FAIRY TAIL 才禍の怪物   作:XAI

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第9話 アルの試練

 

 アルは、目の前で冷や汗を流しながら固まっている四人を見て、小さく笑った。

 

「そんなに怖がらなくていいだろ……」

 

「いや、怖いに決まってんだろ!!」

 

 グレイが即座に叫ぶ。

 

「よりにもよってアルさんとだなんて……」

 

 ウェンディも半泣きになりながら肩を震わせていた。

 

 そんな二人に対し、ロキは静かに前へ出る。

 

「それでもやるしかないよ、グレイ」

 

 さらにメストも真っ直ぐアルを見据えた。

 

「その通りだ。

 俺はここを突破して、S級を知りたい」

 

 その言葉を聞き、グレイは乱暴に頭を掻く。

 

「ったく……

 しょうがねぇけど、やるしかねぇよな!」

 

 ウェンディも大きく息を吐いた。

 

「ふぅ……

 私もやります!」

 

 そして四人が、それぞれ魔力を高め戦闘態勢へ入る。

 

 それらを見渡しながら、アルは少しだけ口元を緩めた。

 

「四人で来るか……

 良いだろう。来い」

 

 その言葉と同時に、四人が一斉に動き出した。

 

 最初に前へ飛び出したのはグレイだった。

 

「アイスメイク・ランス!!」

 

 無数の氷槍が空中に形成され、そのままアルへ向かって撃ち放たれる。

 

 同時にロキも動く。

 

「獅子光耀(ししこうよう)!」

 

 ロキの全身から強烈な光が放たれ、周囲の視界を白く染め上げた。

 

 眩惑。

 

 視界を奪い、その隙を作るための連携。

 

 さらにウェンディが両手を合わせる。

 

「バーニア!」

 

 風がグレイとロキ、そしてメストの身体を包み込む。

 

 瞬間、三人の速度が一気に跳ね上がった。

 

 だが。

 

 アルは動かなかった。

 

 光に目を細めることすらなく、その場に立ち続ける。

 

 そして。

 

 ギィン!! 

 

 抜刀。

 

 振るわれた刃が、飛来した氷槍を一瞬で全て叩き落とした。

 

「なっ!?」

 

 グレイが目を見開く。

 

 その直後。

 

 メストがアルの死角へ瞬間移動した。

 

 拳が、背後から真っ直ぐアルの後頭部へ伸びる。

 

 だが。

 

 アルは振り返らない。

 

 背後から迫る気配だけで、半歩身体をずらす。

 

 拳が空を切った。

 

「っ!?」

 

 さらにアルはそのまま肘を後ろへ打ち込む。

 

 ドゴッ!! 

 

「ぐっ……!」

 

 メストの腹部へ肘打ちが直撃し、その身体が吹き飛んだ。

 

 そこへロキが飛び込む。

 

「獅子王の輝き(レグルス・インパクト)!!」

 

 黄金の光を纏った拳がアルへ迫る。

 

「ほぉ、どうやらいい主に出会ったようだなロキ……いや、獅子座の星霊レオ」

 

 そう言って笑みを浮かべると、アルは正面から拳を受け流した。

 

 衝撃を横へ流しながら、逆の手でロキの手首を掴む。

 

「まぁね……うおっ!?」

 

 そのまま勢いを利用し、ロキの身体を地面へ叩きつける。

 

 ドォン!! 

 

 土煙が舞い上がった。

 

 そこへ。

 

「天竜の咆哮!!」

 

 ウェンディの風の咆哮が真正面から襲いかかる。

 

 轟音と共に暴風が洞窟を揺らした。

 

 しかし。

 

 アルは左手を軽く前へ出す。

 

「魂の平静(アタラクシア)」

 

 薄い膜のような魔力が全身を覆う。

 

 直後。

 

 ウェンディの咆哮はアルへ触れた瞬間、霧散した。

 

「えぇっ!?」

 

 ウェンディが驚愕する。

 

 が、すぐに切り替え

 

「アームズ!!」

 

 今度はグレイ達へ攻撃力上昇の付与。

 

 強化されたグレイが再び突っ込む。

 

「うおおおおっ!!」

 

 氷を纏った拳が振るわれる。

 

 だがアルは最小限の動きだけで回避。

 

 流れるように腕を絡め取り、重心を崩す。

 

「うわっ!?」

 

 そのまま足を払われ、グレイが地面へ転がった。

 

 メストも再び瞬間移動を繰り返しながら攻め込む。

 

 左右。

 

 背後。

 

 上空。

 

 死角から何度も打撃を放つ。

 

 だがアルは全てを見切っていた。

 

 避ける。

 

 流す。

 

 いなす。

 

 必要最小限の動きだけで、四人の猛攻を捌いていく。

 

 しかも。

 

 アル自身からは一切攻撃を仕掛けていない。

 

 全て反撃のみ。

 

 それでもなお、四人は押され続けていた。

 

「くそっ……!」

 

 グレイが歯を食いしばる。

 

 速い。

 

 重い。

 

 そして何より、隙が無い。

 

 ウェンディの支援魔法で能力を底上げしているにも関わらず、全く崩せない。

 

 ロキが地面を滑りながら距離を取る。

 

「これ、本当に人間かい……?」

 

 メストも口元を押さえながら睨みつけた。

 

 だがアルは静かなままだった。

 

「終わりか?」

 

 その一言に、四人の表情が引き締まる。

 

 まだ、誰も諦めてはいなかった。

 

 アルは、なお立ち上がり続ける四人を見ながら、小さく笑みを浮かべた。

 

「そうだ。それでいい」

 

 その声に、グレイが舌打ちする。

 

「余裕かましてんじゃねぇぞ……!」

 

 再び氷の魔力が膨れ上がる。

 

「アイスメイク・ハンマー!!」

 

 巨大な氷槌がアルへ叩きつけられる。

 

 同時にロキも横から飛び込んだ。

 

「獅子王の輝き!!」

 

 黄金の光を纏った拳が迫る。

 

 さらにメストが瞬間移動で背後へ回り込み、蹴りを放つ。

 

 三方向同時攻撃。

 

 だが。

 

 アルは僅かに身体を沈めるだけだった。

 

 氷槌を紙一重で回避。

 

 続くロキの拳を刀の鞘で受け流し、その勢いのまま身体を捻る。

 

 背後から迫っていたメストの蹴りが、逆にロキの横を掠めた。

 

「っ!」

 

 メストが慌てて軌道を変える。

 

 その瞬間。

 

 アルの掌底がメストの胸へ叩き込まれた。

 

 ドォン!! 

 

 空気が爆ぜ、メストの身体が吹き飛ぶ。

 

 そこへ。

 

「天竜の咆哮!!」

 

 ウェンディが再び風の咆哮を放つ。

 

 今度はタイミングをずらした援護。

 

 だがアルは横目だけでそれを確認すると、手を向け

 

「魂の平静」

 

 再び魔法を無効化。

 

 暴風はアルへ届く前に掻き消えた。

 

「また消された……!」

 

 ウェンディが悔しそうに声を上げる。

 

 だが止まらない。

 

 グレイが地面へ手を叩きつける。

 

「アイスメイク・フロア!!」

 

 足元一帯を凍結。

 

 アルの動きを封じようとする。

 

 その瞬間を狙い、ロキが真正面から突っ込んだ。

 

「うおおおっ!!」

 

 黄金の光が一直線に迫る。

 

 だが。

 

 アルは凍った地面ごと踏み砕いた。

 

 バキィッ!! 

 

「なっ!?」

 

 砕け散る氷。

 

 その勢いのまま一歩踏み込み、ロキの拳を外側へ逸らす。

 

 さらに肩を押し込み、体勢を崩したロキを投げ飛ばした。

 

 ドガァッ!! 

 

 岩へ激突したロキが咳き込む。

 

 そこへグレイが再び飛び込む。

 

「まだだぁぁぁ!!」

 

 拳。

 

 蹴り。

 

 氷刃。

 

 途切れることなく攻撃を繋げる。

 

 ウェンディも後方から支援を続けていた。

 

「バーニア!!」

 

 再加速。

 

 グレイとメストの速度がさらに上昇する。

 

 だが、それでも。

 

 アルへ決定打は届かない。

 

 避ける。

 

 流す。

 

 受け流す。

 

 そして最小限の反撃だけで、四人を押し返していく。

 

 まるで大人と子供ほどの差だった。

 

 それでも。

 

 誰一人として、止まらない。

 

 倒れても立ち上がり、息を切らしながら前へ出る。

 

 その姿を見ながら、アルは静かに目を細めていた。

 

「……このままでは埒があかないな」

 

 アルがそう呟いた瞬間だった。

 

 空気が変わる。

 

「っ!?」

 

 グレイが目を見開く。

 

 今までとは違う。

 

 そう理解した時には、既にアルの姿が消えていた。

 

 次の瞬間。

 

 ドォッ!! 

 

「がっ……!?」

 

 グレイの腹部へ、鋭い掌打が突き刺さる。

 

 衝撃で呼吸が止まり、そのまま地面を滑るように吹き飛んだ。

 

 さらに。

 

 ロキの視界がぶれる。

 

「うおっ!?」

 

 気づけば懐へ入り込まれている。

 

 アルは最小限の動きでロキの顎を打ち抜いた。

 

 ガクン、とロキの身体から力が抜ける。

 

 続けざまに。

 

 メストが瞬間移動を使おうとした瞬間、アルの蹴りが横腹へめり込んだ。

 

「ぐぁっ……!!」

 

 転移が乱れ、そのまま地面へ叩きつけられる。

 

 最後にウェンディ。

 

「きゃっ……!」

 

 風を纏うより早く、アルの手刀が首元へ軽く触れた。

 

 それだけでウェンディの身体から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。

 

 わずか数秒。

 

 それまで防戦一方だったアルが、一度動いただけで四人は全て倒されていた。

 

 静まり返る洞窟

 

 アルは倒れたロキとウェンディをそれぞれ抱え、自分の足元へ座らせる。

 

 暫くしてロキとウェンディは意識を取り戻す。

 

 そして、倒れ伏すグレイとメストを見下ろしながら、アルは静かに口を開いた。

 

「さて、本来ならこの時点で試験終了なんだが……チャンスをやろう」

 

 その言葉に、グレイが眉を顰める。

 

「チャンスだと?」

 

「何をするんだ?」

 

 メストも警戒した目を向ける。

 

 足元では、ロキとウェンディも不思議そうにアルを見上げていた。

 

 そんな視線を受けながら、アルは二人を真っ直ぐ見据える。

 

「正確には、オレは選択肢を与えるだけだ。

 選ぶのはお前達だ」

 

 そう言って、人差し指を立てた。

 

「一つ目。

 それぞれパートナーとここで別れ、一人で先へ進む」

 

 グレイ達の表情が変わる。

 

「これを選んだ場合、特例としてこの場は合格とする。

 もちろん、オレとこれ以上戦うことはない」

 

「なっ……!?」

 

 グレイが目を見開く。

 

 だがアルは構わず、中指を立てながら続けた。

 

「二つ目。

 パートナーと別れずに進む」

 

 その瞬間、空気が僅かに重くなる。

 

「これを選んだ場合は、まずオレからパートナーを解放することから始まる。

 だから今度は二人のみで戦うことになる」

 

 そして静かに問いかけた。

 

「さぁ、どっちを選ぶ?」

 

 するとグレイは即座に叫ぶ。

 

「そんなもん、二つ目に決まってんだろ!!」

 

 メストも迷わない。

 

「ああ。一人でなんて論外だ」

 

 その答えを聞いたアルは、小さく笑みを浮かべた。

 

「まぁ、そうだよな」

 

 そして。

 

「悪い。だったら言い方を変える」

 

 次の瞬間だった。

 

 ドクン――。

 

 空気そのものが震える。

 

 アルを中心に、圧倒的な威圧感が解き放たれた。

 

 覇王色の覇気。

 

 しかも対象は、グレイとメストのみに絞られている。

 

「本気のオレと戦う覚悟があるなら――かかってこい」

 

 その瞬間。

 

 グレイとメストの様子が一変した。

 

「っ……!」

 

 身体の震えが止まらない。

 

 呼吸が乱れる。

 

 汗が一気に噴き出し、喉が張りつく。

 

 まるで巨大な猛獣に睨まれているような感覚。

 

 本能が、危険だと叫んでいた。

 

「っ! ……どうしたんですか!?」

 

 ウェンディが慌てて声を上げる。

 

「一体何が……」

 

 ロキも困惑している。

 

 二人には威圧が向けられていない。

 

 そのため、突然グレイとメストだけが怯え始めたようにしか見えていなかった。

 

 アルはなおも二人へ威圧を向け続けながら、再び問いかける。

 

「さぁ、どうする? 

 オレと戦い、パートナーを取り戻すか。

 それとも戦わず、一人で先へ進むか」

 

 だが。

 

 グレイもメストも、震えることしかできない。

 

 答えを返すことすら出来なかった。

 

「メストさん! 先へ進んで下さい!」

 

 突然、ウェンディが声を張り上げた。

 

「私のせいで合格できないなんてダメです!」

 

 その声に、メストは震えながらウェンディを見る。

 

 一方。

 

「グレイ! 君も行くんだ! 

 S級になるんだろ!」

 

 ロキもウェンディに続く。

 

 グレイは苦しそうに息を荒げながら、ゆっくりと顔を上げた。

 

 そんな二人を見つめながら、アルは静かに問いかける。

 

「さぁ、どうする」

 

「メストさん!」

 

「グレイ!」

 

 ウェンディとロキの声が響く。

 

 そして。

 

「っ…………!!」

 

 メストが足を震わせながら立ち上がろうとする。

 

 全身から汗を流しながら。

 

 それでも前へ出ようとした。

 

 だが。

 

「……無理だ」

 

 そのまま、力なく俯いた。

 

 アルはそんなメストを静かに見下ろす。

 

「それは試験を辞退するということか?」

 

 メストは俯いたまま、小さく答えた。

 

「ああ……」

 

「そんな……っ、メストさん……」

 

 ウェンディの表情が曇る。

 

 その様子を見たアルは、静かに告げた。

 

「分かった。お前はここで失格だ」

 

 その瞬間。

 

 メストへ向けられていた威圧が消える。

 

「っ……!」

 

 メストは大きく息を吸い込み、その場へ膝をついた。

 

 そして、アルはグレイへ視線を向けた。

 

「さて、グレイ。お前はどうする」

 

「っ! …………俺は」

 

 グレイもまた、先程のメストと同じように必死に立ち上がろうとする。

 

 全身を震わせながら。

 

 荒い呼吸を繰り返しながら。

 

 それでも前へ出ようと足へ力を込める。

 

 やがて。

 

 グレイは膝をついたまま動きを止め、静かに目を閉じた。

 

 アルはその様子を黙って見つめる。

 

 しばらくして。

 

 グレイはゆっくりと目を開けた。

 

 そして真っ直ぐアルを睨み返す。

 

「俺は! 

 仲間を置いてS級になんてならねぇ!!」

 

 その声が森へ響く。

 

「たとえお前に敵わなくとも! 

 俺は諦めない!!」

 

 叫ぶと同時に、グレイは一気に立ち上がった。

 

 震える身体を無理やり支えながら、それでも構えを取る。

 

「グレイ……君ってやつは……っ!」

 

 ロキが目を見開く。

 

 アルは静かに目を細めた。

 

「いいんだな。その選択で」

 

「ああ! 

 仲間は置いていかない!!」

 

 迷いのない声だった。

 

 その答えを聞いた瞬間。

 

「なら、本気で行くぞ」

 

 アルの姿が消える。

 

「っ!?」

 

 次の瞬間には、グレイの目の前へ現れていた。

 

 突き出される拳。

 

 速い。

 

 今までとは比べ物にならない。

 

 グレイは反射的に両腕を交差させ、防御姿勢を取る。

 

 衝撃に備える。

 

 だが。

 

 ――コツン。

 

「グレイ、お前は合格だ」

 

「……え?」

 

 アルの言葉に、グレイは間抜けな声を漏らした。

 

 アルは苦笑しながらグレイから離れ、ゆっくり拳を下ろす。

 

「だから、合格だ。グレイ」

 

 未だ状況を理解できていないグレイを置いて、アルはロキの方へ歩いていく。

 

「ロキ、お前もグレイについていけ。

 一時試験突破だ」

 

「はい? ……ホントに?」

 

 ロキも目を丸くしていた。

 

 次に、アルはメストへ視線を向ける。

 

「メスト。残念ながら、お前は不合格だ」

 

「あ、ああ……」

 

 メストは力なく頷いた。

 

 最後にウェンディを見る。

 

「ウェンディも、ここまでだ。

 お疲れ様」

 

 すると。

 

 ようやく混乱から立ち直ったグレイが、慌てて声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! 

 合格って……」

 

 アルは四人を見渡す。

 

 そして、少しだけ表情を和らげながら口を開いた。

 

「まず、オレがこの試験で判断基準にしたもの。

 最初は武力、そして状況判断力だ」

 

 グレイ達は黙って聞いている。

 

 アルは四人を見渡しながら、静かに続けた。

 

「S級魔導士にとって、強いことは当たり前だ。

 そして、その場での瞬時の状況判断能力も必須になる」

 

 グレイ達は黙って耳を傾ける。

 

「その点、お前達は俺と戦うとなると、しっかり連携して向かってきた。

 まぁ……オレとの戦闘が怖かったのもあるだろうがな」

 

 最後は少し苦笑混じりだった。

 

「あはは……」

 

「ったく……あん時はビビったぜ」

 

 グレイが頭を掻きながらぼやく。

 

 アルは小さく笑った後、再び真面目な表情へ戻る。

 

「そして重要なのが――仲間を犠牲にしないことだ」

 

 その一言で空気が引き締まった。

 

「S級クエストからは、理不尽なものや絶望的な状況も多くなる。

 そんな中、楽な道に逃げたくなる時もあるだろう」

 

 アルは静かに続ける。

 

「だが、そんな時こそ逃げずに仲間を大切にする。

 それを試させてもらった」

 

 グレイ達は黙って聞いている。

 

「もし、一人で進むを選んでいたら――即刻失格だった」

 

 そしてアルはグレイを見る。

 

「その点はグレイ、お前は文句なしの合格だ」

 

「おうよ!」

 

 グレイは迷いなく答えた。

 

 一方で、アルはメストへ視線を向ける。

 

「メストは、逃げなかったまでは良かった。

 だが、諦めてしまった」

 

「っ……」

 

 メストが悔しそうに拳を握る。

 

「それ自体は否定しない。

 だが、それじゃあ足りない」

 

 重く、真っ直ぐな言葉だった。

 

 そしてアルは四人全員を見渡す。

 

「いいか、お前達。

 例え絶対のルールや掟がある時――それによって仲間を守れない場合は、迷わず仲間を取れ」

 

 静かだが力強い声。

 

「ルールや掟に縛られるな」

 

「もちろんだぜ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

「あ、ああ……」

 

 それぞれが答える。

 

 アルは満足そうに頷いた。

 

「オレからは以上だ。

 グレイ、ロキは先へ進め」

 

 そう言った後、アルはふと思い出したように二人を呼び止めた。

 

「……ああ、待て」

 

「ん?」

 

「何だい?」

 

 アルは二人へ近づくと、軽く右手をかざす。

 

「《健やかなれ》」

 

 柔らかな光がグレイとロキを包み込んだ。

 

「おおっ!?」

 

「これは……」

 

 痛んでいた身体が一気に軽くなっていく。

 息の乱れも、打撲の痛みも、疲労感すら薄れていった。

 

 アルはその様子を見ながら苦笑する。

 

「必要以上に怖がらせた詫びだ。

 この後も試験は続くからな」

 

 グレイは腕を回しながら目を見開いた。

 

「すげぇ……もうほとんど痛くねぇ」

 

「サービスが良すぎないかい?」

 

「試験官の気まぐれだ」

 

 アルはそう言って踵を返した。

 

「じゃあ行け。S級になってこいよ、グレイ」

 

「……おう!」

 

 グレイは力強く腕を掲げ、笑みを浮かべた。

 

 その隣で、ロキも肩を竦めながら笑う。

 

「いやぁ、肝が冷えたよ本当に」

 

「自業自得だろ」

 

「君ほどじゃないさ」

 

 軽口を交わしながら、二人は天狼島の奥へ向かって歩き出す。

 

 アルはそんな二人の背中を静かに見送った。

 

 やがて姿が見えなくなると、残されたメストとウェンディへ視線を向ける。

 

「オレは簡易ベースへ戻るが、お前達はどうする?」

 

 メストは少し考えた後、立ち上がった。

 

「……俺は少しこの島を歩いてくる。

 せっかくのギルドの聖地だ。ウェンディも一緒に行くか?」

 

「あ、はい! 私も行きます!」

 

 ウェンディも頷きながら立ち上がる。

 

 その返事を聞いたアルは、小さく頷いた。

 

「そうか。ではな」

 

 それだけ言うと、アルは踵を返す。

 

 洞窟の隙間から差し込む陽光を浴びながら、静かに簡易ベースへ向かって歩き出した。

 

 

 

 グレイとロキがアルの試験を突破し、洞窟を抜ける。

 

 すると、その先の広場にはすでに何組かの姿が集まっていた。

 

 最初に目に入ったのは、ルーシィとカナのペア。

 さらに少し離れた場所には、ガジルとレビィの姿もある。

 

 そして奥の岩場には、腕を組んで座るナツと、その隣で羽を休めるハッピーの姿も見えた。

 

「グレイ! ロキ! 

 やっぱり、一時試験を突破してきたんだね!」

 

「とりあえず、おめでとう」

 

 ルーシィとカナが二人を見つけ、声を掛ける。

 

 その一方で、少し離れた場所ではレビィとガジルが話していた。

 

「私たち、静のルートでラッキーだったね」

 

「どこがだ!! 

 誰も殴れなかったんだぞ!!」

 

 ガジルが不満そうに叫ぶ。

 

 グレイはそんな面々を見渡しながら呟いた。

 

「一時試験を突破できたのは……

 このメンバーだけか……」

 

 その時だった。

 

「さて、これで全員揃ったかな」

 

 聞き慣れた声と共に、マカロフが姿を現した。

 

 周囲の視線が一気に集まる。

 

「では、これまでの結果を発表する」

 

 マカロフは続ける。

 

「カナとルーシィは、フリードとビックスローを闘で破り突破!」

 

「ふふん♪」

 

「フッ」

 

 ルーシィとカナがどこか誇らしげな表情を浮かべる。

 

「ナツとハッピーは、ギルダーツの難関をクリアし突破!」

 

「オイラ何もしてないけどね!」

 

 ハッピーが笑いながら手を振る。

 

「レビィとガジルは、運良く静のルートを通り突破!」

 

「へへっ♪」

 

「運がいいだとォ!!?」

 

 ピースをして喜ぶレビィに対し、ガジルが納得いかない様子で吠えた。

 

 そして。

 

「グレイとロキは、メストとウェンディと共にアルの難関へ挑み――見事突破!」

 

「ウソーーーーーー!!!」

 

 ルーシィとカナが同時に叫ぶ。

 

 対するグレイとロキは、

 

「フンッ」

 

「ふふっ」

 

 と言わんばかりに得意げな顔をしていた。

 

 マカロフはさらに続ける。

 

「そして残るは、ジュビアとリサーナ、エルフマンとエバーグリーンとなるが――」

 

 一度言葉を切り、やや呆れたように肩を竦めた。

 

「ジュビアとリサーナは、やつと当たってしまった……

 あの手を抜けない女騎士にな」

 

 その場の何人かがエルザの顔を思い浮かべ、苦笑する。

 

 そして、まだ来ていないのはエルフマンとエバーグリーンだけになるが――

 そこへ、エバーグリーンに支えられながらも到着するエルフマン。

 

 だが、どうやってあのミラを倒したか聞くと――

 

「それは言えん……漢として」

 

「一瞬の隙を突いたとだけ言っておくわ」

 

 二人とも詳細を語ろうとはしない。

 

 だが逆に、それが妙な想像を掻き立てていた。

 

 そして。

 

「これにて、一時試験突破者が出揃った」

 

 マカロフの宣言と共に、その場の空気が引き締まる。

 

 すると。

 

 ここまで黙って座っていたナツが、突然立ち上がった。

 

「よぉし!! 

 誰がS級になるか勝負だ!!」

 

 その声に、他の面々も自然と笑みを浮かべる。

 

 ライバル心。

 

 闘志。

 

 負けたくないという想い。

 

 ナツの一言は、それぞれの胸に再び火を灯していた。

 

 こうして、一時試験を突破した者達による――二次試験が始まる。

 

 

 

 所変わって、天狼島の簡易ベース。

 

 ここでは一次試験で試験官役を務めていたアル、ミラ、エルザの三人と、試験に敗れたジュビア、リサーナが食事の準備を進めていた。

 

 焚き火の上では鍋が煮え、周囲には食欲を誘う香りが漂っている。

 

 その最中。

 

 自然と話題は、どうやってエルフマンとエバーグリーンに敗れたかという話になっていた。

 

「何!? エルフマンとエバーグリーンが結婚!?」

 

 エルザが目を見開きながら立ち上がる。

 

 対するミラは、苦笑いしながら自分の頬を軽くさすった。

 

「で、動揺した私に一撃喰らわせてくれたの」

 

「ちょっと待て! 

 式は何時だ!? というか、やつらいつの間にそんな関係に……っ」

 

 完全に信じかけているエルザを見て、アルは思わず吹き出しそうになる。

 

「いや、どう考えても作戦だろ……」

 

「うん、多分私を動揺させるための作戦。

 私もまだまだだなぁ」

 

 ミラは少し恥ずかしそうに笑った。

 

 アルも苦笑しながら肩を竦める。

 

「そりゃ、いきなり弟からそんな事言われたら動揺くらいするさ」

 

 だが。

 

 エルザだけは腕を組んだまま真剣な顔をしていた。

 

「……本当に作戦なのか?」

 

「まだ疑ってるのか……」

 

 アルが呆れたように言う。

 

 一方ミラは、ふと何かを想像したように視線を宙へ向けた。

 

「でも……さすがにあの二人がそれはないと思うなぁ。

 だって、あの二人が結婚して子供が出来たら……」

 

 そこまで言ったところで、ミラの動きが止まる。

 

 しばらく無言で固まった後――

 

「む、無理ぃ……っ」

 

 ミラはそのままアルの隣へ寄ると、ぽすっと肩へ顔を埋めた。

 

 しかも、微妙に涙目である。

 

「何を想像したんだお前は……」

 

 アルは苦笑しながらミラの頭を撫でる。

 

 そんなミラを見て、エルザは目を閉じながら同じように想像したのか、静かに頷いた。

 

「泣くなミラ。考えようによっては可愛いぞ」

 

「どこがぁ……っ」

 

 ミラはまだアルの肩へ顔を埋めたまま、涙声で返す。

 

 一方、リサーナはどこか楽しそうだった。

 

「エルフ兄ちゃんとエバーグリーンかぁ〜♪ 

 ちょっとお似合いかも!」

 

「お前は簡単に受け入れるな……」

 

 アルが苦笑する。

 

 だが、リサーナは気にした様子もなく笑っていた。

 

「え〜? 何か想像できるよ?」

 

 その隣では。

 

「こ、こここ、子供……」

 

 ジュビアが顔を真っ赤にして固まっていた。

 

 その後、ウェンディとメストがまだ戻ってきていない事に気づき、エルザが立ち上がる。

 

「遅いな……少し様子を見てくるか」

 

 するとジュビアもすぐに反応した。

 

「ジュビアも行きます!」

 

 二人がそのまま簡易ベースを出ようとした時、アルが静かに口を開く。

 

「恐らく海岸付近だと思う。

 試験場所とも近いからな」

 

 その言葉に、エルザは小さく頷いた。

 

「分かった」

 

 そしてエルザはジュビアを連れ、簡易ベースから離れていった。

 

 エルザとジュビアを見送った後、アルはふとミラへ視線を向ける。

 

 ミラはまだ頬を軽くさすっていた。

 

 それに気づいたアルは、ミラの隣へ座り直す。

 

「ミラ、少し触るぞ」

 

「え?」

 

 ミラが顔を上げた直後、アルはそっと彼女の頬へ手を当てた。

 

「《健やかなれ》」

 

 柔らかな光がミラの頬を包み込む。

 

 殴られた部分の熱や痛みが、ゆっくりと消えていった。

 

「……もう痛くないわ」

 

 ミラは少し驚いたように目を瞬かせた後、嬉しそうに微笑む。

 

 アルは小さく頷くと、そのまま手を離した。

 

 ミラの頬を治した直後だった。

 

「っ! この気配……」

 

 アルの表情が一変する。

 

 椅子から立ち上がったアルは、たった今感じた魔力を思い出し、目を細めた。

 

 忘れるはずがない。(・・・・・・・)

 

 あの禍々しく(・・・・・・)、深い魔力。(・・・・)

 

「ど、どうしたのアル?」

 

「アル兄?」

 

 突然様子を変えたアルに、ミラとリサーナが驚く。

 

 アルは二人へ視線を向けると、短く告げた。

 

「悪いが、行くところが出来た」

 

 そう言うと、アルは収納魔法を開く。

 

 そこから取り出したのは、刃が三又に分かれ、柄へ文字が刻まれた特徴的なクナイだった。

 

 アルはそれをミラへ渡す。

 

「念の為だけど、何かあった時はこれに魔力を込めてくれ。

 ……すぐに飛んでいくから」

 

 ミラはクナイを受け取りながら、小さく苦笑した。

 

「……分かったわ。

けど、すぐ戻ってきてね」

 

「ありがとう」

 

 アルは短くそう返す。

 

 そして次の瞬間には、森の奥へ向かって駆け出していた。

 

「何でここにいるんだ……ゼレフ(・・・)……」

 

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