剣が空中を這うように伸びる。
上下左右、逃げ場を潰すように迫る刃。
アルは空中で身体を捻りながら、そのすべてを紙一重で避けていく。
キィン! ガキィン!!
避けきれない刃だけを刀で弾き、最小限の動きで距離を詰める。
「逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ、“俺”!!」
「なら──」
アルはレギオンの背を蹴った。
爆発的な踏み込み。
一瞬で懐へ潜り込む。
だが。
「読めてんだよォ!!」
シュティレが鎖を強引に引き戻した。
ガシャァン!!
鎖剣の柄尻がアルの脇腹へ叩き込まれる。
「っ……!」
鈍い衝撃。
アルの身体が吹き飛ばされ、空中で体勢を崩した。
──速い。
シュティレは最初から全力だ。
躊躇も加減もない。
殺すためだけの戦い方。
鎖剣による変則軌道に加え、空中戦への慣れもある。
「ハハッ!! どうしたどうしたァ!! さっきの勢いはァ!!」
再び鎖が迫る。
アルは刀を横に滑らせ、絡みつこうとした鎖を弾いた。
しかし。
「遅ぇ」
シュティレ本人が既に目前まで来ていた。
膝蹴り。
腹部へ直撃。
ドゴッ!!
「ぐっ……!」
衝撃でアルの身体が下へ落ちる。
そこへ追撃。
「《
バリィィィッ!!
雷を纏った鎖剣が一直線に落ちてくる。
アルは空中で無理やり体勢を整え、刀を抜き放った。
「《
ギィン!!
音を纏った斬撃が雷鎖を弾き飛ばす。
だが勢いは殺しきれない。
二人はそのまま地上へ落下した。
ドゴォォォン!!!
瓦礫が舞い上がる。
着地と同時に、二人は再び激突した。
ガキィン!!
剣戟。
衝撃。
石畳が割れ、周囲の建物の窓が砕ける。
地上へ降りたことで、シュティレの攻撃はさらに荒々しくなる。
「オラァッ!!」
鎖剣が横薙ぎに振るわれる。
アルは刀で受け流すが、直後、鎖が途中で折れ曲がった。
「っ!」
変則軌道。
刃がアルの肩を掠める。
鮮血が舞った。
「ハッ! やっと当たった!!」
「……」
アルは無言のまま後ろへ跳ぶ。
肩から血が流れている。
だが表情は変わらない。
「何だよその顔。痛くねぇのか?」
「痛みはある」
「だったらもっと苦しそうにしろよ!!」
シュティレは嗤いながら突っ込んできた。
鎖が唸る。
雷が弾ける。
まるで暴風のような連撃。
アルは防戦一方だった。
ナツ達も別方向で戦っている。
ここで長引けば、被害が広がる。
アルは静かに息を吐いた。
──そろそろ、やるか
シュティレの鎖剣が振り下ろされる。
その瞬間。
アルの姿が消えた。
「──は?」
シュティレの目の前から、アルが消失する。
次の瞬間。
「後ろだ」
低い声。
「っ!!」
振り返るより早く、刀の鞘が脇腹へ叩き込まれた。
ドゴォッ!!
「がっ……!」
シュティレの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、瓦礫へ激突した。
「……今の速度」
立ち上がりながら、シュティレが笑う。
「やっと本気かよ、“俺”」
アルは答えない。
ただ静かに刀を構えた。
空気が変わる。
先ほどまで防御主体だった男とは思えない圧力。
シュティレの口元が吊り上がった。
「いいねぇ……! それだよ、それ!!」
再び激突。
だが今度は違った。
ガキィン!!
「っ……!?」
押されたのはシュティレだった。
力。
速度。
技術。
すべてが一段上がっている。
鎖剣を振るうたび、アルの刀が最短で割り込み、軌道を潰してくる。
「チッ!」
鎖を伸ばす。
だが。
「遅い」
アルが踏み込む。
居合。
「《
ギンッ!!
衝撃波が鎖を断ち切った。
「なっ……!」
シュティレが目を見開く。
その隙へ。
アルの拳が腹へ突き刺さった。
ドゴォォッ!!
「がはっ!!」
血を吐きながら吹き飛ぶ。
地面を滑り、瓦礫を何度も跳ねた。
「は……はは……」
それでもシュティレは笑う。
「最高だ……! やっぱり“俺”だ……!」
血まみれのまま立ち上がる。
鎖剣を握り直す。
「だったらよォ!! 最後まで付き合えやァァァァッ!!!」
膨大な魔力が噴き上がった。
雷が空へ奔る。
鎖が無数に広がり、巨大な円陣を形成する。
「《
バリバリバリバリィィィッ!!
空間そのものを埋め尽くす雷鎖。
逃げ場はない。
触れた瞬間、全身を引き裂かれる。
シュティレは全魔力を注ぎ込んでいた。
「消えろォォォォ!! アースランドの俺ェェェェェ!!」
無数の鎖が一斉に放たれる。
アルは静かに目を閉じた。
そして。
刀へ手を添える。
覇気が流れ込む。
黒く、重い圧力。
空気が震える。
周囲にいた兵士達が膝をついた。
「な、何だ……この圧……」
「息が……」
アルはゆっくり刀を構えた。
「……終わらせる」
覇王色が刀身へ纏わりつく。
雷のような黒い稲妻。
シュティレの笑みがさらに深まった。
「それだァァァ!!」
鎖が迫る。
アルは踏み込んだ。
「──
振り抜かれた一閃。
黒い衝撃が一直線に走る。
ズドォォォォォォォォンッ!!!!
世界が揺れた。
鎖が砕ける。
雷が消し飛ぶ。
シュティレの目の前まで、黒い斬撃が到達した。
「……は」
一瞬だけ。
シュティレの表情から笑みが消えた。
次の瞬間。
ドガァァァァァァンッ!!!
衝撃が直撃した。
シュティレの身体が吹き飛び、大地を砕きながら遥か後方へ叩きつけられる。
轟音。
土煙。
静寂。
やがて。
瓦礫の中央で、シュティレが仰向けに倒れていた。
鎧は砕け、全身から血が流れている。
もう立ち上がる力は残っていなかった。
アルはゆっくり歩み寄る。
シュティレは薄く目を開いた。
「……強ぇなぁ、お前」
「……」
「そりゃ……勝てねぇわ……」
血を吐きながら笑う。
その顔からは、もう殺気が消えていた。
そして。
小さく呟く。
「……
その名前に、アルの足が止まった。
ほんの僅か。
遠い昔を思い出す。
燃える王都。
崩れた城。
血に染まった白銀の髪。
だが。
「……お前も、なのか」
返事はない。
シュティレの瞳から、ゆっくり光が消えていく。
静かに。
エドラスのアル・シュティレは息を引き取った。
アルは数秒だけ目を閉じる。
そして、ナツ達の元へ戻ろうとするが……エドラスの空に、巨大な魔法陣が展開していく。
空間そのものを塗り替えるような光。
空気が唸り、風が渦を巻く。
「アニマだ!!」
誰かの叫び声が響いた。
その光景を見上げる。
巨大な転移魔法。
エドラス全体を包み込むほどの規模だ。
ミストガン――ジェラールが最後に残した術式。
アースランドへ帰還するための道。
「始まったか……」
空間が歪む。
身体が浮く感覚。
視界が白く染まり、音が遠ざかっていく。
アルは目を閉じた。
次に感覚が戻った時。
頬へ、冷たい雨が当たっていた。
「……雨か」
アルはゆっくり目を開ける。
見慣れた森。
湿った土の匂い。
降りしきる雨音。
アースランドだった。
周囲では、ナツやルーシィ達も次々と転移してきている。
「戻ってきた……!」
「ここ……アースランド!?」
「本当に帰ってこれたんだな……!」
アル達はすぐにマグノリアの街を見渡すと街はすっかり元に戻っていた。
「……っ!」
「戻ってる……!」
「街が……元通りだ!!」
ナツ達が声を上げる。
ルーシィは安堵したように胸へ手を当てていた。
だが、街の人が無事なのかはまだ分からない。急ぎ確認に向かおうとするが……
「みんな無事だよー!」
「ラクリマにされたことすら忘れたみたい!」
そこへ、エクシード達が集まってくる。
エドラスにいたはずの彼らも、こちらへ転移してきていた。
それからエクシード達による説明が始まる。
アルは木にもたれかかりながらその説明を聞く。
どうやら、エクシードはエドラスの中でも特殊な種族だったらしい。
エドラスでは本来、魔力は外部から補給するもの。
しかしエクシードだけは、生まれつき体内へ魔力を持っている。
そのため、アニマによる世界移動の際、アースランド側へ引き寄せられたのではないか――そう考えられているらしい。
つまり、彼らはもうエドラスへ戻れない。
これからはアースランドで生きていくことになる。
その説明に対し、シャルルだけは強く反発していた。
エクシード達が、滅竜魔導士を抹殺する使命を子供達へ与えたことが許せないらしい。
だが、それには事情があった。
エクシードの女王・シャゴットは、未来を見る力を持っていた。
六年前。
彼女は、エクシード達が住む浮遊島――エクスタリアが落下する未来を見たという。
当時のエクシード達は、その原因を人間側にあると考えた。
そのため、せめて子供達だけでも助けようと、百人の子供達をアースランドへ送った。
だが、本当の理由をそのまま話せば、混乱が起きる。
だから表向きには、
“滅竜魔導士抹殺の使命”
という形にしたらしい。
しかし、シャルルだけは女王と同じ未来視の力を持っていた。
そのせいで、使命の部分だけを強く受け取ってしまった。
結果として、
本当に滅竜魔導士を殺さなければならないと勘違いしていたのだ。
アルは静かに話を聞いていた。
雨音が続く。
やがてシャルルは、渋々ではあるが納得したようだった。
エクシード達がこちらの世界で暮らすことも、最終的には受け入れたらしい。
その後、エクシード達を見送ったアル達。
雨は少し弱まっていたが、空はまだどんよりと曇っている。
そんな中、突然ガジルが辺りを見回しながら叫んだ。
「リリーは何処だ!? パンサー・リリーの姿が何処にもねぇ!!」
「リリー?」
「あのごっついエクシードのこと?」
ルーシィとグレイが思い出すように口にする。
すると。
「……俺なら、ここに居る」
近くの茂みから低い声が聞こえた。
ガサガサと草を掻き分けながら現れたその姿を見て、一同は目を丸くする。
「……え?」
「ちっちゃくなってる!?」
そこにいたのは、確かにリリーだった。
だがエドラスで見た、あの大柄で筋骨隆々な姿ではない。
ハッピーやシャルルと同じくらいの、小型のエクシードの姿になっていた。
黒い毛並みと鋭い目つきだけが、辛うじて同一人物だと分かる程度だ。
「随分可愛くなったね」
ハッピーが素直な感想を漏らす。
リリーは自分の身体を見下ろしながら、少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「どうやら、アースランドと俺の体格は合わなかったらしいな」
「あんた、体なんともないの?」
シャルルが警戒するように尋ねる。
「今のところはな」
そう答えた後、リリーは真っ直ぐガジルを見た。
「俺は王子が世話になったギルドに入りたい。約束通り入れてくれるんだろうな、ガジル」
一瞬だけ静かになったあと。
「……っ、勿論だぜ! 相棒!!」
ガジルは涙を浮かべながら、勢いよくリリーを抱きしめた。
「うおっ……!」
「よく無事だったな、この野郎……!」
「離せ、苦しい」
そう言いながらも、リリーは特に抵抗しない。
アルはその様子を見ながら、僅かに口元を緩めていた。
やがてガジルがリリーを地面へ降ろす。
するとリリーは、ふと思い出したように口を開いた。
「それとは別に、怪しいやつを捕まえたんだ」
「おー、早速手柄か? さすが俺の猫」
「来い」
リリーはそう言って、手に持っていたロープをぐいぐいと引っ張り始める。
その先には、誰かが繋がれていた。
「ちょ……! 私、別に怪しくなんか……!」
聞こえてきた女性の声に、アルは僅かに眉を動かす。
「ちょっと、私もフェアリーテイルの一員なんだけど!
何なのこの猫。てか、エクシード?」
そして。
茂みの奥から、その人物が姿を現した瞬間――
アルは目を見開いた。
「……っ」
銀白色の髪。
見覚えのある顔。
二年ほど前、死んだはずの少女。
「そんなっ……まさか……!」
「リサーナ……っ!」
グレイとエルザが驚愕したように声を上げる。
そこに立っていたのは――
ミラとエルフマンの妹。
リサーナだった。
皆が驚きで動けずにいる中――
リサーナは、ナツの姿を見つけた瞬間、ぱっと表情を明るくした。
「ナツーーーー!!!」
「どわぁーーー!!?」
勢いよく駆け出したリサーナは、そのままナツへ飛びつく。
二人まとめて地面へ倒れ込み、ナツは盛大に背中を打ちつけた。
「いってぇぇぇ!!」
だが、リサーナは気にした様子もなく、ナツへ強く抱きついたまま涙を浮かべる。
「また、会えた……本物のナツに……っ」
震える声。
その言葉を聞いた瞬間、誰もが理解した。
このリサーナは、自分達の知っている“リサーナ”だと。
しかし。
「リサーナ……お前は、二年前に死んだはずだ……」
エルザが信じられないものを見るように問いかける。
リサーナはゆっくりナツから離れると、アル達を見回しながら少しずつ話し始めた。
二年前。
ミラとエルフマン、そしてリサーナの三人で受けた仕事。
その最中、暴走したエルフマンの攻撃を受け、リサーナは意識を失った。
そしてその時、偶然開いていたアニマに吸い込まれ、エドラスへ送られてしまったらしい。
目を覚ました先で、リサーナはエドラスのフェアリーテイルと出会った。
そこには、ミラやエルフマンもいた。
だが、その時点でエドラス側のリサーナは既に亡くなっていた。
だからリサーナは、自分がアースランドの人間だと隠し、
エドラスのリサーナとして暮らしていたのだという。
ミラ達を悲しませたくなかったから。
そうして二年間、ずっと秘密を抱えたまま過ごしていた。
しかし、アニマの逆展開によって、元々アースランド出身だったリサーナは、再びこちらの世界へ戻ってきた。
話を聞き終えたあとも、誰もしばらく言葉を発せなかった。
アルも静かにリサーナを見つめていた。
二年間。
年端もいかない少女が、一人で抱えるには重すぎる時間だった。
やがて、アル達はリサーナを連れてカルディア大聖堂へ向かった。
そこには、リサーナの墓がある。
大聖堂へ着くと、墓石の前には二人の姿があった。
ミラジェーンとエルフマン。
二人は静かに墓参りをしていた。
墓石には、確かに“リサーナ”の名前が刻まれている。
それを見たリサーナは、一瞬だけ立ち止まり――
次の瞬間、駆け出した。
「ミラ姉ぇーーーー!!! エルフ兄ちゃーーーーん!!」
その声に、二人が振り返る。
そして。
リサーナの姿を見た瞬間――
二人の表情が止まった。
「嘘……リサー……ナ……?」
「っ……! あぁぁ……っ……!」
ミラは口元を押さえ、エルフマンは声にならない声を漏らす。
リサーナはそのまま二人の元へ飛び込んだ。
「グスっ……! ただいま……っ!」
涙を流しながら抱きつく。
ミラも震える腕で、強くリサーナを抱きしめ返した。
「おかえりなさい……っ! リサーナ……!」
エルフマンもまた、二人まとめて抱きしめる。
「うぅ……っ……! リサーナァ……!!」
三人とも涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
失ったと思っていた家族。
二度と会えないと思っていた妹。
その再会だった。
アルは少し離れた場所から、その光景を静かに見つめていた。
そしてゆっくり三人へ歩み寄る。
ミラ、リサーナ、エルフマン。
三人の頭へ、それぞれ優しく手を置いた。
「今まで、よく耐えてきたな……」
アルは穏やかな笑みを浮かべながら、静かにそう言った。
翌日。
アル達はリサーナを連れ、妖精の尻尾のギルドへ顔を出していた。
扉を開けた瞬間、いつものように騒がしかったギルド内が、一瞬だけ静まり返る。
そして。
全員の視線が、リサーナへ集中した。
「……」
「え……?」
「ま、マジかよ……」
「おめぇ……生きてた……のか……?」
信じられないものを見るような声が、あちこちから漏れる。
リサーナは少し緊張した様子を見せながらも、小さく頷いた。
「……うん」
その瞬間だった。
「「「「リサーナーーーーー!!!」」」」
リサーナのことを知っているギルドメンバー達が、一斉に飛びかかってくる。
「ひっ……!」
あまりの勢いに、リサーナがびくっと肩を震わせた。
だが次の瞬間。
「汚ねぇ手で触るなーー!!」
ドガァッ!!
エルフマンの拳が何人かをまとめて吹き飛ばした。
「ぐはぁっ!?」
「ちょ、エルフマン!!」
「妹に近づきすぎなんだよテメェらァ!!」
ギルド内が一気に騒がしくなる。
そんな中。
「……リサーナ……」
聞き慣れた低い声が響いた。
人混みの向こうから、小柄な老人がゆっくり歩いてくる。
「マスター!」
リサーナの表情がぱっと明るくなる。
マカロフはリサーナの前まで来ると、その顔をじっと見つめた。
しばらく無言だった。
だがやがて、小さく笑う。
「信じておった」
「……え?」
「ギルドで育った者は、みなギルドの子じゃ。
子の心配をしない親がどこにいる……」
マカロフは穏やかな声で続ける。
「そして、子を信じない親がどこにいる」
リサーナの瞳が揺れた。
「事情は後でゆっくり話してくれればよい。ナツ達もな」
「ああ、じっちゃん」
ナツが頷く。
マカロフは改めてリサーナを見ながら、優しく笑った。
「とにかく、よー帰ってきた」
「マスター……」
リサーナの目に、また涙が浮かぶ。
「帰ってきたんだよね……私、帰ってきたんだよね……」
「そーじゃよ」
マカロフはゆっくり頷いた。
「ここはいつでも、お前の家じゃ……
お帰り、リサーナ」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間。
「「「お帰りーーー!! リサーナァァァ!!!」」」
ギルド中から大歓声が巻き起こった。
涙ぐむ者。
笑う者。
机を叩いて喜ぶ者。
皆が一斉にリサーナを迎え入れる。
「ただいまーーー!!!」
リサーナも泣きながら飛び込む。
ドゴォッ!!
「ぐもぉっ!?!?」
勢いよく抱きつかれたマカロフは、そのまま後ろの椅子へ後頭部を強打した。
「マスターーーー!!?」
「じっちゃん死ぬなーーー!!」
ギルド内に爆笑が広がる。
アルは少し離れた場所で、その光景を静かに眺めていた。
その後、妖精の尻尾ではリサーナの帰還を祝う宴が開かれていた。
ギルド内は大騒ぎだ。
酒樽が次々と空き、料理は山のように積まれ、誰も彼もが大声で笑っている。
「飲めぇぇぇぇ!!」
「今日は朝まで宴だァァァ!!」
ナツとグレイは既に殴り合いを始めており、カナは片手で樽を抱えながら酒を煽っていた。
そんな喧騒の中。
アルはミラ、リサーナ、エルフマンと同じ席についていた。
テーブルには酒と料理が並び、リサーナも久々のギルドの空気を楽しそうに眺めている。
「何かギルドも変わったねー」
リサーナが辺りを見回しながら笑う。
「ミラ姉も雰囲気変わってるし、いつの間にかアル兄と付き合ってるし……
良かったね、ミラ姉! 昔からアル兄の事好きだったもんね〜!」
「うふふ、ありがとう」
ミラは少し照れたように笑いながらグラスを傾ける。
すると。
「うぉぉぉ……っ!!」
隣でエルフマンが突然泣き始めた。
「リサーナが……っ! 兄貴ィィィ……!!」
かなり酔っている。
涙をぼろぼろ流しながら、エルフマンはアルへ縋りついてきた。
アルは苦笑しながら、その背中を軽く叩く。
「分かったから泣くな……」
「だってよぉぉぉ……! もう会えねぇと思ってたんだぞぉぉぉ……!」
「はいはい」
ミラも呆れながら笑っていた。
アルはそんなエルフマンを見た後、今度はリサーナへ顔を向ける。
「リサーナ……改めて、おかえり」
そう言って、アルは優しくリサーナの頭を撫でた。
リサーナは一瞬目を丸くしたあと、嬉しそうに笑う。
「えへへ……アル兄から撫でられるの久しぶり〜」
気持ちよさそうに、その手を受け入れていた。
するとそこへ、ルーシィとウェンディがやって来る。
「アルさんって、ミラさん達といつ出会ったんですか? やっぱりギルドで?」
ルーシィが興味津々な様子で尋ねる。
それにミラが、どこか懐かしそうに笑った。
「いいえ、私たちが住んでた街で出会ったのよ」
「えっ、そうだったんですか?」
「当時、魔法を上手く扱えなかった私を助けてくれてね……
ギルドに連れてきてくれたのもアルなの。もう六年くらい前かしら」
「そうなんですか!?」
ウェンディが驚いたように声を上げる。
今度はリサーナが身を乗り出した。
「そうなの! ギルドに入ってからも仕事に連れて行ってくれたりしてね!
家も空き家をわざわざ買ってくれてさぁ!」
「へぇ〜!」
「お兄ちゃんみたいだったんだよ! 今はホントのお兄ちゃんだけどね!」
嬉しそうに笑うリサーナ。
アルは酒を飲みながら、その頃のことを思い返していた。
最初の頃のミラは、今とはかなり違っていた。
ギルドにも上手く馴染めず、周囲と距離を取っていた。
だがリサーナやエルフマンと一緒に過ごしていくうちに、徐々に笑うようになり――
気づけば、元気すぎるくらい明るくなっていた。
ナツやグレイをパシリのように使い回し、エルザとは何度も喧嘩していた。
アルは懐かしそうに小さく笑う。
「懐かしいな……
ミラもあの頃はエルザと喧嘩ばっかしてたよな」
その言葉に、ルーシィとウェンディが揃って固まった。
「ミラさんが……喧嘩?」
「エルザさんと?」
「ちょ、ちょっとアル!」
ミラが顔を赤くしながら慌てて声を上げる。
「昔の話をそんなに掘り返さなくてもいいでしょ!?」
「本当のことだろ?」
アルは平然と酒を飲みながら受け流した。
「むぅ……!」
ミラが悔しそうに唸る。
すると今度は、リサーナとエルフマンまで面白そうに便乗してきた。
「そうそう! 昔のミラ姉すっごかったよね〜!」
「エルザと会う度にバチバチしてたよな!」
「ちょっ、二人まで!?」
ミラは更に顔を赤くする。
一方、ルーシィとウェンディは完全に固まっていた。
「嘘でしょ……?」
「信じられません……」
今の穏やかなミラからは想像もできないらしい。
そんな視線を向けられたミラは、誤魔化すようにアルを指差した。
「アルだって悪かったんだからね!?」
「……オレか?」
「そうよ!」
ミラは勢いよく立ち上がる。
「仕事に連れて行ってくれた時だって、意外とスパルタで怖かったし!」
「危険な仕事だったからな」
「頼み事も軽く“分かった”って引き受けるくせに、結局すごい大変なことになるし!」
「結果的には解決していただろう」
「そういう所よ!」
ルーシィが小声で呟く。
「何かちょっと想像できる……」
だがミラの話は止まらない。
「しかも困った時は絶対そばに居るし!」
「……」
「リサーナやエルフマンが熱出した時なんて、一晩中付きっきりで看病してたし!」
「兄貴、あの時ずっと起きてたよなぁ……」
「不意に褒めてくるから反則だし!」
「反則?」
「そ、そういうのあるでしょ!?」
ミラは顔を真っ赤にしながら続ける。
「それに普段あんな澄ました顔してるのに、寝顔は妙に可愛いしギャップありすぎるのよ!」
「……ミラさん」
ルーシィの顔が段々赤くなっていく。
「こ、これ……」
「っ///はわわわ……っ!」
ウェンディも耳まで赤くなっていた。
だがミラ本人はまだ気づいていない。
「あとね!? 何だかんだ言いながら私達のお願い断ったことないし――」
「ルーシィさん、行きましょう」
「う、うん……何か聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた……!」
二人はそそくさと席を立ち、その場から離れていく。
「え? ちょっと、どこ行くの?」
ミラは不思議そうに首を傾げる。
するとリサーナが、ニマニマした顔でミラを見上げた。
「ミラ姉〜」
「な、何よ」
「今の、ほぼほぼ惚気てたよ?」
「────っ!?」
一瞬でミラの顔が真っ赤になる。
「ち、違っ……!」
「……オレは嬉しかったぞ?」
アルが普通に追撃した。
「アルまで!?」
耐えきれなくなったミラは、そのままアルの肩へ顔を埋める。
「うぅぅ……恥ずかしい……!」
耳まで真っ赤だった。
アルはそんなミラを見て苦笑しながら、優しく頭を撫でる。
「分かったから落ち着け」
「……アルのせいなんだからね……」
そう言いながらも、ミラはされるがまま大人しく撫でられていた。
宴はその後も続いた。
酒を飲み、騒ぎ、喧嘩し、笑い合う。
久々に戻ってきたリサーナを中心に、ギルド全体が明るい熱気に包まれていた。
そして夜も更けた頃。
騒ぎ疲れたメンバー達は、その場で次々と眠り始める。
机に突っ伏す者。
床で寝転ぶ者。
酒樽を抱えたまま寝ている者までいる。
アルはそんなギルド内を静かに見回していた。
元々あまり酔わない体質だ。
かなり飲んでいたが、意識ははっきりしている。
ふと視線を向ける。
少し離れた席では、ミラとリサーナ、そしてエルフマンが寄り添うように眠っていた。
リサーナを真ん中にして、三人とも穏やかな寝顔をしている。
アルは小さく微笑んだ。
「……良かったな」
静かに呟く。
そして起こさないように足音を殺しながら、そのままギルドの外へ出た。
夜風が肌を撫でる。
アルはそのまま建物の外壁を軽く蹴り、屋上へ飛び上がった。
月が出ていた。
雲の切れ間から見える淡い光が、静かなマグノリアを照らしている。
アルは屋上の端へ立ち、しばらく黙って夜空を見上げていた。
だが。
「……っ」
突然、胸の奥に鋭い痛みが走る。
アルは咄嗟に胸元を押さえた。
「ゴホッ……!」
呼吸が乱れる。
肺が焼けるように熱い。
口元を押さえた手の隙間から、赤い血が零れおちる。
「……っ、はぁ……!」
アルは片膝をつく。
指先が小刻みに震えていた。
咳が止まらない。
「ゴホッ……! げほっ……!」
吐き出された血が、屋上の床を赤く染める。
荒い呼吸の中、アルは歯を食いしばった。
「……
だが、震える指先は止まらなかった。
閑話
リサーナの歓迎会も盛り上がりを見せていた頃。
ふと、リサーナは前に座るミラへ視線を向けた。
「そういえばミラ姉」
「ん?」
「アル兄と付き合い始めたのって、いつなの?」
その質問にミラは少し考える。
「んー……一年半くらい前かな?」
「もうそんなになるんだ」
リサーナは少し驚いたように目を丸くした。
ミラの隣にいたアルは苦笑する。
「そんなに経ったか」
「アル兄、全然そういう話しないもんね」
「言う必要もないだろ」
アルが肩を竦める。
するとミラが楽しそうに笑った。
「ふふっ。確かに」