月明かりに照らされたその場所、照明等は無いにも関わらず
暗闇ではなく美しい月下の世界が見えていた。
そこにはオビコと見覚えのない、黒いスライム状の何かが居た。
恐らく、オビコの相棒たる影法師だろう、
「此処はね、僕とオビコの……皆の居場所なんだ」
幼い子供の声、それが耳ではなく頭の中に響く。
「テレパシー……」
酷く悲しい声、だがオビコは違う。
「見てみろ!彼処には牡丹畑があってのぉ…
中心には小川が流れておるんじゃ!
村じゃ…村じゃ!村じゃ!村じゃ!
昔の村が戻って来たんじゃ!村じゃ!村じゃ!
昔の村が帰ってきたんじゃ!」
オビコの見る世界にはビル群はなく、田畑と牡丹畑。
オビコの耳には確かに小川のせせらぎが聞こえている。
不良達が騒ぎつつも、村に生きる者達は笑顔で居た。
暗闇の中で提灯が焚かれながら追いかけっこが続く場所。
オビコ、いやオビコボウシは影法師と共にその場所を
守り、人々安全を守っていた。
「先生」
武器を向けるムナカタを下がらせ、マドカが前に立つ。
「やめるんだオビコ!」
「何?」
「もう…もう…村はないんだ。
一緒に行こう、お前達の住める場所を、
落ち着いていられる場所を探すから……
もう……もう…やめるんだ、わかってるんだろ。
だから、影法師もあんな悲しい声で」
オビコはもう一度景色を見た。
月明かりに照らされて見える景色、そこには牡丹畑も、
田んぼも、小川も流れていない。
聞こえていた筈のせせらぎも聞こえない。
あるのは、コンクリートで作られたビル群。
「…ならば、こんな村など必要ない!」
「やめろ!オビコ!!」
「影!」「うん!」
「撃て!!!」
「よせ!ムナカタ!!」
ムナカタの発言で一斉にオビコに向かい弾丸とビームが放たれる。だが、オビコも影法師も効いていないどころか、
巨大な鬼の様な姿へと変貌する。
「なんで……くそ………」
「先生!」
スパークレンスが光り輝く。
マドカの肉体が再構築され、光の戦士。
超古代の守護者、ウルトラマンティガが姿を現した。
「…デェア」
ティガはオビコの前に立つとまるで止めるような動作で行く手を阻む。一瞬、それに戸惑いを見せたオビコだったが、
直ぐ様ティガの脇腹に向かいパンチを繰り出す。
だが、ティガは、マドカは接近戦においてもエキスパートだ。
オビコの一撃をいなし、オビコを転ばせる。
(止めるんだ、あの村は君が愛した場所じゃないのか!)
(あんな物……ワシの愛する村ではない!)
オビコはティガの目に向かい、地面の土を投げる。
それを手で防ぐティガだったが、オビコから強烈なタックルを
受けて山肌へと叩きつけられた。
「なんで先……ティガは攻撃を」
「……わかって居るんです。オビコの哀しみを」
「ティガは……オビコを止めようとしてるのか」
オビコはそのまま岩をティガに何度も叩きつける。
オビコは元々、怨霊等と言った人を甚振る存在ではない。
悪戯好きの妖怪なのだ、正直戦い方も素人のそれである。
だが、ティガと相対する身体と質量、それだけで武器に
なってしまう。
少し拳を振り下ろすだけで数多の命を奪えてしまう。
オビコが愛した命を殺してしまうのだ。
「デユァ?!」
オビコの影が伸び、ティガに纏わりつく。
まるでもう一人のオビコの様な影はティガの首を絞め、
命を奪わんとして来る。
それだけではない、影には実体がなくティガが何度肘打ちをしても空を切る。
(影!まかせろ!)
ティガの正面に立つオビコがティガを甚振る。
殴る蹴るを繰り返し、ティガのカラータイマーが点滅を
開始する。
「ンンンン…ハッ!」
額のティガクリスタルが輝くと、影が消えた。
パープルの光に包まれ、ティガの肉体がパープルとシルバーの
戦士へと変わった。
『ティガスカイタイプ』
マルチタイプよりもスリムなボディ。肉弾戦という意味では、
『パワータイプ』へとチェンジする方が良いだろう。
だが、『スカイタイプ』も肉弾戦ができない訳じゃない。
「デュア!」
まるで蜂が獲物を刺すようにオビコへとドロップキックが
炸裂する。
スカイタイプはパワーが弱まり、速度が上がる。
そして、今ティガはオビコの攻撃をいなし、カウンターを
して戦っている。ゴルザのようにパワー合戦し、殺す為ではない。オビコを制圧するために戦っているのだ。
持久力が下がるが、カウンター戦法であれば関係ない。
だが、オビコが戦い方を変えた。
オビコは口に手を当てると、まるで吐き出すように火炎弾が
放出される。向かう先は都市部だ。
ティガは直ぐ様、ランバルト光弾で相殺する。
オビコの目にはもう、怒りしか浮かんでいない。
ティガに対する怒り、村を奪われた怒り。
(……殺すしか……無い)
マドカは取捨選択をする人間だ。
被害を出すのなら、倒すしか無い。
「オビコ……もうやめて!!!!」
そう誰かが叫んだ。
「貴女は…何故」
それは始まりの被害者。オビコに昏睡状態にされた生徒だった。
「オビコ…私、私覚えてる!
小さい時、迷子になって…暗くなって帰れなくなった。
その時、その時オビコが助けてくれたんでしょ!
他にも……他にも迷子になった子供とか、溺れそうな人を
助けてくれてた!なのに……なんでオビコが!」
泣いている少女がオビコに問いかける。
何故と、どうしてと。
オビコはじっとその少女を見つめていた。
それは決して怒りではない、
むしろ守護者として慈悲の篭った瞳だ。
「過去を……村を無き者と言ったお前が……」
だが、その慈悲の瞳も一瞬に過ぎなかった。
オビコは少女を潰さんと拳を振り下ろす。
(オビコ!)
ティガは走る。両腕でなんとかオビコの拳を防ぐが、
マルチタイプよりも素の腕力が下がっている為、余計に厳しい。
それどころか、動けないティガにオビコは何度も火炎弾を撃ち出す。
「……止めて………お願い……オビコ!!」
「ァァ」
苦悶の声を上げながらも、
ティガはオビコの目尻に涙が浮かんでいるのを見ていた。
オビコは理解したのだ。もう帰ってこない事を。
もう、二度と取り戻すことができないということを。
マドカは、ティガは殺せてしまう。
マドカはティガは神ではない。救えない。救えなかった。
(……恨んでくれて、構わない)
ティガのカラータイマーから激しい光が瞬く。
それは擬似的なフラッシュバンの様にオビコの視界を奪い、
後退させる。
目をつむり、手当たり次第に火炎弾を吐き出すオビコ。
ティガは両腕を胸の前で交差させたあと、
瞬時に左右に伸ばしてから上にあげてエネルギーを集約。
両手を左腰に置いてから右腕を胸の前で水平に伸ばして、
爆発力の高い『ランバルト光弾』をオビコに向けてはなった。
(…ありがとう)
オビコは最後、少女に手を伸ばした様にティガには見えた。
少女もオビコに手を伸ばした。
届きはしない距離、だが確かに心は通じていただろう。
「あっ………」
オビコの肉体はバラバラに爆発し、
そこには何もなかったかのように破片すら消えていく。
「ティガだ!ティガの勝ちだ!」
生徒達が笑う、ティガの勝利を。
ティガは遥か彼方へと飛んでいく。
「なんで……なんで……殺したの!なんで……オビコを」
一人の少女はティガを憎むだろう。
だが、オビコ事件は終結した。
被害者はもう増えることはないだろう。
夜にチャルメラが響くことは無いだろう。
「ありがとう御座いました、GUTSの皆さん」
「いえ、此方こそ。タイヤの修理も終わりましたし」
「あと……一つ。
あまり人前で変身するのは止めたほうがよろしいですよ」
その言葉にGUTSのメンバーは頭を掻く。
「ご安心を。私の胸の内に秘めておきます。
あと、件の生徒の事はすみませんでした」
「いえ……恨まれるのは慣れっこですから」
救っても、憎まれ、恨まれる。
それはティガをしていれば、GUTSの隊員であれば、
よく理解できる事なのだ。
「休暇の日に百鬼夜行に遊びに来てください。
私が案内しますからね」
その言葉に敬礼を返し、ウィング2に乗り込む。
こうして今回の百鬼夜行の旅は終わったんだ。